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『ひる石』について

金曜日, 6月 25th, 2010

KW:語彙解釈・ひる石・蛭石・vermiculite・バーミキュライト・苦土蛭石・黒雲母・緑泥石・中皮腫

Q:米国で中皮腫などの健康被害を引き起こして問題となっている「ひる石」というのはどの様なものか

A:蛭石(vermiculite)は、花崗岩中の黒雲母が風化作用によって水分が取り込まれ、カリウムが失われて不透明になり、褐変する。この破片が川の中で太陽光を受けると黄金色に輝いて、いわゆる“ネコの金”に化ける。六角短柱状の結晶がそのまま保存されて、風化生成土の中に入っていることがある。その1個をピンセットで鋏、炎の中に入れると、にょろにょろと十倍以上に伸びてくる。その様子から『蛭石』と呼ばれ、vermiculiteもその意味のギリシャ語から来ている。

黒雲母が風化したものの他に、緑泥石系のものなど、色々な蛭石が存在し、化学組成も一定しないため、蛭石は特定の種をもたないグループ名として取り扱われることになった。

その他、vermiculite(蛭石)について、層状の含水ケイ酸塩鉱物の一種で、雲母が熱水の作用や風化によって変化し生成するといわれている。アメリカで蛭石が文献にでるのは1824年のことで、蛭石(ひるいし、vermiculite)という呼び名はラテン語のvermiculari(蛭、ひる)に由来し、岩石を約1000度以上に加熱すると結晶水の蒸発によって板状の各層がアコーデイオン状に剥離・膨張する様子が蛭の蠕動(Vermicular motion)に似ていることから科学者Thomas.H.Webbが蛭石(Vermiculite)と命名したとされる。日本では花崗岩が長い年月の間に風化した加水黒雲母類も含めて蛭石、バーミキュライトと呼んでいる。別名:「きらら」・「千枚めくり」等の報告も見られる。

蛭石を800℃程度の高温で焼結処理すると、軽く、保水性・通気性・保肥性がある。pHもほぼ中性(アルカリ性のものもある)である。ピートモスや赤玉土などと混ぜて使用される。ほぼ無菌なので、ガーデニングにおける挿し木用土、種蒔き用土として使われる。内部に空気を大量に含むことから断熱性に優れ、耐熱性でもあることから、建材や工業用の断熱材、また肥料の吸着保持剤として利用されている。

「ひる石」は建材や土壌改良材として使われる鉱物で、これ自体に毒性はないが、リビー産には強毒性のアスベスト「トレモライト」とほぼ同じ鉱物が含まれている。米国ではリビー産「ひる石」を扱った労働者らが中皮腫を発症し、米連邦政府が2000年頃から住宅などに使われた「ひる石」除去対策に乗り出している[読売新聞,第48033号,2009.11.13.]とする報道がみられる。

蛭石には、その産地によっては鉱脈が近いこともあり、石綿(アスベスト)が含まれている可能性があるとされる。特に米モンタナ州リビー鉱山産の原石には、毒性の高い角閃石系の石綿が含まれ、鉱山労働者や周辺住民に多くの健康被害をもたらしている。そのため、石綿の全く含まれていない事が確認されている鉱脈産出(例:南ア・パラボラ鉱脈など)が主流となっているものの、2009年現在、日本では産地表示の義務付けはされていない。

以上の報告から蛭石そのものに毒性は存在しないが、蛭石を採掘する鉱脈にアスベストが含まれており、蛭石を採取する際にアスベストが混在することにより、蛭石を扱った鉱山労働者等に中皮腫が発生したものといえる。

1)堀 秀道:楽しい鉱物図鑑 ?;草思社,2009

2)バーミキュライト(蛭石、ひる石)に関するQ&A,2009.12.29.

[615.8.VER:2009.12.29.古泉秀夫(医薬品情報21)]