「アルツハイマー病の予後」
水曜日, 8月 25th, 2010KW:薬物療法・アルツハイマー病・alzheimer病・認知力低下・老人斑・β-アミロイド沈着・神経原線維変化・生存率・生存期間
Q:アルツハイマー病の生存率及び治療薬について
A:アルツハイマー病(Alzheimer病)について、次の報告がある。
※alzheimer病は進行性の認知力低下を惹起し、大脳皮質及び皮質下灰白質における老人斑、β-アミロイド沈着、神経原線維変化を特徴とする。
※alzheimer病は、最も一般的な認知症の原因であり、高齢者の認知症の65%以上を占める。本症は女性において男性の2倍の頻度で見られる。これは女性の方が長命であることが理由として上げられている。alzheimer病は65-74歳の人口の約4%、85歳を超える人口の30%が罹患する。工業国における有病率は、高齢者層の増大につれ増加すると予想される。
※alzheimer病の殆どの症例は孤発性で、遅発性(60歳を超える)かつ原因不明である。しかし、約5-15%は家族性で、典型的には、特異的な遺伝子突然変異に関連している。典型的には、細胞外β-アミロイド沈着、細胞内神経原線維変化、老人斑が生じ、ニューロンが消失する。大脳皮質の萎縮が一般的で、大脳のグルコース利用が低下し、頭頂葉、側頭葉皮質、前頭前野皮質における灌流も低下する。
※環境因子(例:低ホルモン値、金属曝露)とalzheimer病の関係は研究中であるが、関連性は確立していない等の報告が見られる。
※alzheimer病の進行速度にはバラツキがあるものの、認知力の低下は不可避である。診断時からの平均生存期間は7年であるが、この数字については議論がある[1]。
※alzheimer病の一部の患者では、コリンエステラーゼ阻害薬(cholinesterase inhibitor)によって認知機能と記憶がやや改善する。一般にドネペジル、リバスチグミン(日本未発売)、ガランタミン(日本未発売)は等しく有効である。ドネペジルは1日1回投与で、忍容性がよいことから、第一選択薬である。推奨投与量は5mg、1日1回、4-6週間投与で、その後、10mg、1日1回投与に増量する。数ヵ月後に機能改善が明らかに見られるなら、治療は継続すべきであるが、そうでなければ投薬を中止すべきである。
最も一般的な副作用は、消化器系症状(悪心、下痢)で、稀に眩暈と不整脈が生ずる。副作用は投与量を漸増することで最小限にできる。
その他の薬剤等として高用量ビタミンE(1000IU、経口、1日1回又は1日2回)、セレギリン、NSAID、公孫樹葉エキス、スタチンの有効性は明らかではない。エストロゲン療法は治療の有害である可能性がある。
その他、Alzheimer病の予後について、Aβワクチン療法実施患者における平均生存期間は5.5年、非接種者では4.2年とする報告も見られる[2]。また、生存期間は発症時以降か、診断時以降かによって長さは異なる。Waring SCら(2005)は、初発症状からと、診断からの平均生存時間(Kaplan-Meier)を、認知症全体では10.5年と5.7年、ADでは11.3年と5.7年と報告している。また、生存時間は発症時の年齢に依存するとの報告も見られる。Roberson EDら(2005)は、ADの平均生存期間を発症時から11.8歳、診断時より5.7歳と報告しているが、他の報告との比較で約2倍に生存期間が延長しているとする報告も見られる。
生存期間に影響する因子として、デイサービス・デイケアによる認知症の進行遅延が報告されている。食事や運動などとともに、社会参加による刺激、趣味や興味による意欲の向上、心理的社会的因子が進行抑制に大きな役割を果たしているとする報告も見られる[3]。
1)福島雅典・監修:メルクマニュアル 第18版、日経BP,2006
2)田平 武:Aβワクチン療法開発の現状と展望;Geriatric Medicine,47(1):87-90(2009)
3)宮永和夫:認知症は増えているか;からだの科学,251:6-12(2006)
[035.1.ALZ:2010.6.14.古泉秀夫]