「トランス脂肪酸について」
水曜日, 1月 7th, 2009KW:薬名検索・トランス脂肪酸・トランス型脂肪酸・trans fatty acid・LDLコレステロール・悪玉コレステロール
Q:トランス脂肪酸の性状及び人体に対する影響について
A:油脂は1分子のグリセリン(グリセロール)と3分子の脂肪酸が結合したものである。油脂は常温で“固体の脂肪(fat)”と“液体の油(脂肪油:oil)を総称したものである。fatには多くの陸上動物(牛脂、豚脂、バター等)と熱帯植物(椰子油、パーム油、ココアバター等)の油脂がある。oilは殆どの植物性油や海産の魚油、鯨油等の油脂がある。
トランス脂肪酸(trans fatty acid)は、マーガリンやショートニング*等の加工油脂やこれらを原料として製造される食品の他、乳、乳製品、反芻動物の肉や脂肪、生成植物油等に含まれる脂肪酸の一種である。脂肪酸は油脂の構成成分で、飽和脂肪酸と不飽和脂肪酸とに区分される。炭素と炭素(C=C)が二重結合で結合したものが不飽和脂肪酸で、炭素に結びつく水素の向きでtrans-型とcis-型の2種類に区分される。水素の結びつき方が、互い違いになっているものをtrans-型脂肪酸といい、同じ向きになっているものをcis-型脂肪酸という。
trans-型脂肪酸の生成については、次の三つの過程が考えられている。
a.油を高温で加熱する過程で、cis-型不飽和脂肪酸から生成。
b.植物油等の加工に際し、水素添加の過程において、cis-型不飽和脂肪酸から生成。
c.自然界において、牛等(反芻動物)の第一胃内でバクテリアにより生成(脂肪や肉などに少量含まれる)。
*ショートニング:植物油や魚油等を原料として製造され、マーガリンと比較すると、水分を殆ど含まないという違いがある。19世紀に米国でラードの代用品として考案された。
トランス型脂肪酸の作用としては、悪玉コレステロールといわれるLDLコレステロール(低比重リポ蛋白質:肝臓から体内各部にコレステロールを運ぶ物質)を増加させ、善玉コレステロールといわれるHDLコレステロール(高比重リポ蛋白質:体内の各部から肝臓へコレステロールを運ぶ物質)を減少させる働きがあるとされている。また大量摂取すると心臓疾患のリスクを高めるといわれ、2003年以降使用を規制する国が増えている。植物や魚油などから得られる天然の不飽和脂肪酸では、殆ど全ての二重結合はcis-型をとり、折れ曲がった構造をもつ。一方、不飽和脂肪酸から商品価値の高い飽和脂肪酸を製造する為に水素を添加し水素化させると、飽和脂肪酸にならなかった一部の不飽和脂肪酸のcis-型結合がtrans-型に変化し、直線状の構造を持つようになる。
米国 | 加工食品中のtrans-型脂肪酸含有量の表示を2006年1月より義務付け(食品1回使用量当たり0.5g以上含まれる場合)。またtrans-型脂肪酸の摂取量は、1日当たりの総エネルギー摂取量の1%未満(勧告)。 |
カナダ | 原則として2005年12月以降原則として栄養成分の表示においてtrans-型脂肪酸を表示対象。 |
デンマーク |
2004年1月以降国内で販売する全ての食品の油脂中のtrans-型脂肪酸含有率2%迄に制限(但し、動物由来のtrans-型脂肪酸除く)。 |
世界保健機関(WHO)/食糧農業機関(FAO) | 「食事、栄養及び慢性疾患予防に関するWHO/FAO合同専門家会合」では、心臓血管系の健康増進のため、食事からのtrans-型脂肪酸の摂取を極めて低く抑えるべきであり、最大でも1日当たりの総エネルギー摂取量の1%未満とするよう勧告。 |
その他、ニューヨーク市衛生局(New York City Board of Health)は、このほど市内の飲食店に対して、工業的に生産されたトランス脂肪酸の使用量を削減して、1食中りの
トランス脂肪酸含有量を0.5g未満とするよう義務付けた。これはニューヨーク市における冠動脈疾患イベントの発生数を抑制するための措置。デンマークでは既に2004年からより包括的なアプローチが行われており、全ての食品の脂肪及び油脂に含まれる工業的に生産されたトランス脂肪酸の量を2%未満に制限することが法的に義務付けられている。FDAは加工食品のラベルにトランス脂肪酸の含有量を表示するよう義務付けた。このような義務づけから食品メーカーでは、トランス脂肪酸の含有量を零又は少量に抑える製品を開発するようになった。
1)トランス脂肪酸の摂取制限:The Medical Letter<日本語版>,23(17):65-66(2007.8.13.)
2)奥山治美:話題-トランス脂肪酸(部分水素添加植物油)の安全評価;ファルマシア,43(4):332-336(2007)
3)雪印乳業株式会社:「トランス脂肪酸について」,2007.6.12.
4)内閣府・食品安全委員会:トランス脂肪酸,2007.5.21
5)冨浪俊一:トランス脂肪酸の安全性-過剰摂取心疾患の危険性-含有量 製品ごとにバラツキ;読売新聞,第47164号,2007.6.26.
[615.8.TRA:2008.2.8.古泉秀夫]