Archive for 4月 2nd, 2010

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『べにふうき(紅富貴)について』

金曜日, 4月 2nd, 2010

KW:健康食品・べにふうき・紅富貴・茶農林44号・epigallocatechingallate・花粉症・メチル化カテキン・methylated catechin

Q:“べにふうき”について

A:“べにふうき”は日本のお茶べにほまれ(茶農林1号)と中国系のダージリン(枕Cd86)を特殊交配したもので、正式名称は“茶農林44号”であると報告されている。“茶農林44号”は1993年に農林登録されており、晩生種で、樹姿は開張型でよく分枝する。新芽は黄緑色でやや大きい。耐寒性はやや強い。耐病性は、山間地でもち病がみられるが、炭疽病、輪斑病には強い。収量は“べにひかり”より多い。紅茶品質は、発酵性がよく、クリームダウンが顕著に認められ、清香、水色は深紅色で滋味は濃厚である。半発酵茶品質は、強い芳香で滋味はやや強いが、独特のうま味がある。姉妹に“べにふじ”、“いずみ”がある。紅茶・烏龍茶系品種とされている。

更に“べにふうき”茶の成分の一つとしてメチル化カテキン(methylated catechin)が多く含まれており、花粉症やアトピーなどのアレルギー反応を抑制するとされる。その他“べにふうき”茶には、成分としてストリクチニンが含まれており、花粉症、アトピーなどのアレルギー反応を抑制すると報告されている。

“べにふうき”の特徴について、次の通りまとめられている。

(1)輪斑病、炭疽病に強く減農薬で栽培可能。

(2)多収であり2200-3000Kg/10aの生葉が収穫しうる(特に、静岡以南の暖かい地域)

(3)紅茶系の品種としては耐寒性が強く、樹勢が強い。軽く萎凋(いちょう)することにより、ダージリンフレーバーが発揚する。

(4)抗アレルギー作用が研究されている。メチル化カテキン(Epigallocatechin-3-O(3-O-methyl)Gallate;エピガロカテキン-3-O-(3-O-メチル)ガレート)を多く含む(図1)。

メチル化カテキンの構造式

5)メチル化カテキンは、発酵により消失するので、緑茶か包種茶(ほうしゅちゃ)に製造する必要がある。研究材料として用いているのは、“べにふうき緑茶”100%で あり、ブレンド品は使用していない。メチル化カテキンの作用機作は、マスト細胞内情報伝達系の阻害、高親和性IgE-receptorの発現阻害によるhistamine遊離抑制作用であることが確認されている。

“べにふうき”は、1996年から2000年にかけて、独立行政法人農業技術研究機構 野菜茶業研究所などで、アレルギー予防食品開発のための基礎研究が行われ、約40品種の茶葉について抗アレルギー作用を検定したところ、“べにふうき”に含まれる渋味成分であるカテキンの1種、Epigallocatechin-3-O(3-O-methyl)Gallate(EGCG3"Me)(通称メチルカテキン)や抗アレルギー成分のストリクチニンが、花粉症やアトピーなどのいわゆる「アレルギー症状」に対する改善効果をもつとことが判明した。「methylated catechin」の腸管吸収率は、茶の主要catechinであるepigallocatechingallateの5?6倍と高く、血中からの消失もepigallocatechingallateに比べ緩やかであることがわかった。

“べにふうき”茶の長期投与により、通年性アレルギー患者と季節性アレルギー患者でともに改善効果を確認した。苦味を低減させ「methylated catechin」の減少を抑える最適火入れ条件が確認された。また、緑茶飲料の製造工程で、高温抽出、長時間高温殺菌がhistamine遊離抑制活性を高めることも実証された。

1)独立行政法人農業・食品産業技術総合研究機構(略称:農研機構):http://vegetea.naro.affrc.go.jp/index.html,2010

2)農林水産省登録品種一覧表(1):http://vegetea.naro.affrc.go.jp/cha/cultivar.htm,2010

3)茶機能解析研究室:http://www.vegetea.affrc.go.jp/kinou/chakino/benifuuki1.htm,2010

[015.9.MET:医薬品情報21・古泉秀夫,2010.2.8.]

『トロポミオシンについて』

金曜日, 4月 2nd, 2010

KW:語彙解釈・トロポミオシン・tropomyosin・TM・魚介類・シーフード・軟体動物・アクチン・actin・トロポニン・troponin・仮性アレルゲン・仮性allergen・海老・蟹・烏賊

Q:トロポミオシンについて

A:トロポミオシン(tropomyosin)について、次の報告が見られる。

*tropomyosin。略号:TM。分子量6.6万。長さ40nm、幅1.5nmの棒状の分子でK.Bailey(1946)により発見された。3.3万のサブユニットからなり、それぞれほぼ完全なα-ヘリックス鎖からなる二重螺旋構造をなし、互いに捻れ合って分子となる。troponinと共にアクトミオシンATPアーゼのCa2+ 感受性を回復させる。細い筋フィラメントはactin、tropomyosin、troponinを7:1:1分子比で含む。筋肉のみならず真性粘菌、血小板、脳からも得られる。

actin:筋収縮を発現する筋肉細胞内の筋原繊維を構成している二つのフィラメントのうち細いフィラメントを構成している筋肉蛋白質。

troponin:筋原線維の収縮にかかわる物質。

その他、tropomyosinについて、次の報告も見られる。

筋肉細胞内の筋収縮を発現する筋原繊維を構成する二つのフィラメントのうち細いフィラメントを構成している筋肉蛋白質。低塩濃度では重合体であり、塩を加えると単分子で存在する。分子量6万、2本のα-ヘリックス鎖からなる二重螺旋構造で、長さ40nmの棒状分子である。アクチンフィラメントがtropomyosinを囲んで配列し、更にその長さの方向に40nmの間隔でtroponinが結合して細いフィラメントが形成されている。troponinに結合したCa2+イオンはtropomyosinを通じて、ミオシン、actinの相互作用に影響を与えていると考えられている。

魚介類(魚、甲殻類、軟体動物)のうち魚や甲殻類に対するアレルギーについては各種の報告がされている。また軟体動物については、海水、淡水、陸上に棲む多くの生物からなり、ある種の軟体動物は重要な食料である。軟体動物の中には、巻貝、牡蠣、アサリ、イガイ、烏賊、アワビ、蛸など食物アレルギー反応の症例報告が示されているものがある。

軟体動物の主要allergenは、筋蛋白質(tropomyosin)である。tropomyosinは甲殻類やチリダニ、ゴキブリ、その他の昆虫などにも見られるallergenである。研究が進んでいる軟体動物及び別の甲殻類のtropomyosinでは、類似性もあるが、アレルギーを示す構造部分で、重要な違いもある。軟体動物にはtropomyosinの他にも多数のallergenがあるが、詳細は不明である。

血清学的・臨床的に軟体動物と甲殻類やハウスダストのダニとの交差反応性が報告されている。軟体動物allergenは、魚allergenとは交差反応性はないが、アニサキスが寄生している魚に軟体動物アレルギーの患者が反応する可能性はある。軟体動物のアレルギー誘発性は、食品の加工により余り減少しない。tropomyosinのアレルギー誘発性は耐熱性である。他の軟体動物allergenのアレルギー誘発性は、加熱で消失するものもあるが、逆に加熱によりアレルギー誘発性が増加するものもある。臨床症状を誘発する最低用量についての情報は殆ど無い。一種類の乾燥巻貝による二重盲検プラセボ対象食物投与試験では、反応は数百mgの範囲で観察されている。

その他、tropomyosinについて、actinの働きを調節する繊維状のactin結合蛋白質である。2本のα-ヘリックス鎖からなるコイルドコイルの構造をとり、特に筋収縮を行う上で重要な働きをしている。troponin複合体が筋繊維中のtropomyosinに結合し、ミオシン結合を調節することで、筋収縮を調節している。tropomyosinは種毎に違いが大きい蛋白質であるため、アレルギー源となることもある。例えばエビやハウスダスト中のチリダニ類などのtropomyosinが原因で、アレルギーを発症する人もいるの報告も見られる。

またtropomyosinは、海老、蟹、烏賊等の仮性アレルゲンの一つであると考えられている。

1)今堀和友・他編:生化学辞典 第3版;東京化学同人,1998

2)国立医薬品食品衛生研究所安全情報部;食品安全情報,No.7/2006.3.31

3)志田正二・代表編:化学辞典;森北出版株式会社,1999

4)小林陽之助・監修:食物アレルギーの治療と管理;診断と治療社,2004

   [615.8.TRO:2009.12.28.古泉秀夫]

「パーキンソン病と認知症」

金曜日, 4月 2nd, 2010

KW:語彙解釈・パーキンソン病・parkinson’s disease・認知症・パーキンソン症候群・続発性パーキンソン症候群・若年性パーキンソン症候群・Lewy小体・レビー小体

Q:パーキンソン病患者は進行すると認知症になるのか

A:パーキンソン病(parkinson’s disease)について、次の報告がされている。

パーキンソン病(PD)は65歳以上の群で約1%、40歳以上の群で0.4%が罹患する。平均発症年齢は約57歳である。稀に小児期や青年期に発症するものもある(若年性パーキンソン症候群)。

病態:PDでは黒質、青斑核及び他の脳幹ドパミン作動性細胞群の色素性ニューロンが消失する。黒質ニューロンは尾状核と被殻に放射しており、黒質ニューロンが失われると、これらの領域におけるドパミンが枯渇する。原因は不明である。

病因:続発性パーキンソン症候群は、他の変性疾患、薬物、又は外因性毒素により大脳基底核におけるドパミン作用の消失又は阻害が生じるために起こる。

(1)phenothiazine系、thioxanthene系(チオキサンテン)、butyrophenone系抗精神病薬、reserpine:これらの薬物はドパミン受容体を遮断する。

(2)一酸化炭素中毒、マンガン中毒、水頭症、脳の構造的病変(例:腫瘍、中脳又は基底核の梗塞)、硬膜下血腫、ウイルソン病、特発性変性疾患(線条体黒質変性症、多系統萎縮症): 頻度は低いが、これらの病因により発現することもある。

(3)N-MPTP(n-メチル-1,2,3,4-テトラヒドロピリジン): 重度で不可逆性のパーキンソン症候群が突発的に生ずることがある(メペリジン合成の失敗によって意図せず作られ、非経口使用されている違法薬物)。

(4)基底核に生じた脳炎 : パーキンソン症候群が起こることもある。

症状・徴候

大部分の患者では、疾患は片手の安静時振戦(丸薬丸め振戦)として潜行性に発症する。振戦は緩徐で粗大である。振戦は安静時に最大となり、運動時には減少し、睡眠時には消失するが、情緒的緊張や疲労により増大する。通常は手、腕、脚が最も侵されやすく、この順に侵される。顎、舌、額、瞼も侵されることがあるが、声には波及しない。疾患が進行するにつれ、振戦は目立たなくなることもある。

多くの患者で、振戦のない固縮が生じる。固縮が進行するにつれて動きが鈍くなり(運動緩徐)、始動困難(無動)になる。固縮及び運動減少は筋肉痛や疲労感の一因となることがある。口を開けたままで瞬きが減る仮面様顔貌を呈する。顔の表情が失われ、動きが少なく緩慢になるため、最初はうつ状態にある様に見える。発声不全が生じ、独特の単調で吃音調の構音障害が見られる。

運動減少と遠位筋の制御障害により小字症(非常に小さな文字を書く)が起こり、日常生活活動が次第に困難になる。こわばった関節を医師が動かすと、固縮の度合いが変動して、律動的なピクピクした動きが突然生じ、爪車の様な効果をもたらすこともある(歯車様硬直)。

姿勢は前屈みになる。歩行を開始する・向きを変える・止まるという動作が困難になる;小刻みに足を引き摺って歩く様になり、腕は腰の方へ屈曲し、歩きながら腕を振らなくなる。足取りが不意に速くなり、倒れない様にするために急に走り出すことがある(加速歩行)。重心を移すと前や後ろに倒れそうになる(前方突進、後方突進)が、これは姿勢反射の消失によるものである。

認知症及び抑うつが良く見られる。起立性低血圧、便秘、排尿遅延が生じることもある。多くの患者に嚥下困難と、従って誤嚥が見られる。

患者は複数の動作を交互に、迅速に行うことができない。通常、感覚や力は正常である。反射は正常だが、著明な振戦又は固縮のため、反応がが生じ難くなることがある。脂漏性皮膚炎が良く見られる。脳炎後パーキンソン症候群では、頭部及び眼の強制的、持続的な偏位(注視クリーゼ)、その他のジストニア、自律神経不安定、人格変化が生じる。

その他、PDは大脳基底核の疾患で、運動欠乏、硬直、振戦が特徴である。進行性で、有効治療がされなければ無力性は増殖する。1960年代に行われたPDで死んだ患者の脳の分析で、大脳基底核(尾状核、被殻、淡蒼球)のドパミン(dopamine:DA)レベルの著しい減少が明らかになった。従ってPDは脳の特異伝達物質異常と関連する最初の疾患となった。PDの主な病理はdopamine作用性黒質線条体路(nogrostriatal tract)の広範な変性であるが、変性の原因は不明である。黒質線条体路の細胞体は中脳の黒質に局在し、PDの純症状は、これらのニューロンの80%以上が変性したときにのみ現れると思われる。PDの患者の約1/3は最後に認知症となる

PDのdopamine自体による補充療法は、dopamineが血液-脳関門を通過しないので不可能である。従ってその前駆体であるL-dopaは脳内に入り、脱炭酸されてdopamineになる。経口投与されたL-dopaは、大部分脳外で代謝されるので、選択的な脳外脱炭酸酵素阻害薬(carbidopaあるいはbenserazide)と併用される。これで末梢代謝を低下させ投与有効量を著しく少なくでき、末梢有害作用(悪心、体位性低血圧)を減少させられる。L-dopaと末梢脱炭酸酵素阻害薬の併用は治療の主流である。

PDの定義として「黒質-線条体dopamineニューロン系の一次障害により筋強剛、無動、静止時振戦などの錐体外路症状を示す疾患」である。

黒質緻密細胞のメラニン含有神経細胞が著しく減少し、残存細胞にレビー(Lewy)小体*が出現する。その他、橋の青斑核、延髄の迷走神経背側運動核、視床下部、脊髄交感神経核にも細胞減少とレビー小体を認める。PDの原因疾患の一つとして、グアムのパーキンソニズム・認知症症候群が報告されており、PDの症状として認知症が報告されている。

*Lewy小体:PD患者の黒質神経細胞の胞体内に出現する。エオジン好性の封入体、発見者Lewyの名によってLewy小体と呼ばれる。最近は、大脳皮質、黒質を含めて中枢神経にレビー小体が多発する老年期認知症疾患が注目され、レビー小体型認知症と呼ばれる

PDの患者の全てに認知機能の低下が見られるわけではなく、次のことが言われている。

PDの症状がある程度進んだ患者では、動作が緩慢になるのと同様、思考過程の遅延が見られる。また、PDは高齢者に多い疾患であるため、高齢者ではアルツハイマー病(老人性認知症)の合併が少なくない。PDはうつ病又はうつ状態の合併が少なくない。その結果、認知能力の低下が顕著になることがある。

1) メルクマニュアル 第18版日本語版;日経BP社,2006

2)麻生芳郎・訳:一目でわかる薬理学-薬物療法の基礎知識-第4版;MEDSi,2003

3)大内尉義・他:疾患と治療薬 改訂第5版;南江堂,2003

[615.8.PAR:2010.1.31.医薬品情報21・古泉秀夫]