第2回薬害イレッサシンポジウム傍聴記

                                                                  医薬品情報21
                                                                        古泉秀夫

 

2007年12月8日(土曜日)『薬害イレッサ東京支援連絡会』が主催する『第2回薬害イレッサシンポジウム』に出かけてきた。

会場は野口英世記念会館で、JR千駄ヶ谷駅から四谷四丁目方向に9分ばかり歩いたところにあるということなので、2時からの開会であったが、11時30分には家を出た。少なくとも品川まで30分、千駄ヶ谷まで30分として、探し当たる時間と、地図上では御苑正門なる書き込みが見られるので、時間があれば紅葉の写真でも撮るかという余計な計画を付け加えての早立ちである。

しかし、驚いたことに御苑正門は、あまり正門には見えない門があり、しかも閉鎖中のため、ここからは入れませんという案内が出ていた。塀沿いに入り口までと考え、野口英世記念会館前を通り過ぎて、しばらく歩いてみたが、入り口に行くためには、とてものことに時間が足りそうもないということで、紅葉の写真を撮るのはあきらめ、食事をすませて早めに会場に入った。

プログラムは第一部が朗読劇『がん患者の命の重さを問う』-切り捨てられた、三津子の生から-。

第二部がパネルディスカッションで、パネリストは別府宏圀(医師・医薬品治療研究会代表)・松山圭子(青森公立大学教授)・清水鳩子(主婦連参与)・山村伊吹(薬害ヤコブ病東京訴訟原告団副団長)の4氏で、司会は水口真寿美氏(薬害イレッサ弁護団・薬害オンブズパースン会議事務局長)が担当していた。

弁護士が中心で、大衆的な支援の輪を広げたいという目的が前面にでているため、些か情緒的にならざるを得ないという点からいえば、第一部の朗読劇は、将に大衆受けを狙った企画ということで、その意味ではそれなりに成功していたということかもしれない。

ただ、パネルディスカッションについては、薬害を糾弾すればいいということで、視野狭窄的な発言の流れが出来てしまうということは避けるべきではなかったのか。例えば1985年に聴神経腫瘍摘出手術の際に移植を受けた『ヒト乾燥硬膜ライオデュラ』によってクロイッフェルトヤコブ病に感染したという事例で、その当時、医師は『ヒト乾燥硬膜ライオデュラ』の使用について、何の説明もしなかったという発言がされていたが、インフォームド・コンセントが定着している現状に照らし合わせて判断されたのでは、医療関係者はたまったものではない。

第一あの当時、医療材料である『ヒト乾燥硬膜ライオデュラ』から、クロイッフェルトヤコブ病(Creutzfeldt-Jakob disease)が感染するなどという考えは、誰も思ってもいなかったというのが正直なところではないか。その危険性に気付いていた医師や役人がいたかといえば、誰もいなかったというのがあの当時の実態だったのではないか。

更に副作用のない薬はないという現実に立って論議を進めることも必要ではないのか。例えば『間質性肺炎』については、イレッサだけの副作用ではなく、小柴胡湯等の漢方製剤でも発現するのである。

『薬』の人に対する作用には『正』の作用と『負』の作用があり、ヒトにとって好ましい『正』の作用を効果といい、好ましくない『負』の作用を副作用と、これはヒトが勝手に決めていることである。更に多種多様な薬が開発され、その結果ヒトの寿命が延びたということもまた事実である。従って、薬について論議する場合、薬=悪という短絡的な論議に特化することは避けなければならないと考えている。

しかし、このような私見を述べたからといって、イレッサの問題を容認しているわけではない。第一他の国に先駆けて、2002年1月の承認申請から僅か6カ月という短期間で、承認しなければならない特段の理由があったのかどうか。兎に角ものは抗がん剤である。十分に検討しなければならない性質の薬を短期間で承認してしまったという点については、些か納得がいかないのである。

更に副作用による死亡例が何例出たら製造・販売を中止するという基準はないようであるが、イレッサの場合、急性肺障害・間質性肺炎の副作用が発症した1,708人中676人が死亡したとされている。何れにしろ死亡者数が多すぎはしないか。この間、投与された患者のうち何名の患者が治癒したのか知らないが、1薬物の副作用死としては、明らかに多すぎる。因果関係がどうであれ、取り敢えず使用を中断し、使用の是非について検討すべきではないのか。何を躊躇っているのか判らないが、厚労省の対応の仕方には疑問を持たざるを得ない。

  『疑わしきは使用せず』。

これが医薬品使用上の鉄則のはずである。

                                                              

   (2007.12.14.)