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『麻薬製剤の作用特性-作用発現時間・持続時間』

金曜日, 11月 7th, 2008

[1]アヘン(opium):主成分のmorphineの他、各種のalkaloidを含有しており、これらが協力・拮抗しているため、その作用はmorphineと同一ではなく、またmorphineより毒性は弱い。中枢神経に対してはmorphine同様に抑制的に作用するが、鎮痛、鎮静、呼吸抑制作用はmorphineに比して弱い。腸管に対する作用強力(4倍)。連用で薬物依存。

[2]アヘン・トコン散(opium ipecac powder): 鎮痛、鎮静、呼吸抑制作用はmorphineに比較して弱い。腸管に対する作用強力。トコン末により気管支分泌物液化、痰喀出。連用で薬物依存。

[3]アヘンアルカロイド塩酸塩(opium alkaloides hydrochloride):アヘン中の主要アルカロイドであるmorphine、narcotine、papaverine、thebaine等の塩酸塩含有。主成分であるmorphineの鎮痛・鎮痙・止瀉作用、papaverineの鎮痙作用があるが、副alkaloidにより毒性、呼吸抑制作用はmorphineより弱いが、反射興奮性はmorphineより強い。連用で薬物依存。

[4]アヘンアルカロイド・アトロピン(opium alkaloids and atropine):2種配合により鎮痛・鎮痙・鎮静作用増強。atropine配合により悪心・嘔吐・発汗抑制。連用で薬物依存。

[5]アヘンアルカロイド・スコポラミン(opium alkaloids and scopolamine):鎮痛・鎮痙作用増大、精神作用及び運動中枢を著明抑制。連用で薬物依存。

[6]モルヒネ塩酸塩水和物(morphine hydrochloride hydrate):鎮痛作用強力、鎮静、鎮咳、止瀉作用有する。連用により中毒を起こす。経口投与時主として小腸から吸収され、肝臓で代謝されるため、未変化体morphineは平均1/3量が循環血液中に入るのみである。注射投与は肝臓を経由しないので、同等の効果を得るのに必要な投与量は、経口投与量の1/3-1/2の量である。morphineには有効限界量(ceiling effect)がないので、副作用に注意すれば必要な増量が何時でも可能である。鎮痛効果を目的に使用した場合、便秘・催吐作用は鎮痛有効血中濃度で発現するが、呼吸抑制・催眠作用はより高い血漿中濃度で発現する。morphineの作用はnaloxone、levallorphan等の麻薬拮抗薬によって拮抗される。連用で薬物依存。

[7]硫酸モルヒネ(morphine sulfate):徐放性製剤で、中等度以上の癌疼痛に対して鎮痛効果が得られる。連用で薬物依存。

鎮痛効果の比較

一般名 鎮痛作用
codeine phosphate morphineの強さの約1/12
codeine phosphate hydrate morphineの強さの約1/6
compound oxycodone and atropine morphineの強さの約4倍
dihydrocodeine phosphate morphineの強さの約1/10・約1/3
fentanyl citrate morphineの強さの約80倍
oxycodone hydrochloride morphine sulfateの約3-4倍強い
pethidine hydrochloride・levallorphan tartrate morphineの強さの1/8

[8]モルヒネ・アトロピン(morphine hydrochloride・atropine sulfate):morphineとatropineの相互作用により鎮痛・鎮痙・鎮静作用増強。atropineの作用によりmorphineによる催吐、呼吸抑制作用減弱。連用で薬物依存。

[9]塩酸エチルモルヒネ(ethylmorphine hydrochloride):コデインに類似し強力な鎮咳作用と鎮痛作用を有する。点眼により眼局所血管の拡張をもたらし血行、リンパ液の循環を促進する。連用で薬物依存。

[10]オキシコドン塩酸塩水和物(oxycodone hydrochloride hydrate):アヘンからmorphineあるいはコデインを抽出する過程で排出されるテバインを原料として合成。morphineと同様μオピオイド受容体を介して鎮痛作用を示すと考えられている。女性ではCmax、AUCともに男性の約1.4倍高い。morphine経口剤を本剤に変更する際、morphine製剤1日投与量の2/3量を1日投与量の目安とする。本剤の鎮痛作用にはmorphineと同様有効限界(ceiling effect)がない。連用で薬物依存。

[11]複方オキシコドン(compound oxycodone):作用発現が速く、鎮痛作用はmorphineの約4倍強力。連用で薬物依存。

[12]複方オキシコドン・アトロピン(compound oxycodone and atropine):複方オキシコドンと同様の作用機序であるが、atropineの配合により副作用が軽減される。連用で薬物依存。

[13]コデインリン酸塩水和物(codeine phosphate hydrate):鎮咳作用は強いが、鎮痛作用はmorphineの約1/6、鎮痙作用は約1/4である。連用で薬物依存。

[14]ジヒドロコデインリン酸塩(dihydrocodeine phosphate):codeine phosphateより強い鎮咳・鎮痛作用を持っており、特に鎮咳作用はcodeine phosphateの約2倍強力である。また止瀉作用を持っている。連用で薬物依存性。

[15]オキシメテバノール(oxymetebanol):codeine phosphateの1/10量、デキストロメトルファンの1/5量でほぼ同等の鎮咳効果を有する。連用で薬物依存。

[16]塩酸コカイン(cocaine hydrochloride):粘膜に用いる知覚神経末梢を速やかに麻痺し、局所麻酔作用を示す。吸収されると中枢神経興奮作用を示し、筋肉の疲労感を一時遮断する。精神依存。

[17]塩酸ペチジン(pethidine hydrochloride):morphine様の鎮痛・鎮静作用の他、atropine様の抗コリン作用、パパベリン様の鎮痙作用がある。連用で薬物依存。

[18]クエン酸フェンタニル(fentanyl citrate):非常に強い鎮痛作用があり、神経遮断薬との併用により、麻酔用鎮痛薬として優れた効果を現す。鎮痛作用はmorphineの約80倍。

[19]フェンタニル(fentanyl):合成麻薬であり、μ-オピオイド受容体を介してアゴニストとして作用し、強力な鎮痛作用を示すと考えられている。40℃以上の発熱で薬剤放出量増加-薬理効果増強。体温3℃上昇で、Cmax2.5%増加の予想。初回貼付量:本邦では7.5mgを超える使用経験無し。連用で薬物依存。

初回貼付量選択換算表

morphine投与量 fentanyl換算量
経口 90mg/日 2.5mg(fentanyl 0.6mg/日)
坐薬45mg/日 2.5mg(fentanyl 0.6mg/日)
注射30mg/日 2.5mg(fentanyl 0.6mg/日)

[20]フェンタニール・ドロペリドール(fentanyl・droperidol):周囲の環境に対する無関心、自律神経系の安定、更に非被刺激性を得ることができ、患者との意志の疎通を失うことなく、大手術及び長時間の手術が可能。morphine様の薬物依存性。

[21]塩酸ケタミン(ketamine hydrochloride):皮膚、筋肉、骨の痛みに対して強い鎮痛作用を有し、手術に必要な無痛状態が得られる。作用部位は新皮質-視床系で抑制的に作用し、辺縁系を活性化する。麻酔時に咽喉頭反射が維持されているので、咽喉頭に機械的刺激を与えない。

[22]塩酸ペチジン・酒石酸レバロルファン(pethidine hydrochloride・levallorphan tartrate):levallorphan tartrateにより、pethidine hydrochlorideの呼吸抑制を防止し、十分な鎮痛・鎮痙効果を示す。鎮痛作用はmorphineの1/8。連用で薬物依存。

アヘンアルカロイド系

一般名・商品名(会社名) 作用発現時間 作用持続時間

opium
アヘン散・末・チンキ(第一三共)

non data non data(morphine参照)

opium ipecac powder
ドーフル散(第一三共)
[opium 0.1g・ipecac (吐根)0.1g/g ]

non data non data(morphine参照)

opiumalkaloides hydrochloride
オピアル注(第一三共)20mg/mL/管
パンオピン注(武田)20mg/mL/管

non data non data(morphine参照)

opiumalkaloids and atropine
オピアト注(田辺三菱)
パンアト注(武田)
[opium 20mg・atropine 0.3mg/mL/管]

non data non data(morphine参照)

opium alkaloids and scopolamine
オピスコ注(第一三共)
[opium 40mg・scopolamine 0.6mg/mL/管]
弱オピスコ注(田辺三菱)
[opium 20mg・scopolamine 0.3mg/mL/管]

non data non data(morphine参照)

morphine hydrochloride hydrate
塩酸モルヒネ錠10mg(大日本住友)・末(武田)

10-15min(経口)数分-10数分(静注・筋・皮下注)
30min(外用)

4hr.(鎮痛)
数時間(静・筋・皮下) 10時間(外用)

オプソ内服液(大日本住友)5mg/2.5mL/包 約15min 4hr.(鎮痛)
アンペック坐薬(大日本住友) 30min.(鎮痛) 約10hr.(鎮痛)
アンペック注(大日本住友) 10-30min.(鎮痛) 4-5hr.(鎮痛)
パシーフカプセル(武田) 約50min. 24hr.(鎮痛)
プレペノン1%注シリンジ(武田) 10-30min.(鎮痛) 4-5hr.(鎮痛)

morphine sulfate

MSコンチン徐放錠(塩野義)

約4hr. 12hr以上.(鎮痛)
カディアンカプセル・スティック(粒)(大日本住友) 約4-7hr. 24hr.(鎮痛)
ピーガード錠(田辺三菱) 約4時間 24hr.(鎮痛)

morphine hydrochloride・atropine sulfate
モヒアト注(武田)
[10mg・0.3mg/1mL/管]

10-30min.(鎮痛) 4-5hr.(鎮痛)

ethylmorphine hydrochloride
塩酸エチルモルヒネ末(第一三共)

non data non data

oxycodone hydrochloride hydrate
オキシコンチン錠(塩野義)

約2.5-3hr.(経口) 12hr.(鎮痛)
compound oxycodone
(複方ヒコデノン)
パビナール注(武田)
直後 4-5hr.(鎮痛)

compound oxycodone and atropine(別称:ヒコアト)
パビナール・アトロピン注(武田)

直後 4-5hr.(鎮痛)

codeine phosphate (リンコデ)
コデインリン酸塩 末・錠・散(第一三共)

30-45min(経口) 2-4hr.(鎮咳・鎮静)

dihydrocodeine phosphate
ジヒドロコデインリン酸塩 末(第一三共)

non data non data

oxymetebanol(drotebanol)
メテバニール錠(第一三共)

20-30min(鎮咳) 6-8hr.(鎮咳)

コカアルカロイド系

一般名・商品名(会社名) 作用発現時間 作用持続時間

cocaine hydrochloride
コカイン塩酸塩 原末(武田)

5-10min(経粘膜)

20-30min(局麻)
約6hr.(鼻腔内投与)

非アルカロイド系

一般名・商品名(会社名) 作用発現時間 作用持続時間

pethidine hydrochloride
オピスタン末・注(田辺三菱)

0.5-1.5hr. 3-4hr.(鎮痛)

fentanyl citrate
フェンタネスト注(第一三共)

投与直後(静注) 30-45min(全麻)

fentanyl
デュロテップパッチ(ヤンセン)

24時間(初回貼付) 約72hr.(鎮痛)

fentanyl・droperidol
タラモナール注(第一三共)

2-3min(静注) 30min(mineralization状態)・6-12hr.(鎮静)

ketamine hydrochloride
ケタラール静注用・筋注用(第一三共)

0.5-1min(静注)
3-4min(筋注)

5-10min(全麻)
約12-25min(全麻)

pethidine hydrochloride・levallorphan tartrate
ペチロルファン注・弱注(武田)
30-90min(鎮静・鎮痛・鎮痙)(皮・筋注) 3-4hr.(鎮静・鎮痛・鎮痙) (皮・筋注)

1)高久史麿・他監修:治療薬マニュアル;医学書院,2006
2)第十五改正日本薬局方解説書;廣川書店,2006
3)高久史麿・他監修:治療薬マニュアル;医学書院,2007
4)足立伊佐雄・他:ナースのための薬理学 第4版;南山堂,2003
5)アンペック注;IF,1995.3.
6)アンペック坐薬;IF,1999.10.
7)柏木哲夫・監訳:進行癌患者のための症状コントロール;最新医学社,1988
8)カディアンカプセル・スティック;IF,1999
9)オキシコンチン錠;IF,2003.6.
10)真野 徹:新薬展望2007-癌性疼痛治療薬;医薬ジャーナル,43(S-1):369(2007)
11)足立伊佐雄・他:ナースのための薬理学;南山堂,2003
12)財団法人日本薬剤師研修センター・編:JPDI2006;じほう,2006
13)タラモナール注;IF,2004.12.

[015.11.OPI:2007.2.27.古泉秀夫]