アドヒアランスについて
KW:語彙解釈・アドヒアランス・adherence・コンプライアンス・compliance・服薬遵守・non-compliance・服薬非遵守
Q:アドヒアランスとコンプライアンスの違い
A:各語の語意について以下の通り解説されている。
語彙 | adherence | compliance |
語意 |
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医療関係解釈 |
adherence は、患者が治療に能動的に参加できること。患者が実行可能な治療内容であること。患者のセルフケア能力・社会心理的な状態、患者-医療関係者の人間関係等を重視したもので、医療関係者側の因子の影響を受ける。 | 薬剤関係で見ると 『服薬』に関連してcomplianceは『服薬遵守』と訳され、『コンプライアンスが良い(高い)』、『コンプライアンスが悪い(低い)』と表現されている。 |
■『服薬遵守』という概念は、『医療従事者の指示に、患者がどの程度従っているのか』という視点での評価がされるということである。その判断の基準は、あくまでも医療従事者の側にあり、指示通り服薬できない患者については、患者側の問題として判断され、『服薬遵守』を高めるためには、患者を説得するという行為が行われる。
しかし、non compliance(服薬非遵守)は、全ての要因が患者側にあるわけではなく、医療関係者と患者の信頼関係の不足(患者情報の収集不足、患者の生活習慣に対する無理解、服用困難な処方や剤形の選択、あるいは事前の十分な服用意義の説明不足等)のため、多くは医療従事者側の独善的な思いこみに、その要因の殆どがあるということができる。
■adherenceは、compliance の維持・向上のために志向された概念であり、「熟練した医療従事者達が『患者は治療に従順であるべき』という患者像から離脱することを意図した概念(Stanton,1987)」、「医療従事者-患者間の関係及び相互作用に着目(Ley,1988)と紹介されている。
■adherenceという用語、概念についての認識は「第12回日本エイズ学会 総会(1998.12.1-2)サテライトシンポジウム」において取り上げられた結果であると考えられる。
■現在の抗HIV療法は、服用方法の複雑化(食前、食後、食間等の組み合わせ)、副作用・相互作用も多く、患者には大きな負担となっている。また、慢性の感染症疾患として長期間服用しなければならないための動機付けが困難、服薬非遵守が交差耐性の発現を起こした場合、使用可能な薬剤が少ない、更には経済的な負担が大きいこと等が問題として指摘される。
これらの患者において、服薬率を高めるためには、『医療従事者の指示をいかに守らせるか』だけではなく、薬剤・患者・医療関係者側のそれぞれの因子を総合的に考え、『患者が参加し、実行可能な薬物療法を計画、実行』することが必要である。
ただし、complianceにしろadherenceにしろ、外国では医療関係者が実地医療の中で生み出した思想であるが、我が国の場合、『単なる受け売り』に過ぎず、その認識において差が見られるのはやむを得ないが、患者対医療関係者の関係を真に見直す契機となるよう努力することが求められる。
(参照)アドヒアランスの維持 |
- 1. 処方に関して
- 予測される副作用と対処をあらかじめ説明し、副作用が発現した場合は適切に対処する。服薬条件を単純化する(例えば薬剤毎の食前・食後投与を一括)。有害な薬物相互作用に注意。可能であれば、服薬回数、錠数の少ない処方に変更する。
- 2. 患者に対して
- 患者が理解し、受け入れられる服薬計画。治療の意義・目標を説明し理解を求める。最初の処方箋を書く前に、患者が服薬のできる環境を整える時間を設ける。家族・友人の支援を求める。患者の食事時間、日々のスケジュールに合わせた処方、副作用を回避する処方を作成する。
- 3. 医療関係者に関して
- 患者との信頼関係の確立。患者にとっての情報源となり、継続的な援助と観察を行う。医療関係者が休暇中などにも患者の問題に対して対応できるよう連絡体制を整える。アドヒアランスの状況を観察し、維持が困難な場合は、来院回数を増やす、家族・友人の支援を求める、医療者チームの中の専門職を紹介するなどの対策をとる。新たな疾患(うつ状態、肝臓病、衰弱、薬物依存など)が出現した場合、アドヒアランスへの影響を考慮し、対処する。医師、看護師、薬剤師、カウンセラー、ソーシャルワーカーなどがチームとなり、アドヒアランスを維持するための対策を考え、互いに患者と密接に連絡を取りながら支援を行う。
[615.8.ADH:2002.11.25.古泉秀夫・2004.2.11.改訂]
- 竹林 滋・他:ライトハウス英和辞典;株式会社研究社,1984
- 小西友七・代表編:ジーニアス英和辞典;株式会社大修館書店,1995
- 堀 成美:アドヒアランスを左右する因子;看護学雑誌62(11),1998
- 東京都衛生局医療福祉部エイズ対策室;AIDS News Letter,7-1(65),1999.1.1
- 小学館ランダムハウス英和大辞典;?小学館,1979
- http://www.hivjp.org/guidebook/guide_07.html (2004.2.11.)