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「抗パーキンソン剤の適応外使用」

日曜日, 4月 27th, 2008

KW:薬物療法・抗パーキンソン剤・適応外使用・脳梗塞後遺症・認知症・意欲低下・Restless legs syndrome・RLS・不穏足・レストレスレッグス症候群・エクボム症候群・Ekbom syndrome・下肢静止不能症候群

 

Q:抗パーキンソン剤の適応外使用例について

A:抗パーキンソン剤の適応外使用例について次の通り報告されている。

1.脳梗塞後遺症・認知症疾患の意欲低下

?塩酸アマンタジン(amantadine hydrochloride):承認適応として脳梗塞後遺症。少量投与(50-150mg/日)。
?レボドパ製剤
?ドパミン受容体作用薬の少量:パーキンソン病治療量の1/2又は1/3
以上について、譫妄や幻覚異常行動を生じやすいので慎重に投与。

?アマンタジン塩酸塩(amantadine hydrochloride)[シンメトレル錠・細粒(ノバルティスファーマ)]

*精神活動改善作用:高次中枢神経機能低下に対する薬物の改善効果を前臨床的に評価する有効な方法は現在のところまだ開発されておらず、amantadine hydrochlorideに関してもその作用機序は十分に解明されていないが、動物試験及び臨床薬理試験において以下の作用が認められている。

(1)脳振盪マウスの自発運動に及ぼす影響:頭頂部に物理的衝撃を与えたマウスにおいて、昏睡状態回復後の自発運動量を測定した試験では、12.5mg/kg(腹腔内)で自発運動の有意な増加がみられている。
(2)条件回避反応抑制に対する拮抗作用:ラットにおけるchlorpromazine、haloperidol及びtetrabenazineによる条件回避反応の抑制作用に対し、10及び20mg/kg(腹腔内)で拮抗し、amantadine hydrochlorideとdopamine及びnoradrenaline作動性神経系との関連性が示唆されている。
(3)THCによるカタレプシー及びmuricideの抑制作用:THC(テトラヒドロカンナビノール)によるラットのカタレプシー及びmuricideに対し、0.5mg/kg(腹腔内)で有意な抑制作用を示す。その強さはそれぞれイミプラミンの40倍及び8.8倍、レボドパの400倍及び225.5倍で、amantadine hydrochlorideが少量でセロトニン作動性神経系の活動亢進を起こすことが示唆されている。
(4)ヒト脳波に及ぼす影響:多発梗塞性痴呆患者に100mg/日、2週間経口投与後の脳波変化をみた試験においてα波の出現量の増加、θ波及びδ波の出現量の減少がみられている。

?レボドパ(levodopa)[ドパゾール錠(第一三共)]

レボドパ(L-DOPA)はドパミンの前駆物質であり、パーキンソン氏病・パーキンソン症候群患者において脳内で不足しているドパミンを補う作用がある。ラットに14C-レボドパを投与し、脳内への移行をみると、体内に吸収されたレボドパの一部は血液-脳関門を通過し、脳内で脱炭酸酵素の働きによりドパミンに転換され、パーキンソン氏病・パーキンソン症候群の症状を改善する。パーキンソニスムは中脳黒質の変性、ドパミンニューロンの障害および黒質・線状体等の錐体外路諸核におけるドパミン減少によると考えられている。レボドパ(L-DOPA)はドパミンの前駆物質として脳に入りパーキンソニスムの主症状、特に寡動-無動、筋強剛等を改善する

?メシル酸ブロモクリプチン(bromocriptine mesilate)[パーロデル錠(ノバルティスファーマ)]

本剤は持続的なドパミン受容体作動効果を有し、内分泌系に対しては下垂体前葉からのプロラクチン分泌を特異的に抑制し、末端肥大症患者において異常に上昇した成長ホルモン分泌を抑制する。また、中枢神経系に対しては黒質線条体のドパミン受容体に作用して抗パーキンソン作用を示す。

*中枢神経系に対する作用
1) 常同行動の誘発作用:ラットにおいて嗅ぎ込み及びなめ等の常同行動を誘発するが、この作用はL-DOPAに比して持続する。
2) 回旋運動誘発作用:黒質線条体片側破壊ラット(Ungerstedtモデル)において破壊側とは反対側への回旋運動を誘発する。
3) レセルピンに対する拮抗作用:レセルピンにより誘発されるアキネジア、α固縮及びカタレプシーを抑制する(マウス、ラット)。
4) 抗振戦作用:片側性脳損傷サルにみられる振戦を抑制する。
5) ドパミン代謝回転率に及ぼす影響:脳内DOPAC含量を減少し、ドパミン代謝回転率を減少させる(ラット)。

その他、非アルツハイマー型変性認知症の薬物治療として抗パーキンソン薬が選択される理由として、歩行障害や嚥下障害が日常生活上に重大な支障を来している場合は、精神状態の悪化に注意しながらパーキンソン症状に対する治療を優先させるとする報告も見られる。

2.Restless legs syndrome[RLS](不穏足)

ドパミン受容体作用薬
レボドパ製剤
投与法と投与量はパーキンソン病に準じる。

因みに『レストレス・レッグス症候群:エクボム症候群(Ekbom syndrome)』は『下肢静止不能症候群』と標記され、次の通り説明されている。

下腿、時に大腿深部にむずむず感、だるさ、しびれ、鈍痛、灼熱感などの漠然とした不快感が一側性あるいは両側性に出現する。就寝時、しばしば異常感覚のため入眠を妨げられ、足を動かすによってのみ不快感から逃れることが出来る(Ekbom,1945)。エクボム症候群、“むずむず足症候群”とも呼ばれる。本症は高齢者に多く、尿毒性ニューロパチー(尿毒性末梢神経障害)、糖尿病性ニューロパチー、その他の原因による軽度のニューロパチーを証明したり、その前駆症状のこともある。また、鉄欠乏性貧血を有していることがある。パーキンソン病でもしばしば本症候群をみるが、その機序は不明である。他覚的には何らの徴候・障害を認めないことも多く、自覚的症候である。基礎疾患が明らかなときは、その治療により症状が軽減することがある。抗不安薬、抗うつ薬が有効である。

 

1)高久史麿・他監修:治療薬マニュアル 2008;医学書院,2008
2)南山堂医学大辞典;株式会社南山堂,2006
3)シンメトレル錠添付文書,2007.12.改訂
4)ドパゾール錠添付文書,2007.4.改訂
5)パーロデル錠添付文書,2007.2.改訂
6)山口 徹・他編:今日の治療指針 50th;医学書院,2008
7)薬科学大辞典編集委員会・編:薬科学大辞典 第2版;廣川書店,1990

  [035.1.RLS:2008.4.27.古泉秀夫]