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『多発性硬化症について』

水曜日, 9月 22nd, 2010

KW:語彙解釈・多発性硬化症・multiple sclerosis・MS・脱髄疾患・特定疾患指定・難病・ダルファムピリジン・dalfampridine・アムピラ・ampyra

 

Q:多発性硬化症(MS)なる病名はどの様な症状を示す病気なのか

A:多発性硬化症(multiple sclerosis:MS)について、次の報告がされている。

多発性硬化症は、中枢神経系の脱髄疾患の代表的な疾患で、特定疾患治療研究事業の指定疾患である。

ヒトの神経活動は、神経細胞から出る細い神経の線を伝わる電気活動によって全て行われている。神経の線は剥き出しに存在するのではなく、髄鞘で被われている。この髄鞘が壊れて、中の電線が剥き出しになる病気が脱髄疾患である。発症には自己免疫的機序が関与し、エミリン構成蛋白などが責任抗原と考えられている。この脱髄が斑状にあちこちにでき(これを脱髄斑という)、病気が再発を繰り返すのが多発性硬化症(MS)である。MSというのは英語のmultiple sclerosisの頭文字である。病変が多発し、古くなると少し硬く感じられるのでこの名が付けられている。

最近の疫学調査で、国内に推定約10,000人の患者が存在し、有病率が上昇中であることが報告された。若年成人(32±13歳)に多く多発し、男女比は1:29であるとされる。

脳、脊髄、視神経などのあらゆる部位に脱髄病変が出現するため、病状は多彩である。再発・寛解を繰り返すことが多い(再発寛解型)が、経過と共に寛解期にも常に進行する様になる(二次性進行型)、稀に病初期から間断のない進行性の経過を取るタイプがある(一次性進行型)。

診断:脳の病変部位には炎症があるので、脳脊髄液に炎症反応があるかどうかをみることが重要である。その為、腰椎穿刺という検査を行い、髄液を採取して検査する。これは腰の部分に針を刺して脳脊髄液を採取して検査するもので、針を刺した部分の痛みがあり、人によっては検査後に頭痛を訴えるとする報告がされている。急性期のMS ではリンパ球数の増加、蛋白質の増加、免疫グロブリンIgGの増加など炎症を反映した所見が見られる。また髄鞘の破壊を反映して、髄鞘の成分であるミエリン塩基性蛋白の増加が見られる。
近年、核磁気共鳴画像(MRI)を用いて病巣を検知することができるようになり、MSの診断は容易になった。脱髄病巣はT2強調画像およびフレア画像で白く写し出される。

治療は再発時の治療、寛解期における再発予防、進行抑制及び対症療法である。

1)再発時の治療:再発時の治療は急性症状増悪からの回復を促進することが目的である[ステロイド・パルス療法]。
2)再発予防:interferon-β-1b、interferon-β-1aが再発頻度減少、再発期間延長MRI上の効果に有効。
3)進行抑制:interferon製剤の進行抑制作用についての有効性未確立。欧米ではミトキサントロン(ノバントロン注:適用外使用)が使用される。
4)対症療法:高度の痙縮(抗痙縮薬)、神経因性膀胱(神経因性膀胱のタイプを膀胱機能検査で評価した上で処方)、有痛性強直性攣縮・不快な痺れ・三叉神経痛に対して(テグレトール錠投与)。

その他、2010年1月22日、米・FDA(米国医薬品局)は多発性硬化症(MS)患者の歩行障害の改善に対してAcorda Therapeutics社(ニューヨーク州)から申請のあった『AMPYRA』(一般名:dalfampridine、ダルファムピリジン)を初めて承認した。アムピラ(ampyra)は、1錠中にカリウムchannel遮断剤のダルファムピリジン(4-アミノピリジン)10mgを含有する傾向徐放剤であるとする報告が見られる。
臨床試験において、新薬を投与された患者では、プラシーボ(偽薬)を処方された患者よりも歩行が速くなることが証明されたという。FDAによると、歩行障害は、MS患者が抱える最大の問題の1つとする報告が見られる。

 

1)山口 徹・他総編集:今日の治療指針;医学書院,2009
2)難病情報センター:http://www.nanbyou.or.jp/sikkan/068.htm
3)アメリカ医薬品情報-多発性硬化症患者の歩行障害改善薬;薬事日報,第10791号,2010.2.10.

   [615.8.MS:医薬品情報21・古泉秀夫,2010.2.11.]