『紫陽花その後』
日曜日, 12月 21st, 2008 医薬品情報21
古泉秀夫
料理の皿の上に食えないものが載っているとは思わないのが一般人の常識で、紫陽花の若い葉が載せられていれば、あるいは青紫蘇が載せられているという認識で見ていたのかもしれない。
ところで推理小説や捕物帖で使われる毒薬や有毒植物について調べて、毒性・症状・治療法等を自分で運営しているブログに載せている。紫陽花の葉に付いては、これまで推理小説でも捕物帖でも出てこなかったので、珍しい事例として新聞記事から引用するとともに、その毒性について調査した。
調べてみると殆どの成書で紫陽花葉には青酸配糖体が存在し、咀嚼すると他の細胞内に存在する酵素の働きにより糖から青酸が離れて、毒性を発揮するとされていた。それらの文献を引用して、纏めたものをブログに公開したところ、青酸配糖体とする根拠になる原著が見あたらないということで、現在、調査中。従って青酸配糖体であるとする断定的な記載は避けた方がいいのではないかという御注意を先達から受けた。
紫陽花葉がその細胞内に青酸配糖体を造るのは、葉が虫等に喰われるのが嫌だということで、造るのだということになっている。しかし、それにしては山に咲く紫陽花の葉の中には虫食いだらけのものがあり、青酸というほど強力な毒は無いのではないかと思われるが、具体的に解明するためには、成分分析をしていただくより方法は無いといわざるを得ない。
紫陽花葉を喫食して食中毒が発生した時、厚生労働省から発出された文書を参照しておく。
食安監発第0701001号
平成20年7月1日
都道府県
各 保健所設置市 衛生主管部局長 殿
特別区
厚生労働省医薬食品局食品安全部監視安全課長
アジサイの喫食による青酸食中毒について
今般、飲食店で料理の飾り用として提供されたアジサイの葉(注)を喫食したことによる青酸食中毒事例が発生しました(別添参照。)
本事案では、飲食店施設等に植えられているアジサイの葉を採取し提供していましたが、アジサイの葉、花等の有毒植物が料理の飾り用として市場に流通していることが確認されています。
つきましては、食中毒予防の観点から、飲食店及び消費者に対し、これらの有毒植物を食品と共に提供又は喫食しないよう注意喚起を行うとともに、市場流通品を確認した場合には、販売者等に対し、食品又は料理の飾り用としての販売をしないよう指導方よろしくお願いします。
(注)アジサイ
葉などに青酸配糖体を含み、咀嚼、胃内の消化等により青酸配糖体と酵素が反応し、遊離した青酸(HCN)によって嘔吐、失神、昏睡等の中毒症状を起こす。
(別添)
アジサイの喫食による食中毒事例
【事例1】
平成20 年6 月13 日、茨城県つくば市内の飲食店で、料理に添えられた装飾用の「アジサイの葉」(注1)を喫食した1 グループ8 名が、会食30 分後から嘔吐、吐き気、めまい等の症状を呈した。
【事例2】
平成20 年6 月26 日、大阪市内の飲食店で、料理に添えられた装飾用の「アジサイの葉」(注2)を喫食した1 名が、喫食40 分後から嘔吐、顔面紅潮等の症状を呈した。
(注1)飲食店の施設内で採取されたもの。
(注2)従業員が採取し持ち込んだもの。
(参考)料理の飾り用アジサイの市場流通品(例)
[写真省略]
※その他、スイセンの流通実態がある。
現在、この発文書は厚労省のホームページからは削除されており、紫陽花の毒成分が青酸配糖体であるか否かについて、今後の調査を待たなければならないということであるが、一番最初に記載した人は誰だったのか。文献の孫引き、曾孫引きがされているうちに、青酸配糖体説が定着してしまったということなのであろうか。
今回の事例だけではなく、種々のところでこのようなことが起こっているのかもしれない。まことしやかな情報として流れているものが、探っていくと、何処にも根拠になる事実は探せず、単なる風評だったということになってしまう。やはり情報の世界は恐ろしい世界だということかもしれない。
(2008.8.17.)