『アルツハイマー病ワクチン』

KW:薬名検索・ワクチン・アルツハイマー病・AβN-20・amyloid-β・アミロイド-β・点鼻用ワクチン・AN-1792

 

Q:アルツハイマー病のワクチンが開発中と聞いたが、それはどの様なものか

A:アルツハイマー病ワクチンについて、次の報告が見られる。

アルツハイマー病ワクチン経口剤AβN-20(化血研-ジェノラックBL)は、アルツハイマー病(Alzheimer disease)の原因となる老人斑構成成分であるamyloid-βを乳酸菌を担体として組込んだAlzheimer diseaseの治療・予防薬である。
アルツハイマー病の病態について、amyloid-βの凝集・沈着による老人斑の形成が原因であるとするアミロイドカスケード仮説が有力であるが、この仮説をもとにアルツハイマー病の新しい治療法としてのワクチン療法が注目されている。ワクチン療法の目的はamyloid-βをワクチンとして投与し、それに対する抗体を体内で産生させ、抗体が老人斑を除去し、更に分泌されたamyloid-βの凝集・沈着を抑制することにより神経細胞の脱落を防止しようとするものである。
amyloid-βの液性免疫惹起部位を含む断片をコードするDNAをもとに、微生物を形質転換させ、AβN-20を発現する発現ベクター構築した。その微生物として乳酸菌を使用した。AβN-20の懸濁液各投与量をマウスに週7日間に6回経口投与し、4週間継続投与した。血液中の抗体産生を確認するため、実験開始前、投与開始から3週間後、5週間後、6週間後、7週間後の計5回採血した。その結果、AβN-20投与マウス群では、amyloid-βを発現しないベクターのみを投与したコントロール群に比較して血清中の有意な抗体上昇が認められた。

アルツハイマー病点鼻ワクチン(ディナベック-長寿医療センター)は、センダイウイルスベクターを利用したアルツハイマー病治療用点鼻ワクチンである。センダイウイルスベクターにアルツハイマー病の原因となる蛋白質amyloid-βの一部を作るRNA(リボ核酸)を組込む。これを鼻から吸入すると細胞に入り込み、amyloid-βに似た物質を作り始める。その結果、人体の免疫機能が働いてamyloid-βの固まりを除去する抗体を生み出し、症状を改善する仕組み。マウスへの1回経鼻投与で、脳の前頭葉や頭頂葉等でアルツハイマー病特有の老人斑が大幅に減少することが確認された。髄膜脳炎等の副作用は認められなかった。開発機関2009年を目途に臨床開始を目指している。センダイウイルスベクターは細胞質で働くため、外来の遺伝子が挿入される事により起きる副作用は回避されると報告されている。

Aβ42ワクチン(Novartis Pharma-東京都神経科学総合研究所):松本陽・分子神経病理学部門長らはアルツハイマー病の予防や治療につながる安全性の高いワクチンを開発した。DNA(デオキシリボ核酸)を運び役に使い、病気の原因と疑われる物質の増加を抑える遺伝子を患者の体内に導入する。スイスの製薬大手ノバルティスと共同で動物実験に成功、早期の臨床試験開始を目指す。アルツハイマー病は脳に「amyloid-β」と呼ぶたんぱく質の小片が蓄積して老人斑と呼ぶ染みができ、神経細胞が死んで起きるとされる。最近の研究で、amyloid-βを体内に入れると免疫反応が起こり、脳内に蓄積したamyloid-βの量が減ることが分かっている。都神経研の松本部門長と大倉良夫研究員らはこの仕組みに着目。amyloid-βを作る遺伝子を患者の体内に入れる遺伝子治療技術を応用し、穏やかな免疫反応を起こすワクチン療法を考案した[2004年9月14日/日経産業新聞]。Aβ42ワクチンはAβペプチドワクチンに替えて、プラスミドと呼ぶ環状DNAにamyloid-βの遺伝子を組込んだワクチン(非ウイルス性AβDNAワクチン)を開発したもの。遺伝子治療で一般的なウイルスベクターを使う方法よりも遺伝子導入率が弱く、繰返し注射が必要だが、ウイルス異常増殖や白血病などの副作用の危険が少なく、安全性が高いと報告されている。

AN-1792(Elan社-Wyeth社):2001年9月から欧米の計5カ国で行われていたアルツハイマー病ワクチンAN-1792のフェーズIIの臨床試験が中止されたことが分かった。3月1日に、臨床試験を共同で実施していたアイルランドのElan社と米国のWyeth社が、プラセボ群を含む360例のうち15例の患者に、重篤な脳炎症状の副作用が出現したため、治験を中止すると正式に発表した[日経メディカル 2002年4月号]。

 

1)研究開発Report;New Current,18(3):51(2007.2.1.)
2)治験薬一覧表;New Current,17(28):27(2006.12.20.)

                                               [011.1.ALZ:2007.3.23.古泉秀夫]