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「ラウリル硫酸ナトリウムについて」

木曜日, 4月 16th, 2009

KW:薬名検索・毒性・ラウリル硫酸ナトリウム・sodium lauryl sulfate・アルキル硫酸ナトリウム・ドデシル硫酸ナトリウム・陰イオン界面活性剤・SLS・SDS

Q:ラウリル硫酸ナトリウムの性状及び毒性につい

A:ラウリル硫酸ナトリウム(sodium lauryl sulfate)[局]。Sodium lauryl sulfate[JP]、Sodium lauryl sulfate[BP]、Sodium Lauryl Sulfate[NF]、Sodium lauryl sulfate[USP]、Sodium Laurilsulfate[EP]、Natrii laurilsulate[PhEur]。CAS-151-21-3。

別名:Dodecyl sodium sulfate:Elfan 240;Empicol LZ;Maprofix 563;Marlinat DFK30;Natrapon W;sodium dodecyl sulfate;sodium laurilsulfate;sodium laurisulfate;sodium monododecyl sulfate;sodium monolauryl sulfate;Stepanol WA100。

本品は主としてラウリル硫酸ナトリウム(C12H25NaO4S:288.38)からなるアルキル硫酸ナトリウムである。尚、USPでは、ラウリル硫酸ナトリウムを主体とするアルキル硫酸ナトリウムの混合物であるとして記載されており、PhEurでは85%以上のアルキル硫酸ナトリウムを含むと記載されている。融点:204-207℃(純物質)。

SLSは白色-淡黄色の結晶、薄片又は粉末で、滑らかな感触があり、石鹸のような苦味と僅かに特異(脂肪様)な臭いがある。本品はメタノール又はエタノール(95)にやや溶け難い。クロロホルム及びエーテルには殆ど溶けない。本品1gは水10mLに澄明に又は混濁して溶け、これを振り混ぜる時泡立つ。あるいは水に溶けて乳白色溶液になる。SLSは石鹸のように加水分解してアルカリ性反応を呈することはなく、1%水溶液のpHは6.0-7.0である。またcalcium saltやmagnesium saltも沈澱とはならないから硬水中でも乳化作用、洗浄作用がある。

本質:乳化剤・溶解補助剤。

来歴:1930年独逸で椰子油を原料とする高級アルコールが工業的に製造され、1933年にLattermoser,Stollらがその硫酸エステルとしての性質を研究した。

薬効薬理:SLSは、陰イオン性界面活性剤で、乳化剤として優れ、また殺菌作用がある。黄色ブドウ球菌に対するフェノール係数は約5である。その他、SLSはグラム陽性菌に対して殺菌作用を示すが、多くのグラム陰性菌に対しては有効でない。スルファニルアミド、スルファチアゾール等の抗真菌活性を増強する。

動態・代謝:35S-ラウリル硫酸塩をラットに経口投与すると、その放射能の殆ど全部が尿中から回収される。尿中代謝物としては4-ヒドロキシ酪酸の硫酸エステルと無機硫酸が同定されている。従ってラウリル硫酸のアルキル鎖は体内、特に肝でω酸化を受けた後、炭素鎖4になるまでβ-酸化が繰り返され、その一部は硫酸エステルが加水分解されるものと思われる。

適用:陰イオン性界面活性剤、洗浄剤、乳化剤、発泡剤、皮膚浸透剤としての用途が主であり、粉末又は液状シャンプーに用いられる。また硫酸ナトリウムを配合して湿疹用石鹸とする。製剤用には可溶化剤の他、錠剤やカプセル剤の滑沢剤、湿潤剤として使用される。

医薬品製剤への応用:SLSは、経口医薬品製剤や化粧品の幅広い領域で使用されている陰イオン性界面活性剤である。塩基性、酸性のいずれの条件下でも効果のある洗剤であり、湿潤剤である。その他、電気泳動法の分析への応用が見られる。ラウリル硫酸ナトリウムのポリアクリルアミドゲルの電気泳動は、蛋白質の分析手法として広く使用されている。また、MEKC法(micellar electrokinetic chromatography)の選択性を向上させるために使われる。

製剤:親水軟膏。但し、親水軟膏の組成は、日局Xから界面活性剤であるSLSの皮膚刺激を考慮してポリオキシ硬化ヒマシ油60とモノステアリン酸グリセリンに処方が変更されたとする報告。

用途 濃度(%)

脂肪酸alcoholと自己乳化基剤を形成する陰イオン性乳化剤

0.5-2.5
薬用シャンプーの洗剤 約10
外用の皮膚洗浄剤 1
CMCより高濃度溶液の安定化剤   >0.0025
錠剤の滑沢剤 1-2
歯みがき剤の湿潤剤 1-2

安定性:SLSは、通常の条件下で安定である。しかし溶液中で極端な条件、例えばpH2.5以下では laurylalcoholと硫酸ナトリウムに加水分解する。バルクは強い酸化剤を避け、気密容器・乾燥した冷所に保存する。

配合変化:SLSは、陽イオン性界面活性剤と反応し、低濃度でも沈澱が生じ、活性が低下する。石鹸とは異なり稀酸やカルシウム及びマグネシウムイオンと配合できる。SLSの水溶液は軟鋼、銅、真鍮黄銅、青銅やアルミニウムに対して腐食性がある。SLSはアルカロイド塩と配合不可であり、鉛やカリウム塩により沈澱する。

安全性

SLSは、化粧品や経口・外用医薬品製剤に広く使用されている。皮膚、眼、粘膜、上気道や胃に対する刺激性を含む急性毒性を持つ中程度の毒性物質である。

希薄溶液に長期にわたって曝露されると、皮膚の乾燥やひび割れ等の接触性皮膚炎を惹起する。肺感作により亢進した気道機能の障害や肺アレルギーを惹起する可能性がある。動物実験で静注により肺、腎臓、肝臓への顕著な毒性を惹起することが報告されている。しかし、バクテリアによる変異原性試験では陰性であることが明らかにされている。

化粧品や医薬品製剤におけるSLSの有害作用は、主として外用剤として使用した後の皮膚や眼に対する刺激性に関連している。

ヒトの静脈内注射剤に用いてはならない。ヒトの経口致死量は0.5-5g/kgである。

LD50(マウス腹腔内):0.25g/kg
LD50(マウス静脈内):0.12g/kg
LD50(ラット経口):1.29g/kg
LD50(ラット腹腔内):0.21g/kg
LD50(ラット静脈内):0.12g/kg

取扱い上の注意

1)取扱う環境と使用量について一般的な注意が必要である。
2)吸入・皮膚、眼への接触は避けるべきである。状況により眼の保護具、手袋や保護服の使用が望ましい。
3)適切に換気し、防護マスクをするべきである。
4)長期間又は繰返し曝露することは避けるべきである。
5)SLSは、燃えると有毒な煙が発生する。

以上の他、『ドデシル硫酸ナトリウム(sodium dodecyl sulfate:SDS)』として次の報告がされている。

(1)SIDS(screening information data set;スクリーニング用情報データセット)に報告された影響及び曝露時の初期評価に基づくと、SDSのヒトと環境に対する危険因子である可能性は低いと考えられる。従ってSIDS後に試験及び/又は曝露分析あるいは詳細なassessment(査定)を優先的に実施する必要性は現在のところ無い。

(2)SDSの生産量は独逸で約10,000頓/年である。SDSは洗剤、分散剤、化粧品、洗面用化粧品に界面活性剤として使用されている。SDSは次の特性を示す。

1.容易に分解される。
2.生物蓄積が少ない。

環境中のSDSに対して最も鋭敏な生物種は二枚貝のCorbicula fluminea(シジミ貝の1種)である(30日間NOEC*=0.65mg/L)。全ての関連毒性評価項目が網羅されている。SDSは毒性の低い物質である。SDSは種々の試験系において突然変異を誘発しなかった。反復投与毒性の最大無作用量が確立されており、100mg/kg/日である。水圏における局地PECは2.3μg/Lと推定され、背景地域PEC*の2.3μg/Lに加算される。

*NOEC:「無影響濃度」(no observed effect concentration)
*PEC:「予測環境濃度」predicted environment concentration

成人消費者は最高0.030mg/kg体重/日曝露され、乳幼児は0.034mg/kg/日曝露されていると計算される。しかし、最も高い消費者曝露は、子供に生じると推定され、最悪の場合の曝露量は0.160mg/kg/日である。乳幼児(約0.25mg/kg/日)と成人(約0.05mg/kg/日)の曝露量はもっと少ない。職業曝露量は約0.100mg/kg/日と計算され、労働者では消費者曝露と職業曝露を合わせると約0.130mg/kg/日と推定できる。

0.65mg/LのNOECに基づくと、水圏への危険性は無いと思われる。最悪の場合のヒト曝露(子供)の安全マージン>600がリスクアセスメントで確立された。毒性学的データの質と量及び認められた健康への影響(軽度肝臓毒性)の種類を考慮すると、>600の安全幅で十分であると考えられる。それ故SDSによるヒトへの健康に関する懸念はないと結論付けされる。

従って今後の研究への勧告は『無い』。

1)第十五改正日本薬局方解説書;廣川書店,2006
2)大谷道輝:スキルアップのための皮膚外用剤Q&A;南山堂,2005
3)医薬品添加物ハンドブック;薬事日報社,2001
4)ドデシル硫酸ナトリウムJETOC,2003:社団法人日本化学物質安全・情報センター[Japan Chemical Industry Ecology-Toxicolog y Information Center:JETOC],2009.4.15.

[011.1.SLS:2009.4.16.古泉秀夫]