アニサキス症について

KW:薬物療法・アニサキス症・anisakisis・幼虫寄生・消化管障害・海産魚類・ニシン・サバ・アジ・サケ・スルメイカ・イルカ・アザラシ・海産哺乳類

 

Q:アニサキス症の治療とアニサキスの抵抗性

 

A:アニサキス症(anisakisis)は、アニサキス亜科に属するアニサキス属(アニサキスI、II型)及びテラノパ属(テラノパA、B型)の幼虫の寄生による消化管障害を称する。これらの幼虫は本来海産魚類(ニシン、サバ、アジ、サケ、スルメイカ)に寄生し、海産哺乳類(イルカ、アザラシ)体内で成虫となる。

ヒトが感染魚肉を生食すると幼虫が胃や小腸粘膜に穿入し急性腹[部]症を呈する。我が国で発生したアニサキス症の大部分はイルカ類の胃に寄生する Anisakissimplexの幼虫によるもので、サバ、サケ、マス、スルメイカ等の生食により感染する、嘔気、嘔。発症は全国的に見られるが、最近では九州で激増している。

このほかにオットセイ、アシカ等の胃に寄生するPseudoteranvadecipienceの幼虫によるアニサキス症で、タラ、ホッケ、オヒョウ等の生食で感染し、主として北海道、青森県、日本海沿岸本州北部で発生している。

両者の臨床症状に大差はないが、Pseudoteranvadecipienceの幼虫によるアニサキス症は胃症状にのみ局限している。原因食としては、シメサバ、バッテラ寿司等が圧倒的に多い。食後3?8時間で絞り上げるような上腹部痛、嘔気、嘔吐、悪心を訴え、内視鏡で胃壁浸入中の幼虫を認める。1?5日後吐、筋性防御無き下腹部痛、腹水貯留を示すときは幼虫の回腸末端部侵襲を疑う。

治療方針

 

胃アニサキス症の場合、内視鏡による浸入虫体の確認に続き生検鉗子で摘出する。出血部位を観察するうちに虫体が出てくることもある。激痛のため内視鏡が使用できない場合や食事直後のため内視鏡観察の出来ない場合、抗アレルギー剤の静注、メベンダゾール投与を行う。腸アニサキス症は原則ととして開腹手術することなく、メベンダゾール投与とともに保存療法として消炎剤投与、輸液、腸管通過障害に腸紐の使用などを試みる。

1)抗アレルギー剤

強力ネオミノファーゲンC

40mL
デカドロン 2mg
生理食塩水 20mL

以上静注が有効とされる。

2)駆虫薬
 

メベンダゾール錠(mebendazole)

100mg/回
1日2回(朝・夕) 3日間経口投与
3)その他
内視鏡の届かない部位に、アニサキスの幼虫が残存している可能性がある場合、pyrantelpamoate[コンバントリン錠]の1回頓用を試みる。但し、本症の薬物療法は、あくまで補助的手段である。

なお、アニサキス幼虫の抵抗性について、次の報告がされている。

水道水・蒸留水中での生存期間及び消毒剤、熱、酸、アルカリに対する抵抗性(試験液1mLに対しアニサキス幼虫1匹を入れ、経過観察。虫体を刺激してから5分間全く動かない場合『死』と判定した)

試験対象物 条件

結果( )内検体数

水道水 室温 最長14日生存(10)
37℃ 7日以内死滅(10)
蒸留水  

最長20日生存(5)

ホルマリン 1% 最長6日生存(5)
5% 最長250分生存(5)
10% 最長170分生存(5)
アルコール 10% 最長5日生存(5)
20% 最長180分生存(5)
30% 100分以内に死滅(5)
50% 25分以内に死滅(5)
70% 5分以内に死滅(5)
100% 1分以内に死滅(5)
高温(温湯浸漬) 45℃ 生存期間61-78分(10)
50℃ 8秒で死滅(5)
60℃ 1秒で死滅(10)
70℃ 瞬時に死滅(10)
低温(水道水、冷蔵庫で冷却) ?10℃ 1日以内に死滅(10)
?15℃ 5時間以内死滅(10)
?20℃ 3時間以内死滅(10)
塩酸 pH:0.8 最長11日生存(10)
pH:2.0 最長112日生存(5)
pH:2.4-2.8 最長90日生存(5)
pH:3.4 最長64日生存(5)
pH:4.6-4.8 最長51日生存(5)
3%-石炭酸 pH:5.4 1日以内に死滅(10)
1%-硫酸 pH:1.6 最長8日生存(10)
1%-乳酸 pH:2.2 最長30日生存(10)
5%-酢酸 pH:2.0 最長32日生存(10)
食酢 pH:2.0 最長35日生存(10)
1%-水酸化ナトリウム pH:13.2 1日以内に死滅(10)
1%-水酸化カリウム pH:12.2 最長6日間生存(10)
1%-炭酸ナトリウム pH:11.4 最長35日生存(10)

[035.1ANI:2000.3.2.古泉秀夫]


  1. 南山堂医学大辞典,1992
  2. 日野原重明・他監修:今日の医療指針;医学書院,1991
  3. 高久史麿・他監修:治療薬マニュアル;医学書院,2000
  4. 川田茂宏:大阪医科大学誌,26:224-244(1968)
  5. 西山利正・他:臨床と微生物,23(2):157-160(1996)