「受動喫煙と中耳炎の関係」
KW:副作用・煙草・タバコ・受動喫煙・二次喫煙・中耳炎・急性中耳炎・環境たばこ煙・ETS・environmental tobacco smoke
Q:受動喫煙によって中耳炎が起こるという話があるが、中耳炎発現の理由はどのように説明されているのか。
A:米国における禁煙の動機付けの一つとして、『自分の子供に二次喫煙による有害な影響(耳や気道の感染の増加、喘息の悪化)を与える可能性があることを知って禁煙する』とする紹介[文献?p.2482]がされている。また小児の急性中耳炎について『副流煙による受動喫煙が、危険因子として示唆されている』[文献?p.675]。『煙草の煙に曝されていたり、おしゃぶりを使用している子供では、中耳炎にかかるリスクがかなり高くなる。これらはいずれも耳管の働きを妨げ、中耳の通気に影響を与えるからである』[文献?p.1607]とする報告も見られる。
また、厚生労働省の最新たばこ情報『21世紀のたばこ対策検討会(第1回)』報告として、次の資料が見られる。
平成10年2月24日
厚生省保健医療局
□受動喫煙によるリスクは、米国環境保護庁(EPA)により環境たばこ煙(ETS)は人体に発がん性のある「A級発がん物質」と分類され、がん、呼吸器疾患、循環器疾患、小児の発育毒性について因果関係が立証されている(表2) 。
□ニコチンの代謝産物であるコチニンが受動喫煙の指標として広く用いられているが、我が国の住民検診の対象者においても、家庭と職場の両方で曝露の程度の高い集団ほど、尿中コチニンの検出される割合が高いことが示されている。さらに、喫煙者がいて子供の前でも吸う家庭では、受動喫煙のない家庭に比べて、未就学児において血中鉛濃度が有意に高いことが示されている。
表2 環境たばこ煙(ETS)による健康被害
健康被害 | 因果関係が証明されている | 因果関係が示唆されている |
発育への影響 | 低出生体重児、乳幼児突然死症候群 | 自然流産、認知・行動障害 |
発がんへの影響 | 肺がん、鼻腔がん | 子宮頚がん |
呼吸器への影響 | 小児の気管支炎・肺炎、喘息誘発・増悪、慢性呼吸器症状、滲出性中耳炎、成人の眼や鼻への刺激症状 | 嚢胞性線維症の増悪、肺機能の低下 |
循環器への影響 | 心疾患死亡、急性・慢性の冠状動脈性心疾患罹患 |
(ETS; environmental tobacco smoke)
その他、次の報告も見られる。
『反復感染を含む急性中耳炎や慢性滲出性中耳炎の罹患者は、受動喫煙の害を受けている子供達の間で増えている。煙草を吸う家庭では中耳炎はほぼ3倍多く発生する。又は家庭で受動喫煙にさらされている子供は、中耳炎に1.5-2倍かかり易くなる』等がインターネットのページ上に喫煙と中耳炎の関係として散見される。但し、成人の中耳炎に関する記載はなく、乳児・小児に限定された情報と思われる。
日本禁煙推進医師歯科医師連盟-受動喫煙の診断基準委員会による受動喫煙症の分類と診断基準-に、レベル4(慢性受動喫煙症)として、中耳炎の記載が見られる。
レベル0 | 正常 | 非喫煙者で、受動喫煙の機会がない。 |
レベル1 | 無症候性急性受動喫煙症 |
(疾患)急性受動喫煙があるが、無症候の場合。 |
レベル2 | 無症候性慢性受動喫煙症 |
(疾患)慢性受動喫煙があるが、無症候の場合。 |
レベル3 | 急性受動喫煙症 |
(疾患)目・鼻・喉・気管の障害、頭痛、咳、喘息、狭心症、心筋梗塞、一過性脳虚血発作、脳梗塞、発疹、アレルギー性皮膚炎、化学物質過敏症 (診断)非喫煙者がタバコの煙に曝露した事実のみで、コチニン検出は不要。 (注意)眼症状にはかゆみ、痛み、涙、瞬目などがある。鼻症状にはくしゃみ、鼻閉、かゆみ、鼻汁などがある。これらは一般に非喫煙者の方が強い反応を示す。 1.症状の出現が受動喫煙曝露開始(増大)後に始まった 2.疾患の症状が受動喫煙の停止とともに消失する 3.タバコ煙以外の有害物質曝露がないの3点があれば、可能性が高い。 |
レベル4 | 慢性受動喫煙症 |
(疾患)化学物質過敏症、アトピー性皮膚炎、気管支喘息、狭心症、心筋梗塞、脳梗塞、COPD、小児の肺炎、中耳炎、気管支炎、副鼻腔炎、身体的発育障害など。 |
レベル5 | 重症受動喫煙症 |
(疾患)悪性腫瘍(とくに肺癌など)、乳幼児突然死症候群、COPD、脳梗塞、心筋梗塞(致死性の疾患の場合) |
受動喫煙と子供の中耳炎の関係については、海外で既に100報以上の論文が出ており、中耳炎の患児を診察する際に、家族の喫煙状況を問診することは、欧米では常識とされている。
受動喫煙によって中耳炎が起きやすくなる機序は、耳管や中耳の粘膜や繊毛細胞が障害を受けて、粘液の性状が変化したり繊毛運動が低下して細菌が侵入しやすくなること、また化学的刺激によって耳管が閉塞したり、局所免疫機能が低下して細菌やウイルスが感染しやすくなることが指摘されている。
[065.ETS:2006.11.13.古泉秀夫]
1)メルクマニュアル第17版日本語版;日経BP社,1999
2)http://www.health-net.or.jp/tobacco/21c_tobacco/1st/20.html,2006.11.8.
3)国立国際医療センター薬剤部医薬品情報管理室・私信,2006.11
4)加治正行:子供の受動喫煙による中耳炎の増加;http://www.abe.or.jp/tobacco/slide2_12.asp,2006.11.8.
5)最新メルクマニュアル医学百科家庭版;日経BP社,2004