Archive for 12月 21st, 2008

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『後発医薬品の試験・検査』

日曜日, 12月 21st, 2008

     魍魎亭主人

 

国立医薬品食品衛生研究所の「ジェネリック医薬品品質情報検討会」は2008年7月10日初会合を開催した。後発医薬品の品質に疑問を呈した論文をもとに議論した結果、抗真菌剤「イトラコナゾール」、慢性腎不全用剤「クレメジン」などの品質を検証対象にすることに決めた。具体的な検証方法は、事務局を務める国立衛研が組み立て、試験を実施する。早ければ半年後に開催する次回の検討会に結果を提出し、何らかの方向性を出すと報告されている。

国立衛研は、検討会に、後発品の品質を問題視した44本の論文を提示。議論の結果、試験方法に問題があると思われるものを含めた18本の論文で取り上げられた成分を、品質試験を行う候補として選定した。その中でもイトラコナゾールとクレメジンは、以前から品質が疑問視されていた「典型的な例」のため試験を実施する。

検討会は厚生労働省予算で国立衛研内に設置。政府の後発品使用促進の追い風に煽られ、後発医薬品市場が拡大する中、医療現場からは品質に対する疑問の声が止まらないため、疑惑の品目について検証することになった[リファックス,第5147号,平成20年7月11日]。

これは厚生労働省医政局経済課が、2008年7月9日に公表した「後発医薬品の安心使用促進アクションプログラム」の実施状況についての中で『品質確保に関する事項』として挙げている次の事項を実践するものの一部と思われる。

*品質に関する研究論文等を踏まえ、後発医薬品の注射剤10成分94製品を対象に、国立医薬品食品衛生研究所及び地方衛生研究所において製剤中に含まれる不純物に関する試験検査を実施。現在、公表に向けて試験結果のとりまとめを進めている。

*後発医薬品の内服固形剤に係わる溶出試験の結果等については、(独)医薬品医療機器総合機構のホームページにおいて公表中。

現在、『後発医薬品』の使用は、予算の縮少を目的とした医療費抑制策の主柱の一つとして、重要政策に位置付けられている。従って厚生労働省は無闇に後発品への切換えを推奨しているが、しかし本来は、上記の報道に見られるように、品質に疑問がありとして公開されている論文を集約すると共に、全て公表し、更にその実証試験を行い、製品の品質を確認する作業を先に実施すべきだったのである。医薬品の有効性と安全性に対する疑念を払拭する、例え時間が掛かったとしても、そこの手順をしっかりすることが、不安解消のための最善の策であり、後発医薬品使用促進の早道だったと思っている。

処方する医師が、疑念を持ったまま処方し、何らかの問題が発生した場合、その責任は誰がとるのか。やはり処方医が確信を持って処方変更できるよう、疑問点を氷解させるために必要な情報の提供を先行させるべきであり、処方せんの形式変更や療担規則の改正等、姑息な行政的手法の導入を先行させるべきでは無かったのではないか。急がば回れである。

臨床現場で日常的に医薬品が使用され、その薬で患者の症状が安定している状況の中で、薬の変更を行うことは、医師にとっても患者にとっても迷惑なことなのである。後発品の同等性が頻りにいわれるが、それはあくまで概念の上でのことであり、実証的な証明がされている訳ではない。地に足の付いた変更の努力をすべきである。

   (2008.8.17.)

『紫陽花その後』

日曜日, 12月 21st, 2008

医薬品情報21
古泉秀夫

料理の皿の上に食えないものが載っているとは思わないのが一般人の常識で、紫陽花の若い葉が載せられていれば、あるいは青紫蘇が載せられているという認識で見ていたのかもしれない。

ところで推理小説や捕物帖で使われる毒薬や有毒植物について調べて、毒性・症状・治療法等を自分で運営しているブログに載せている。紫陽花の葉に付いては、これまで推理小説でも捕物帖でも出てこなかったので、珍しい事例として新聞記事から引用するとともに、その毒性について調査した。

調べてみると殆どの成書で紫陽花葉には青酸配糖体が存在し、咀嚼すると他の細胞内に存在する酵素の働きにより糖から青酸が離れて、毒性を発揮するとされていた。それらの文献を引用して、纏めたものをブログに公開したところ、青酸配糖体とする根拠になる原著が見あたらないということで、現在、調査中。従って青酸配糖体であるとする断定的な記載は避けた方がいいのではないかという御注意を先達から受けた。

紫陽花葉がその細胞内に青酸配糖体を造るのは、葉が虫等に喰われるのが嫌だということで、造るのだということになっている。しかし、それにしては山に咲く紫陽花の葉の中には虫食いだらけのものがあり、青酸というほど強力な毒は無いのではないかと思われるが、具体的に解明するためには、成分分析をしていただくより方法は無いといわざるを得ない。

紫陽花葉を喫食して食中毒が発生した時、厚生労働省から発出された文書を参照しておく。

食安監発第0701001号
  平成20年7月1日

 都道府県
各 保健所設置市 衛生主管部局長  殿
  特別区

厚生労働省医薬食品局食品安全部監視安全課長

アジサイの喫食による青酸食中毒について

今般、飲食店で料理の飾り用として提供されたアジサイの葉(注)を喫食したことによる青酸食中毒事例が発生しました(別添参照。)
本事案では、飲食店施設等に植えられているアジサイの葉を採取し提供していましたが、アジサイの葉、花等の有毒植物が料理の飾り用として市場に流通していることが確認されています。
つきましては、食中毒予防の観点から、飲食店及び消費者に対し、これらの有毒植物を食品と共に提供又は喫食しないよう注意喚起を行うとともに、市場流通品を確認した場合には、販売者等に対し、食品又は料理の飾り用としての販売をしないよう指導方よろしくお願いします。

(注)アジサイ

葉などに青酸配糖体を含み、咀嚼、胃内の消化等により青酸配糖体と酵素が反応し、遊離した青酸(HCN)によって嘔吐、失神、昏睡等の中毒症状を起こす。

(別添)

アジサイの喫食による食中毒事例

【事例1】

平成20 年6 月13 日、茨城県つくば市内の飲食店で、料理に添えられた装飾用の「アジサイの葉」(注1)を喫食した1 グループ8 名が、会食30 分後から嘔吐、吐き気、めまい等の症状を呈した。

【事例2】

平成20 年6 月26 日、大阪市内の飲食店で、料理に添えられた装飾用の「アジサイの葉」(注2)を喫食した1 名が、喫食40 分後から嘔吐、顔面紅潮等の症状を呈した。

(注1)飲食店の施設内で採取されたもの。
(注2)従業員が採取し持ち込んだもの。

(参考)料理の飾り用アジサイの市場流通品(例)

写真省略

※その他、スイセンの流通実態がある。

現在、この発文書は厚労省のホームページからは削除されており、紫陽花の毒成分が青酸配糖体であるか否かについて、今後の調査を待たなければならないということであるが、一番最初に記載した人は誰だったのか。文献の孫引き、曾孫引きがされているうちに、青酸配糖体説が定着してしまったということなのであろうか。

今回の事例だけではなく、種々のところでこのようなことが起こっているのかもしれない。まことしやかな情報として流れているものが、探っていくと、何処にも根拠になる事実は探せず、単なる風評だったということになってしまう。やはり情報の世界は恐ろしい世界だということかもしれない。

(2008.8.17.)