「エストロゲン製剤の副作用-体重増加・vitaminB等の低下」

 

KW:副作用・体重増加・estrogen製剤・エストロゲン製剤・エストラジオール・エストロン・黄体ホルモン・経口避妊薬・progesterone製剤・プロゲステロン製剤

 

Q:エストロゲン製剤の服用により体重増加は起こるか。またvitaminB6、葉酸等の低下は報告されているか。

A:エストロゲン製剤として内因性ホルモンであるエストラジオール(E2)とその代謝産物エストロン(E1)の誘導体、及び合成卵胞ホルモン製剤が広く使用されている。estrogenには子宮等の性器への作用のみならず、骨や血管、脂質代謝等の性器外作用も注目されており、estrogen製剤の用途は拡大しつつある。
現在、市販されているエストロゲン製剤は、次記の通りである。

estradiolとその誘導体

一般名・商品名(会社名) 副作用

estradiol

エストラダーム貼付剤・M貼付剤(キッセイ)

エストラーナ貼付剤(久光)

フェミエスト貼付剤(あすか)

[適]1)更年期障害及び卵巣欠落症状に伴う次の症状:血管運動神経症状(Hot flush及び発汗)、泌尿生殖器の萎縮症状。2)閉経後骨粗鬆症

重大:1)アナフィラキシー様症状。2)静脈血塞栓症、血栓性静脈炎。
その他:1)皮膚[一次刺激性の接触性皮膚炎(後半、掻痒等)、かぶれ、水疱、色素沈着等]。2)生殖器[外陰部腫張感、不正出血、消退出血、帯下、外陰部掻痒感、子宮内膜増殖]。3)乳房[乳房痛、乳房緊満感、乳頭痛、乳腺症]。4)精神神経[偏頭痛、頭痛、不眠、眩暈、眠気]。5)循環器[動悸、胸部不快感、血圧上昇、静脈瘤の悪化]。6)消化器[嘔吐、嘔気、腹部膨満感、心窩部痛、下痢、便秘]。7)電解質[浮腫、同種薬剤で特に大量継続投与:Naや体液貯留の報告]。8)過敏症[全身の掻痒感、発疹、蕁麻疹、アレルギー性接触皮膚炎、顔面掻痒、顔面紅斑等]。9)肝臓[AST・ALT・Al-P上昇・LDH上昇等の肝機能障害、胆石症、胆嚢疾患、胆汁欝滞性黄疸]。10)その他[腹痛、下腹部痛、背部痛、腰痛、耳鳴、発熱、倦怠感、下肢痛、ホルフィリン症の悪化、喘息の悪化、耳硬化症、体重増加、体重減少、関節痛、TG上昇、フィブリノーゲン増加]。11)長期連用[同種薬剤長期連用:血栓症]。

estradiol benzoate
オバホルモン水性懸濁注(あすか)
[適]無月経、無排卵周期症、月経周期異常(稀発月経、多発月経)、月経量異常(過少月経、過多月経)、月経困難症、機能性子宮出血、子宮発育不全症、卵巣欠落症状、更年期障害、乳汁分泌抑制。

重大:1)血栓症。
その他:1)過敏症[過敏症状]。2)精神神経[精神障害の既往患者に再発]。3)電解質代謝[特に大量継続投与:高Ca血症、Naや体液の貯留]。4)子宮[消退出血、不正出血、経血量変化等]。5)乳房[乳房痛、乳房緊満感]。6)投与部位[疼痛、硬結]。7)その他[頭痛]

estradiol dipropionate
オバホルモンデポー注(あすか)
[適]無月経、月経周期異常(稀発月経、多発月経)、月経量異常(過少月経、過多月経)、月経困難症、機能性子宮出血、子宮発育不全症、卵巣欠落症状、更年期障害、不妊症。

重大:血栓症[卵胞ホルモンの長期連用で報告]。
その他:1)過敏症[過敏症状]。2)子宮[消退出血、不正出血、経血量変化等]。3)乳房[乳房痛、乳房緊満感]。4)電解質代謝[高Ca血症、Naや体液の貯留]。5)消化器[悪心・嘔吐、下痢等]。6)精神・神経[精神障害既往の再発]。7)皮膚[多形性紅斑、出血性発疹、アレルギー性皮疹、痒疹、肝斑等]。8)肝臓[胆汁欝滞性黄疸]。9)投与部位[疼痛、硬結]。10)その他[頭痛、眩暈、抑鬱、倦怠感]。

estradiol valerate
プロギノン・デポー(富士)
ペラニン・デポー(持田)
[適]無月経、月経周期異常(稀発月経、多発月経)、月経量異常(過少月経、過多月経)、月経困難症、機能性子宮出血、子宮発育不全、卵巣欠落症状、更年期障害、不妊症。

重大:1)血栓症。

その他:1)過敏症[過敏症状]。2)精神神経[精神障害の既往患者に再発]。3)電解質代謝[特に大量継続投与:高Ca血症、Naや体液の貯留]。4)子宮[消退出血、不正出血、経血量変化等]。5)乳房[乳房痛、乳房緊満感]。6)投与部位[疼痛、硬結]。7)その他[頭痛]

ethinylestradiol
プロセキソール錠(あすか)
[適]前立腺癌、閉経後の末期乳癌(男性ホルモン療法に抵抗を示す場合)

重大:1)血栓症[長期連用:血栓症(心筋、脳、四肢等)]。2)心不全、狭心症。
その他:1)過敏症[発疹等]。2)肝臓[肝機能異常、黄疸等]。3)循環器[血圧上昇等]。4)電解質代謝[高Ca血症、Naや体液の貯留]。5)子宮[不正出血、経血量変化、下腹部痛等]。6)乳房[乳房緊満感、乳房痛等]。7)消化器[悪心・嘔吐、食欲不振、下痢、腹痛、胃痛等]。8)精神神経[精神障害既往の再発]。9)その他[頭痛、眩暈、倦怠感、陰萎]

estriolとそのエステル体

estriol
エストリール錠(持田)
ホーリン注(あすか)
[適] (内)1)更年期障害、膣炎(老人、小児及び非特異性)、子宮頚管炎並びに子宮腟部糜爛。2)老人性骨粗鬆症(0.5・1mg錠)。(注)分娩時の頸管軟化。

重大:血栓症[卵胞ホルモンの長期連用で報告]。
その他:1)過敏症[発疹等]。2)子宮[不正出血、帯下増加等]。3)乳房[乳房痛、乳房緊満感]。4)投与部位 (注)[腫張、発赤、疼痛、硬結]。5)肝臓(内)[AST・ALT上昇等]。6)消化器(内)[悪心・嘔吐、食欲不振等]。7)その他(内)[眩暈、脱力感、全身熱感、体重増加]

estriol(tri)propionate
エストリール・デポー注(持田)

重大:血栓症[卵胞ホルモンの長期連用で報告]。
その他:1)過敏症[発疹等]。2)子宮[消退出血、不正出血]。3)乳房[乳房痛、乳房緊満感]。4)投与部位[腫張、発赤、疼痛、硬結]。

estriol acetate benzoate
ホーリンデポー注(あすか)
[適]更年期障害、膣炎(老人、小児及び非特異性)、子宮頚管炎並びに子宮腟部糜爛、分娩時の頸管軟化。

重大:血栓症[卵胞ホルモンの長期連用で報告]。
その他:1)過敏症[発疹等]。2)子宮[消退出血、不正出血]。3)乳房[乳房痛、乳房緊満感]。4)投与部位[腫張、発赤、疼痛、硬結]。

結合型エストロゲン

estrogens conjugated
プレマリン錠(ワイス)
[適]更年期障害、卵巣欠落症状、卵巣機能不全、膣炎(老人、小児及び非特異性)、分娩時の頸管軟化。

重大:血栓症、血栓塞栓症[四肢、肺、心、脳、網膜等]。
その他:1)過敏症[発疹、蕁麻疹]。2)電解質異常[特に大量継続投与:Naや体液の貯留(浮腫、体重増加等)]。3)生殖器[帯下増加、不正出血、経血量の変化]。4)乳房[乳房痛、乳房緊満感]。5)消化器[腹痛、悪心・嘔吐、食欲不振、膵炎]。6)皮膚[色素沈着、脱毛]。7)精神神経[頭痛、眩暈]。8)肝臓[AST・ALT・Al-P上昇等]。

合成卵胞ホルモン

fosfestrol
ホンバン錠・注(杏林)
[適]前立腺癌

重大:1)血栓症[冠動脈、脳、四肢等]。2)心筋梗塞、心不全。
その他:1)循環器[心電図異常、心悸亢進]。2)肝臓[黄疸、AST・ALT・γ-GTP・Al-P上昇等]。3)電解質異常[高Ca血症、Naや体液の貯留]。4)脂質代謝[脂質代謝異常]。5)精神神経[眩暈、頭痛、知覚異常、精神障害の既往者の再発]。6)消化器[悪心・嘔吐、食欲不振、下痢、腹痛]。7)過敏症[発疹等]。8)乳房[乳腺・乳房腫脹、乳房痛、乳頭周囲の色素沈着等]。9)その他[肛門・陰部周囲の掻痒感・灼熱感・しびれ感、尿道狭窄、発熱、浮腫、蛋白尿、倦怠感、陰萎、胸部圧迫]。

以上のestrogen製剤の中で、副作用に『体重増加』の記載があるのは、estradiol・estriol・estrogens conjugatedの3種類である。そのうちestradiol・estriolはその他の分類であり、estrogens conjugatedは電解質異常に分類されている。但しestriolの副作用として報告されている体重増加は、調査症例数1,234例中副作用発現症例数60例、副作用発現件数73件中僅かに1例(0.08%)のみである。

但し、黄体ホルモン(progesterone)であるnorethisterone等とestradiolの配合剤である経口避妊薬(oral contraceptive)では次の報告がされている。

estrogenはナトリウム貯留の原因となることがある;一部の服用者は、浮腫を起こし、体重が3-5ポンド(1.36-2.27kg)増える場合もある。progestin(黄体ホルモン)は同化作用を持ち、食欲を増すために体重が増加する女性もいる。従って女性の体重が4.5kg/年以上増加した場合は、progestin作用の弱い経口避妊薬を用いるべきであり、もし女性が減量を試みても成功しない場合は、経口避妊薬を中止しなければならない。

経口避妊薬によって、一部のビタミン、微量ミネラル及び脂質の血清値が変化することがある。pyridoxine(vitaminB6)、葉酸、他の殆どのvitaminB、アスコルビン酸、カルシウム、マンガン、亜鉛値は低下する。vitamin A値は上昇する。しかし、これらの変化について臨床的な重要性は認められていない。従って、経口避妊薬服用中の女性にビタミン剤を補充する必要はないとする報告がされている。

 

1)高久史麿・他監修:治療薬マニュアル;医学書院,2007
2)エストリール錠IF,2000.11.
3)福島雅典・総監修:メルクマニュアル 第17版 日本語版;日経BP社,1999

[065.EST:2007.3.23.古泉秀夫]