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ネット大量販売

金曜日, 1月 23rd, 2009

 

  魍魎亭主人 

 

北九州市の薬局で、インターネット上の「楽天市場」で、2005年11月から市販薬を販売。2006年5月、当時19歳の埼玉県の少年に、催眠鎮静剤24箱(1箱12錠)をまとめて販売した。薬局側はその際、購入者の年齢や購入目的は確認していなかった。

少年は、別の薬局から買い集めたものも含めて300錠以上を一気に服用。病院に運ばれ命は取り留めたが、両足に障害が残った。

メーカーは、この薬を売る際には1人1箱を厳守し、頻繁に買おうとする客には販売を控えるよう求める注意文書を販売店に配布していた。厚労省は2004年、市販薬のネット販売は比較的リスクの低い医薬品に限るよう求める通知を都道府県に出しており、この薬の販売は通知に反する。

福岡県は「依存性のある薬を大量に販売したことが被害原因の一つ」などと行政指導。薬局はその後閉店し、ネット販売からも撤退した。運営していた薬剤師は「問題が起きた後すぐに、鎮静剤のネット販売は止めた」としている[読売新聞,第47703号,2008.12.17.]。

話の流れからして福岡県が行政指導したのは2006年の5月以降のことと考えられるが、何故今頃になって6段抜きの記事にしなければならなかったのか、些か引っかかるところはあるが、製薬企業が1人1箱の販売を厳守するよう注意文書を各販売店に配布していたとすれば、それを遵守するのは薬剤師としての役割である。

更に2004年市販薬のネット販売に関して「比較的リスクの低い医薬品に限るよう求める通知」を都道府県に出していたとすれば、これは県薬剤師会等を経由して開局薬剤師の手元には届いていたはずである。にも関わらず通達に反する商売をしたということは、薬の専門家としての薬剤師としては、甚だしく品格のない商売をしたものだといわなければならない。

薬は本来人にとって異物である。異物を服むことによって生体がどの様な反応を示すかは百人百様で、全てが同じ訳ではない。臨床治験や永年の販売実績で安全は確認されたというかもしれないが、単に多くの偶然が積み重なって、安全を保証しているように見えるだけかもしれない。個人の体質や体調、肝機能や腎機能、諸々の物が影響して有害反応を示さないという保証はない。

薬の専門家である薬剤師は、薬を購入する者との何気ない遣り取りの中からOTC薬で治療可能なのか、医師の受診を進めるべきなのかの判断をしなければならない。薬は単に売ればいいわけではなく、売らないという判断も時に必要なのである。

このような判断は、電網を用いた一方的な連絡では捕捉不能である。更に足弱な高齢者が薬の購入が出来ないなどと言う御意見もあるようであるが、どれだけの高齢者が電網を使いこなし、必要とする商品の発注が出来るのか。離島の方々の薬の購入の道を閉ざすという御意見も聞くが、発注してかどの位の時間経過で手元に届くのか。熱発している最中に発注し、熱が下がってから届いても意味はない。

離島の住民や高齢者の医療を考えるのであれば、電網などという手段ではなく、もっと他の方法を考えるべきではないか。

  (2008.12.31.)