Archive for 5月 3rd, 2008

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「エンテカビルの催奇形性」

土曜日, 5月 3rd, 2008

KW:副作用・催奇形性・精子障害性・外表性奇形・精巣移行性・精巣内濃度・精液汚染・エンテカビル・entecavir hydrate・バラクルード錠

Q:主人が肝硬変一歩手前まで進行しているB型肝炎で、7月よりエンテカビルを服用し始めました。気になっているのは、今後出産を希望しており、エンテカビルの奇形性を心配しています。主治医に相談したところ「そんなに心配いらないのでは」という回答でしたが、いろいろ調べていますと薬を一旦中断するとか一時ラミブジンに切り替えるとかの情報があり、どうすればいいのか分かりません。

 

A:エンテカビル水和物(entecavir hydrate)の製品である『バラクルード錠0.5mg』[ブリストルマイヤー]の添付文書中に記載されている催奇形性に関する情報は下記の通りである。

1. 妊婦への投与

(1)妊婦又は妊娠している可能性のある婦人には、治療上の有益性が危険性を上回ると判断される場合にのみ投与すること。[妊娠中の投与に関する安全性は確立していない。生殖発生毒性試験において、ラットでは母動物及び胚・胎児に毒性が認められ、ウサギでは胚・胎児のみに毒性が認められた。ラット及びウサギの曝露量は、ヒト1mg投与時の曝露量のそれぞれ180倍及び883倍に相当する。]

(2)妊娠の可能性がある婦人に対しては避妊するよう指導すること。[胎児の発育に影響を及ぼすおそれがある。]

(3)新生児のHBV感染を防止するため適切な処置を行うこと。[本剤が母体から新生児へのHBV感染に及ぼす影響についてはデータがない。]

2. 授乳婦への投与

授乳中の婦人には本剤投与中は授乳を中止させること。[動物実験(ラット)で、乳汁中に移行することが報告されている。本剤がヒトの乳汁中に分泌されるか否かは不明である。]

但し、上記は女性に対する注意であり、男性患者に対する注意は何ら記載されていない。

原則的にいえば、男子の服薬と催奇形性の発現については、次の通りいわれている。

男性が服用した薬物の妊娠への影響については、症例報告も殆ど無く、一部の薬物を除外して、一般に使用する薬物については、殆ど心配はないとされている。射精される精子の数は億単位で、そのうち20%程度は元々形態的に異常が見られると報告されている。もし薬物の影響を受けて精子障害性が見られたとしても、その精子は受精能力を失うか、受精してもその卵子は着床しないか又は妊娠早期に流産して消失すると考えられている。

また出生する可能性があるとしても、染色体異常か遺伝子レベルの異常で、形態的な異常(外表性奇形)は発生しないと考えられている。精子に対する薬物の影響が考えられる場合は、精子形成期間が約74日(±4-5日)なので、薬物の影響があるとすれば、受精前約3カ月以内に投与された薬物ということになる。従って、射精の直前であれば、既に精子となって存在しているため、受精1-2日前に服用した薬物の影響は考えられない。

1.薬物の影響を受けた精子は受精能力を失う

2.受精しても着床しない

3.妊娠早期に流産する

entecavir hydrateの作用機序

entecavirはグアノシンヌクレオシド類縁体であり、HBV DNAポリメラーゼに対して強力かつ選択的な阻害活性(Ki値:0.0012μM)を有する。本剤は細胞内でリン酸化され、活性を有するエンテカビル三リン酸に変化する。エンテカビル三リン酸は、天然基質デオキシグアノシン三リン酸との競合により、HBV DNAポリメラーゼの(1)プライミング、(2)mRNAからマイナス鎖DNA合成時の逆転写、及び(3)HBV DNAのプラス鎖合成の3種すべての機能活性を阻害する。エンテカビル三リン酸の細胞性DNAポリメラーゼα、β、δ及びε並びにミトコンドリアDNAポリメラーゼγに対する阻害作用は弱い(Ki値:18~約160μM)。

entecavir hydrateの 変異原性

培養ヒトリンパ球にin vitroで染色体異常を誘発したが、微生物を用いた復帰突然変異試験(Ames試験)、哺乳類細胞を用いた遺伝子突然変異試験及びシリアンハムスター胚細胞を用いた形質転換試験で、遺伝毒性は認められていない。また、ラットを用いた経口投与による小核試験とDNA修復試験も陰性を示している。

entecavir hydrateの生殖毒性

ラットの生殖発生毒性試験において、受胎能への影響は認められなかった。げっ歯類及びイヌを用いた毒性試験において、精上皮変性が認められた。なお、臨床用量での曝露量と比べて高い曝露量で1年間投与したサルでは、精巣の変化は認められなかった。

雌雄ラットに[14C-]-entecavir 10mgを単回経口投与して組織分布を検討した結果、投与後1時間で大腸を除く全ての組織で最高濃度に達し、その後速やかに低下した。脳及び精巣を除いて、組織中濃度は投与後24時間までに各組織の最高濃度の10%以下までに低下した。

[14C-]-entecavirの精巣内濃度推移 [ng・equiv/g]

  1時間 4時間 8時間 24時間
精巣 996 672 315 193

 

以上の各報告から『男性がentecavirを服用していることにより催奇形性が発現する可能性は少ないと考えられるが、服用期間中精巣内に薬物が残存するため、精液を介して汚染されることが考えられるので、その点での注意は必要である』といえる。

 

1)バラクルード錠添付文書,2007年8月改訂(第3版)
2)社団法人静岡県薬剤師会:スキルアップのためのおくすり相談Q&A100;南山堂,2007
3)男性への薬剤と胎児,2007.11.17.
4)バラクルード錠0.5mgIF,2006.7.

 

   [63.099.ENT:2007.11.22.古泉秀夫]

「オレンジソルベントについて」

土曜日, 5月 3rd, 2008

KW:薬名検索・過敏症・絆創膏剥離・オレンジソルベント・カテーテル・orange solvent・ユージノール系材料除去剤・材料除去剤・充填剤除去剤・仮封剤除去剤・印象材除去剤

 

Q:IVHカテーテルを固定している絆創膏を剥がす目的で、ベンジン又はアルコールを使用しているが、過敏症を発現する患者がいる。オレンジソルベントが良いといわれたが、これはどの様なものか

 

A:オレンジソルベント(orange solvent)[アッカーマン社-株式会社茂久田商会薬事部]で販売されている商品で、ユージノール系材料除去剤である。医師、患者等の顔、腕に付着した充填剤や仮封剤、印象材等を刺激を与えずに除去することができる。

本剤の組成については、次の回答が得られた。

 
ラノリン 1%
オレンジ油 10%
ミネラルオイル 88.5%
保恒剤 0.5%

尚、院内製剤として、次の処方が用いられている。 

オリーブ油 150mL
流動パラフィン 適量
全量 1,000mL

 

1)古泉 秀夫・代表編:医薬品情報Q&A[4];株式会社ミクス,1987
2)株式会社茂久田商会・私信,1993・2007
3)国立国際医療センター薬剤部医薬品情報管理室・編:FAX.DI-News,No.694,1993.11.24.より転載

 

[011.1.ORE・1993.7.16.・1999.6.7.・2007.8.20.一部修正.古泉 秀夫]

「アスピリン喘息既往患者と消炎鎮痛剤」

土曜日, 5月 3rd, 2008

KW:臨床薬理・投与禁忌・アスピリン喘息・Aspirin induced asthma・酸性非ステロイド性抗炎症薬・非ステロイド性抗炎症薬・消炎鎮痛剤・酸性NSAID

Q:消炎鎮痛剤の添付文書には、アスピリン喘息の患者に対し投与禁忌の記載がされているが、服用した場合必ず発作が起こるということか

A:アスピリン喘息(Aspirin induced asthma:AIA):アスピリンを摂取すると喘息発作を起こすものをアスピリン喘息という。また、アスピリン喘息は、アスピリンの服用によってのみ惹起されるものではなく、アスピリン類似の薬理作用を持つ酸性非ステロイド性抗炎症薬(nonsteroidal antiinflammatory drugs)の殆ど全てに対し喘息発作を起こす。

その発現機序については、未だ十分に解明されていないが、現時点ではプロスタグランジンを介した薬理学的機序に基づく説が有力である。

その他、アスピリン喘息は、様々な単純化学物質で発作が誘発される特異な喘息である。特にアスピリン様の薬効を示す酸性非ステロイド性消炎剤(酸性NSAID)は全て強い発作を誘発し、しばしば意識障害を伴う激烈な発作をもたらし、死亡例も報告されている。重症難治化しやすいが、的確に診断することさえできれば、徹底的な誘発物質の除外療法を施すことによって比較的コントロールの容易な症例が多い喘息でもある。

アスピリン喘息は成人喘息の10%を占める喘息で、小児にも認められるが、頻度は低く、思春期以後の成人に認められる。30歳代に発症する症例が最も多い。また、アトピー性喘息の合併例もあるが、非アトピー性の内因型喘息の像を示す喘息である。

細胞膜のリン脂質に結合しているアラキドン酸(arachidonic acid:AA)は、AA由来の生理活性物質(prostaglandin類、leukotriene類、thromboxane類)を合成する前駆物質である。この物質はcycloxygenase-1(COX-1)回路とリポキシゲナーゼ回路の2種類の代謝経路で代謝され、AA由来の生理活性物質が合成される。

COX-1回路ではAAにCOX-1が作用し、炎症促進作用と炎症抑制作用の両面を持つprostaglandin E2(PGE2)と強力な血小板活性及び凝集能を持つthromboxane A2(TXA2)が産生される。aspirinのようなNSAIDsはCOX-1を阻害し、その結果PGE2が減少すると5-リポオキシゲナーゼ活性化蛋白や5-リポキシゲナーゼに対するPGE2の抑制作用が低下し、leukotriene B4、leukotriene C4、leukotriene D4、leukotriene E4等の合成が制御されなくなる。これらには強力な炎症促進作用があり、気管支収縮、血管収縮、血管透過性亢進、粘液分泌、鼻粘膜腫脹、気道浮腫の促進や気道好酸球浸潤を来し、アスピリン喘息発作が惹起されるとする報告がされている。

その他、肺においてPGE1、PGE2は気管支拡張、PGF2αが攣縮をもたらすことが知られており、また鎮痛解熱剤のPG産生抑制の強さと、気管支痙攣の強さとは相関するとの報告も見られる。PGEはβ-adrenergic systemとともに喘息では防御的な役割を果たしている。アスピリン喘息においては、健康例や非アスピリン喘息例に比べてPGE mechanismへの依存度が、β-adrenergic mechanismへの依存度より高いとされている。

従って、アスピリン喘息の既往のある患者では、酸性NSAIDの投与は禁忌とされており、投与すべきではないとされている。

但し、アスピリン喘息については、NSAIDsの中でもCOX-1阻害薬で誘発され、COX-2選択的阻害薬では誘発されないとする報告も見られる。また、アスピリン喘息に比較的安全とされるacetaminophenについて弱いCOX-1阻害作用を持つため、高用量(500mg以上)では発作を誘発するとする報告が見られる。

その他、アスピリン喘息はコハク酸エステル構造に非常に敏感であるため、発作時にコハク酸エステル型副腎皮質ステロイド(ヒドロコルチゾン、プレドニゾロン、メチルプレドニゾロン等)の使用は回避する。

アスピリン喘息誘発物質として、下表のものが報告がされているが、NSAIDsの殆ど全ての他、食品、医薬品添加物が含まれており、自然界のサリチル酸化合物も問題となり得る。しかしこれらの物質のうちでもaspirin、インドメタシン等のように激烈な発作を起こすものから殆ど発作を起こさないものまで様々である。一般に解熱鎮痛作用の強い物質ほど、発作を起こす作用が強いといわれている。

但し、NSAIDsの中で、COX阻害作用のない塩基性抗炎症薬であるtiaramide hydrochloride(ソランタール錠)とemorfazone(ペントイル錠)は、殆ど発作を起こさないとされており、アスピリン喘息の既往のある患者では、これらの消炎鎮痛剤の使用を考える。その他、選択的COX-2阻害薬であるnimesulid、celecoxibでは発作が誘発され難いとされているが国内では市販されていない。

アスピリン喘息誘発物質

NSAIDs

作用が特に強い薬剤 aspirin、indomethacin、piroxicam、fenoprofen、diclofenac等
作用がかなり弱い薬剤 mefenamic acid、flufenamic acid等
作用が弱いか殆ど無い薬剤 acetaminophen、salicylamide、mepirizole、tiaramide hydrochloride等

食品・医薬品添加物

誘発物質として確立されているもの 食用黄色4号(tartrazine)、sodium benzoate[防腐剤]
誘発物質であることが強く疑われるもの benzyl alcohol[食品の香料、注射薬の無痛化剤]。Paraben類[防腐剤]。食用黄色5号(sunsetyellow)、赤色2号(amaranth)、赤色102号(new coccin)
その他 自然界のsalicylic acid化合物含有食物(柑橘類、イチゴ、ブドウ、トマト、キュウリ等)

1)末次??? 勸:アスピリン喘息;medicina,28(2):326-327(1991)
2)堀岡? 正義・編:DI実例集? 第4版;薬業時報社,1981
3)セデスG添付文書改訂の解説;塩野義製薬株式会社製品部セデスG係,1994.9.
4)国立国際医療センター薬剤部医薬品情報管理室・編:FAX.DI-News,No.1084,1995.7.5.
5)小林貴子・他:アスピリンの副作用対策1アスピリン喘息;治療学,40(3):278-283(2006
6)礒谷澄都・他:アスピリン喘息;臨床と研究,80(11):2026-2030(2003)

? [035.2ASP:1994.11.17.古泉? 秀夫・1999.7.23.・2006.6.26.2008.10.20改訂]

「コウジ酸について」

土曜日, 5月 3rd, 2008

 

KW:薬名検索・健康食品・シミ・酵母酸・コウジ酸・麹酸・kojic acid・チロシナーゼ・メラニン生成抑制・ビオナチュールSホワイトニングクリーム・デルメッドホワイトニングクリーム

 

Q:皮膚のシミに有効であるとされる酵母酸とは何か

 

A:現在、発酵関連物質で、皮膚のシミ防止目的に使用されているのはコウジ酸(麹酸;kojic acid)である。

麹を扱う人の手が白く美しい-この言い伝えに着目して開発されたコウジ酸は、日焼けによるシミの元であるメラニンを作る酵素「チロシナーゼ」の活性を抑え、メラニンの生成にブレーキをかけ、日焼けによるシミ・ソバカスを防ぐと報告されている。
その他、味噌、醤油などの原料であるコウジ酸を含有した新しいメラニン生成阻害クリームが近く発売される。商品説明では、肌に擦り込んでから約4週間でシミ防止の効果が発現すると報告されている。

皮膚表面は厚さ0.2mmの表皮で覆われている。その一番下の基底層で細胞が作られ、約4週間で表層の角質に移行する。紫外線にはメラニン生成細胞を活性化させ、メラニンの色素を多量に生成する性質があるが、この細胞の活動を抑制すればメラニンの生成が抑制される。

皮膚科医に委託した臨床試験でも、毎日塗り込むと4週間後にはシミが消え始め、数ヶ月後にはなくなる効果が出ている。

市販されている製品として、下記の商品名が検索できたが、いずれも化粧品の扱いである。

    「ビオナチュールSホワイトニングクリーム」(山之内製薬-三省製薬)

   「デルメッドホワイトニングクリーム」(三省製薬株式会社)
  

コウジ酸、5-オキシ-2-オキシメチル-γ-ピロン(5-hydroxy-2-hydroxymethyl-γ-pyron)。

主としてAspergilus oryzae、A.fflavus、A.tamarii、A.wentii、A.nidulan、A.candidus等のアスペルギルス属子嚢菌によって各種炭水化合物から生成されるが、この他にPenicillium dalae、P.expansum等のペニシリウム属子嚢菌、グルコノバクター属細菌等によっても生成される。

性状:無色柱状晶(アセトンから再結晶)、融点152℃、水、エタノール、酢酸エステルに易溶、エーテル、クロロホルム、ピリジンに難溶、ベンゼン、石油エーテルに不溶。塩化鉄(III)で紫赤色を呈し、また各種金属塩を作る。弱い抗菌力を有し多くの細菌を1/500?1/4000程度の濃度で抑制する。

用途:分析用試薬、鉄(III)の検出定量用。

 

1)三省製薬株式会社読売新聞広告
2)シミ防止にコウジ酸-メラニン色素性性を抑制-;読売新聞,1990.1.24.(夕刊)
3)化学大辞典[3];共立出版,1972
4)国立国際医療センター薬剤部医薬品情報管理室・編:NHS.DI-News,No.1483,1997.2.25.より転載

 

  [011.1KOJ:1996.4.3.古泉秀夫・1999.9.28.・2005.12.20.一部修正.]