『アルツハイマー治療薬metrifonateについて』

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Q:アルツハイマー病治療薬metrifonateについて

A:metrifonate(メトリフォネート)は、コリンエステラーゼ阻害薬である。本品は有機リン化合物であり、1952年以降、殺虫剤や住血吸虫症の治療薬として数百万人の患者に投与されてきた。

分類:有機リン製剤。

治験記号:Ba-a9826(バイエル薬品)。metrifonateは生体内で活性代謝物dichlrvosに変換されて、AChE(acetylcholine esterase)阻害作用を示す。

別 名:トリクロルホン(trichlorfon)、chlorofos、DEP、DETF、dipterex、dimethyl-1-hydroxy-2,2,2-trichloroethanephosphonate、O,O-dimethyl(2,2,2-trichloro-1-hydroxyethyl)phosphonate、metrifonate、foschlor、trichlorofon、trichlorphon。CAS-52-68-6、CAS化学名:dimethyl 2,2,2-trichloro-1-hydroxyethylphosphonate。

trichlorfonは低毒性の有機リン殺虫剤である。白色の結晶。水に溶ける。浸透移行性が強い。蒸気圧が高く、残効性が低い。殺虫作用には比較的選択性がある。人畜毒性はマラチオンと同程度である。アルカリ性の条件で分解してDDVP(dichlrvos)になる。米、野菜、果実、茶などに使用。trichlorfonはmetrifonateの名前で、ヒトのビルハルツ住血吸虫(Schitosoma haematobium)症の治療に用いられていたことがあり、dichlrvosの発生源と見なされている。

農薬として使用されたtrichlorfonは土壌中で速やかに分解し、一般的には、使用後1カ月以内に、無視し得る濃度にまで減少する。また、水中ではpH5.5以下で比較的安定である。アルカリ側のpHでは、trichlorfonはdichlrvosに変化する。微生物及び植物はtrichlorfonを代謝すると考えられるが、最も重要な排除経路は非生物的な加水分解である。

metrifonateは、ヒト体内で代謝を受けて活性型となりcholinesterase(ChE)となる、いわゆる長時間作用型のプロドラッグとして働く。半減期は約2カ月と、効果は持続的である。典型的なコリン性副作用、全般的臨床スコア、認知機能ともに改善しているという結果が出ている。その他、非可逆性のAChE阻害剤として開発されたmetrifonateそのものはプロドラッグであり、体内で代謝を受け、活性型となり、AChE阻害作用を持つ。その活性型の半減期は60日と長いとする報告も見られる。

metrifonateは、新たな長時間作用型のAChE阻害薬。本剤の患者のADLに対する影響を検討した報告、介護者の負担感に対する影響を検討した報告、ApoE遺伝子型が本剤の反応を予測し得るか否か検討した報告は、エビデンスから除外した。 また対象例数の少ない報告もエビデンスから除外した。初期の検討では、副作用は少ないとされていたが、後の臨床試験において有害事象として呼吸麻痺や神経筋伝達における障害が報告され、開発が中止されている。 日本において開発の予定はないと報告されている。 実地臨床において推奨することはできない。

 

 

1)高杉益充:新薬展望2001-総論;医薬ジャーナル,37(増刊号):19-25(2001)
2)薬科学大事典 第2版;廣川書店,1990
3)トリクロルホン Trichlorfon;http://www.nihs.go.jp/html,2007.2.12.
4)トリクロルホン(DEP・ディプテレックス):環境汚染問題;http://www2.sala.or.jp/~bandaikw/index.htm,2007.2.12.
5)アルツハイマー型痴呆:Minds医療情報サービス,2007.2.12.
6)武田雅俊・他:第42回日本老年医学会学術集会記録<シンポジウムII:老年者の心の新しい医療>1.痴呆老人の治療とケア;老年医学会雑誌,37(11):879-881(2000.11.)

[011.1.MET:2007.2.19.古泉秀夫]