『タミフルその後』
魍魎亭主人
2008年8月3日の毎日新聞朝刊に次の記事が掲載された。
■『インフルエンザ治療薬「タミフル」(一般名リン酸オセルタミビル)を高濃度に投与されたラットは、神経伝達物質「ドーパミン」が異常に増加することを、加藤敏・自治医科大教授(精神医学)らが突き止めた。研究チームの吉野達規客員研究員は「ヒトの異常行動との関係は不明だが、タミフルが脳の機能にどんな影響を及ぼすのか精査したい」としている。
研究チームは、体重200-250グラムのラット(生後約2カ月、ヒトの10代に相当)を3群に分け、それぞれに2種の異なる濃度のタミフル水溶液と、水だけを投与。脳内ドーパミンの量を直接測定できる手法を使い、検出可能な4時間後まで測定した。
タミフルを投与したラットは、1時間後から脳内ドーパミンの量が増加。4時間後には体重1キロ当たり25ミリグラム(ヒトの幼小児1回投与量の12.5倍に相当)のタミフルを投与したラットでは、水だけを投与したラットに比べドーパミンの量は約1.5倍に増えていた。100ミリグラム(同50倍)を投与したラットでは約2.2倍になった。さらに、投与後10分以内に腹を上にした状態が数分間観察された。
一方、別の神経伝達物質「セロトニン」の量は、タミフルを投与してもほとんど変化しなかった。
ドーパミンが過剰に分泌されると幻覚などを起こすとされる。タミフルを飲んだ10代が飛び降りなどの異常行動を起こし、厚生労働省作業部会が、タミフルと異常行動の関連を検討している。ラット実験ではタミフルや、その代謝物が感情や行動に影響するデータは得られなかったと報告されている。』
■インフルエンザ治療薬タミフルと異常行動との因果関係を調べていた厚生労働省研究班の大規模調査で、データ処理のミスが見つかり、同省は5日、調査結果を再検討すると発表した。
研究班は先月、「因果関係は見いだせなかった」と結論付けており、8日に同省の薬事・食品衛生審議会安全対策調査会を開いて、他の研究班の調査結果も合わせ、「10代へのタミフル使用の原則禁止」措置の解除を最終判断する運びになっていた。調査会は来月以降に延期された。
誤りが見つかったのは、インフルエンザ患者1万人を対象にした大規模疫学調査(分担研究者:広田良夫大阪市大教授)。先週末に開かれた研究班会議で、データ集計を委託した民間会社からデータの一部が誤って処理されていたと報告があった。
最初に発熱した時刻や、初診日時のデータの一部を、別の項目に組み入れていたという[読売新聞,第47570号,2008.8.6.]。
厚生労働省の研究班は、7月8日に薬事・食品衛生審議会安全対策調査会を招集して、「10代へのタミフル使用の原則禁止」措置の解除を最終判断する運びになっていたとされる。
しかし、8月3日の毎日新聞の朝刊に、動物実験の結果とはいえ、『タミフルを高濃度に投与されたラットは、神経伝達物質「ドーパミン」が異常に増加する』ことを突き止めたとする記事が掲載された。厚生労働省は製薬会社が実施した動物実験の結果、あるいは大規模疫学調査の結果を受け、「10代へのタミフル使用の原則禁止」の記載を添付文書から削除することを決めていた。そこへこの報告である。どうする気なのかと思っていたら大規模疫学調査の集計ミスが見つかったということで、会議の延期を決めてしまった。
大規模疫学調査の集計がおかしいというのは、早い時期に何人かの医師が声を上げていたといわれており、再検証が必要であるなら何もこの時期に変更をいうのではなく、もっと早い段階で再検証を下請け業者に命じるべきではなかったのか。それにしても資料が公表された早い段階で、報告内容に疑義を差し挟む意見が出されていたにも係わらず、分担研究者の広田良夫大阪市大教授は、委託業者から集計処理に誤りがあったとの申し出あるまで気が付かなかったということか。それとも幕引きを急いだ外圧に、屈したということか。
(2008.8.8.)