Archive for 6月, 2008

トップページ»

無縁坂あたり

土曜日, 6月 28th, 2008

                                                                        鬼城竜生

 

そろそろ梅が咲いているのではないか(2月13日・水曜日)ということで、湯島天神に行くことにした。昨年、湯島天神に行った時には既に梅の盛りは過ぎており、あまり花は残っていなかったので、境内の屋台でワンカップの酒を呑んで帰ってきたが、その時の復讐戦を果た無縁坂-001すべく出かけた。

  ところが今年は花の咲く時期に突然気温が下がり、寒い日が続いたため、開花予想は大幅に遅れており、花の盛期を迎えるためには、後2-3週間は必要ではないかと思われる程度の花が見られるのみであった。

やむを得ず天神下の交差点から不忍通りに出て、不忍池西の信号を無縁坂-002 左に入った。曲がって直ぐの所に旧岩崎邸庭園があった。重要文化財に指定されているとのことであるが、外観は工事中のためシートで覆われていて写真に撮ることは出来なかったが、邸内を見学することは出来た。

洋館はジョサイア・コンドルの設計により明治29年(1896年)に完成。完成当時の岩崎邸は15,000坪の敷地に20棟以上の建物があったとされる。現存する3棟のうち1棟が木造2階建て地下室付きの洋館で、本格的な洋風建築で、明治期の上層階級の邸宅を代表する西洋木造建築である。17世紀のジャコビアン様式を基調にルネサンスやイスラム風のモティーフなどが取り入れられている。洋館南側は列柱の並ぶベランダで、1階列柱はトスカナ式、2階列柱はイオニア式の装飾が特徴である。米 国・ペンシルバニアのカントリーハウスのイメージも取り入れられている。

無縁坂-003 以上、パンフレットの受け売りである。

コンドル設計の撞球室は、洋館から少し離れた位置に別棟となっているが、当時の日本では非常に珍しいスイスの山小屋風の作りになっているという。洋館から地下道で繋がっているとされるが、撞球室を別棟にして建てるなんていうのは将に成金趣味もいいところである。

旧岩崎邸のレンガ塀を左手に見て登る坂が『無縁坂』である。無縁坂 といわれて直ぐ頭に浮かぶのは、「ひまわりの歌」の主題歌、さだまさし作の「無縁坂」で、次に「森鴎外」の「雁」に出で来無縁坂-004 る坂道ということではないだろうか。『無縁坂』の名前は江戸時代の地図にもその名称が記載されており、坂の上に無縁寺があったことに由来しているといわれているが、無縁寺のあった場所はよく解らないとする話もある。現在、坂の右側に講安寺というお寺があるが、ここにも無縁寺という庵があったということのようである。講安寺は、漆喰造りの大変個性的なお寺で、火事の多かった江戸の町で、建立以来300年たって現存しているのは、この防火建築の故であるとされている。無縁坂-005
無縁坂を登り切ると東大医学部の裏手にある鉄門の前に出る。この門は明治9年に、東大正門として作 られたが、大正時代には撤去され、2006年、医学部150周年記念に再建されたという。道理で昔この道を通ったときには門など見たことがなかったので驚いたが、東大医学部の同窓会誌が鉄門倶楽部というところを見ると、東大の同窓生にとっては赤門とともに記憶に止めるべき記念碑なのかもしれない。

学内に入り、昔懐かしい三四郎池を覗いてみたが、あまりにも整備が進んで、昔の風情は全くなかった。総歩数は15,821歩ということで、そこそこ歩いたということか。それにしても東大病院外来患者数の表示が3,700人を超えていたが、流石に化け物である。

                                                                  (2008.3.21.)

『今後どうする気なんでしょうか?』

土曜日, 6月 28th, 2008

                                                                  医薬品情報21
                                                                        古泉秀夫

病院にとって『院内感染防御』は、重大な命題である。しかし、その割りに滅菌・消毒に関する各設備は整っていないというのが現実ではないか。特に内視鏡の消毒などというのは、建築の古い病院では、内視鏡検査室等は後から無理をして改築したなどという施設が多く、そういうところでは内視鏡の消毒を行う専用の消毒室などは持っていない。当然排気設備の無い室で、無理をして消毒作業を行うということになるが、消毒を担当する人間、多くの場合は看護師になるがは、多かれ少なかれ発生するガスの被害を受けることになる。

大阪掖済会病院(大阪市西区)に勤務していた元看護師が、消毒液が原因で化学物質過敏症になったとして、病院を経営する社団法人日本海員掖済会(東京)を相手に約2,500万円の損害賠償を求めた訴訟の判決が25日大阪地裁であった。裁判長は消毒液と発症の因果関係を認めた上で、病院側が安全配慮を怠ったと判断、約1,060万円の賠償を命じた。原告側代理人によると、医療現場で同過敏症の発症責任が認められたのは初めてという。

判決によると、看護師は1998年5月から約2年間、同病院のレントゲン透視室で検査器具を消毒液で洗浄する作業を担当。その後、消毒液の臭いだけで口内炎を発症する状態となった。消毒液には化学物質「グルタルアルデヒド」が含まれ、説明書にも換気に注意するよう記されていたが、透視室では原則、扉を開放しないまま作業していた。

判決で裁判長は「防護マスクなどの着用を指示していれば症状は相当軽減できた」と指摘した[読売新聞,第46983号,2006.12.26.]。

ところでグルタルアルデヒド製剤の製品である『ステリハイド2W/V%液(丸石製薬)』の添付文書には、次の記載が見られる。

*グルタラール製剤 化学的滅菌・殺菌消毒剤(医療用器具・機器・装置専用)

ステリハイドは、グルタラール2w/v%-濃度液に、添付の緩衝化剤(粉末)を溶かして使用する用時調製の組合わせ医薬品である。
ステリハイド2w/v%液:グルタラール(グルタルアルデヒド)2w/v%及び添加物としてpH調整剤含有

緩衝化剤(粉末):pH調整剤、黄色5号、その他2成分 含有

本品は用時調製の製剤で、使用目的に応じて製する。

重要な基本的注意

1.人体に使用しないこと。
2.本剤の成分またはアルデヒドに対し過敏症の既往歴のある者は、本剤を取り扱わないこと。
3.グルタラール水溶液との接触により、皮膚が着色することがあるので、液を取り扱う場合には必ずゴーグル、防水エプロン、マスク、ゴム手袋等の保護具を装着すること。また、皮膚に付着したときは直ちに水で洗い流すこと。
4.眼に入らぬようゴーグル等の保護具をつけるなど、十分注意して取り扱うこと。誤って眼に入った場合には、直ちに多量の水で洗ったのち、専門医の処置を受けること。
5.グルタラールの蒸気は眼、呼吸器等の粘膜を刺激するので、必ずゴーグル、マスク等の保護具をつけ、吸入または接触しないよう注意すること。換気が不十分な部屋では適正な換気状態の部屋に比べて、空気中のグルタラール濃度が高いとの報告があるので、窓がないところや換気扇のないところでは使用せず、換気状態の良いところでグルタラールを取り扱うこと。
6.本剤にて内視鏡消毒を行った後十分なすすぎが行われなかったために薬液が内視鏡に残存し、大腸炎等の消化管の炎症が認められた報告があるので、消毒終了後は多量の水で本剤を十分に洗い流すこと。
7.手術室等における汚染された部分の清拭や、環境殺菌の目的での手術室等への噴霧などは行わないこと。

その他の副作用(頻度不明)

過敏症:発疹、発赤等の過敏症状
皮 膚:接触皮膚炎

注)このような症状があらわれた場合には、換気、防護が十分でない可能性があるので、グルタラールの蒸気を吸入またはグルタラールと接触しないよう十分に換気、防護を行うこと。また、このような症状が継続して発生している場合、症状が全身に広がるなど増悪することがあるので、直ちに本剤の取り扱いを中止すること。

適用上の注意(使用時)

(1)誤飲を避けるため、保管及び取り扱いに十分注意すること。
(2)本剤を用時調製する時、ピペット等で直接吸引して調製しないこと。
(3)グルタラールには一般に、たん白凝固性がみられるので、器具に付着している体液等を除去するため予備洗浄を十分に行ってから薬液に浸漬すること。
(4)浸漬の際にはグルタラール蒸気の漏出防止のために、ふた付容器を用い、浸漬中はふたをすること。また、局所排気装置を使用することが望ましい。
(5)炭素鋼製器具は24時間以上浸漬しないこと。

その他の注意

グルタラールを取り扱う医療従事者を対象としたアンケート調査では、眼、鼻の刺激、頭痛、皮膚炎等の症状が報告されている。また、グルタラール取扱い者は非取扱い者に比べて、眼、鼻、喉の刺激症状、頭痛、皮膚症状等の発現頻度が高いとの報告がある。

glutaralの取扱については、添付文書を十分に読み解いていただき、記載内容を確実に実施しておけば、大阪掖済会病院の訴訟は無かったといえる。

勿論、添付文書を読んだとしても、病院に設備がなければ改善は出来ない。グルタラール等のガス化する消毒剤は、本来排気設備の整った独立した消毒室において使用すべきもので、その設備のないところで看護師に作業をやらせるなどということは本来あってはならないことである。しかし、元来日本の病院建築では、このような専門の作業部屋は、勿体ながって作らないというのが普通である。最新鋭の機械は購入し、その器械を持つことを宣伝したがるが、医師の仕事に直接役立つものでない限り、他職種の安全のための設備など、殆ど無視されてしまう。

しかし、時代が変わったというべきか、従来ならこのような勤務には耐えられないとして、退職してしまうのが普通で、裁判で争う等ということは考えられなかったが、今回は訴えられた上、病院が敗訴している。

これからの病院は、結局、職員の安全にも気配りをした設備を持たなければならないということである。訴訟に時間をとられ挙げ句の果てに損害賠償をとられたのでは、病院運営は出来ないということになる。

1)ステリハイド2W/V%液/ステリハイド20W/V%液,2005年4月改訂(第4版)

                                                                      (2008.3.6.)

医薬品販売制度の改正

土曜日, 6月 28th, 2008

医薬品情報21
古泉秀夫

2009年度になると改正薬事法が全面的に施行される。

その中で新しい一般用医薬品(OTC薬)の販売制度も施行されるが、今回の医薬品販売制度改正のポイントは、リスクの程度に応じた患者(生活者)への情報提供・相談体制の整備が求められるということである。

「現行」ではリスクの程度に係わらず、情報提供について一律の扱いとされていたものが、今回の改正では、リスクの程度に応じて3グループに分類し、情報提供を重点化することとされている。

リスクの区分は

『第一類医薬品』:特にリスクの高い医薬品
『第二類医薬品』:リスクが比較的高い医薬品
『第三類医薬品』:リスクが比較的低い医薬品

の3種に分類し、『第一類医薬品』は薬剤師以外の販売は認めない。『第二類医薬品』と『第三類医薬品』の販売については、新たに導入される『登録販売者』という新たな資格制度を導入し、資格試験の合格者にのみ販売を担当させることになっている。

情報提供に関しては、『質問がなくても行う積極的な情報提供』を行うとしており、

『第一類医薬品』では、『文書による情報提供を義務付け』
『第二類医薬品』では、情報提供は『努力義務』
『第三類医薬品』では不要(薬事情法上定め無し)

とされている。

但し『相談があった場合の応答』については、『第一類医薬品』・『第二類医薬品』・『第三類医薬品』とも『義務』があるとされている。

また、この区分について、当初厚生労働省は外函の目立つ部分に『A類医薬品・B類医薬品』などの記載をすることの提案をしたようであるが、最終的には『第一類医薬品』・『第二類医薬品』等の法規上の分類名を記載することにしたようである。当初の提案の理由は、外函に印刷する隙間の問題で、アルファベットの方が印字空間が少なくて済むという、企業側の希望だったようである。しかし、どの様な場合でも一物二名称にならない配慮は必要である。特にOTC薬の場合、一般人に情報の伝達をしなければならないので、法律の規定と異なる表記を考慮すること自体、安易すぎる。物は医薬品である。箱の見かけの意匠に拘るよりは、正確な情報を提供できるものにすべきである。

最低限『服用禁忌』購入後に添付文書を見なければ判らないでは問題にならない。購入した薬の『服用禁忌』に該当した場合、開封した薬を店で引き取るということがない限り、購入者自身が前もって判るように情報の提供をすべきである。

2008年から『登録販売者』の試験が始まる。『第二類医薬品』・『第三類医薬品』は比較的安全な薬だという理屈で、薬剤師の管理から外してしまったが、嘗て我が国はただの風邪薬で何人かが死亡したという薬害を経験している。

その経過は次の通りである。

*1959年以降1965年までの間に合計38人が死亡。[アンプル入りかぜ薬によるショック死事件(大衆薬)]。
2月16日千葉県下でアンプル入り風邪薬服用の老人と15歳の少女が死亡報道(朝日新聞)。
*2月17日静岡県の伊東で39歳の女性死亡。
*2月18日静岡県の伊東で28歳の女性死亡。
*2月20日千葉県八千代市で22歳の女性死亡。新聞報道されただけでも、3月4日迄に11名の死亡報道。
*3月1日杏林製薬の同種製剤服用による死亡。
*3月2日田辺製薬の同種製剤服用による死亡。
*3月4日大正製薬の製品服用者が死亡。製品回収の不備による死亡事故。

*アンプル剤という剤形の問題-他の剤形に比較して吸収が速く、毒性の発現が著しく強いことが国立衛生試験所での動物試験の結果から判明したとする事故原因を中央薬事審議会答申に記載。主成分であるアミノピリン・スルピリンの含有量が、1回の常用量を超える製品が市販されていた。

OTC(Over the Counter)薬は、Self-Medicationを建前として販売している。使用者が自ら選択する薬であり、あまり差し出がましい口出しをしない方がよいと考える薬剤師が、従来は見られた。その意味で今回の『第一類医薬品』は、文書による情報提供が義務付けられており、判りやすい情報提供がされることを期待している。最も心配なのは『第二類医薬品』で、通常の風邪薬などはこの分類に入ると思われるので、情報提供が努力義務でいいのかという点に疑問を持つのである。

医薬品販売制度改正のポイント

リスク区分 質問がなくても行う積極的な情報提供 相談があった場合の応答
第一類医薬品:特にリスクの高い医薬品 文書による情報提供を義務付け 義務
第二類医薬品:リスクが比較的高い医薬品 努力義務 義務
第三類医薬品:リスクが比較的低い医薬品 不要(薬事法上定め無し) 義務

(2008.3.15.)

「酒石酸について」

木曜日, 6月 19th, 2008

KW:用法・用量・副作用・L-酒石酸・L-tartaric acid・d-酒石酸・食品添加物・L-(d-)酒石酸

Q:L-酒石酸の1回服用量、1日服用回数、大量ではアシドーシス・腎障害を起こすとされる大量の具体的数値

A:食品添加物として承認されている『L-酒石酸(L-tartaric acid)』について、次の報告がされている。C4H6O6=150.09。本品を乾燥したものはL-酒石酸99.5%以上を含む。本品は無色の結晶又は白色の微細な結晶性の粉末で、臭いが無く、酸味がある。本品1gを溶かす各溶媒の量は水0.75mL、熱湯0.5mL、エタノール3mLである。本品の水溶液は酸性である。

L-(d-)酒石酸は遊離酸として、又はカリウム、カルシウムなどの塩類として、広く植物界に存在し、酒石としても古くから知られている。昭和34年12月28日酒石酸として食品添加物に指定されたが、異性体のdl-酒石酸が分割指定されたことにより昭和39年7月d-酒石酸に改められた。更に食添第5改訂においてL-酒石酸に名称の変更がされた。
[製法]:ブドウ酒製造時に生成する酒石(argol)を原料として製造する。
[用途]:清涼飲料、果汁、キャンデー、ゼリー、ジャム、ソース、冷菓缶詰など各種の食品に酸味料として用いられる。

清涼飲料には0.1-0.2%を添加するが、本品を単独で使用することは少なく、クエン酸、リンゴ酸など他の有機酸と共に用いることが多い。菓子類には約2%まで用いられ、米国では4%まで用いられることもある。JECFA(国際規格)におけるADIは0-30mg/kgとされている。

註:ADI(Acceptable Daily Intake):一日摂取許容量。人が生涯にわたって摂取しても有害な作用を受けないと考えられる、化学物質の1日当たりの最大摂取量。

[代謝]:生体内では不活性であり、イヌ又はウサギに投与した場合74-99%まで、未変化のまま排泄される。ヒトに2gの酒石酸を経口投与すると、未変化のまま尿中に回収されるのは、20%に過ぎず、残余は吸収されず腸内細菌により分解されるものと考えられている。非経口投与法により酒石酸をヒトに投与すると、未変化のまま定量的に排泄されることが示されている。

急性毒性

マウス 経口 LD50 4,360mg/kg
イヌ 経口 LD50 5,000mg/kg

ウサギに酒石酸ナトリウムを平均5,290mg/kg経口投与したところ全数が死亡したが、平均3,680mg/kgの量では全数が生存した。

『L-酒石酸』の医薬品としての情報は、第六改正日本薬局方に以下の記載が見られる。

[応用]本品は清涼止渇薬として応用せられ、1日数回0.3-1.0gを散剤とし、また糖及びエッセンスと混じたリモナーデ散として用いる。但しリモナーデとしては通常本品よりも美味なクエン酸を用い、沸騰散には本品が汎用される。合剤としては本品4.0をシロップ30-50と混じて水で200とし、その1-2食匙ずつを数回に与える。
本品の溶液は、黴菌が生じやすいので保存しない等の記載がされている。

なお、1日数回は3-4回、1回0.3-1.0gの範囲での使用が考えられる。最も『清涼止渇薬』という適応から考えれば、症状発現時に頓用するという使用法も考えられる。

また第八改正日本薬局方では、次の通り解説されている。

[薬効]酒石酸は殆ど吸収されない。腸管を刺激して緩和な緩下作用を現す。また吸収されても生体内で極く僅かしか酸化されず、大部分が尿中にそのまま排泄される。従って血液の酸性を高める作用がある。
[副作用]大量はアシドーシス、腎障害を起こす。
[適用]清涼止渇剤として1日数回0.5-1.0gを散剤とし、また糖及びエッセンスと混ぜてリモナーデ散として用いる。常用量:1日0.5-1g。

Rx クエン酸( citric acid) 又は酒石酸 (tartaric acid)……… 0.5g
  単シロップ……………………………………………………………… 8.0-10.0mL
 精製水……………………………………………………………………… 適量
  全量……………………………………………………………………… 100.0mL

以上1日・分3

酸味は果実に類する爽快な味覚を有し、その4gは大型レモン1個の酸味に相当する。本剤は清涼剤としての効用の他に、口渇、壊血病の予防に用いられる。なお、クエン酸はクレブス回路の触媒的作用において、疲労の回復と予防及び軽減に関与する。

『L-酒石酸』は、現在医薬品としての使用は殆ど行われていないため、アシドーシス、腎障害発現の量-発現例の具体的数値は報告されていない。『L-酒石酸』は経口投与では殆ど吸収されないとされているため、経口摂取によって副作用が発現するとは思われないが、本品によるアシドーシスの発現は、本品の液性が酸性であるということから血液を酸性化させる可能性を推論したものではないかと考えられる。但し、本品の排泄は専ら腎臓に依拠しており、その意味では腎機能低下者では、本品の使用は回避すべきであると考える。また、本品の継続的な摂取については、常用量として指示されている投与量の範囲であれば、特段問題になるような障害は発現しないと思われるが、腎機能が低下している者では、体内濃度の上昇による障害が発現する可能性が考えられるので、長期にわたる摂取は回避すべきである。

1)食品添加物公定書解説書 第8版;廣川書店,2006
2)縮刷 第六改正日本薬局方註解;南江堂,1954
3)第八改正日本薬局方第一部解説書;廣川書店,1971
4)安藤鶴太郎・他:優秀処方とその解説 第37版;南山堂,1996

[035.1.TAR:2008.6.19.]