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『パーキンソン病について』

日曜日, 12月 5th, 2010

 

KW:薬物療法・パーキンソン病・運動緩慢・緩徐進行性神経変性疾患・dopamine前駆体・dopamine作動薬・dopamineagonist・MAO-B阻害薬・モノアミン酸化酵素Bタイプ・COMT阻害薬・catechol-O-methyltransferase・抗コリン作用薬・抗ウイルス薬・β-遮断薬

Q:パーキンソン病の病態と薬物療法について

A:緩徐進行性神経変性疾患であるパーキンソン病は、幾つかの特徴を持つ。安静時の振戦、動作開始時の緩慢な動作、筋固縮などである。パーキンソン病は40歳以上では250人に1人、65歳以上では100人に1人の割合で発症する。

パーキンソン病では、基底核の黒質と呼ばれる部位の神経細胞が変性するために、dopamineの産生量が減り、神経細胞間の接続が減少する。その結果、正常時のように筋肉がスムーズに動かせなくなり、振戦、協調運動障害が起こり、動作が小さく遅くなる(運動緩慢)。パーキンソン病における神経細胞変性の原因は不明である。一部の家族では、多発する傾向があるが、遺伝が大きな役割を果たしているとは考えられていない。

パーキンソン病は知らないうちに始まり、多くの人の初期症状は手を動かしていない時に起こる粗くリズミカルな振戦である。感情的なストレスや疲労は振戦を増悪させる。最終的には両方の手、腕、足にも振戦は発現するようになる。振戦は顎、舌、脚にも起こるようになる。病気が進行するに従い、振戦はそれほど目立たなくなってくる。また、パーキンソン病患者のおよそ1/3は、初期症状で振戦は見られない。その他の初期症状には、嗅覚の減弱、躰を動かさなくなる傾向、歩行困難、瞬きの回数減少による無表情等が見られる。

パーキンソン病の治療

1)身体的手段:日常活動をできる限り行い、規則正しい運動プログラムに従って運動機能の維持を図る。食物繊維の多い食事は、levodopaの使用で悪化し易い便秘の改善に役立つ。プルーンジュースのような食品やセンナなどの便を軟らかくする作用がある緩下薬は、規則的な排便を促す効果がある。嚥下困難は栄養失調の原因となるため、食事の栄養価に注意しなければならない。鼻から深く息を吸い込む訓練を行うと嗅覚の回復と食欲増進に役立つ。

2)薬物療法:パーキンソン病を治癒したり進行を止めることは出来ないが、躰の動きを改善し、機能を長期間維持するのに役立つ薬は存在する。薬は2種以上を使用する必要がある。全ての患者に直ちに薬物療法が必要となるわけではなく、日常生活がある程度困難になった時点で治療を始めるといわれている。この薬物療法を殆ど受けていない時期を『早期』と呼ぶとされている。薬物療法を開始する際に重要なことは、予後や長期的な調整を考慮した治療の進め方で、特に今後どの様な薬を使うかが重要になるとされている。

パーキンソン病の主な治療薬

薬の種類 薬剤名   副作用 備考
dopamine前駆体

levodopa(carbidopaと併用)

levodopa:口、顔面、四肢の不随意運動、悪夢、血圧の変化、便秘、吐気、眠気、動悸、紅潮 levodopaとcarbidopaの併用はパーキンソン病の主要な治療法。carbidopaは、levodopaの効果を増強し、副作用を減少させる。併用の効果は数年後には低下する。

dopamine

作動薬 
(dopamineagonist)

bromocriptine pergolide pramipexole ropinirole

眠気、吐気、血圧の変動、幻覚、薬の突然の中止による悪性症候群 何れも病気の初期に単独で使用。初期使用によりlevodopaの副作用によるトラブルの発現を遅らせる効果がある。

MAO-B阻薬(モノアミン酸化酵素Bタイプ)

selegiline 吐気、眩暈、錯乱、口内乾燥、腹痛 selegilineは単独でも使用されるが、levodopaの補助として使用されることが多い。selegilineは最大に作用した場合でも効果は弱め

COMT阻害薬(catechol-methyltransferase)

entacapone tolcapone(申請中)

吐気、異常な不随意運動、下痢、背部痛、尿色調変化

何れもlevodopaの使用間隔を空けるために、病気の晩期に補助的に使用。
抗コリン作用薬

benztropine trihexyphenidylx三環系系抗うつ薬(amitriptyline 等)
一部の抗ヒスタミン薬(diphenhydramine等)

眠気、口内乾燥、視力障害、眩暈、便秘、排尿困難、 何れも病気の初期には単独で、晩期にはlevodopaと併せて使用。振戦を抑制する効果があるが、緩慢な動作や筋肉の硬直には影響しない。
抗ウイルス薬 amantadine 吐気、眩暈、不眠、不安、錯乱:薬剤の使用中止又は用量減量により、血圧、呼吸数、心拍数の異常などを伴う生命に係わる高熱(悪性症候群と同様の症状)

amantadineは、軽度の症状に対しては病気の初期に単独で使用し、晩期にはlevodopaの効果を強めるために使用。単独使用の場合、数ヵ月で効力が失われる。amantadineのパーキンソン症候群に対する作用機序は、まだ十分に解明されていない点もあるが、動物実験においてdopamineの放出促進作用・再取り込み抑制作用・合成促進作用が認められている。これらの作用によりdopamine作動ニューロンの活性が高められ、機能的にacetylcholine作動系がcatecholamine作動系に対して過剰な状態にあるパーキンソン症候群に対して、主としてdopamine作動神経系の活動を亢進することにより効果を示すものと考えられている。その他、グルタミン酸拮抗作用がwearing-offの改善に効果があるという報告もある。

β-遮断薬

propranolol 気管支痙攣、徐脈(異常に遅い脈拍)、心不全、末梢循環障害、不眠、疲労感、息切れ、抑鬱、レイノー現象、鮮明な夢、幻覚、性機能不全 propranololは振戦の重症度を軽減するために使用。

     

一般的に治療開始時に使用される薬物は、dopamineagonist(ドーパミン作動薬)を使用することが多い。dopamineの投与で十分な症状の改善が得られない場合、脳中でdopamineに変わるlevodopaという薬を併用したり、補助的な薬を追加する。levodopaは効果の高い治療薬であるが、服用を5-6年続けると、効果時間が2時間、3時間と短くなることが多く、副作用として手足が勝手に動く不随意運動が起こりやすくなる。従って長期予後を考えた場合、levodopaが必要になった場合も少量で抑えられるように、dopamineagonistで治療を先行する方がよいと考えられている。

進行期:levodopaを服用している治療中に、何等かの問題点が出ている時期。薬効が不安定化することで、日内変動が起こりやすい状態。

ウェアリングオフ(wearing-off):『進行期』の患者で最初に問題となる現象。当初は1日3回の服用で効果が得られていたのに、服用後2-3時間は効果が得られるが、途中で切れてしまう状態。wearing-off状態になると、別の薬でlevodopaの効果を20-30分延ばすか、患者の症状に合わせて服用時間の見直しを行うことが必要になる。

ディレイドオン(delayed-on):通常、levodopaを1錠服用すると30分以内に効果が発現するが、1時間経過後にも効果が見られない、あるいは効果が悪いという状態。この現象はlevodopaの吸収が悪いことで起こるとされている。薬が胃液に溶けるにはある程度胃酸が必要で、胃薬等を一緒に服用すると胃液の酸度が低下し、吸収が低下する。そのため薬を服用する前に、予め水に溶かして服むなどの工夫を試みることが必要である。

ハネムーン状態(honeymoon):薬物療法の結果、自らがパーキンソン病患者であることを忘れるほどになる。このような調子の良い期間をいう。調子のいい期間は2-5年続くとされている。

delayed-on:levodopa服用後、なかなか効果が発現しない現象。

no-on:levodopa服用後、全く効果がないうちに次の服用時間になってしまう現象。

on・of現象:薬の血中濃度とは無関係にスィッチを切ったりつけたりするように“on”(薬の効いている状態)-“of”(薬の効いていない状態)が発現する状態。

yo-yo phenomenon:病状の良い時間帯が極めて短くなってしまう状態。

パーキンソン病と診断されて、

carbidopa/levodopa[メネシット配合錠(万有製薬)・ネオドパストン配合錠L(第一三共)]又はbenserazide/levodopa[マドパー配合錠(中外製薬)・イーシー・ドパール配合錠(協和発酵キリン)・ネオドパゾール配合錠(第一三共)]

による治療を受けると、多くの患者は症状の改善が見られる。しかし、治療期間が長期に亘ると、levodopaの効果持続時間が短縮され、血中濃度の変化に伴って薬の効いている時間と効いていない時間ができ、1日の中での症状の変化(日内変動)が現れてくる。また、delayed-onあるいはno-onといわれるような“効果の不安定性”が見られるようになることがある。

また、wearing-offや効果の不安定性が増ことを“on・of現象”という。この現象は高用量のlevodopaを服用している経過の長い患者でみられる。また、wearing-offが酷くなり、onのときには不随意運動が現れ、ofになると動きづらくなって、ヨーヨー現象といわれる現象が起こる。このような現象は、若年発症の人に見られることがある。

<予防と対策>

1.levodopaを初めから多量に使いすぎない。
2.dopamineagonistで治療を開始する。
3.levodopaにdopamineagonistを併用する。
4.levodopaの血中濃度ができるだけ一定になるように心がける。

*levodopaの分割投与;1回の服用量を少なくし、総量を増やさずに服用回数を増やす。
*dopamineagonistはlevodopaほど切れ味は良くないが、半減期が長く、安定した効果が期待できる。従って、levodopaとの併用によりofの症状の改善が期待できる。

その他、食事療法として次の報告がされている。
低蛋白質食は、パーキンソン病に有用である。L-DOPAは、血流から脳への取り込みを競合するアミノ酸の一種である。L-DOPA療法中蛋白質制限食は、その他のアミノ酸の取り込みを減少させ、L-DOPAの取り込みを増加させる。L-DOPA療法の有益性が突然無くなったり減少したりする限界点は、ある日突然やってくる。蛋白質制限は、日々の変動を減少させる。特に夕食時に1日の蛋白質摂取量を最も多く取るような場合、L-DOPA療法は効果的である。vitaminB6が高濃度な場合、L-DOPA療法の効果が低下したり、無効になったりする。フリーラジカルによる酸化は、パーキンソン病の発症に大きな役割を持つ。抗酸化作用(vitaminEやvitaminC、カロテノイド等)を多く含む食品は、パーキンソン病が進行する危険性を減少させ、罹患している人の進行を緩やかにする。

 

1)山口 徹・他総編集:今日の治療指針;医学書院,2009
2)最新メルクマニュアル医学百科 家庭版;日経BP社,2004
3)シンメトレル錠・細粒添付文書,2009.6.改訂
4)井川正治・総監訳:微量栄養素小事典-健康と病気を理解するために-;西村書店,2008

[035.1.PAR:2010.8.26.古泉秀夫]