「α-リポ酸(チオクト酸)について」
日曜日, 12月 5th, 2010
KW:薬名検索・α-リポ酸・lipoic acid・チオクト酸・thioctic acid・vitamin様作用物質
Q:α-リポ酸について
A:リポ酸(lipoic acid)は1951年に発見されたvitamin様作用物質で、糖代謝系におけるピルビン酸及びα-ケトグルタル酸の酸化は三つの酵素により行われるが、その一つの酵素はリポ酸を必要とする。この物質が結晶化された時チオクト酸と呼ばれることもあるが、現在ではリポ酸という名称が使用されている。微生物ではこの因子が欠乏すると増殖障害が起こるが、ヒトを含む高等動物では欠乏症状は見出されていない。ヒトでは体内で生合成できると考えられている。ヒトの肝臓病で、血液や肝臓中のリポ酸が低下しているとする報告、肝炎や肝硬変など肝臓疾患の予防や治療に有効であるとする報告がされている。糖尿病や脳血管疾患など、肝臓病以外の疾患にも有効だとする報告がある。
リポ酸=チオクト酸(thioctic acid) 。C8H14O2S2=206.32。自然界に存在するのは(+)-α-リポ酸であり、黄色葉状結晶。融点46.0-48.0℃、水に不溶、ベンゼン等脂溶性溶媒に可溶。ナトリウム塩は水に可溶。ジヒドロリポアミドアシルトランスフェラーゼ(略称E2)とグリシン開裂酵素系のH蛋白質の補酵素で、これら蛋白質の特定のリン残基のε-アミノ基にアミド結合している。基質が分解される場合、リポ酸のS-S結合が還元的に切断され、生じたSH基の一方にジヒドロリポアミドアシルトランスフェラーゼではアシル基が、H蛋白質ではアミノメチル基が結合する。ピルビン酸の場合は、先ず8-S-アセチル体が生成されるといわれている。
その他、α-リポ酸は細胞のミトコンドリアに存在し、生体のエネルギー産生反応における補酵素として働く含硫化合物である。生体機能に不可欠な成分だが、体内で合成することができるためvitaminではなく、vitamin様物質として扱われている。また抗酸化物質でもある。俗に「疲労回復によい」「運動時によい」「ダイエットによい」「糖尿病によい」「老化防止によい」などといわれている。α-リポ酸は医薬品としても利用されており、その適応は、激しい肉体労働時にリポ酸の需要が増大したときとされている。ただ効果がないのに長期間使用すべきでないとの注意事項もある。食品として流通しているα-リポ酸商品は一般的に品質・規格が明確でないため、それらの商品に医薬品と同等の安全性・有効性が期待できるとは限らないとする報告も見られる。
α-リポ酸は医薬品としても使用されているが、医療用医薬品として市販されているのは、注射剤(25mg/5mL/管)のみである。
thioctic acidの適応は「チオクト酸の需要が増大した際の補給(はげしい肉体労働時)、Leigh症候群(亜急性壊死性脳脊髄炎)、中毒性(ストレプトマイシン、カナマイシンによる)及び騒音性(職業性)の内耳性難聴」とされており、更に「上記の効能又は効果に対して、効果がないのに月余にわたって漫然と使用すべきでない。」の使用上の注意が見られる。
用法・用量は「チオクト酸として、通常成人1日1回10-25mgを静脈内、筋肉内又は皮下に注射する。なお、年齢、症状により適宜増減する。」と規定されている。また、本剤の副作用として『本剤は使用成績調査等の副作用発現頻度が明確となる調査を実施していない。1. 消化器(頻度不明)食欲不振、悪心、下痢。2. その他(頻度不明)発疹、頭痛、めまい、心悸亢進』等の報告がされている。
尚、参照として厚生労働省発文書[食安基発0423第5号 平成22年4月23日]を添付する。
1)糸川嘉則:最新ビタミン学-基礎知識と栄養実践の手引き;フットワーク出版,1998
2)今堀和友・他監修:生化学辞典 第3版;東京化学同人,1998
3)健康食品の有効性・安全性情報,2010.6.16.
4)高久史麿・他監修:治療薬マニュアル;医学書院,2010
[011.1.LIP:2010.6.22.古泉秀夫]
食安基発0423第5号
平成22年4月23日
(財)日本健康・栄養食品協会理事長殿
厚生労働省医薬食品局食品安全部基準審査課長
α-リポ酸(チオクト酸)を含む「健康食品」について
平成21年度厚生労働科学研究において実施された、「自発性低血糖症の実態把握のための全国調査」(主任研究者:内潟安子東京女子医大医学部糖尿病センター第三内科教授)において、「自発性低血糖症」を発症した患者187名に対しアンケート調査を実施したところ、19名が「健康食品」を摂取しており、内16名がα-リポ酸を摂取していることが判明したとの情報提供がなされたところである。
α-リポ酸を含むいわゆる健康食品に関しては、(独)国立健康・栄養研究所ホームページ(http://hfnet.nih.go.jp/contents/detail471.html、http://hfnet.nih.go.jp/contents/detail714lite.html)等を介して情報提供を行ってきたところでを含むいわゆる健康食品を摂取していて、冷や汗、手足の震えといった症状が現れた場合には、速やかに摂取を中止する必要があると考えられる。
貴会におかれては、あらためて貴会会員、関係団体等に対し、α-リポ酸を含有する健康食品を製造する際には、その含有量が医薬品の経口上限摂取量を超えることの無いよう周知すると共に、消費者に対しα-リポ酸の摂取により冷や汗、手足の震え等の体調変化が生じた場合には、速やかに摂取を中止し、医師等に相談する等注意喚起を行うようお願いする。
【α-リポ酸とは】
α-リポ酸はチオクト酸(thioctic acid)とも呼ばれる物質で、その酸化体のβ-リポ酸と区別するためα-リポ酸と呼ばれています。α-リポ酸の一部は体内で還元され、SH 基を持つジヒドロリポ酸に変化します(下図参照)。文献によってはα-リポ酸をビタミンと記載しているものもありますが、α-リポ酸はビタミンではなく、ビタミン様物質として扱われています。
【インスリン自己免疫症候群(IAS)について】
インスリン自己免疫症候群は、低血糖発作を起こす疾患で、特定の遺伝的素因を有する方が、SH 基を持った薬剤の投与を受けることとの関連が指摘されています。1970年、平田らによって初めて報告されてから300例程度報告されているようです。その多くは東アジア、特に日本において報告されており、これはIAS の発症に関係していると考えられているHLAの型(HLA-DRB1*0406)を持つ日本人が欧米人より多いためと考えられています。
詳細な情報については、下記ホームページに掲載されていますのでご参照願います。
独立行政法人国立健康・栄養研究所ホームページ
http://hfnet.nih.go.jp/contents/detail471.html
http://hfnet.nih.go.jp/contents/detail714lite.html