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「ヒスタミン産生菌(histamine-producing microorganism)の感染防御」

金曜日, 9月 5th, 2008

 

感染症分類 食品衛生法第58条1項により「食品、添加物、器具若しくは容器包装に起因して中毒した患者若しくはその疑いのある者を診断し、又はその死体を検案した医師は、直ちに最寄りの保健所長にその旨を届け出なければならない」と規定されている。
一般的性状

ヒスチジン脱炭酸酵素を有する細菌(ヒスタミン産生菌:histamine-producing microorganism)には、腸内細菌であるMorganella morganii(モルガン菌)、Klebsiella oxyt-oca及び好塩性histamine産生菌であるPhotobacterium phosphoreumやPhotobacterium damsela等が知られている。なお、Photobacterium属菌の中には0℃の低温で増殖するものがある。

これらのhistamine産生菌が付着した魚介類やその加工品の保存温度が不適切な場合、また長期保存した場合に、食品中で菌が増殖し、その結果としてhistamineが魚肉中に蓄積するため、これらを喫食するとアレルギー様食中毒になる。

histamine産生菌のうちM.morganiiを代表とする腸内細菌は、主に漁獲後に魚に付着する二次汚染菌と考えられている。それに反して好塩性histamine産生菌は、本来海水中に生息しており一次汚染菌として存在している。低温性好塩性のhistamine生成菌は、至適温度が20℃付近にあるとされるが、10℃以下でも増殖可能であるため、低温流通が主流の鮮魚介類では食品衛生上注意すべき細菌である。これまで冷蔵中の水産物でもhistamineが生成することが知られているが、その理由は不明なことが多かった。このhistamine生成菌は5℃貯蔵の魚肉中に多量(19-144mg/100g)のhistamineを産生することが確認されているので、低温性好塩性の菌が原因である可能性が高い。*Morganella morganii:グラム陰性の真っ直ぐな桿菌で、周毛性鞭毛を有する。通性嫌気性菌である。ブドウ糖を醗酵し酸とガスを発生する。

*Klebsiella oxytoca:通性嫌気性、グラム陰性で主として単在するが、時として対をなしたり単連鎖を形成する。大腸菌に比較してやや大型の細菌で、厚い莢膜を有し鞭毛は持たない(運動性無)が、線毛を持つ。ブドウ糖を分解して酸とガスを生じ、乳糖も分解する。10℃で発育。

ビブリオ科(Vibrionaceae)に属する細菌は、真っ直ぐか彎曲したグラム陰性桿菌である。通性嫌気性で、極単毛又は極多毛を持ち運動性を示す。

*Photobacterium damselaは、従前はVibrio damselaと命名されていた。Photobacteriumは発光細菌で、イカ・魚類の体表等に棲息している。

Photobacterium phosphoreum:幅0.8-1.3μm、彎曲しない。無鞘性極毛(1-3本)。好塩性、多くは発光性。海水、通常非寄生性。

Photobacterium damsela:従来Vibrio damselaとして分類されていた。海水中に棲息する。稀にヒトに創傷感染を起こす。

棲息部位

M. morganiiはヒト、動物、爬虫類の腸内に棲息する。
K.oxytocaはヒト及び動物の消化管(時に上部気道)のみならず環境(土、水)中に非寄生的にも存在する。
P.damselaは海水中に棲息する。その他、イカ・魚類の体表面に棲息している。

病原性
感染経路

潜伏期:5分-5時間(平均0.5-1時間で発症)。

histamine食中毒の多くは、喫食直後から1時間程度という短時間で発症する。症状としては舌の痺れ、顔面紅潮、蕁麻疹、酩酊感、頭痛、発熱が出現し、時に嘔吐、下痢を伴う。通常3-6時間で回復し、抗histamine薬が有効である。

MAO阻害薬・抗結核薬isoniazid服用患者では、少量のhistamineで中毒する可能性がある。40mg%-histamine含有チーズを摂食したisoniazid服用患者が、中毒を起こした例も報告されている。

histamineが生成される原料となる遊離ヒスチジンは、鮪、鰯、秋刀魚等の青魚(赤身の魚)に多く含まれていることから、本食中毒の原因食品のほとんどは魚介類である。稀に鶏肉、ハム、チェダーチーズが原因となった例もある。histamine産生菌は同時に不揮発性アミン類であるプトレシン、チラミン、カダベリンなども産生する。チラミンとの共存はMAO阻害薬服用患者では、高血圧を促進させ、頭痛を持続、後に血圧を降下させる。

histamine食中毒の発生原因となった食品中のhistami-ne量は4mg-5mg/gと報告されている。

治療

通常、3-6時間後には回復するとされているが、念のため抗ヒスタミン薬を投与する。
d-chlorpheniramine maleate 2-8mg/日 分1-4(増減)
ポララミン錠2mg(シェリング・プラウ)
clemastine fumarate 2mg/日 分2(増減)
タベジール錠1mg(ノバルティス)

感染防御

抵抗性:histamine産生菌に属する細菌は、無芽胞菌であり、加熱処理及び消毒薬に対して抵抗性は示さない。特にPhotobacteriumは好塩菌であり、塩化ナトリウムの存在しない条件下では棲息できない。
日本では魚介類の消費量が多いためhistamine食中毒(アレルギー様食中毒)を起こす機会は多いが、食品中のhistamineに関する法的規制はない。米国では全ての水産加工品に対してHACCP(Hazard Analysis and Control Point:危害分析重要管理点)が導入されるなど徹底した衛生管理が行われている。histamineは熱で分解され難いため、加熱処理により菌は死滅したとしても、一度産生、蓄積されたhistamineを取り除くことは困難である。またhista-mineは腐敗により産生されるアンモニア等と違い外観変化や悪臭を伴わないため、喫食前に汚染を感知し回避することは困難である。喫食中に唇や舌先にピリピリした刺激を感じた場合は、速やかに食品を処分することが大切である。
histamine食中毒の予防には、食品の保全に注意することが最も重要である。特に夏期においては購入した魚はその日のうちに食べ、冷蔵庫内での長期保存を避け、保存する場合は冷凍保存する。更に二次汚染の回避のためには手洗い、手指消毒の励行、調理器具の熱湯消毒等が必要である。

滅菌・消毒

食品衛生上の細菌制御は1)汚染防止、2)殺菌、3)増殖阻止の3原則に従って行われる。

一次汚染においては、常に清潔な食品(原料)を選び、衛生的な取扱に十分配慮すること。

二次汚染においては、原料、人、空気や水並びに器具による交差汚染に注意する。

食品購入段階の感染防御

?清潔への配慮が行き届いた信頼の出来る店を選択する。

?魚介類、食肉、野菜などの生鮮食品は、新鮮なものを必要な分だけ計画的に購入する。

?消費期限の表示のあるものについては、表示の確認を行い、期限の過ぎたものは購入しない。

?生鮮食品などのように冷蔵や冷凍の必要な食品を購入したら速やかに持ち帰り、直ぐに冷蔵庫・冷凍庫に保存する。冷蔵庫は10℃以下、冷凍庫は?15℃以下に維持することが必要。

食品の下処理

?魚介類は腸炎ビブリオが付着していることがあるので、下処理の段階で流水を用いて十分に洗浄し除菌する。

?野菜類の食中毒菌汚染率は低いが、稀にサルモネラや腸管出血性大腸菌の検出例が報告されているので、生食野菜はよく洗浄する。

?俎板(まないた)、包丁、ボウルなどの調理器具は、用途別、食品別に専用のものを使用し、混同させない。特に生食用の野菜と魚・肉用は区分して使用する。

?使用後の俎板、包丁、ボール等の調理器具は、洗剤とタワシを用いて流水で汚れを落とした後、水気を拭き取ってからアルコールの吹き付けにより消毒するか、熱湯処理をする。

?タワシ、フキン等はよく洗浄した後、それぞれ熱湯処理するか、塩素系消毒剤で処理する。

?冷凍食品の解凍は室温での自然解凍を避け、冷蔵庫の中や電子レンジを用いて行うか、又は気密性の容器に入れ、流水で行うようにする。解凍は計画的に必要量だけ行い、再凍結は行わない。

調理作業▼食中毒による事故は、食品取扱者の手指を介して発生する事例が多いので、常に身体の清潔保持に努めることが必要である。

?調理開始前、調理中、用便後、また生の魚介類、食肉、卵殻など微生物の汚染源となる恐れのある食品に触れた後、他の食品や調理器具類に触れる場合は、必ず手指の洗浄・消毒を行う。手指消毒の方法は、液体石鹸による洗浄1回・エタノールによる消毒で行う。

?食品を加熱調理する場合は、食品の中心部を十分に加熱する(75℃-1分間以上)。

?調理後直ちに喫食される食品以外の食品は、細菌による二次汚染や増殖を防止するため、衛生的な容器に入れ、蓋をして10℃以下又は65℃以上で保存する。

文献

1)吉田眞一・他編:戸田新細菌学 改訂33版;南山堂,2007
2)柴田幹良:ヒスタミン食中毒と微生物;,2008
3)内海 爽・他編:エッセンシャル微生物学 第4版;医歯薬出版株式会社,2000
4)山西弘一・他編:標準微生物学 第9版;医学書院,2005
5)細貝祐太郎・他監:食品安全性セミナー1 食中毒;中央法規出版株式会社,2001
6)高久史麿・他監修:治療薬マニュアル;医学書院,2008
7)衛生法規研究会・監:実務衛生行政六法 平成15年版;新日本法規,2002

作成者 古泉秀夫 分類 015.11.HIS 作成年月日 2008.2.9.

「インフルエンザワクチンのウイルス株の決定」

金曜日, 9月 5th, 2008

 

KW:薬名検索・インフルエンザワクチン・influenza vaccine・ウイルス・virus・普通ワクチン・HAワクチン・インフルエンザ株選定経過

 

Q:インフルエンザワクチンのウイルス株の選定について

 

A:次の報告が見られる。

インフルエンザウイルス(influenza viruses)は、抗原変異を起こし易いvirusで、そのため前に獲得した免疫が効果を発揮しない場合がみられる。また、鼻や口から侵入したvirusは体深部に入らず、上気道の細胞で増殖しただけで症状が発現する。従ってinfluenza vaccineの効果について、しばしば否定的な意見が見られるのは、virusが変異を起こし易いため、vaccineの製造株と流行株の抗原性が合わず、折角vaccineを接種しても発症してしまうことがあることと、感染経路と発症の形態に問題があるからである。

効果が発現し難いもう一つの理由であるinfluenza自体の感染発症の機序として、influenza virusesは上気道の細胞で増殖し、発熱などの症状を直ちに誘発するため、鼻腔内粘膜、上気道においてvaccine接種により発現した抗体が作動することが期待される。しかしながら現在使用されている皮下注射によるvaccineの接種方法では、血液中には多量の抗体ができるが、鼻腔内粘膜・上気道に滲出する抗体の量が少ないため、僅かな抗原性の違いでも効果が希薄化する傾向が見られる。但し、肺炎などの重症化防止には、血中の抗体が直接作動するため、多少抗原性が異なっていたとしても十分な効果が期待できるとされている。

以上の欠点を改善するため、現在では次に流行しそうなvirus株を予測してvaccineの製造を始める体制が取られている。最近では新たな流行株の発生地として知られる中国にも観測点を置くことにより、かなり正確な予測ができるようになってきた。WHOや日本の国立感染症研究所は、世界各地でinfluenza virusesの定点観測を行っており、分離されたウイルスの抗原性を調べて、その年の流行株を予測している。これらの流行予測株の中から増殖性、免疫原性などが検討され、血清疫学データとあわせてその年のvaccine候補株が選ばれ、厚生労働省により最終的に決定される。1978年以降、A/ソ連(H1N1)、A/香港(H3N2)、B型の最低3株がinfluenza vaccineの原料として使用されている。

influenza whole vaccine(influenza普通vaccine):influenza virusesを発育鶏卵漿尿膜で培養し、ニワトリ赤血球への吸着と遊出や密度勾配遠心法で精製した完全virus粒子を不活化したvaccineである。

influenza component vaccine(influenza HA vaccine):上記virus粒子をエーテル処理して破壊し、HA(赤血球凝集素)とNA(neuraminidase)の多く含まれている部分を集めたvaccineである。

『普通vaccine』を用いると、副反応として発熱、頭痛、倦怠感を起こすことがあるが、『HA vaccine』は副反応が少ないので、現行では『HA vaccine』が使用されている。『HA vaccine』の免疫効果は、3週間の間隔をおいて2回接種しても、接種後5ヵ月頃より抗体価が低落するので、毎年接種を繰り返さなければなにない。

参照として次の資料を添付する。

平成18年度(2006/07シーズン)インフルエンザワクチン株の選定経過

わが国におけるインフルエンザワクチン製造株の決定過程は、厚生労働省健康局の依頼に応じて国立感染症研究所(感染研)が検討し、これに基づいて厚生労働省が決定・通達している。感染研では、全国76カ所の地方衛生研究所と感染研、厚生労働省結核感染症課を結ぶ感染症発生動向調査事業により得られた流行状況、および約6,000株に及ぶ分離ウイルスについての抗原性や遺伝子解析の成績、感染症流行予測事業による住民の抗体保有状況調査の成績などに基づいて、前年度の11-12月に次年度シーズンの予備的流行予測を行い、これに対するいくつかのワクチン候補株を選択する。さらにこれらについて、発育鶏卵での増殖効率、抗原的安定性、免疫原性、エーテル処理効果などのワクチン製造株としての適格性を検討する。一方、年が明けた1月下旬から数回にわたり所内外のインフルエンザ専門家を中心とする検討委員会が開催され、上記の前シーズンの成績、およびその年のインフルエンザシーズンにおける最新の成績を検討して、次シーズンの流行予測を行う。さらにWHOにより2月中旬に出される北半球次シーズンに対するワクチン推奨株とその選定過程、その他の外国における諸情報を総合的に検討して、3月までに次シーズンのワクチン株を選定する。感染研はこれを厚生労働省健康局長に報告し、それに基づいて厚生労働省医薬食品局長が決定して5-6月に公布している。

平成18年度(2006/07シーズン)に向けたインフルエンザワクチン株は、

A/ニューカレドニア/20/99 (H1N1)・A/広島/52/2005 (H3N2)・B/マレーシア/2506/2004

であり、以下にその選定経過を述べる。

1.A/ニューカレドニア/20/99 (H1N1)

わが国では、A/H1N1型(ソ連型)ウイルスの流行は昨シーズンから小さいながら見られるようになり、2005/06シーズンは全分離株の25%にあたる1,330株が分離された。分離株の94%はワクチン株であるA/ニューカレドニア/20/99類似株であったが、HAの抗原部位中にアミノ酸置換を伴った(K140E)変異株も少数みられた。中国、韓国など他のアジア諸国や欧米諸国、南半球諸国においても同様にA/H1N1ウイルスの流行が拡がる傾向がみられるが、分離株の大半はA/ニューカレドニア/20/99類似株であった。一方、昨シーズンと同様に2001/02シーズンに出現した遺伝子再集合体であるA/H1N2ウイルスは世界中のどの地域からも分離されなかった。このことから、WHOでは北半球2006/07シーズンのワクチン株として、昨年に引き続きA/ニューカレドニア/20/99類似株を推奨した。

感染症流行予測事業による抗体保有状況調査においては、A/ニューカレドニア/20/99に対する抗体保有状況は15-19歳群で72%と最も高く、5-14歳群と20-24歳群では50%を超えていた。しかし、25-54歳群と65-69歳群以降の年齢群では27-38%、4歳以下の幼児と55-64歳の年齢層では20%以下の抗体保有率であった。したがって、これら抗体保有率が十分でない年齢層に対しては、この株に対する免疫増強の必要性が示唆された。

A/ニューカレドニア/20/99は過去6シーズンにわたってワクチン株として用いられており、製造効率および有効性において実績がある。

以上のことから、2006/07シーズンのA/H1N1型ワクチン株として、昨年と同様にA/ニューカレドニア/20/99を選定した。

2.A/広島/52/2005 (H3N2)

わが国における2005/06シーズンのインフルエンザの流行はA/H3N2型(香港型)が主流で、分離株総数の65%を占めた。これら分離株の79%はワクチン株のA/ニューヨーク/55/2004からHI試験で抗原性に4倍以上の違いがみられたが、67%の株はA/ウィスコンシン/67/2005やA/広島/52/2005に対するフェレット感染血清とよく反応した。一方、HA遺伝子の系統樹解析においても、2005/06シーズン分離株の大多数は、前シーズンの主流行株であるA/カリフォルニア/7/2004類似株とは明確に区別され、A/ウィスコンシン/67/2005やA/広島/52/2005に代表される193Fおよび225Nのアミノ酸をもつ一群を形成した。すなわち、A/H3N2型の流行はA/カルフォルニア/7/2004類似株からA/ウィスコンシン/67/2005類似株に移行してきていることが示された。

A/ニューヨーク/55/2004株ワクチンの接種を受けた人の血清抗体は、2005/06シーズンの主流行株となったA/ウィスコンシン/67/2005類似株(A/ウィスコンシン/67/2005のほか、A/広島/52/2005、A/安徽/1239/2005など)との交叉反応は若干低い傾向にある。来シーズンには流行の主流がA/ウィスコンシン/67/2005類似株に移行することが推測されることから、これらの株に対してより強い免疫を与えるためには、ワクチン株をA/ウィスコンシン/67/2005類似株のウイルスに変更することが必要である。

諸外国ではA/H3N2型の占める割合は全体の3-4割であり、2005/06シーズンはじめはA/カリフォルニア/7/2004類似株が多かったが、A/ウィスコンシン/67/2005類似株が急増し半数以上を占めた。このことから、WHOはA/H3N2型のワクチン株としてA/ウィスコンシン/67/2005類似株を推奨した。

抗体保有状況調査においては、ワクチン株A/ニューヨーク/55/2005に対する抗体保有状況は5-19歳群では57-72%と高い値を示した。しかし、0-4歳群および20-24歳群以降の成人層では35%以下であり、特に45-69歳群では約20%前後と低い抗体保有率であった。流行株がA/カリフォルニア/7/2004類似株からA/ウィスコンシン/67/2005類似株に移行しており、2006/07シーズンもA/H3N2型が流行の主流になることも考えられるので、A/ウィスコンシン/67/2005類似株によるワクチン接種が望まれる。
ワクチン製造株としては発育鶏卵で分離され、しかも発育鶏卵で増殖性が高いことが必須条件となるため、A/ウィスコンシン/67/2005類似株であるA/ウィスコンシン/67/2005とA/広島/52/2005について、発育鶏卵での増殖性および継代による抗原性の安定性について検討した。その結果、両株とも発育鶏卵で比較的よく増殖し、継代してもHA遺伝子は安定であり抗原性の変化もないことが示されたが、A/広島/52/2005の方が増殖性は優れていた。したがって、A/広島/52/2005がワクチン製造株として適当であると判断された。
以上のことから、2006/07シーズンのA/H3N2型のワクチン株として、A/広島/52/2005を選定した。

3.B/マレーシア/2506/2004

2005/06シーズンにおいては、わが国のB型の流行は小さく分離株総数の10%であった。B型インフルエンザウイルスは、1980年代後半から抗原的にも遺伝子的にも区別されるB/ビクトリア/2/87株を代表とするビクトリア系統とB/山形/16/88を代表とする山形系統に二分される。2003年から2シーズンは山形系統株がB型分離株の99%を占めていたが、2005/06シーズンの分離株はすべてビクトリア系統株であり、B型の流行が山形系統からビクトリア系統にかわったことが示された。これら分離株の83%は2シーズン前のわが国のビクトリア系統ワクチン株B/山東/7/97が含まれるB/香港/330/2001類似株から抗原性が大きく変化しており、2006シーズンの南半球のB型ワクチン株であるB/マレーシア/2506/2004と類似していた。

一方、諸外国におけるB型インフルエンザの流行は、わが国とはやや異なり、流行全体の3-4割を占め増加する傾向がみられた。分離株の10-20%は山形系統であったが、大半はビクトリア系統であり、南半球諸国でもこの系統に属する株が増加する傾向がみられている。これらビクトリア系統分離株の約7割はB/マレーシア/2506/2004類似株であった。北半球ではここ2シーズンは山形系統がワクチン株として採用されており、ビクトリア系統のウイルスに対する抗体保有率が低いことが推定されたので、WHOでは2006/07シーズンのB型ウイルスワクチンに南半球で使用実績のあるB/マレーシア/2506/2004を推奨した。

わが国の各年齢層における抗体保有状況についてみると、前シーズンは山形系統のワクチン株B/上海/361/2002類似株が流行の主流であり、全年齢層でこれに対する高い抗体保有率がみられ、特に10-24歳群では57-67%と高いことが示された。これに対して、ビクトリア系統株に対する抗体保有率は全年齢層で25%未満と低く、ここ2シーズン流行がなかったこともこの結果に反映されていると考えられた。流行株が山形系統からビクトリア系統に移行しており、2006/07シーズンもビクトリア系統株がB型の流行の主流になると考えられるので、B/マレーシア/2506/2004類似株によるワクチン接種が望まれる。

B/マレーシア/2506/2004類似株の中からB/マレーシア/2506/2004とB/オハイオ/1/2005について、発育鶏卵での増殖性および継代による抗原性の安定性について検討した。その結果、両株とも発育鶏卵でよく増殖し、継代しても抗原性の変化はないことが示されたが、B/マレーシア/2506/2004の方が増殖性は若干優れていた。したがって、B/マレーシア/2506/2004がワクチン製造株として適当であると判断された。

以上のことから、2006/07シーズンのB型ウイルスワクチンにはビクトリア系統からB/マレーシア/2506/2004を選定した。

 

1)大里外誉郎・編:医科ウイルス学改訂第2版;南江堂,2002
2)小渕正次・他:平成18年度(2006/07シーズン)インフルエンザワクチン株の選定経過;,2008.2.26.
3)福澤正人:インフルエンザワクチン株と流行株の適合(第2報);薬事新報,No.2514:224-227(2008)

   [015.4.INF:2008.2.26.古泉秀夫]

「副作用-酷い胃痛の発生原因は」

金曜日, 9月 5th, 2008

 

KW:副作用・消化器系副作用・胃痛・腹痛・ウルソ錠・アリチアN50・ロヒプノール錠・リーマス錠・ウルソデオキシコール酸・炭酸リチウム

 

Q:C型ウイルス肝炎の初期段階との診断を受けたが、他に治療中の疾患があり、インターフェロンの使用は回避された。治療薬として次の処方が出されているが、服用後、酷い胃痛に困っています。服用中の薬にそのような副作用はありますか。
ウルソ6錠・アリチアN50 2錠・重質酸化マグネシウム・ロヒプノール2 1錠・リーマス錠200 1錠

 

A:各薬剤の関連すると思われる副作用として、次の報告が見られる。

 

[分類]一般名・商品名(会社名) 消化器系副作用

[236]ursodeoxychlic acid
ウルソ錠(田辺三菱)
錠:50・100mg

下痢、悪心、食欲不振、嘔吐、腹痛、便秘、胸やけ、胃部不快感。

[317]thiamine disulfide 10mg・pyridoxine hydrochloride  50mg・cyanocobalamin 0.25mg
アリチアN50(メルク製薬)

食欲不振、胃部不快感、下痢等。

[112]flunitrazepam
ロヒプノール錠(中外)
錠:1・2mg

口渇、食欲不振、胃部不快感、下痢、便秘、腹痛、嘔吐、舌の荒れ、胸やけ、流涎、口の苦み。

[117]lithium carbonate
リーマス錠(大正富山)

lithiuma中毒として食欲低下、嘔吐・嘔気、下痢の消化器症状。
口渇、嘔気・嘔吐、下痢、食欲不振、胃部不快感、腹痛、便秘、唾液分泌過多、胃腸障害。

 

ursodeoxychlic acidについては、胃粘膜刺激作用により胃酸の分泌を促進するとの報告がされており、in vitroの実験において弱い細胞障害性を有するとの報告も見られるため、胃痛の発現はウルソ錠が原因ではないかと思われるが、“酷い胃痛”と表現される症状に該当するか否かは不明である。

lithium carbonateにも消化器症状として腹痛が報告されている。lithiumの副作用として重大なものは過量投与によるlithium中毒である。中毒の初期症状として悪心・嘔吐、下痢、食欲不振、嚥下困難、粗大振戦、筋痙攣、運動障害、運動失調、脱力、運動過少、傾眠、眩暈、発熱、発汗、言語障害、錯乱などが見られる。中毒が進行すると、初期症状の増強に加えて、頭痛、耳鳴、腱反射亢進、情緒不安、譫妄、昏睡、徐脈などの症状が現れる。
その他の副作用としては、時に脳波異常、頭痛、眩暈、知覚異常、傾眠又は不眠、振戦、運動失調、心電図異常、不整脈、血圧低下、腹痛、嘔吐、口渇、食欲不振、腎機能異常、甲状腺機能異常、肝機能異常、白血球増多症が起こることがある等の報告が見られる。

その他、本品1.0gを水100mLに溶かした液のpHは10.9-11.5の強アルカリ性溶液になるとされており、胃液の状況によっては、本品による胃粘膜への刺激も考慮する必要があると思われる。

 

1)高久史麿・他監修:治療薬マニュアル;医学書院,2007
2)アリチアN50添付文書,2006年7月改訂
3)ウルソサン錠・顆粒IF,2001.10.改訂第4版
4)第十五改正日本薬局方解説書;廣川書店,2006

 

  [065.LIT:2008.2.6.古泉秀夫]