「紫陽花葉(Japanese hydrangea)の毒性」
日曜日, 7月 13th, 2008対象物 | 紫陽花・アジサイ。額紫陽花・ガクアジサイ。英名:Japanese hydrangea。漢方名:八仙花(ハチセンカ)[植物名実図考]。異名:粉団花、紫陽花(シヨウカ)[現代実用中薬] |
成分 | *本品には抗マラリアalkaloidが含まれている。花はルチンを含み、乾燥した花に含まれる量は0.36%を超える。根とその他の部分にはダフネチン-メチルエーテルとウンベリフェロンが含まれている。根には又ヒドランゲノール、ヒドランゲア酸とル ヌラル酸が含まれ、葉にはスキンミン等も含まれる。八仙花の 変種である八仙繍球(H.macrophylla var.hortensia]の根、樹皮、葉、花の中にはウンベリフェロン-ジグルコシド(ネオヒドランギン)も含まれる。その他、アジサイ属植物の一種からは抗マラリアalkaloidとしてのフェブリフギンが発見されている。 *花の含有成分としてアントシアニン(anthocyanin)、酸性で赤、アルカリ性で青、中性では紫色を呈する配糖体。 *アジサイには青酸配糖体が含まれている。1920年に米国で馬及び牛のアジサイ中毒の報告がある。 *アジサイには青酸配糖体が含まれている。1920年に米国で馬及び牛のアジサイ中毒の報告がある[Bruce,E.A. 1920.Hydrangea poisoning.J.Am.Vet.Med.Assoc.58: 313-315.]。 *植物中に含まれる青酸(HCN)を発生する天然有機化合物は、青酸化合物(cyanogen)と総称されている。その分布は広くバラ科、イネ科、マメ科、キク科、シダ類など、約100科2000種類の植物に存在しているとされる。化学構造的には、青酸配糖体(cyanogenic glycoside)と青酸脂質(cyanogenic lipid)とに分類される。植物成分としての青酸配糖体として、梅・杏・桃等の果実仁に含まれるアミグダリン(amygdalin)が知られているが、アジサイ中の青酸配糖体もamygdalinであるとする報告が見られる。 *紫陽花の含有毒素について、青酸配糖体とする意見を否定する見解があり、現在、青酸配糖体とした根拠になる原著論文の検索が行われているとする報告が見られる。 *青酸配糖体は、熱に安定なので、加熱処理だけでは除 去できない。筍は青酸配糖体が最も高濃度に含むものの一つであるが、この青酸配糖体タキシフィリン(taxifilin)は例外的に熱に弱く、35-40分の煮沸で分解する。筍はよく茹でること。茹でる際にはシアン化水素が逃げやすいように、鍋の蓋を取っておくこと。茹でた後に水で曝すことが重要である。 *青酸配糖体は、熱に安定なので、加熱処理だけでは除去できない。筍は青酸配糖体が最も高濃度に含むものの一つであるが、この青酸配糖体タキシフィリン(taxifilin)は例外的に熱に弱く、35-40分の煮沸で分解する。筍はよく茹でること。茹でる際にはシアン化水素が逃げやすいように、鍋の蓋を取っておくこと。茹でた後に水で曝すことが重要である。 |
一般的性状 | *紫陽花:ゆきのした科アジサイ属。学名:Hydrangea macrophylla Seringe var.otaksa Makino又はHydrangea macrophylla(Thunb.)Ser.。「アジ」は集まる。「サイ」は真と藍で、青い花が集まって咲く様子からいう。額紫陽花を母種に、日本で生まれた園芸品種。庭に栽植する落葉低木。茎は束生し高さ1.5m位、茎や葉は額紫陽花と同じ。花は6-7月、殆ど装飾花。額片4-5、大形で花弁状。花弁4-5は極小。雄しべ10、雌しべ退化。花柱2-3。結実しない。 *額紫陽花:ゆきのした科アジサイ属。Hydrangea macrophylla Seringe。周囲に装飾花の咲いた様子を額に例えたもの。本州関東南部以西、伊豆諸島など暖地の海岸に近い山地に生え、広く庭に栽植する落葉低木。 *基原:ユキノシタ科の植物、繍球(シュウキュウ和名:アジサイ)の根、葉、花。 *薬効:1.[現代実用中草薬]抗マラリア薬で、効能は常山と同様である。又心臓病にも用いられる。2.[四川常用中草薬]マラリア、心熱驚悸(五臓の熱により心悸高進するもの)、煩躁(胸中の熱と不安を煩といい、手足をばたつかせることを躁という)を治す。 *植物に含まれる青酸配糖体は、青酸と糖が結合した物質で、加水分解されると青酸(シアン化水素)糖に分解する。植物は青酸配糖体と青酸配糖体加水分解酵素を別々の細胞に含んでいるが、咀嚼や胃内での消化によって両者が接触すると青酸配糖体が加水分解される。また、青酸配糖体は、腸内細菌のβ-グルコシダーゼでも加水分解される。 |
毒性 | *鶏にエチルアルコールでの抽出液13g/kg以上を皮下注射すると死亡する。イヌに0.2g/kgを経口投与すると嘔吐を惹起する。1.5g/kgを静脈あるいは皮下注射すると嘔吐、血便があり、死亡する。死亡したイヌを病理解剖したところ内臓の著しい充血、血管内皮細胞の増殖、消化管と肺に出血が見られた。 *青酸配糖体から遊離した青酸は、ミトコンドリアの呼吸酵素チトクローム酸化酵素を阻害し、ATPを枯渇させることにより毒性を示す。最も障害を受けやすいのは、中枢神経系である。 *米国では、杏などの種子の仁から取った青酸配糖体amygdalinが“vitaminB17”として癌に効くとして発売され、主に静注で使用されたが、内服すると腸内でβ-glucosidaseによりシアン(cyan)が遊離し、シアン中毒が起こる。シアン化水素のヒト最小致死量は50mgである。シアン化水素ガスの毒性は更に強く、150-200ppmの低レベルでも危険であり、270ppmが即時致死量。90-110ppmで30分の吸入が致死的と考えられている。 |
症状 | *青酸(シアン)は、3価の鉄イオン(Fe3+)との親和性が高いため、細胞内の各種酵素と結合し、細胞の酸素利用を阻害する。青酸に曝露すると皮膚、粘膜、気道、消化管と全ての経路から吸収される。特に皮膚では擦過傷などがあると、効率よく吸収される。 *青酸中毒は、組織における組織における酸素利用の障害により生じる。このため酸素に感受性の高い臓器から障害を受け、臨床症状は中枢神経系と心血管系に早期から出現する。 ■初期症状:頭痛、眩暈、不安、興奮、錯乱、中性神経性頻呼吸、呼吸困難、徐脈、高血圧、発汗である。 *進行すると意識障害、痙攣、頻脈、血圧低下、呼吸回数の低下、呼吸停止、不整脈、心源性又は非心源性の肺水腫が出現する。 *青酸服用後には腹痛、悪心・嘔吐、出血性胃炎などの消化器症状が見られる。心電図上では非特異的な所見を示し、心筋障害、房室伝導障害が見られることがある。 *中毒症状には特異的な症状は見られず、細胞呼吸の障害に起因する頭痛、眩暈、悪心、嘔吐、痙攣、意識障害、ショック、呼吸困難などが出現する。臨床検査では組織において酸素が利用できないため、静脈血中の酸素飽和度が高値を示す他、アニオンギャップ開大性の代謝性アシドーシス、乳酸高値が見られる。 |
処置 | *青酸は、肝、腎などに存在するチオ硫酸と反応して毒性の低いチオシアネートとなり、尿中に排泄される。 *治療は100%酸素投与と、亜硝酸塩投与により産生したメトヘモグロビンをシアンと結合させ、更にシアンと硫黄を結合させ、腎臓から排泄させるために、チオ硫酸ナトリウム投与する薬物療法を行う。 *青酸中毒における治療の原則は、気道確保、静脈路確保、100%酸素投与とともに特異的解毒薬を投与することである。青酸中毒により心肺停止状態となっても適切な心肺蘇生と早期に特異的解毒剤を投与すると改善することもある。 *急性中毒の標準的治療である消化管除染は、経口摂取時には実施すべきである。胃洗浄は、特に服用後早期には極力行うべきである。活性炭の投与については、1gの活性炭が35mgのシアンを吸着するという低吸着性のため効果が少ないとされているが、活性炭自体の毒性は低いので、少しでも吸着が期待できる限り投与すべきである。 *青酸中毒の対症療法として重要なのは、アシドーシスの補正である。アシドーシスに関しては十分な換気と、重炭酸ナトリウムにより治療する。 特異的解毒剤の投与 |
事例 | アジサイの葉で客8人が食中毒 つくば市の飲食店
茨城県つくば市の飲食店で、料理に添えられたアジサイの葉を食べた客8人が嘔吐や眩暈などの食中毒症状を起こしていたことが22日、県の調べで解った。アジサイの葉には、胃液などと反応して青酸を生成する物質が含まれている。30歳代と40歳代の女性2人が医療機関で受診した。いずれも快方に向かっているという。店は有毒性を認識しておらず、県の調査に対し、「季節感を出すために添えた」と話しているという。 |
備考 | 植物成分としての青酸配糖体は、昆虫による食害を防衛するためだといわれている。青酸配糖体を含む細胞と青酸を分離する酵素を持つ細胞があり、その両者の細胞が疵付くことで青酸が毒性を発揮するということになっている。しかし、実際には虫食いだらけの紫陽花の葉を見ることは多い。だとすると紫陽花の青酸は大して毒性は強くないということになるのかもしれないが、青酸配糖体がamygdalinだとすると、それほど毒性が弱いとは考えられない。あるいは青酸に強い昆虫がいるのかもしれない。
それにしても“褄”として料理のあしらいに付けられた紫陽花の葉を何にと間違えて口に入れてしまったのか。甚だ不思議である。最も料理とともに皿に乗せられていれば、まさか毒になるものが乗せられるとは思わないから口に入れて仕舞ったのかもしれないが、相当、苦かったのではないかと思われる。日常的に経験のない味のものを口に入れた時には、吐き出すという選択をすることが必要なのではないか。最近食に関するプロの能力が低下しているように見える。その意味では皿に乗せられているからといって安心は出来ないということである。 |
文献 | 1)牧野富太郎:原色牧野日本植物図鑑 コンパクト版I;北隆館,2003 2)清水矩宏・他編著:牧草・毒草・雑草図鑑;社団法人畜産技術協会,2005 3)海老原昭夫:知っておきたい身近な薬草と毒草;薬事日報社,2003 4)田中 治・他編:天然物化学 改訂第6版;南江堂,2002 5)海老?豊・監訳:医薬品天然物化学 原書第2版;南江堂,2004 6)内藤裕史:中毒百科-事例・病態・治療-改訂第2版;南江堂,2001 7)日本中毒学会・編:急性中毒標準診療ガイド;じほう,2008 8)シアノキット注射用セット添付文書,2008.2. |
調査者 | 古泉秀夫 | 分類 | 63.099.HYD | 記入日 | 2008.7.20.改訂 |