将に「不作為過誤」ではないのか?
水曜日, 1月 26th, 2011魍魎亭主人
国の予防接種健康被害認定審査会は、1989年度から2007年度までの18年間でポリオの生ワクチン接種後の副作用として“麻痺”を発症した事例について80例を認定しているという。
我が国におけるポリオ生ワクチンの導入は、1960年国内でのポリオの大流行で、約5,600人が発症、1961年に旧ソ連などから生ワクチンが緊急輸入され、予防接種されたことに始まる。しかし、生ワクチンは、生きた病原体の毒性を弱めたワクチンであるため、ワクチンを接種することによりワクチンに含まれるウイルスに感染し、ポリオを発症することがあるとされている。
一方海外では、接種によって感染が起こらない“不活化ワクチン”が普及しているとされており、米国では既に10年前に不活化ワクチンに切り替えられているとされる。その他、おおよそ100カ国で不活化ワクチンに切り替えられているとされる。
我が国でも不活化ワクチンの必要性は早くから指摘されており、2001年に承認申請が出された国産企業のワクチンは、書類の不備で却下され、この企業は2005年に開発を断念。現在は別の企業が治験中だが使用の目途は立っていないとされる。しかし、書類の不備とはどんな不備だったのか。単なる書類の不備であれば、修正すればすむ話であり、開発断念まで行く話ではないはずである。具体的な不備の内容が公表されていないため、何があったか解らないが、次の解説が見られる。
『我が国においても、1980年代から財団法人日本ポリオ研究所において不活化ポリオワクチン(IPV)の研究が開始され、1990年代後半に臨床試験を開始、1998年に第I相試験が1999年に第II、III相試験が開始され、2001年に製造承認申請がされたが、薬事法上の資料の基準適合性の問題等があり、並行して、DPT(Diphtheria、Pertussis、Tetanusx:三種混合ワクチン)製造企業5社による DPT-IPV 4種混合での開発が2002年頃から検討開始されることになった。
2003年3月、感染症部会のポリオ及び麻疹の予防接種に関する検討小委員会において、不活化ポリオワクチンの導入と接種率向上策として、DPTワクチンとの混合化により、接種率向上と負担軽減が図られるとのことで、4種混合での導入提言が行われている。
これらに併せて、単抗原の承認審査が継続され、2004年3月に抗原量の変更に関する検討が行われ、2005年6月追加治験計画届けを提出するも、7月に治験中止届け、10月製造承認申請の取り下げが行われ、現在単抗原ワクチンの開発計画はない。』
この説明でも何で単抗原ワクチンの開発が中止されたのかよく解らない。1980年代から研究に着手し、2001年に製造承認申請が出されるまでの間、膨大な研究費が掛けられたはずである。それを止めてしまったと言うことは、単に書類上の不備などと言うことでは片付けられない。ワクチンとして期待したほどの力価が得られなかったのか、思った以上に副作用が出たのか。しかし、米国を初めとして多くの国で使用されているIPVである。知恵を借りさえすれば潜り抜けることが出来たのではないかと思うが、何か眼に見えない圧力でも掛けられたのかどうか。
我が国は大流行時に素早く対応できるためとして、『ワクチンは原則国産』という方針を採ってきたという。それならば企業に研究費等の補助金を支給し、開発を急がせることを考えるべきだったのではないか。何れにしろ市販されたIPVは、公費による接種が行われる。研究のための補助金はこの段階で回収しようとすれば回収可能なはずである。
現在、医師によるIPVの個人輸入が行われ、使用されているとされている。この際、建前は建前として国による緊急輸入を行うべきである。少なくともDPTワクチンとは異なりポリオの感染は報告されていない。
『不作為過誤』とは、推進すべきを推進しなかったことにより派生した過ちだと言われている。IPV問題は将に不作為過誤に当たる厚生労働省の対応ではないのか。個人輸入である限り、公費負担は不可能である。DPTワクチンは公費による接種であり、IPVは自費というのでは、国のワクチン行政の破綻を招くことになる。厚生労働省は早急に緊急輸入の決断をすべきである。
1)読売新聞,第48441号,2010.12.27.
(2010.12.29.)