『トリクロサンについて』

KW:滅菌・消毒・トリクロサン・triclosan・イルガサンDP-300・固形石鹸・液体石鹸・デオドラントスプレー等体臭防止剤・CAS-3380-34-5

 

Q:殺菌消毒薬トリクロサンについて

A:トリクロサン (triclosan) は、白色の粉末で僅かに特異臭がある。mp:55-58℃。本品は水に溶け難く、アルカリに溶ける。酸、アルカリに安定で、200℃で安定。triclosanは次亜塩素酸やジクロルイソシアヌール酸などに対しては不安定である。またtriclosanは紫外線や高温下に長く放置すると変色するが、分解は殆ど無いとされる。化学名:2,4,4′-trichloro-2′-hydroxy diphenyl ether、IUPAC:5-クロロ-2-(2,4-ジクロロフェノキシ)フェノール(5-chloro-2-[2,4-dichlorophenoxyl]phenol)。分子式:C12H7Cl3O2=289.5。CAS-3380-34-5。

triclosan(イルガサンDP-300)は、 ビスフェノール構造をもった抗菌・抗真菌作用を示す物質で、 熱に安定な性質のため、 手指消毒用の石鹸やローションから歯磨き粉等のヘルスケア用品をはじめ、 子供用玩具、 台所用品や手術用ドレープなどのプラスチックや布地などに、 幅広く使用されている。triclosanは他の消毒剤と同様に、 細菌側の多種類のターゲットに作用して効果を発揮すると考えられてきたが、 近年、 その作用機序はenoyl-acyl carrior protein reductase(FabI)をターゲットとする脂肪酸合成阻害にあることが示された。細菌による薬剤耐性獲得機序は、 FabIの変異や過剰発現によるもの、 triclosanを含む多剤排出ポンプによるもの、 triclosanを分解することによるものがあるが、 triclosan耐性が他の薬剤と交差耐性もつ可能性も指摘されている。

ネオグリンス(丸石製薬)は医薬部外品原料規格に収載されている殺菌剤triclosan(イルガサンDP-300)を0.3w/v%含有しており、皮膚の殺菌・消毒及び洗浄に適している薬用石ケン液である。

 
ネオグリンスの適応は

 
○ 医局・薬局・病室等で直接医療に従事する者の手指の殺菌・消毒
○ 手洗所等における手指の殺菌・消毒
○ 入浴・シャワー時の全身洗浄
○ 体臭や汗臭の予防

等とされている。

適用範囲:殺菌消毒剤:固形石鹸・液体石鹸(一般用:デオドラント石鹸、薬用石鹸、工業用:病院用・食品工場用・公衆衛生用の石鹸)、デオドラントスプレー等体臭防止剤、衣料品の衛生加工、医療用の洗剤、衛生仕上げ剤、業務用繊維製品の殺菌。

抗菌性:グラム陽性菌、グラム陰性菌に有効であるが、グラム陰性菌の中には効果の低いものがある。

作用機序:低濃度で細菌に吸着し、栄養物等の摂取を妨げる。高濃度では細菌の原形質膜を破壊する。

使用濃度:薬用石鹸・デオドラント石鹸・洗顔剤:0.3-0.5%・ デオドラントスプレー等体臭防止剤:0.15%

抗菌性(MIC)

細菌名 濃度
Staphylococcus aureus(黄色ブドウ球菌) 0.1ppm以下
Escherichia coli(大腸菌) 0.3ppm以下

 

安全性:[経口(LD50)]マウス:4500mg/kg、イヌ:5000mg/kg、ウサギ:9300mg/kg。光毒性、発癌性、再生試験に対する毒性は認められていない。

取扱い上の注意:特にないが、皮膚や眼に触れた場合は、流水でよく洗い流すこと。
廃棄処理の方法:廃水中のtriclosanは汚泥に吸着し除去される。廃水中のphenolの規制を受ける。30ppm(phenol 5ppmに相当量)

triclosan自体は常温ではダイオキシン(dioxin)に化学変化することはないと考えられているが、dioxinの発生が懸念されるされるような低温焼却炉では、triclosanがdioxin類に転化する可能性が示唆されている。

 

1)日本防菌防黴学会事典編集委員会・編:防菌防黴事典;日本防菌防黴学会,1986
2)Y’sSquare:http://www.yoshida-pharm.com/text/05/5_4_3.html2007.3.2.
3)THE Merck Index,14th.,2006
4)ネオグリンス®添付文書,2006

 

[615.28.TRI:2007.3.5.古泉秀夫]