『違法だけでは済まされない』

                                                                      魍魎亭主人

 

大阪、兵庫両府県の大学病院など、26病院の臨床研修医計98人が、医師法に反して別の病院でアルバイト診療をしていたことが、厚生労働省近畿厚生局が行った全国初の実態調査で解った。国は昨年、研修医の受け入れ病院に対してアルバイト禁止の徹底を文書で指導したが、多数の違法行為が明らかになったのは初めて。同厚生局は研修医の管理が不十分だったとして、補助金返還など各病院の処分を検討している。

医師法の規定で、研修医は指導医の管理下でなければ診療できないが、大半はアルバイト先の民間病院などで夜間の当直や休日の日直に就き、1人で診療に当たった者もいた。研修医らは病院に対し、「小遣い稼ぎだった」等と説明したという。同厚生局医事課は「研修生に医師としてのコンプライアンス(法令遵守)を徹底させることも病院側の役割であり、厳正に処分したい」としている[読売新聞,第47380号,2008.1.29.]。

研修医が、アルバイトで、病院の夜間の当直業務や休日の日直業務に就いている話は、昨日今日に始まった話ではなく、数十年の長きに亘って行われてきたというのが実態のはずである。それを今になって法律に違反しているから『厳正に処分』するとか、『補助金返還』を求めるなどといわれても、恐れ入る前に、何を今更わざとらしくという気になってくる。

医師法に違反しているとか、法令遵守の徹底をさせるとかいっているが、医師の配置が極端に少ない日本の病院で、限られて人数で夜間の当直業務や祝祭日の日直業務をやったとすれば、労働基準法を大幅に上回る違反行為を行うことになる実態があるのはどうするのか。

嘗ては厚生省であり、知らん顔をしていてもよかったのかもしれないが、今は厚生労働省である。労働者の労働条件についても目配りをしなければならない立場で、病院に蔓延している労働基準法違反をほったらかしにしておいて、医師法違反のみを云々するのは、如何なものかといいたい。片手落ちもいいところである。

更にこの問題に目くじらを立てると、何が起こるかといえば、単に病院と研修医の問題に止まらず、一般市民にまで影響を及ぼすことは間違いない。研修医のアルバイトが禁止されれば、多分、幾つかの施設では夜間の当直業務を中止し、夜間の診療は行わないという処置が採られることが予測される。更に日直業務についても、勤務している医師の双肩にかかるということになれば、退職を言い出す医師も出てこないとは限らない。

指導医の管理下での診療というが、指導医と研修医が常に同席していなければならないということではなく、判断困難な事態が生じた場合、電話連絡等で指導医が直ちに対応できればいいということではないのか。研修指定病院から日直・当直経験のために派遣され、派遣された先の病院の医師に指導医の委嘱を行っておけば、研修医の所属施設以外での指導は可能になるのではないか。

兎に角、病院に勤務する医師等の違法な長時間勤務を放置しておいて、研修医のアルバイトを医師法違反でやり玉に挙げるのは片手落ちだといえる。勿論、法律がある以上遵守するのは当然のことではあるが、医師としてのコンプライアンスの徹底をいうなら、役人としてのコンプライアンスの徹底はどうするのか。何れにしろ急場に間に合う改善方法は見あたらないが、少なくとも病院を処分するなどというつまらんことは、考えない方がいいのではないか。

                                                                    (2008.5.27.)