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『そんなに好い加減でいいのかい』

日曜日, 12月 20th, 2009

魍魎亭主人

 河豚の調理をするためには、特別な免許が必要であると理解しており、偶に河豚に中る事例が出ても、それは釣り人が自分で調理をして食べる例だとばかり思っていた。しかし、驚いたことに『料理屋7人フグ中毒』『山形 店長無資格、1人重体』の大見出しが新聞を飾った[読売新聞,第47743号,2009.1.27.]。

 山形県鶴岡市大西町の飲食店「鮮魚料理きぶんや」で食事をした客から「手足がしびれる」などの119番が相次ぎ、7人が市内の病院に運ばれた。無職の男性(68)が意識不明の重体。公民館職員(55)が意識障害などの重症で、60歳代の男性6人が手当を受けた。

 警察の発表ではフグの白子の料理を食べており、フグ毒が原因の食中毒と見て業務上過失傷害などの疑いで店側から事情を聞いている。

 同店にはフグ調理が出来る「フグ取扱者」の有資格者はおらず、店長は「常連客なので特別に出した。白子調理は今回が初めて」などと話しているという。使用したフグは新潟県で漁獲された『ヒガンフグ』で丸ごと一匹を捌いたのは初めての経験だという。しかし、山形県では「2年以上の実地経験と講習会の受講」が条件で、「フグに馴染みがない」ということから、罰則規定のない要綱での指導に留めているとされており、岩手県では、昨年まで要綱もなく、一昨年、船上で処理されたフグが流通したのを受けて要綱づくりを進めたという。それまでは、他県の資格の有無など、個別に対応していたといい、中毒事故の予防については、「食品衛生法で担保されている」(県保健衛生課)との判断だったという。

 同じようなことは続くと見えて、平成21年2月8日に大分県由布市内の魚介類販売業者が2月6日昼頃、煮付用として販 売した「フグ の卵巣」を購入し、家庭で調理・摂食した男性2名が2月7日フグ中毒に罹患したことが判明した。

 患者の状況について、70歳代の男性が平成21年2月7日(土)9時頃摂食し、11時頃に『ふらつき、めまい、嘔吐、口のしびれ等』を呈し、18時頃に由布市内の医療機関に救急搬送されたが、現在快方に向かっている。この男性は2月6日(金)に貰ったフグの卵巣を7日朝、家で煮付けにしている。

 他の60歳代の男性は2月7日(土)12時頃摂食し、13時頃になって『吐き気、口と手のしびれ等』を呈し、同日18時頃大分市内の医療機関に救急搬送されたが、快方に向かっているとされる。この男性は2月6日(金)に購入したふぐの卵巣を、家でその日の夕方に煮付け、翌日朝に再度煮詰めた。

 白子を販売したのは魚介類販売業の甲斐水産、「大分県食の安全・安心推進条例」に基づく、フグ処理施設の届け出を行わず、フグ処理登録者以外の者がフグを処理していた。

今回の場合、原因食品は『マフグの卵巣』であるとされている。

 フグに起因する食中毒は『フグ毒( tetrodotoxin)』である(臨床症状等からフグ毒と断定)。毒量については大分県衛生環境研究センターにおいてフグの卵巣残品、患者の嘔吐物、血液等について検査予定と報告されている。

 日本近海にいるマフグ科50種のうち24種がフグ毒tetrodotoxin(TTX)を持つとされている。フグ毒は毒性に個体差があり、養殖フグには毒がないとされている。従ってフグ毒はフグ自身が作り出すわけではなく、外的要因で毒化すると考えられている。フグ毒の最初の生産者はビブリオ属などの海洋細菌であることが解ってきた。また一部では食物連鎖により毒が蓄積されることが解明されている。

ヒガンフグ(マフグ科Takifugu pardalis)

マフグ(マフグ科 Takifugu porphyreus)

卵巣と肝臓は猛毒。

卵巣:毒性は産卵期に1000-2000MU/gに達する。

肝臓:産卵期に最高5000MU/gを示し卵巣を凌駕する。

皮膚:最高200MU/gに達する。

精巣:通常無毒であるが、時に弱い毒性を持つことがある。

血液:基本的に無毒。

筋肉:一般に強毒。報告によっては10MU/g未満、無毒とするものも見られる。

:強毒。100-1000MU/g

卵巣と肝臓は猛毒である。

卵巣:通常1000MU/gとされているが、産卵期は2000MU/gに達するの報告。

肝臓:通常1000MU/gとされているが、産卵期の毒性は2000MU/gとされる。

皮膚:皮も有毒である。平成12年12月28日島根県太田市で真河豚の皮による典型的なフグ毒による食中毒報告。

精巣:無毒。

血液:non data

筋肉:無毒。

:強毒。100-1000MU/g。

春の彼岸頃に成魚の漁獲量が多いのでこの名前がついた。

幼魚時は内湾に群れをなしている。成魚は背が黒褐色のクロフグであるが、幼魚は白い斑点が多い。

*フグ毒の単位(MU):資料1gで殺せるマウス(体重20g)の匹数で、1000MU/gの場合、資料1gで体重20gのマウスを1000匹殺せることを示す。

*いずれにしろ河豚には毒があり、食用可とされる河豚でもその部位によっては有毒である。従って都道府県で取扱がバラバラだというのはよろしくない。厚生労働省が全国統一的な対応を取るか都道府県に指示して統一的な対応を取ることが必要ではないか。それにしても食品を扱う人達が、河豚を扱うのに他の魚と一緒の扱いというのでは専門家としての自尊心は何処に行ってしまったのか。

1)小川賢一・他監:危険・有毒生物-学研の大図鑑;学習研究社,2003

(2009.2.22.)