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『隠元豆中の毒性物質について』

日曜日, 5月 23rd, 2010

KW:毒性・白インゲン・隠元豆・インゲンマメ・インゲン豆・サンドマメ・三度豆・サイトウ・菜豆・Common bean・コモン-ビーン

Q:隠元豆中の毒性物質について

A:隠元豆(インゲンマメ)の学名はPhaseolus vulgaris L.である。別名としてサンドマメ(三度豆)、サイトウ(菜豆)、Common bean(コモン・ビーン)等が報告されている。また仏名としてharicot vert。

本品はマメ科インゲンマメ属の一年草。原産地:メキシコ南部、中央アメリカ。草丈:50(矮性)-300cm、花色:白・桃・黄、開花期:6-7月、鞘長:13-15cm、収穫期:6(鞘隠元)-8月(隠元豆)。

隠元豆は夏、マメ科特有の舌状をしたスイトピーに似た小花を咲かせる。夏に実る緑色の若鞘を茹でて食べたり、そのまま畑において成熟・乾燥させた豆(種子)を煮込み料理や、饅頭の餡、善哉、赤飯等に使用する。 豆類に含まれるレクチン(lectin)はダイエット効果があるとされているが、充分な加熱しないで摂食した場合、毒性を発現するの報告がある。

隠元豆中のlectinは、フィトヘマグルチニン(インゲンレクチン)[Phytohaemagglutinin (Kidney Bean Lectin)]とする報告がされている。

lectinの発見は1888年H.Stillmarkがヒマの実の抽出液から種々の動物血球を凝集することを見出したことに始まる。その後多数の植物種子中から血球凝集素が見出され、植物凝集素と呼ばれた。その後これらの凝集素はそれぞれ明確な結合特異性を持ち、一般に単糖やオリゴ糖で血球凝集活性が阻止され、それらのうちにはABO式血液型に特異的な凝集素も見出され、ボストン大学のW.Boydはラテン語の“legere(選び出す)”になぞらえてlectinと呼ぶように提唱した。

近年、植物種子ばかりでなく、細菌や動物の体液、組織中にも糖結合性蛋白質が多数見出されるようになり、lectinは次の様に定義することになった。

“動植物あるいは細菌で見出される免疫学的産物にあらざる糖結合性蛋白質で、結合価が2価以上で動植物細胞を凝集し、多糖類や複合糖質を沈降させ、その結合特異性は単糖やオリゴ糖を用いた阻止試験で規定することができるものでなくてはならない”。

lectinの中にはコンカナバリンAやインゲンマメレクチン(PHA:phytohemagglutinin)のように、末梢血リンパ球に働いて芽球化を誘起するものもあり、また糖結合特異性の明確なlectinを用いて細胞表面糖鎖の検索を行ったり、不溶化lectinを用いて複合糖質の特異的生成を行うなど、免疫学的、細胞生物学的応用が広がっている。

隠元豆中に含まれるlectin(糖蛋白質)は、100℃-10分間の加熱で毒性が失われるが、80℃の加熱では却って毒性が増加するとする報告が見られる。2006年5月6日放送のTBS系の「ぴーかんバディ!」で、白隠元豆を約3分間炒った後粉末化し、御飯にまぶして食べるダイエット法が紹介されたが、これを試した視聴者が下痢などを訴え、31日迄に被害は965件、うち入院は104件に昇った。

隠元豆による中毒は、英国では1976年から1989年にかけて、集団食中毒として25件、約100人に発生した事例が報告されている。浸しておいて柔らかくした豆をそのままサラダに入れて食べたという事例が多く、四、五粒以上食べて、嘔吐、下痢等の症状が出ている。蒸し器で加熱したというものもあるが、加熱が不十分だったと思われるとしている。

隠元豆による急性疾患は、赤インゲン豆(Phaseolus vulgaris)中毒、金時豆中毒などと呼ばれている。生又は調理が不十分な隠元豆を食べてから症状が出るまでの時間は1-3時間である。発症は激しい吐き気と嘔吐で、重症の場合もある。しばらく(1-数時間)して下痢、人により腹痛がみられる。人によっては入院するが回復も早く(3-4時間)、自然に回復する。

原因とされるphytohemagglutininは、多くの豆に含まれるが、赤隠元に最も高濃度含まれている。毒素はphytohemagglutinin単位(hau)で表されるが、生の赤隠元は20,000-70,000 hau、十分に調理した豆は200-400 hauを含む。白隠元の毒素含量は赤隠元の1/3、空豆場合は赤隠元の5-10%を含む。

 疾患は通常、生や水戻しした隠元を単独もしくはサラダや鍋料理等で食べた時に生じる。わずか4-5個の生の豆で発症しうる。内部の温度が十分に高くならなかった「スロークッカー」、電気鍋、キャセロール料理などに関連した発生の報告がある。80℃で加熱すると毒性が5倍になり、生より危険であることが示されている。スロークッカーで調理した場合、内部の温度は75℃より高くならない。経過は急性である。全ての症状は発症から数時間で消失する。嘔吐は大量で、症状の重症度は摂取した毒素の量(食べた生の豆の数)に直接関連する。入院や点滴が必要な場合もある。期間は短いが、症状としては激しく衰弱する。

隠元豆中毒は家畜でも起こる。カナダの牧場で、新しい飼料を食べた21頭の馬が中毒症状を発現し、飼料会社に確認したところ、別の数カ所の牧場で、同じ資料により合計240頭の牛が中毒症状を呈していることが解った。飼料の中に生の白隠元が含まれていた。

トウゴマに含まれるlectin(リシン)は強力な毒作用を持つ。

1)白鳥早奈英・他監修:もっとからだにおいしい野菜の便利帳;高橋書店,

2)今堀和友・他監修:生化学辞典 第3版;東京化学同人,1998

3)内藤裕史:健康食品中毒百科;丸善株式会社,2007

4)『健康食品』素材情報データベース,2009

[63.099.PHA:2009.10.古泉秀夫]