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血液製剤は軒並み危険だった?

木曜日, 3月 13th, 2008

魍魎亭主人

 

77年製の『人免疫グロブリン(旧ミドリ十字)』製剤2本からC型肝炎ウイルスが検出されたことが、北里大学名誉教授(法科学)・長井辰男氏の研究で分かったという。長井名誉教授は、約30年前に同社から研究目的で入手して冷蔵保管していた『人免疫グロブリン』を薬害肝炎問題が浮上したのを受けて解析した結果、C型肝炎ウイルスの混入を確認し、国内の検査機関でも再確認したとされる。この他、臨床試験用の血液製剤『プラスミン』(76製)1本からもB型肝炎ウイルスが検出されたという。

ところで30年前の『人免疫グロブリン』が、冷蔵保管されていたとはいえ、正常な製剤として認知されるのかどうか。全く開封されていない製品が保存されていたのであれば問題はないが、もし開封されたものであれば、後からの汚染も考えられないわけではない。更に30年前の血液製剤に、全く変質が見られなかったとすれば、将に驚異的といわざるを得ない。新聞報道からは実験方法の詳細は不明であるが、C型肝炎ウイルスが30年間血液製剤の中で生存していたということなのであろうか。それとも汚染されていた痕跡が残っていたということなのかどうか。

『人免疫グロブリン』製剤は、薬害肝炎の原因となったクリスマシンやフィブリノゲンなどと同じく、血液から赤血球等を除いた「血漿成分」にエタノールなどを加えて、遠心分離を繰り返して作る「血漿分画製剤」の一つである。クリスマシンやフィブリノゲンより後で抽出されるため、従来はウイルス混入の危険性は低いとされていた。『人免疫グロブリン(旧ミドリ十字)』は、1957年に製造承認された。同じ血液製剤であるアルブミンに次いで、国内での使用量が多い製剤である。

厚生労働省は現在、過去に製造された血液製剤全てについて、ウイルスの混入歴について製造各社に調査を依頼しているというが、その結果によっては、薬害肝炎の被害者数が拡大する恐れがある[読売新聞,第47349号,2007.12.28.]とされている。

はしかの原因となる麻疹ウイルスに効果のある薬はない。はしかに感染した小児が病院に来ると、麻疹ウイルスの抗体価の高い『人免疫グロブリン』を注射することで、はしかの治療が行われてきた。薬剤部では、製薬企業に連絡し、なるべく抗体価の高い『人免疫グロブリン』を納入して貰い、何時でも対応できるようにしていた時期がある。ということであれば、『人免疫グロブリン』製剤がC型肝炎ウイルスに汚染されていたとすれば、はしかの治療を受けた経験のある者は、B型・C型肝炎ウイルスの検査を受けることが求められるということになるのではないか。

B型肝炎ウイルスが検出されたという血液製剤『プラスミン』は、臨床試験用の製剤であるとされており、未だ市販されていないようであるから、それほど広範囲に影響を及ぼすことは考えられないが、ウイルスに汚染されたまま市販されたのでは、悪影響が広範に及ぶことになる。何れにしろ血液製剤については、細菌あるいはウイルスに汚染されていないものを使用することが必要である。

未だに血液製剤の添付文書には『本剤は、貴重なヒト血液を原料として製剤化したものである。原料となった血液を採取する際には、問診、感染症関連の検査を実施するとともに、製造工程において一定の不活化・除去処理などを実施し、感染症に対する安全対策を講じているが、ヒト血液を原料としていることによる感染症伝播のリスクを完全に排除することはできないため、疾病の治療上の必要性を十分に検討の上、必要最小限の使用にとどめること。』の記載がされており、更に『患者への説明』として『本剤の投与にあたっては、疾病の治療における本剤の必要性とともに、本剤の製造に際し感染症の伝播を防止するための安全対策が講じられているが、ヒト血液を原料としていることに由来する感染症伝播のリスクを完全に排除することができないことを患者に対して説明し、理解を得るよう努めること。』の記載がされている。

血液製剤は生ものである。そのため血液製剤の完全な滅菌は難しいのかもしれないが、更に安全性の高い製剤を作ることが求められているのではないか。

                                                                  (2008.1.12.)