Archive for 1月 12th, 2008

トップページ»

「野生スイカについて」

土曜日, 1月 12th, 2008

KW:健康食品・機能性食品・野生スイカ・カラハリスイカ・シトルリン・citrulline・猛毒活性酸素・ヒドロキシルラジカル・hydroxyl radical・メタロチオネイン・metallothionein

 

Q:TV放送されていた野生のスイカについて

A:カラハリ砂漠原産の野生スイカ(カラハリスイカ)は、水のない状態で強い光・乾燥に耐えることができるとされている。この強光・乾燥耐性は細胞内に大量のシトルリン(citrulline)を蓄積するためで、citrullineは安定で無害なアミノ酸であるが、肌の大敵である猛毒活性酸素(ヒドロキシルラジカル:hydroxyl radical)を強力に分解する。また、カラハリスイカは保水効果が高いと報告されている。奈良先端科学技術大学院大学は、世界に先駆けて、多くの野生スイカ特許を出願している。

アフリカのカラハリ砂漠で育つ野生スイカが特定のアミノ酸などの働きで、有害な活性酸素を抑制し、過酷な環境から身を守っていることが突き止められた。この仕組みの解明により、強い日差しや乾燥に強い植物の改良に役立つのではないかといい、原産地のアフリカ南部、ボツワナと共同研究を進めることを決めた。研究者らは、カラハリ砂漠に自生するスイカが、強い日差しと極度の乾燥のため、細胞を傷つける活性酸素が発生しやすい環境なのに水分を豊富に蓄え、枯れないことに注目し、分析した。その結果、葉にアミノ酸の一種citrullineが大量に蓄積され、活性酸素が活動する前に、瞬時に分解していることが分かった。メタロチオネイン(metallothionein)という蛋白質にも同様の働きがあった。

灼熱の太陽が照りつける南アフリカ・カラハリ砂漠で、青々とした実をつける野生スイカに、生物体内で有害な働きをする活性酸素を消去する物質が大量に含まれていることを奈良先端化学技術大学院大学の横田明穂教授、明石欣也博士らの研究グループが突き止めた。アミノ酸の一種、citrullineで、活性酸素により、遺伝子本体のDNAが傷つくのを効率よく防ぐことが実験で確かめられた。citrullineの含有濃度は53g/Lで、他の生物に比べて1000倍以上も大量に含まれていた。citrullineは、もともと全ての生物体内で働いているので、副作用が少ないこともわかった。安全な活性酸素除去剤として、食品、医薬品、化粧品への応用が期待されている。

citrullineの活性酸素分解作用について、試験管内で実験を行ったところ、このアミノ酸は、hydroxyl radicalを速やかに分解した。体内で発生した活性酸素がDNAや、生理活性に係る酵素を傷つける前に、即座に分解してしまうことも判明。濃度をあげても、体内の生理作用に悪影響を与えないことも明らかにした。

citrullineとは、側鎖にウレイド(カルバミド)基(-NHCONH2-)を有する天然アミノ酸。蛋白質中には通常存在しないが、ペプチジルアルギニンデイミナーゼによる翻訳後修飾によりアルギニン残基がシトルリン残基に変換する。C6H13N3O3=175.19。M.Wada(1930)によりスイカの果汁から単離、命名された。生体内では尿素回路におけるアルギニン生合成の中間体として重要。ミトコンドリア中で、オルニチンのカルバモイル化により生成する。

metallothioneinとは、金属(メタル)をチオール基(チオ)を介して結合している蛋白質(protein)ということでメタロ-チオ-ネインと呼ばれている。1957年にMargoshesとValleeによってマウスの腎皮質からSH基が富むカドミウム結合蛋白として単離されたmetallothioneinは、哺乳類のみならず、両生類、爬虫類、鳥類、魚類、無脊椎動物等動物全般、更には植物や真核微生物、原核生物に至るまで、広くその存在が確認されている。また、metallothioneinは重金属毒性軽減作用を有しており、metallothionein合成を誘導した動物や培養細胞がカドミウムや無機水銀などの有害金属に対し、耐性を示すことが知られている。

metallothioneinは、ヒトを初め各種動物のみならず藍藻類に至るまで亜鉛、カドミウムなどを結合した状態で見いだされ、metallothionein類として分類されている。多くの哺乳動物でmetallothionein-Iとmetallothionein-IIの2種の亜型が存在し、ヒトやマウスではmetallothionein-IIIとmetallothionein-IVを含めた4種の亜型が確認されている。これらの亜型は、構成アミノ酸(metallothionein-I:61、metallothionein-II:61、metallothionein-III:68、metallothionein-IV:62)のうち20個をシステインが占め、しかもS-S結合を一つも持たず、チロシンなどの芳香族アミノ酸やヒスチジンを含まない低分子蛋白質(分子量:約7,000)である。また栄養素としての微量金属の研究により、中でも亜鉛がmetallothioneinという光防御蛋白質を作ることに注目し、紫外線対策についていくつかの方法が提案されている。

  [015.9.CIT:2007.2.13.古泉秀夫]

 

1)http://bsw3.naist.jp/yokota/research/Plant_High-Tech_Institute/jigyo.html,2005.3.2.
2)http://news.goo.ne.jp/news/kyodo/shakai/20050302/20050302a4380.html,2005.3.2.
3)http://www.shikoku-np.co.jp/news/news.aspx?id=20050302000347,2005.3.2.
4)http://www.g-osaka.co.jp/new/031117.html,2005.3.2.
5)http://www.north.ad.jp/hobia/contents/seminer18.htm,2005.3.2.
6)http://www.nara-shimbun.com/n_soc/050303/soc050303b.shtml,2005.3.2.
7)http://www.speciale.jp/word/07_metallo_01.html,2007.2.10.
8)佐藤雅彦・他:環境汚染バイオマーカーとしてのメタロチオネインの有用性;環境毒性学会誌2(1):27-34(1999)
9)薬科学大事典 第2版;廣川書店,1990
10)今堀和友・他編:生化学辞典 第3版;東京化学同人,1998

『感染症の分類-重要な感染症-改訂第2版』

土曜日, 1月 12th, 2008

KW:滅菌・消毒・感染症・感染症分類・一類感染症・二類感染症・三類感染症・四類感染症・五類感染症

 

Q:重要な感染症について、表にまとめたものはあるか。

A:重要な感染症の『重要な』は、取り方によって異なると考えられる。感染症としての『重症度』なのか、あるいは『院内感染』としての重要度なのか、『有効な治療薬がない感染症』であるために重要なのか等である。
しかし、取り敢えずということで、我が国において法律に基づいて分類されている感染症を表示してあるので、それを紹介する。なお、更に詳細な表が必要な場合、『感染症法中の感染症の分類と措置等 第三改訂』を参照すること。

一類感染症 エボラ出血熱、クリミア・コンゴ出血熱、痘そう(天然痘)、南米出血熱、ペスト、マールブルグ病、ラッサ熱 感染力、罹患した場合の重篤性から判断して、危険性が極めて高い感染症

二類感染症

急性灰白髄炎、結核、ジフテリア、重症急性呼吸器症候群(病原体がコロナウイルス属SARSコロナウイルスであるものに限る)。 感染力、罹患した場合の重篤性から判断して、危険性が高い感染症
三類感染症 コレラ、細菌性赤痢、腸管出血性大腸菌感染症、 腸チフス、パラチフス  感染力、罹患した場合の重篤性から判断して、危険性は高くないが、特定の職業への就業によって集団発生を起こしうる感染症
四類感染症 E型肝炎、A型肝炎、黄熱、Q熱、狂犬病、炭疽、鳥インフルエンザ、ボツリヌス症、マラリア、野兎病、ウエストナイル熱、エキノコックス症、オウム病、オムスク出血熱、回帰熱、キャサヌル森林熱、コクシジオイデス症、サル痘、腎症候性出血熱、西部ウマ脳炎、ダニ媒介性脳炎、つつが虫病、デング熱、東部ウマ脳炎、ニパウイルス感染症、日本紅斑熱、日本脳炎、ハンタウイルス肺症候群、Bウイルス病、鼻疽、ブルセラ症、ベネズエラウマ脳炎、ヘンドラウイルス感染症、発しんチフス、ライム病、リッサウイルス感染症、リフトバレー熱、類鼻疽、レジオネラ症、レプトスピラ症、ロッキー山紅斑熱。 既に知られている感染性の疾病であって、動物等の物件を介して人に感染し、国民の健康に影響を与えるおそれがあるものとして政令で定める感染症。
五類感染症

(全数把握)
ウイルス性肝炎(A型肝炎及びE型肝炎を除く)、クリプトスポリジウム症、後天性免疫不全症候群、梅毒、麻しん、風しん。
-省令で定める疾病-
アメーバ赤痢、急性脳炎(ウエストナイル脳炎、西部ウマ脳炎、ダニ媒介性脳炎、東部ウマ脳炎、日本脳炎、ベネズエラウマ脳炎及びリフトバレー熱を除く)、クロイツフェルト・ヤコブ病、劇症型溶血レンサ球菌感染症、ジアルジア症、髄膜炎菌性髄膜炎、先天性風しん症候群、破傷風、バンコマイシン耐性黄色ブドウ球菌感染症、バンコマイシン耐性腸球菌感染症。

(定点)
インフルエンザ(鳥インフルエンザを除く)、性器クラミジア感染症、メチシリン耐性黄色ブドウ球菌感染症。
-省令で定める疾病-
RSウイルス感染症、咽頭結膜熱、A群溶血性レンサ球菌咽頭炎、感染性胃腸炎、急性出血性結膜炎、クラミジア肺炎(オウム病を除く)、細菌性髄膜炎、水痘、性器ヘルペスウイルス感染症、尖圭コンジローマ(尖形コンジロームから変更)、手足口病、伝染性紅斑、突発性発しん、百日咳、ペニシリン耐性肺炎球菌感染症、ヘルパンギーナ、マイコプラズマ肺炎、無菌性髄膜炎、薬剤耐性緑膿菌感染症、流行性角膜炎、流行性耳下腺炎、淋菌感染症。

国が感染症発生動向調査を行い、その結果などに基づいて必要な情報を一般国民や医療関係者に提供・公開していくことによって、発生・拡大を防止すべき感染症。

 

今回、結核予防法が廃止(2007.4.1.)に伴い、『感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律』中に取込まれ、『二類感染症』として追加された。
また、今回、bio terrorへの使用が予測されるvirusが追加されており、その意味で重要な感染症の一覧とすることができる。

  [615.28.INF:2004.1.12.古泉秀夫・2007.4.9.・2008.1.7.改訂]

 

1)官報 号外第239号,15.10.16.
2)岡部信彦:感染症対策・予防接種の知識;調剤と情報,9(12):1679-1683(2003.11)
3)官報 号外第251号,15.10.30.
4)官報 第3716号,15.10.22.
5)基本医療六法編纂委員会・編:基本医療六法;中央法規,2002

『アルツハイマー病治療薬memantineについて』

土曜日, 1月 12th, 2008

KW:薬名検索・memantine・メマンチン・塩酸メマンチン・CAS-41100-52-1・SUN-Y-7017・axura・edixa・namenda・アルツハイマー病

 

Q:アルツハイマー病治療薬memantineについて

 

A:1982年、独逸において痴呆治療薬として使用されていた塩酸メマンチン(memantine HCl)が、アルツハイマー病の治療薬として、米国で最新の話題となっている。本剤は一部の試験で中等度から重度のアルツハイマー病に有効であることが示唆された。

化学名:1-amino-3,5-dimethyladamantane hydrochloride。CAS-41100-52-1

商品名:Namenda(米・Forest Laboratories社)。

別 名:Axura(Merz)、Ebixa(Lundbeck)。

治験記号:SUN-Y-7017(第一サントリーファーマ-第一製薬)。剤型:錠剤・液剤。

□アルツハイマー病に見られる退行性変化は、主にβ-アミロイドの蓄積に関連していると考えられている。β-アミロイドは色々多くの影響を及ぼすが、その中の一つは刺激性の神経伝達物質で、NMDA(N-メチル-D-アスパラギン酸)受容体の賦活剤であるグルタミンの伝達を阻害することである。グルタミン酸伝達は、学習と記憶に重要だと考えられている。NMDA受容体拮抗薬であるmemantineの使用を支持する説は、NMDA受容体におけるグルタミン酸の過剰刺激がニューロンに毒性を与えるというものである。

□本品の分類はN-メチル-d-アスパラギン酸(NMDA)受容体アンタゴニスト、グルタミン酸受容体のNMDAサブタイプ・アンタゴニスト、認知促進薬。適応症はアルツハイマー病の中等度ないしアルツハイマー型認知症。他の疾患における記憶障害。軽度認知障害。慢性頭痛。

□低ないし中等度の親和性を持つ非競合的(チャンネル開口)NMDA受容体アンタゴニストであり、NMDA受容体が調節する陽イオンチャンネルに優先的に結合する。アルツハイマー病で想定されている過剰なグルタミン酸遊離による持続的なNMDA受容体の活性化は恐らく阻害する。症状を改善し疾患の進行を遅らせることがあるが、変性過程をもとに戻すことはない。

副作用:恐らくNMDA受容体での過剰な作用による。ふらつき、頭痛、便秘。希にてんかん発作。

 

[011.1.MEM:2007.2.9.古泉秀夫]

 

1)Medical Letter<日本語版>,17(13)53(2001)
2)仙波純一・訳:精神科治療薬処方ガイド;メディカル・サイエンスインターナショナル,2006

「ツベルクリン検査にについて」

土曜日, 1月 12th, 2008

KW:語彙解釈・ツベルクリン・ツベルクリン検査・精製ツベルクリン・一般診断用・一般診断用強反応者用・確認診断用・結核予防法改正・年齢制限

 

Q:ツベルクリン検査の動向について

 

A:平成14年11月13日付で『結核予防法施行令』の一部が改正され、平成15年4月1日から『小・中学校におけるツベルクリン反応検査は廃止』されている。
理由として『平成7年にWHOが、BCGの複数回接種の有効性に関して疑問視していることや、小・中学校でのツベルクリン検査による結核患者の発見も殆どなく、また強陽性患者が出たとしても過去にBCGの接種を受けていた結果あるいは再ツベルクリン検査などで繰り返し接種した場合の影響等で、結核感染の判断をすることが困難になる等が挙げられている。

□平成16年6月15日付で新に『改正結核予防法』が成立し、平成17年4月1日から施行された。改正のポイントは

?ツベルクリン反応検査を廃止して直接BCG接種を実施、また定期健康診断や定期外健康診断の対象者・方法の見直し

?保健所・主治医によるOTSの実施

?国・地方公共団体の責務の規定

?国・都道府県の結核対策に係る計画の策定

?結核診査協議会の見直し

の5点である。

『結核予防法施行令の一部を改正する政令第332号』の概要(平成17年4月1日施行)

□BCGの接種

改正前 改正後

対象年齢
4歳未満のツ反陰性者
小学校1年のツ反陰性者*
中学校1年のツ反陰性者*

間隔:ツ反判定後2週間以内

*)小・中学生へのツベルクリン反応検査・BCG接種は平成14年11月13日付で結核予防法施行令が一部改正され、平成15年4月廃止。

定期の予防接種

生後6ヵ月(特別の事情によりやむを得ないと認められる場合においては1歳)に達するまでの期間

*)ツベルクリン反応検査は全廃される。

定期の予防接種

生後6ヵ月(特別の事情によりやむを得ないと認められる場合においては1歳)に達するまでの期間

*)ツベルクリン反応検査は全廃される。

(二)定期の健康診断を受けるべき者 定期
(1)学校(専修学校及び各種学校を含み、幼稚園を除く。)、病院、診療所、助産所、介護老人保健施設などにおいて業務に従事する者 毎年度
(2)大学、高等学校、高等専門学校、専修学校、又は各種学校(修業年限が1年未満のものは除く。)の学生又は生徒 入学した年度
(3)監獄に収容されている者 20歳の誕生日の属する年度以降において毎年度
(4)社会福祉法に規定されている施設に収容されている者 65歳の誕生日の属する年度以降において毎年度

 

(三)市町村が行う定期の健康診断を受けるべき者 定期
(1)他の者が行う健康診断の対象者以外の者

65歳の誕生日の属する年度以降において毎年度

(2)市町村が時に必要があると認める者 市町村が定める定期

 

定期の健康診断の回数を次のとおりとすることとした。

条件 回数
(1)(二)及び(三)(1)の健康診断にあっては、それぞれの定期において 1回
(2)(三)(2)の健康診断にあっては、市町村が定める定期において市町村が定める 回数

定期外健康診断について

初発患者が感染源となって接触者に感染させた疑いがある場合に感染の有無等を把握するため、及び当該初発患者に感染させたと疑われる者を発見する目的で以下の方法等必要な検査を実施する。

実施の方法[接触者検診・集団検診]

喀痰検査・胸部X線検査、聴診、打診、ツベルクリン反応検査等必要な検査。

以上の法律改正に伴い、次の製品は2005年3月末をもって製造・販売中止された。

製品 単位 備考
一般診断用強反応者用精製ツベルクリン(PPD) 0.2μg/2mL 経過措置期間:2006.3.31.
確認診断用精製ツベルクリン(PPD) 10 μg/2mL 経過措置期間:2006.3.31.
確認診断用精製ツベルクリン(PPD)1人用 2.5μg 1人用×10 経過措置期間:2006.3.31.
一般診断用精製ツベルクリン(PPD) 5μg/10mL [薬価未収載]
BCG接種用管針 10本入り  
BCG接種用管針煮沸ホルダー 20本立て  

継続して製造・販売される製品

製品 単位 備考
一般診断用精製ツベルクリン(PPD)

1μg/瓶
添付溶解液2mL(3mL/管)

約10人
一般診断用精製ツベルクリン(PPD)1人用

0.25μg/瓶
添付溶解液0.5mL

10瓶
乾燥BCGワクチン(経皮用・1人用) 12mg/ 1人分/管・溶剤0.15mL/管 器具1人分添付

 

[615.8TUB:2002.11.25.古泉秀夫・2007.4.3.・2007.6.18.改訂]

 

1)NEWS「改正結核予防法が成立」;日本医事新報,No.4182:70(2004.6.19.)
2)小学1年・中学1年に対するツベルクリン反応検査及びBCGの接種の中止にいて;事務連絡,2002.11.13.
3)結核予防法施行令の一部を改正する政令,第332号,2002.11.13.
4)結核予防法施行令の一部改正に伴う母子健康手帳の様式の改正について;雇児母発第1119001号,2002.11.19.
5)結核予防法の規則の一部を改正する省令;厚生労働省政令第9号,2003.2.4.
6)結核予防法施行令の一部を改正する政令(政令第303号)(厚生労働省);官報,第3949号:1-2(平成16年10月6日)
8)卸DI実例集第273回;卸薬業,29(8):485(2005)
9)政令第44号:感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律等の一部を改正する法律の施行に伴う関係政令の整備等に関する政令;官報,第4539:2-7(平成19年3月9日)

「受動喫煙と中耳炎の関係」

土曜日, 1月 12th, 2008

KW:副作用・煙草・タバコ・受動喫煙・二次喫煙・中耳炎・急性中耳炎・環境たばこ煙・ETS・environmental tobacco smoke

Q:受動喫煙によって中耳炎が起こるという話があるが、中耳炎発現の理由はどのように説明されているのか。

 

A:米国における禁煙の動機付けの一つとして、『自分の子供に二次喫煙による有害な影響(耳や気道の感染の増加、喘息の悪化)を与える可能性があることを知って禁煙する』とする紹介[文献?p.2482]がされている。また小児の急性中耳炎について『副流煙による受動喫煙が、危険因子として示唆されている』[文献?p.675]。『煙草の煙に曝されていたり、おしゃぶりを使用している子供では、中耳炎にかかるリスクがかなり高くなる。これらはいずれも耳管の働きを妨げ、中耳の通気に影響を与えるからである』[文献?p.1607]とする報告も見られる。

また、厚生労働省の最新たばこ情報『21世紀のたばこ対策検討会(第1回)』報告として、次の資料が見られる。

                                                              平成10年2月24日
                                                                厚生省保健医療局

 

受動喫煙によるリスクは、米国環境保護庁(EPA)により環境たばこ煙(ETS)は人体に発がん性のある「A級発がん物質」と分類され、がん、呼吸器疾患、循環器疾患、小児の発育毒性について因果関係が立証されている(表2) 。

ニコチンの代謝産物であるコチニンが受動喫煙の指標として広く用いられているが、我が国の住民検診の対象者においても、家庭と職場の両方で曝露の程度の高い集団ほど、尿中コチニンの検出される割合が高いことが示されている。さらに、喫煙者がいて子供の前でも吸う家庭では、受動喫煙のない家庭に比べて、未就学児において血中鉛濃度が有意に高いことが示されている。

表2 環境たばこ煙(ETS)による健康被害

健康被害 因果関係が証明されている 因果関係が示唆されている
発育への影響 低出生体重児、乳幼児突然死症候群 自然流産、認知・行動障害
発がんへの影響 肺がん、鼻腔がん 子宮頚がん
呼吸器への影響 小児の気管支炎・肺炎、喘息誘発・増悪、慢性呼吸器症状、滲出性中耳炎、成人の眼や鼻への刺激症状 嚢胞性線維症の増悪、肺機能の低下
循環器への影響 心疾患死亡、急性・慢性の冠状動脈性心疾患罹患  

(ETS; environmental tobacco smoke)

 

その他、次の報告も見られる。

『反復感染を含む急性中耳炎や慢性滲出性中耳炎の罹患者は、受動喫煙の害を受けている子供達の間で増えている。煙草を吸う家庭では中耳炎はほぼ3倍多く発生する。又は家庭で受動喫煙にさらされている子供は、中耳炎に1.5-2倍かかり易くなる』等がインターネットのページ上に喫煙と中耳炎の関係として散見される。但し、成人の中耳炎に関する記載はなく、乳児・小児に限定された情報と思われる。

日本禁煙推進医師歯科医師連盟-受動喫煙の診断基準委員会による受動喫煙症の分類と診断基準-に、レベル4(慢性受動喫煙症)として、中耳炎の記載が見られる。

レベル0 正常 非喫煙者で、受動喫煙の機会がない。
レベル1 無症候性急性受動喫煙症

(疾患)急性受動喫煙があるが、無症候の場合。
(診断)タバコ煙に曝露の病歴があればよい。コチニン検出は不要。
(注意)本人がタバコ煙曝露についての自覚なしに見過ごされることもある。

レベル2 無症候性慢性受動喫煙症

(疾患)慢性受動喫煙があるが、無症候の場合。
(診断)週1時間以上の曝露が繰り返しある。コチニンを検出できる。
(注意)本人がタバコ煙曝露についての自覚なしに見過ごされることもある。

レベル3 急性受動喫煙症

(疾患)目・鼻・喉・気管の障害、頭痛、咳、喘息、狭心症、心筋梗塞、一過性脳虚血発作、脳梗塞、発疹、アレルギー性皮膚炎、化学物質過敏症

(診断)非喫煙者がタバコの煙に曝露した事実のみで、コチニン検出は不要。

(注意)眼症状にはかゆみ、痛み、涙、瞬目などがある。鼻症状にはくしゃみ、鼻閉、かゆみ、鼻汁などがある。これらは一般に非喫煙者の方が強い反応を示す。

1.症状の出現が受動喫煙曝露開始(増大)後に始まった

2.疾患の症状が受動喫煙の停止とともに消失する

3.タバコ煙以外の有害物質曝露がないの3点があれば、可能性が高い。

レベル4 慢性受動喫煙症

(疾患)化学物質過敏症、アトピー性皮膚炎、気管支喘息、狭心症、心筋梗塞、脳梗塞、COPD、小児の肺炎、中耳炎、気管支炎、副鼻腔炎、身体的発育障害など。
(診断)非喫煙者が週1時間を超えて繰り返しタバコ煙に曝露。曝露後24時間以内に測定した尿からコチニンを検出。
(注意)但し、1日数分であっても連日避けられない受動喫煙がある場合はこれに起因する慢性の症状やタバコ病が発症する可能性がある。状況を総合的に判断し、1日1時間以内であっても受動喫煙症と診断して良い。

レベル5 重症受動喫煙症

(疾患)悪性腫瘍(とくに肺癌など)、乳幼児突然死症候群、COPD、脳梗塞、心筋梗塞(致死性の疾患の場合)
(診断)非喫煙者が週1時間を超えて繰り返しタバコ煙に曝露。曝露後24時間以内に測定した尿からコチニンを検出。
(注意)但し、1日数分であっても、連日避けられない受動喫煙がある場合はこれに起因する慢性の症状やタバコ病が発症する可能性がある。状況を総合的に判断し、1日1時間以内であっても受動喫煙症と診断して良い。

 

受動喫煙と子供の中耳炎の関係については、海外で既に100報以上の論文が出ており、中耳炎の患児を診察する際に、家族の喫煙状況を問診することは、欧米では常識とされている。

受動喫煙によって中耳炎が起きやすくなる機序は、耳管や中耳の粘膜や繊毛細胞が障害を受けて、粘液の性状が変化したり繊毛運動が低下して細菌が侵入しやすくなること、また化学的刺激によって耳管が閉塞したり、局所免疫機能が低下して細菌やウイルスが感染しやすくなることが指摘されている。

  [065.ETS:2006.11.13.古泉秀夫]

 

1)メルクマニュアル第17版日本語版;日経BP社,1999
2)http://www.health-net.or.jp/tobacco/21c_tobacco/1st/20.html,2006.11.8.
3)国立国際医療センター薬剤部医薬品情報管理室・私信,2006.11
4)加治正行:子供の受動喫煙による中耳炎の増加;http://www.abe.or.jp/tobacco/slide2_12.asp,2006.11.8.
5)最新メルクマニュアル医学百科家庭版;日経BP社,2004

医療事故に関する私的考察[3]

土曜日, 1月 12th, 2008

                                                                  医薬品情報21
                                                                      古泉秀夫

6.日本消化器学会の報告から

 

日本消化器学会の医療事故対策委員会が損害保険会社の賠償金支払い例を分析した結果が報告されていた[読売新聞,第44737号,2000.10.26.]。

事故が起きた肝臓・胆嚢・膵臓の主な検査・治療[( )内は死亡者数]

 

?開腹手術 75(27)
?腹腔鏡による胆嚢摘出術 50(4)
?内視鏡による胆嚢・膵臓造影 34(10)
?肝臓の組織採集検査(肝生検) 12(3)
?全身麻酔 11(4)
?採血 10(0)
?点滴 9(4)
?胆管出口の切開術 8(3)
?腹部血管造影 7(3)

 

分析の結果、初歩的なミスが原因の圧倒的多数を占めることが明らかになった。内視鏡を入れた途端に食道や直腸などに穴を開けたり、手術の際に異物を腹部に置き忘れたりする注意や技術で防げる事故が殆どだった。同委員会では「一部の医師の技術の未熟は明らか。再教育も必要」とし、医師の技量、経験などで保険料に差を付ける“荒療治”も必要としている。
データの大半は1989?1997年の9年分で約500件。内視鏡による消化管の検査と治療では、保険金支払い例が198件。目的とする消化管に到達する前の単純なミスが多く、死亡例も目立った。
肝胆膵の検査と治療では、344件に保険金が支払われた。殆ど初歩的なミスで、手術の際のガーゼや管の置き忘れが29件と最も多く、採血で神経を傷つけた例(8件)や縫合ミスによる手術後の出血(6件)、肝細胞を採集する検査で他の臓器を傷つけた例(4件)などがあった。腹部から管を入れる腹腔鏡による胆嚢摘出もミスが多く、今回の調査で関連事故が50件にのぼったととしている。

調査の結果について初歩的なミスと切り捨てるのも結構であるが、研修医・レジデントの期間を通して教育・訓練した時代の教育担当医はどの様な教育をしてきたのか。その当たりから掘り下げなければ、本当の意味での見直しにならないのではないか。単に『医師の技量、経験などで保険料に差を付ける“荒療治”も必要』等という簡単な結論では片付かないものが、医療教育の根元にあるのではないか。

7.個別的事項(続続)

 

 

報道時期 事故の概要 事故内容の問題点

1999年11月

薬剤調製ミス

大阪吹田市の国立循環器病センターで、心臓手術を受けた女児が、臨床工学技士が心筋保護液を混ぜていない蒸留水を使用したことにより死亡[読売新聞,2000.3.8.]

[1]臨床工学技士は、あくまで薬については専門外であり、製剤室業務を行うための薬剤師が配置されているのであれば、院内製剤として調製し、払い出すべきである。それを実施していなかったというところに最大の問題点があるといえる。

[2]継続中の作業の終了までは、決して作業を中断してはならないと言うのが、医療現場における過誤防止の鉄則である。これは病院薬剤師としての経験に基づく鉄則であり、マニュアルにも明記されているはずである。

[3]医師は身近にいる人間に安直に仕事の依頼をする傾向があるが、それぞれの専門性を評価し、薬の調製は全て薬剤部に依頼するの原則を遵守すべきである。

1999年11月 東京都中央区の聖路加国際病院で、昨年11月、親子二人が相次ぎ浴室で一酸化炭素中毒死した事故で、最初に亡くなった父親を治療した際の血液検査をした時、血中の一酸化炭素濃度が41.7%と、一酸化炭素中毒を疑わせる数値がでていたにも係わらず、これを見落とし、家族らに伝えていなかったことが2000年6月6日に分かった。事故は風呂釜の工事ミスで発生し、翌日長男が同じ風呂に入り一酸化炭素中毒で死亡した。父親の中毒の疑いが知らされていれば、長男の事故は防げた可能性もあるが、病院側は「父親の蘇生措置の時点で、中毒死を推測するのは困難だった」としている。病院側は、心停止状態で救急搬送された患者を既往の狭心症であると判断[読売新聞,2000年6月6日]。

予断を持って物事を見れば、結論は自ずから決まる。あるべき事実を事実として認識し、総合的に判断するのが科学だとすれば、データの一部に疑問を持たなかったというのは、明らかに失敗だったといえる。

報道の内容からだけでは、何故このような結果が生じたのかの背景は不明である。しかし、少なくとも治療に関係した医師のうちの誰か一人でもデータに疑念を持てば、結果は変わっていたのではないか。データを見ながらデータを読み切れないのでは、技術力低下をいわれても仕方がない。

あるいは専門分化し過ぎた現在の医療のありようが、化学物質の中毒を疑わせるデータを見逃させたとしたら日本の医療のあり方を変えない限りこのような事故が続くということである。

1999年12月 東京都豊島区の癌研究会附属病院で抗癌剤過剰投与による患者死亡事故が発生。主治医が誤って行った標準の3倍もの投薬指示に、薬剤部や当直医が何の疑問も抱かず、3日間にわたり副作用の強い抗癌剤が投与された結果だった。担当医が死因は投薬ミスと認めながら家族には死亡後3カ月も事実が伏せられ、警察への届出は未だにない。1999年12月16日、男性の注射や検査内容を書き込む3日分の「指示票」に抗癌剤などの薬品の投与日や回数を記入した際、本来1回投与したら3週間以上投与を避けるべき抗癌剤を3日続けて投与するよう丸印を付けてしまった。シスプラチンに付けるべきではない丸印を行を間違えて付けた結果[読売新聞,2000.4.27.]

総合病院における入院患者の基本は、日々容態の変化する急性期の患者である。従って退院間近の患者以外、治療は日々変化するのが当たり前のはずである。そのような医療機関で、頻繁に変更されるはずの注射薬が3日分の「指示票」で処理されていることに疑念を持つのである。必要とする注射薬は「注射処方せん」に記載し、薬局で1日分ずつ調剤するの原則さえ確立されていれば、行を間違えて丸印を付けるなどということはあり得ないことである。

通常、医師が指示簿に注射薬を記載し、注射伝票に看護婦が転記、薬剤師が払い出すという仕組みが多いはずであるが、注射薬も「処方せん」に医師自らが記載し、1日分ずつ調剤して出す方策を確立すべきであり、その結果、注射薬に関係する多くの事故の一部は防止できるはずである。

2000年1月
抗癌剤8倍量投与

大阪市天王寺区大阪赤十字病院で前立腺の末期癌で1999年12月22日入院した男性患者(63歳)が通常量の8倍の抗癌剤を投与され、副作用のため17日後に死亡していた。処方した研修医が別の薬剤の投与量と勘違いしたミス。
本来は10mgの投与量である抗癌剤を、別の薬と間違え80mg投与の指示を出した。看護婦が糖液に溶解して別の医師が男性に点滴。男性は副作用で白血球が減少して敗血症になり、2000年1月13日多臓器不全のため死亡した。[読売新聞,2000.3.10]。

注射薬の管理が、どうなっているのか記事内容だけでは理解できないが、注射薬の管理という面からいえば、病棟には余分な注射薬を置かないというのが基本原則である。従前は『箱渡し』ということで、病棟に箱ごと払出して、任意に使用するという方策が採られていたが、これは注射薬の誤用という面でも、薬品管理という面でも最悪の方法といわなければならない。次にセット制が導入され、各病棟毎の必要量を定め、必要最低量をセットにして2組のセットを定期的に交換する方法が導入されたが、まだ、定数量が多い、注射薬を取り出すのが看護婦・医師等特定できないという弱点がある。

セット制の欠陥を改善するために導入されたのが、処方せんに基づく個人渡し制(注射薬調剤)とセット制の併用である。この方式であれば、セットに入れる薬の数は最低限の臨時使用分ということであり、薬剤師が責任を持って調剤した注射薬が払い出されるため、注射薬の取扱に関する事故は限りなく減少するはずである。

2000年1月

松江市の国立療養所松江病院に入院中の少女が、人工呼吸器のスイッチを入れ忘れて死亡[読売新聞,2000.3.8.]

全医労国立松江病院支部の調査によると、11種50台以上の人工呼吸器を保有しているとされている。更に『多様な患児に対応するため機種が多種多様で、全機種の操作に精通することは困難』との意見を述べているが、機種の多様性は、患児の多様性だけの問題なのかどうか。国立療養所の宿命として医師が定着しない。補充のため派遣されてくる医師の出身大学が同じなら問題ないが、もし出身大学が異なっていれば、その都度使用機器の変更が求められる。『曰く、使用経験のない機械は使用できない』。手術用メス1本にまで従前使用していたものに固執する医師の性格からすると、機械ではなおさらそういう要求がでてくる可能性が予測される。

*医療内容の高度化に伴い、使用する医療機器も高度・複雑化しているのが現状であり、それらの機器を医師・看護婦で保守点検・操作することは困難である。医療機器の保守管理・操作を行う専門家(臨床工学士)を導入することが必要である。

2000年1月 沖縄県宜野湾市の国立療養所沖縄病院で、昨年7月に人工呼吸器の管が外れたALS患者が半年後の今年1月に死亡していたことを明らかにした[読売新聞,2000.4.30] 同上

1床当たりの職員数比較
先進国:2.14人
日 本:0.95人
[朝日新聞,2000.9.2.]

2000年2月

島根県伯太町が2月小学校6年生を対象に実施した予防接種で、3校の計46人に対して適量(0.1mL)の5倍のワクチンを接種していた。幼児対象の別の予防接種と量を勘違いしたミスで、接種したワクチンはジフテリア破傷風混合ワクチン。5?6人に接種部分が腫れるなどの症状がでた[読売新聞,2000.3.16.]

明らかなうっかりミスである。医療のあらゆる場面において二重・三重のチェックをするのは常識である。しかし、忙しいとか、仕事に対する慣れとかが、この基本を忘れさせる。
2000年3月 東京都文京区「有馬記念医学財団・富坂診療所」茨城県土浦市内の事業所の巡回検診で胃の検査に使用するバリウム液を使用する際、誤って消毒用エタノールを混ぜ、これを服用した受診者54人中21人が酒に酔ったような症状を訴えた。症状は顔の火照りや動悸、ふらつき等。バリウムに混入したアルコール濃度は12%で、日本酒約80mLを一気に飲んだ場合に相当。[読売新聞,2000.3.10]

ラベルの確認という基本を忠実に実行していれば、起こり得ない間違いであり、ワクチンの投与量を間違えた前出の事故と同根のものである。
専門職能のとしての誇りにかけて一般人が起こすような失敗を起こさないという自負は、何処かに置き忘れてしまったとしか思えない。

 

事故を防止するための作業手順は、各施設毎にマニュアル化されているはずである。しかし、マニュアルは時間とともに風化する。決定されたときの事故に対する反省と忸怩たる思いは、伝え続けることは難しい。その事故の内容が、単純であればあるほど、『そんなことを私は起こさない』という自惚れが先に立つのと同時に、面倒な手順は省きたいという怠惰な思いが忍び込むのである。

 

[2008.1.12.一部修正]