Archive for 12月 31st, 2009

トップページ»

『後発参入が名称の変更をするのは当然のことではないのか』

木曜日, 12月 31st, 2009

魍魎亭主人

 誤投薬により死亡事故の起こっていた筋弛緩剤『サクシン(アステラス製薬)』(毒)の商品名が変更されることになったという記事を見た[読売新聞,第47922号]。サクシンは麻酔時に使用される筋弛緩剤で、呼吸停止を起こしやすく、毒薬に指定されている。1955年の発売開始以来、半世紀以上にわたって使用されてきた。 1971年に抗炎症薬の『サクシゾン(興和)』の販売が始まると、医療現場で取り違えが発生し、問題視されていた。そこでより危険度の高いサクシンの商品名を変更するため、アステラス製薬は『スキサメトニウム』に変更するとして、厚労省に申請し、7月に承認されたという。

 商品名として定着しているものを変更するというのは企業にとって相当思い切った判断だということになるが、本当のところを云えば、似たような商品名を付けて後から参入した医薬品の方が名称の変更をするのが当然であると思うがどうか。

 商品名の変更は、外箱のパッケージから瓶のラベル、添付文書にインタビューホーム、パンフレット等々、多くの変更及び予算の消費が必要になる。更には一度頭に入った名称を切り替える、更には院内のトータルコンピューターシステムの薬品名の変更等、あちらこちらに多大な影響を及ぼす。

 少なくとも類似名称は、承認段階で鑑査すべきであり、販売されてから変更を求めるのは筋違いである。とはいえ、次々に開発される医薬品の名称を考えるだけでも大変で何れにしろ商品名は似たような名前になっていく。

類似名称による誤用例の報告されている医薬品

タキソール(卵巣癌、肺癌=抗癌薬)

タキソテール(乳癌、肺癌=抗癌薬)

ノルバスク(狭心症、高血圧症=血管拡張薬)

ノルバデックス(乳癌=ホルモン療法薬)

アロテック(気管支喘息=気管支拡張薬)

アレロック(アレルギー性鼻炎=アレルギー治療薬)

ウテメリン(切迫早産、切迫流産=子宮収縮防止薬)

メテナリン(人工妊娠中毒症等=子宮収縮促進薬)

テオドール(気管支喘息=気管支拡張薬)

テグレトール(癲癇=抗痙攣薬)

プレドニン(副腎皮質機能不全=ホルモン薬)

プルセニド(便秘症=緩下薬)

アマリール(糖尿病=血糖降下薬)

アルマール(高血圧症、狭心症=降圧薬)

 そういえば読売新聞[第47948号,2009.8.20.]に、『サクシン』と『サクシゾン』の誤用に関する医療事故の問題が報道されていた。

  *徳島県鳴門市の健康保険鳴門病院で昨年11月、入院していた男性患者(当時70歳)が、抗炎症剤と名称が類似している筋弛緩剤を誤って点滴されて死亡した医療事故で、県警は20日、薬の投与を看護師等に指示したとして、内科の女性医師(37)(休職中)を業務上過失致死容疑で書類送検した。県警は、過失が大きいとして、起訴を前提とした『厳重処分』の意見を付けた。

県警などの発表によると、女性医師は昨年11月17日午後9時40分頃、肺気腫の疑いがあり、40度近い熱があった男性患者に解熱作用もある抗炎症剤「サクシゾン」を使うつもりだったが、筋弛緩剤「サクシン」200mgを薬剤師や看護師に指示して、投与。翌18日未明、薬物中毒により窒息死させた疑い。

女性医師は、処方の際パソコンの電子カルテに、「サクシ」と3文字を入力、変換。画面には「サクシン」が表示されたのに、確認を怠り、誤ったまま伝えたという。

同病院は、二つの薬剤を取り違えないように、約7年前からサクシゾンは置いていなかったが、女性医師は昨年4月に着任し、事情を知らなかったという。「薬品名を十分確認していなかった」と容疑を認めているという。

一方、サクシンを製造販売している製薬会社は、事故防止のため、今年7月から商品名を「スキサメトニウム」と改めている。

 キーボードを叩き馴れると、頭では止めようと思っているものをそのまま出してしまうことがある。人間は機械のスピードにはついて行けないという弱点を持っている。患者に使用すれば危険な薬は、人の眼によるチェックだけではなく、機械が自動的にチェックする仕組みを組み入れるべきではないのか。サクシンの規制区分は『毒薬』であり、薬品名を入力した場合、『毒薬』の出力を期待しているのかどうかの確認をCPに自動的にさせる仕組みを導入する。仕事を一事中断されることは僅かな時間であっても医師は厭がる。しかし、患者の安全確認上、危険な薬は薬品名の2度打ちをしなければ処方が書けないようにする等の安全策導入を検討すべきではないか。

 折角努力して医師免許を取っておきながら、こんな単純ミスで患者の命が失われることは甚だバカバカしい話であり、医師免許が使えなくなる事態に陥るのは勿体ないはなしである。最も単純ミスだからこそ、止められないという厄介な性格を持ってはいるが、何とかすべきであることは間違いない。

(2009.8.23.)

『調剤ミスで家宅捜査』

木曜日, 12月 31st, 2009

医薬品情報21

古泉秀夫

抗血栓剤を数倍調剤か82歳死亡 足立区の薬局

東京都足立区の薬局で昨年8月、心臓病を患った男性患者(82)に対し、血液が固まるのを防ぐ「抗血栓剤」を処方する際、薬剤師等が誤って処方せんの数倍の分量を調剤していることが解った。薬を服用した男性は約1ヵ月後に死亡した。警視庁は29日、業務上過失致死容疑で薬局の調査を実施した。

 同庁幹部によると、男性は「抗血栓剤」を服用した後、口などから出血を繰り返すようになり、約1ヵ月後の昨年9月、心肺の機能不全で死亡した。容体の急変に不審に思った家族から届出を受け、同庁で調べたところ、薬局側のミスが判明したという。

 男性が高齢で心臓病以外にも複数の持病を抱えていたことなどから、同庁では、調剤ミスと死亡との因果関係を慎重に調べているという[読売新聞,第47836号,2009.4.30.]

 Internetによる情報では『東京・足立区の薬局が、誤って処方箋のおよそ4倍の量の薬を調剤した結果、患者が死亡した疑いがあるとして、警視庁は29日、この薬局の家宅捜索をおこないました。業務上過失致死の疑いで家宅捜索を受けたのは、足立区鹿浜の「東京医療第一薬局」です。去年8月、この薬局で調剤された血栓予防のための薬「ワーファリン」を心臓病の82歳の男性が指示通り服用したところ、翌月になって皮下出血などを発症し、大量の出血によるショックで死亡しました。「ワーファリン」は心臓病の患者などが過剰に服用すると大量出血を引き起こす危険性があるということです。警視庁は、薬局の薬剤師の女(35)らが処方せんに記載されていたおよそ4倍の量を調剤するなど、分量を間違えた疑いがあるとみて調べをすすめる方針』と具体的に薬品名を挙げ、調剤ミスの内容にも触れている。

 原則的にいえば、人が係わる以上調剤ミスは無くならない。膨大な労力を費やして危機管理マニュアルを作っていようが、マニュアルに則って厳重な鑑査を実行しようが、細かな作業の多い調剤業務で、調剤ミスを零にすることは不可能なのである。作業に従事する人間の緊張の持続は困難であり、精神が弛緩した時に、当人にその認識がないうちに事故は発生する。これを避けるためには短時間に作業を交代するということで、疲労の蓄積を避け、緊張を持続することのできる神経を回復することが必要になるが、そんな余裕のある人員配置ができるほど、医療機関で稼ぎを挙げることは困難である。

 従って、最悪の状況を避けるための種々の予防策を講ずるが、今回の場合でいえば、患者の協力がなければ、有効な治療効果が得られない薬であり、油断していると副作用としての出血が起こり得る。更には食品中のvitamin Kの影響を受けやすい等、諸々の注意が必要であり、服用中に歯ぐきからの出血、鼻血等が見られた場合、必ず主治医・調剤した薬局に連絡するよう、当人あるいは家族に十分な情報の提供を行い、治療に際しては、患者自身も自己の体調を十分観察することをお願いするというのが最終段階での予防策である。

 今回の場合、患者に対する説明は何処までされていたのか、その当たりが気になるところである。自分達の調剤ミスの防止策を棚に上げて、患者の安全を患者に押しつけるのかというお叱りを受けるかもしれないが、実害を被るのは何時も患者であり、他人任せにしておけば安全は確保できるというものでもない。治療に参加するという意味でも、自己防衛は必要だといえる。

 勿論、薬剤師の仕事は患者に正確に薬を渡すことである。過誤を起こさないように指呼確認や第三者による鑑査等の安全対策は講じている。しかし、だからといって100%の確立で過誤を防止することはできないという、生身の人間であるが故の宿命を背負っているということを申し上げているわけである。

(2009.5.5.)