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『売らなきゃいいってもんじゃない』

木曜日, 5月 20th, 2010

魍魎亭主人

下痢というほどではないが、いわゆる軟便という奴で、正露丸で上手く調整出来ず、買い置きの“他の止瀉薬”で、どうにか修復できた様な気がしたが、買い置きの薬が無くなってしまった。

そこで近所の薬屋に出かけて、下痢止めが欲しいとのたまわったところ、胸に登録販売者の名札を付けた女性が、正露丸と乳酸菌製剤の下痢止めを出してきた。

『いや、これじゃ駄目なんで他の薬を下さい』

『何かお医者様から貰ったお薬を飲んでいませんか』

『何かといわれれば、血圧の薬を服んでいますけど………』と申し上げたところ、固まってしまった。

『血圧の薬をお服みでしたらこれ以外のお薬はお出し出来ません』

『その薬を飲んでいて効かないから他の薬が欲しいといっているんですけど』

『いえこの薬しか出せません』

飲んでいる血圧の薬がどういう性質の薬かも確認せず、血圧の薬というだけで十把一絡げにされてしまったが、“登録販売者”というのはこんな程度の知識しか持っていないのかと思うと、ついムカッと来て

『あのいいですよ。私、薬剤師ですから薬は自分で調整しますから。他の薬でどんな薬を置いているんです』と言わずもがなの言の葉を吐き出した。

で、お出しいただいたのが、“新タントーゼA”[第一三共ヘルスケア(株)]という“第二類医薬品”である。

12錠中に

ベルベリン塩化物水和物   300mg(細菌性下痢・腸内異常醗酵による下痢)

ロートエキス 60mg(消化管の痙攣による腹痛)

タンニン酸アルブミン 2000mg(腸粘膜の収斂(収縮)作用による下痢止め)

ウルソデオキシコール酸 30mg(胆汁の分泌促進して脂肪の消化を助ける)

本品の副作用として『皮膚:発疹・発赤、かゆみ。ショック(アナフィラキシー)』

併用禁忌は『胃腸鎮痛鎮痙薬』。その他、薬との相互作用は添付文書中に記載されていない。最も、服用を注意することとされている者の中に『高齢者あるいは排尿困難のある者』という注意事項が入っているが、長期に連用する訳ではないので、特に問題にはならないと判断してこの薬を買ったが、本当に買いたかったのは、この薬ではなく、別の止瀉薬であった。但し、店頭で下痢止めと言ったときには、残念ながら薬の名前を思い出せず、当初の様な顛末になってしまったが、実は“ワカ末止瀉薬錠”という薬が、服用中の他の薬との間で、何等差し障り無く服める薬だという確信を持っていた。

ワカ末止瀉薬錠[クラシエ薬品(株)] 第2類医薬品

本品6錠中に

ベルベリン塩化物水和物 225mg

ゲンノショウコエキス 600mg(ゲンノショウコ4gに相当)

本品の添付文書中に特に重篤な副作用や他の薬物又は健康食品に関する相互作用は記載されていない。最もOTC薬の添付文書には通常副作用の記載は多くなく、医師・薬剤師に相談ということで逃げているが、参考までに同一の原薬が使用されている医療用医薬品の添付文書を確認した。

医療用医薬品の“塩化ベルベリン錠”(ジェイドルフ製薬株式会社)は、1錠中にベルベリン塩化物水和物(Berberine Chloride Hydrate)として50mgを含有する製剤が市販されている。効能・効果は下痢症で、用法・用量は『ベルベリン塩化物水和物として、通常成人1日150-300mgを3回に分割経口投与する。なお、年齢、症状により適宜増減する。』とされている。

本品の投与禁忌は『出血性大腸炎の患者[腸管出血性大腸菌(O157等)や赤痢菌等の重篤な細菌性下痢患者では、症状の悪化、治療期間の延長をきたすおそれがある。]』とされており、原則禁忌は『(次の患者には投与しないことを原則とするが、特に必要とする場合には慎重に投与すること)細菌性下痢患者[治療期間の延長をきたすおそれがある。]』等の報告がされている。

本品の副作用については『本剤は使用成績調査等の副作用発現頻度に関する調査を実施していないため、発現頻度は不明である。』とされている他、具体的な副作用として消化器(頻度不明)便秘が記載されているに過ぎない。その他の注意として『高齢者への投与: 一般に高齢者では生理機能が低下しているので減量するなど注意すること。』の記載がされているが、相互作用については、何等記載されていない。

ゲンノショウコはフウロソウ科の多年草。薬用部分は花期(夏期)の地上部。有効成分はtannin。葉にはtanninが約20%含まれる(6-8月)。茎、根、全草では何れも4%程度。その他、ミネラル中にはカルシウムが多く、カルシウムは腸管に対して制瀉的に働くが、ゲンノショウコの主作用はtanninによるものである。西洋医学的には、整腸剤の製造原料として利用するが、中医学では使わない。急性腸炎、急性下痢症等に服用した場合、その優れた収斂作用で劇的によくなるため“現の証拠、忽ち草、医者いらず”等とも呼ばれる等の報告がある。

以上、各報告を見る限り、『ワカ末止瀉薬錠』は、ゲンノショウコのtanninによる吸着を避けるために、服用時間の調整を取れば、血圧の薬を服んでいたとしても特に相互作用の問題も無いと考えられる。従って本品は、他の薬を服んでいたとしても、比較的安全に服める止痢薬であるということができる。

OTC薬使用の目的はSelf-Medicationにより医療費の抑制を図るという、大前提があるはずである。その意味でいえば、登録販売者といえども、服用者の環境に合わせて、薬の情報をコントロールし、当人が必要としている薬を選び出すための助言をするのが役割である。もしそれができないのであれば、薬剤師以外の者が薬を扱うのは如何なものかということになる。

今更、反時代的なことを言う気は更々無いが、登録販売者の試験合格後の教育はどうなっているのか、甚だ心配である。試験に合格し、資格を得てしまえば後はそれで食えるという程度の仕事とは大きく異なっていることを知るべきである。

1)塩化ベルベリン錠50mg「JD」添付文書,2008.6.改訂

2)新タントーゼA添付文書,A09-08

3)ワカ末止瀉薬錠添付文書,0GE-07EA

4)伊沢凡人・他:カラー版薬草図鑑;家の光協会,2003

(2010.2.26.)