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「ニトロベンゼンの毒性」

火曜日, 7月 7th, 2009

対象物

ニトロベンゼン(nitrobenzene)

調査者

古泉秀夫

分類

63.099.NIT

記入日

2008.5.3.

成分

ニトロベンゼン(nitrobenzene)、人工苦扁桃油、ミルバン油

一般的性状

強力還元剤。染料、香料の中間物、酸化剤、塵埃防止剤。CAS番号:98-95-3 。ベンゼンを混酸でニトロ化すれば得られる淡黄色油で、比重:1.19806、融点:5.7℃、沸点:210.9℃。C6H5NO2=123.1。苦扁桃油のような香気と味があるが、蒸気及び液体は人体に有毒でチアノーゼを起こす。大部分の有機溶媒と混ざるが、水に僅かに溶ける。酸性及び中性還元すればアニリンが、アルカリ性還元すればアゾキシベンゼン、アゾベンゼンを経てヒドラゾベンゼンが得られる。染料工業においてアニリンの原料として重要性を持つ。また極性溶媒として、ときにはおだやかな酸化剤として用いられることもある。本品による中毒者では靴墨臭がする。

[用途]染料・香料中間物(アニリン、ベンジジン、キノリン、アゾベンゼン)、毒ガス(アダムサイトの原料)、酸化剤、溶剤(硝酸繊維素)、塵埃防止剤。

毒性

刺激性、痙攣性、低グリセリン血症性。血液毒性が強く、メトヘモグロビンを形成する。メトヘモグロビンは血液中のヘモグロビンを酸化し20%以下なら自覚症状がなく、それ以上50%位までは呼吸困難や頭痛、眩暈を引き起こし、60-70%では、意識喪失、昏睡から死に至る。

ヒト(経口)致死量:1mL。ヒト(経口)最小中毒量:200mg/kg。RTECS=急性経口毒性(LD50)349mg/kg(ラット)

症状

吸入蒸気は粘膜刺激性、吸収は脊髄痙攣や溶血、時に過度体温上昇と糖分酸化増加が起こる。中程度の中毒も、肝壊死により数日以内に死に至ることがある。経口摂取は疲労、めまい感と、眩暈、食欲喪失、胃炎と下痢などを起こす。中毒性肝炎と、貧血が多量摂取後に起こる。ヒドラジン塩類は、刺激的であり、腐食的である。本剤に触れると、皮膚や粘膜の灼熱感を生じる。

*吸入したとき:頭痛、紫色(チアノーゼ)の唇や爪、紫色(チアノーゼ)の皮膚、眩暈、吐き気、脱力感、錯乱、痙攣、意識喪失。

*皮膚に付着したとき:吸収される可能性あり。頭痛、紫色(チアノーゼ)の唇や爪、紫色(チアノーゼ)の皮膚、眩暈、吐き気、脱力感、錯乱、痙攣、意識喪失。

*誤飲したとき:頭痛、紫色(チアノーゼ)の唇や爪、紫色(チアノーゼ)の皮膚、眩暈、吐き気、脱力感、錯乱、痙攣、意識喪失。

処置

*吸入したとき

予  防:換気、局所排気、または呼吸用保護具。

応急処置:新鮮な空気、安静。人工呼吸が必要なことがある。医療機関に連絡する。

*皮膚に付着したとき

予  防:保護手袋、保護衣。

応急処置:汚染された衣服を脱がせる。流水で洗い流してから水と石鹸で皮膚を洗浄する。医療機関に連絡する。

*眼に入ったとき

予  防:安全ゴーグル。

応急処置:流水で15分間洗い流し(できればコンタクトレンズをはずして)、医師に連れて行く。

*誤飲したとき

予  防:作業中は飲食、喫煙をしない。

応急処置:口をすすぐ。水に活性炭を懸濁した液を飲ませる。安静。医療機関に連絡する。

*大量誤飲時:胃洗浄、下剤投与、輸液、対症療法。

事例

いまや、関心はチョコレートに集中された。チョコレートはその夜のうちに、スコットランド・ヤードに押収され、ただちに、鑑識課へ回された。

「そして、医者の診断はあまり見当ちがいではありませんでした」と、モレスビーはいった。

「チョコレートにはいっていた毒物は、もちろん苦扁桃(ビター・アーモンド)の油ではなく、ニトロベンゼンでした。しかし、それはそう大した相違ではないと思っています。みなさんの中に、化学の知識を持っているかたがあるならば、その薬品については、わたしよりよくご存じでしょうが、たしかそれは、ビター・アーモンドの油の代用品として、アーモンドの香りを付けるために(昔ほどではないですが)安い菓子には時おり使われているはずです。これは、申し上げるまでもなく、やはり強力な毒物です。しかし、商業的に、ニトロベンゼンが最も多く使用されるのは、アニリン染色の製造です。[高橋泰邦・訳(Anthony Berkeley):毒入りチョコレート事件;創元推理文庫,2001]。

備考

何人かの人間が集まって、一つの事件について、自ら調査したこと、それに基づく推理及び犯人について語り合う会を持つという趣向で話が進められる。結果としてあっちにウロウロ、こっちにウロウロということで、この手の話の進め方が好きな人には応えられない物語なのかもしれないが、直裁的な話の進行が好きな人間にとっては、まだるっこしい話ということになる。

但し、話が輻輳する点を我慢すれば、推理小説としては、よくできた話の部類に入るのではないか。

文献

1)志田正二・代表編:化学辞典;森北出版株式会社,1999

2)白川 充・他共訳:薬物中毒必携 第2版;医歯薬出版株式会社,1989

3)Anthony T.Tu・編著:毒物・中毒用語辞典;化学同人,2005

4)相馬一亥・監修:イラスト&チャートで見る 急性中毒診療ハンドブック;医学書院,2005

5)西 勝英・監修:薬・毒物中毒救急マニュアル 改訂7版;医薬ジャーナル社,2005

6)鵜飼 卓・監修:第三版 急性中毒処置の手引き;薬業時報社,1999

7)143034の化学商品;化学工業日報社,2003