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『イルカンジについて』

日曜日, 5月 23rd, 2010

KW:毒物・中毒・イルカンジ症候群・イルカンジ・クラゲ・水母・ハブクラゲ・クラゲ刺傷・クラゲ刺症・jellyfish venom・Irukandji・Carukia barnesi・立方クラゲ綱・箱虫綱・ヒドロ虫綱・鉢虫綱・ハチムシ綱

Q:イルカンジについて

A:イルカンジ(Irukandji)とは、オーストラリア東岸に棲息するとされる強度の毒を持つクラゲのことである。イルカンジ症候群は、イルカンジクラゲ(Carukia barnesi)に刺されることによって起こる症状の総称である。1952年にHugo Fleckerによって、アボリジニのイルカンジ部族にちなんで命名されたとする報告が見られる。

イルカンジクラゲに刺されると背中・胸の激痛、最高血圧が300近くにもなる急激な血圧上昇、強い精神不安などの症状が起こり、死亡することもあるとされている。このときの痛みは激痛で、モルヒネも効果が無いとされる。更に男性では持続的な勃起を惹起することもある等の報告が見られるが、詳細は不明である。

危険な刺胞動物の代表例[但し、水母のみ,塩見ら1997一部改変]

鉢虫綱

(ハチムシ綱)

エフィラクラゲ科

イラモ

オキクラゲ科

アマクサクラゲ

ヤナギクラゲ

Chrysaora quinquecirrha

アカクラゲ

ユウレイクラゲ科

ユウレイクラゲ

ビゼンクラゲ科

Rhizostoma quinquecirrha

Rhopilema nomadica

ヒドロ虫綱

ハネガヤ科

ドングリガヤ

シロガヤ

クロガヤ

ハナガサクラゲ科

カギノテクラゲ

キタカギノテクラゲ

アナサンゴモドキ科

ショウジョウアナサンゴモドキ

イタアナサンゴモドキ

ホソエダアナサンゴモドキ

カツオノエボシ科

カツオノエボシ

立方クラゲ綱

(箱虫綱)

アンドンクラゲ科

アンドンクラゲ(Carybdea rastoni)

Carybdea marsupiadis

ネッタイアンドンクラゲ科

ハブクラゲ(Chiropsalmus quadrigatus)

Chironex fleckeri

クラゲ刺症(jellyfish venom)とはクラゲに刺されて生じる中毒のことである。腔腸動物(Coelenterates)又は刺胞動物(Cnidaria)ともいわれ、一度に多数の刺胞で刺されるため、危険である。カツオノエボシの粗毒は、活性ペプチド、各種酵素、その他の因子からなる多成分系の総合作用で、皮膚壊死性、心臓毒性がある。アンドンクラゲの粗抽出毒は、溶血、血小板凝集、肥満細胞脱顆粒、血管平滑筋収縮、皮膚壊死、心臓毒、及び致死因子を含む。

クラゲの触手に接触すると、皮膚の刺傷パターンは1点だけでなく、長い帯状の刺傷が数本から数十本になる場合がある。刺胞が開くと棘が皮膚を刺し、毒嚢から毒が分泌されて皮膚に注入される。1個の刺胞からの毒の量は少ないが、多くの刺胞から一度に毒が注入されると危険である。

クラゲによる刺傷は最も頻繁に起こる刺傷であるが、純粋な毒素は未だ分離されていない。

大体高分子の毒で、溶血性、細胞溶解性、筋肉壊死作用を持つことはよく知られている。熱処理に対しては弱い。これは高分子蛋白であるためである。その他、平滑筋の攣縮、麻痺、呼吸筋麻痺、心筋麻痺を起こす。

クラゲに刺傷されたらまず触手を取り除く。食酢か消毒用alcoholが手元にある場合、触手を除去する前に、刺された部位に塗るかあるいはよく洗う。更に触手を除去した後、直ちに食酢あるいはアルコールを塗る。毒は酵素が主で、pH4で失活するとされている。食酢は酢酸4-6%で、5%-酢酸のpHは2.24とされていることから解毒には最も効果的と考えられる。但しクラゲ刺咬症に対する食酢の効果については、臨床的に定まってはいない。また、ウンバチイソギンチャクでは食酢の使用は禁忌とする報告も見られる。しかし、理論的には食酢の使用が一番よいと報告されている。

ハブクラゲの応急処置:食酢の効果は確かめられている。食酢は同じ立方クラゲ種のアンドンクラゲにも有効であろう。食酢には鎮痛効果はない。

クラゲ刺症の基本的処置

?刺されたら直ちに陸に上がり、慌てずに安静を保つ。

?局所に触手が付いていたら、海水で洗い流す(触手の擦り落としは不可)。真水の使用は刺胞を破裂させるため使用不可。

?触手は丁寧に除去する。

?触手除去後、痛みに対しては氷で冷やす。

?刺傷が広範囲、痛みが持続、全身症状があるときは病院を受診させる。

クラゲ刺傷の治療

*クラゲによる刺傷を受けた場合、ゴム手袋を付け、刺傷部を海水で洗いvery strong steroid塗布。破傷風トキソイドの筋注。

*疼痛に対して局所冷却、時に経口鎮痛薬投与、まれに経静脈鎮痛薬投与。局麻軟膏を塗布する。

*後療法として掻痒には抗アレルギー薬・冷却。

*呼吸・循環管理、アナフィラキシーショックの治療を行う。

1)Anthony T.Tu・編著:毒物・中毒用語辞典;化学同人,2005

2)Anthony T.Tu:中毒概論-毒の科学-;薬業時報社,1999

3)内藤裕史:中毒百科-事例・病態、治療 改訂第2版;南江堂,2001

4)塩見一雄・他:新訂版 海洋動物の毒-フグからイソギンチャクまで-;成山堂書店,1997

5)日本中毒学会・編:急性中毒標準診療ガイド;じほう,2008

[63.099.IRU:2009.8.18.古泉秀夫]