「アスピリン喘息既往患者と消炎鎮痛剤」
KW:臨床薬理・投与禁忌・アスピリン喘息・Aspirin induced asthma・酸性非ステロイド性抗炎症薬・非ステロイド性抗炎症薬・消炎鎮痛剤・酸性NSAID
Q:消炎鎮痛剤の添付文書には、アスピリン喘息の患者に対し投与禁忌の記載がされているが、服用した場合必ず発作が起こるということか
A:アスピリン喘息(Aspirin induced asthma:AIA):アスピリンを摂取すると喘息発作を起こすものをアスピリン喘息という。また、アスピリン喘息は、アスピリンの服用によってのみ惹起されるものではなく、アスピリン類似の薬理作用を持つ酸性非ステロイド性抗炎症薬(nonsteroidal antiinflammatory drugs)の殆ど全てに対し喘息発作を起こす。
その発現機序については、未だ十分に解明されていないが、現時点ではプロスタグランジンを介した薬理学的機序に基づく説が有力である。
その他、アスピリン喘息は、様々な単純化学物質で発作が誘発される特異な喘息である。特にアスピリン様の薬効を示す酸性非ステロイド性消炎剤(酸性NSAID)は全て強い発作を誘発し、しばしば意識障害を伴う激烈な発作をもたらし、死亡例も報告されている。重症難治化しやすいが、的確に診断することさえできれば、徹底的な誘発物質の除外療法を施すことによって比較的コントロールの容易な症例が多い喘息でもある。
アスピリン喘息は成人喘息の10%を占める喘息で、小児にも認められるが、頻度は低く、思春期以後の成人に認められる。30歳代に発症する症例が最も多い。また、アトピー性喘息の合併例もあるが、非アトピー性の内因型喘息の像を示す喘息である。
細胞膜のリン脂質に結合しているアラキドン酸(arachidonic acid:AA)は、AA由来の生理活性物質(prostaglandin類、leukotriene類、thromboxane類)を合成する前駆物質である。この物質はcycloxygenase-1(COX-1)回路とリポキシゲナーゼ回路の2種類の代謝経路で代謝され、AA由来の生理活性物質が合成される。
COX-1回路ではAAにCOX-1が作用し、炎症促進作用と炎症抑制作用の両面を持つprostaglandin E2(PGE2)と強力な血小板活性及び凝集能を持つthromboxane A2(TXA2)が産生される。aspirinのようなNSAIDsはCOX-1を阻害し、その結果PGE2が減少すると5-リポオキシゲナーゼ活性化蛋白や5-リポキシゲナーゼに対するPGE2の抑制作用が低下し、leukotriene B4、leukotriene C4、leukotriene D4、leukotriene E4等の合成が制御されなくなる。これらには強力な炎症促進作用があり、気管支収縮、血管収縮、血管透過性亢進、粘液分泌、鼻粘膜腫脹、気道浮腫の促進や気道好酸球浸潤を来し、アスピリン喘息発作が惹起されるとする報告がされている。
その他、肺においてPGE1、PGE2は気管支拡張、PGF2αが攣縮をもたらすことが知られており、また鎮痛解熱剤のPG産生抑制の強さと、気管支痙攣の強さとは相関するとの報告も見られる。PGEはβ-adrenergic systemとともに喘息では防御的な役割を果たしている。アスピリン喘息においては、健康例や非アスピリン喘息例に比べてPGE mechanismへの依存度が、β-adrenergic mechanismへの依存度より高いとされている。
従って、アスピリン喘息の既往のある患者では、酸性NSAIDの投与は禁忌とされており、投与すべきではないとされている。
但し、アスピリン喘息については、NSAIDsの中でもCOX-1阻害薬で誘発され、COX-2選択的阻害薬では誘発されないとする報告も見られる。また、アスピリン喘息に比較的安全とされるacetaminophenについて弱いCOX-1阻害作用を持つため、高用量(500mg以上)では発作を誘発するとする報告が見られる。
その他、アスピリン喘息はコハク酸エステル構造に非常に敏感であるため、発作時にコハク酸エステル型副腎皮質ステロイド(ヒドロコルチゾン、プレドニゾロン、メチルプレドニゾロン等)の使用は回避する。
アスピリン喘息誘発物質として、下表のものが報告がされているが、NSAIDsの殆ど全ての他、食品、医薬品添加物が含まれており、自然界のサリチル酸化合物も問題となり得る。しかしこれらの物質のうちでもaspirin、インドメタシン等のように激烈な発作を起こすものから殆ど発作を起こさないものまで様々である。一般に解熱鎮痛作用の強い物質ほど、発作を起こす作用が強いといわれている。
但し、NSAIDsの中で、COX阻害作用のない塩基性抗炎症薬であるtiaramide hydrochloride(ソランタール錠)とemorfazone(ペントイル錠)は、殆ど発作を起こさないとされており、アスピリン喘息の既往のある患者では、これらの消炎鎮痛剤の使用を考える。その他、選択的COX-2阻害薬であるnimesulid、celecoxibでは発作が誘発され難いとされているが国内では市販されていない。
アスピリン喘息誘発物質
NSAIDs
作用が特に強い薬剤 | aspirin、indomethacin、piroxicam、fenoprofen、diclofenac等 |
作用がかなり弱い薬剤 | mefenamic acid、flufenamic acid等 |
作用が弱いか殆ど無い薬剤 | acetaminophen、salicylamide、mepirizole、tiaramide hydrochloride等 |
食品・医薬品添加物
誘発物質として確立されているもの | 食用黄色4号(tartrazine)、sodium benzoate[防腐剤] |
誘発物質であることが強く疑われるもの | benzyl alcohol[食品の香料、注射薬の無痛化剤]。Paraben類[防腐剤]。食用黄色5号(sunsetyellow)、赤色2号(amaranth)、赤色102号(new coccin) |
その他 | 自然界のsalicylic acid化合物含有食物(柑橘類、イチゴ、ブドウ、トマト、キュウリ等) |
1)末次??? 勸:アスピリン喘息;medicina,28(2):326-327(1991)
2)堀岡? 正義・編:DI実例集? 第4版;薬業時報社,1981
3)セデスG添付文書改訂の解説;塩野義製薬株式会社製品部セデスG係,1994.9.
4)国立国際医療センター薬剤部医薬品情報管理室・編:FAX.DI-News,No.1084,1995.7.5.
5)小林貴子・他:アスピリンの副作用対策1アスピリン喘息;治療学,40(3):278-283(2006
6)礒谷澄都・他:アスピリン喘息;臨床と研究,80(11):2026-2030(2003)
? [035.2ASP:1994.11.17.古泉? 秀夫・1999.7.23.・2006.6.26.2008.10.20改訂]