「薬物に対する超音波の影響」

KW:物理化学的性状・超音波・超音波ネブライザー・ultrasound nebulizer・nebulizer・霧・aerosol

 

Q:超音波ネブライザーの場合、吸入薬が超音波によって容易に破壊され、薬効が無くなってしまうということがあるのでしょうか。

 

A:超音波ネブライザーは、超音波振動子によって薬剤を微細な霧状、液滴にし、それをファンによる風にのせて噴霧するものである。超音波ネブライザーは、従来から薬液の変性問題が指摘されており、洗浄、消毒にも問題があるとされていた。そのため最近ではジェット式ネブライザーが推奨されているとする報告が見られる他、最近になってメッシュ式超音波ネブライザーが登場し、薬液変性と消毒・洗浄の問題はほぼ改善されたとする報告も見られる。

超音波(ultrasound)は、ヒトの耳では聞くことが出来ない2,000Hz以上の高い周波数を持つ音をいうとされている。ヒトの可聴域は約16-2,000Hzであるが、可聴域は厳密なものではなく、最近では、『超音波』とは人間の耳で聞くことを目的としない音と定義されるようになった。高い周波数の指向性が鋭く、超音波束として利用できる。超音波は生体組織を媒体として伝播するが、強度が小さい限り生体に対する障害はない。診断に利用される超音波は2-10MHzの範囲である。

超音波ネブライザー(ultrasound nebulizer)で使用される超音波周波数は約2.4MHz(オムロン超音波ネブライザーNE-U07)あるいは約180kHz(メッシュ式超音波ネブライザーNE-U22)とする報告が見られる。

超音波ネブライザーは、薬剤を微細な霧(aerosol)として吸入させる霧滴吸入法である。噴霧器(nebulizer)と陽圧発生装置からなり、aerosolを作る。霧粒子の大きさは作用させたい部位に応じて、喉頭・気管では直径5-10μL、気管支・肺胞では1-5μL、副鼻腔では3-6μLが適正であるとする報告が見られる。これらの微粒子を得るための超音波としては、比較的低周波数であり、特にメッシュ式超音波ネブライザーは、より低周波数であり薬剤に対する影響が少ないことが予測される。

塩酸プロカテロール(procaterol hydrochloride)を用いたネブライザーによる噴霧性・安定性試験の結果によると、メッシュ式超音波ネブライザーの使用によって薬剤に対する影響は何等なかったとする報告がされている。

なお、ネブライザーとして使用する薬剤は副腎皮質ホルモン、血管収縮剤、蛋白分解酵素(protelytic enzyme:プロテアーゼ)、気道粘液融解剤、抗生物質などであり、用途に応じて選択する。吸入されたaerosolは粘膜より血中に吸収される。副鼻腔炎、呼吸器疾患(急・慢性鼻炎、喉頭炎、アレルギー性鼻炎(allergic rhinitis:鼻アレルギーなど)が適応である等の報告がされている。

 

1)南山堂医学大辞典;株式会社南山堂,2006
2)高久史麿・他監修:治療薬マニュアル 2008;医学書院,2008
3)吉山友二・他:塩酸プロカテロール吸入液ユニットのネブライザーによる噴霧特性及び薬剤安定性;呼吸,22(9):904-912(2003)

[014.4.ULT:2008.4.26.古泉秀夫]