アクリルアミドの毒性について
KW:毒性・中毒・アクリルアミド・acrylamide・発癌性・ポテトチップス・フライドポテト・経皮吸収・土壌凝固剤・接着剤
Q:新聞報道されていたアクリルアミドの毒性について
A:新聞報道の内容は
『世界保健機関(WHO)の食糧農業機関(FAO)の合同専門委員会が、ポテトチップスやフライドポテトなど高温で調理された食品に含まれる化学物質アクリルアミドについて「健康に有害な恐れがあるかも知れず、食品含有量を低減すべきだ」との勧告を出した。
アクリルアミドは、地下工事の土壌凝固剤などに広く使用される化学物質で、動物実験で発癌性が指摘されていた。更に2002年スウェーデンの研究によって、炭水化物の多い芋類などを120℃以上で焼いたり、揚げたりした加工食品にも含まれていることが新たに判明した。
厚生労働省も同年に国内製品での含有を確認しており、過度の摂取をしないよう呼びかけるとともに、詳細なデータ収集作業を進めている』 [読売新聞,第46325号,2005.3.7.]
とするものである。
アクリルアミド(acrylamide)—–[独]Acrylamid |
- 別名:プロペンアミド(propenamide)、CH2=CH-CONH2:71.08。
- 無臭の白色結晶。
- 比重1.122(20℃)、融点:84.5℃、沸点:87℃(266Pa)、125℃(3,325Pa)。
- 水(30℃で水100mLに 215.5g溶ける)、アルコール、アセトンに可溶、ベンゼン、ヘプタンに不溶。
- 室温で安定、溶融すれば激しく重合する。
用途 |
- 凝集剤:acrylamide系ポリマーとして水中に懸濁する粒子に作用させ、これを凝集沈降させる。また沈降物の含水率を減らしてろ過などを容易にする。→下水・屎尿処理等。
- 土壌改良剤:土粒子を団粒化し、空気の流通性、水浸透性、保水性を改良する目的で、ポリアクリルアミドの加水分解物が開発されている。
- 繊維改質及び樹脂加工:合成繊維を含む各種繊維に対して、acrylamideをカルバモイル化又はグラフト重合させ、繊維そのものの基礎物性を改良したりセルロース系織物のシワ防止、防縮、風合いの改良を目的とした樹脂加工等に使用される。
- 紙力増強剤:従来から使用されている澱粉、水溶性アミノ樹脂等の代替あるいは併用の形で実用化されている。
- 接着剤:ポリアクリルアミドをフェノール樹脂溶液とともに使用したガラス繊維の接着剤、合成ゴム系エマルジョン等と併用した感圧接着剤。
- 塗料:アクリル系熱硬化性塗料の原料。
- 石油回収剤:ポリアクリルアミド水溶液を地下油層中に注入し石油二次回収を行う。
毒性 |
- 許容濃度0.3mg/m3(皮膚)、ACGIH 0.03mg/m3(TWA)、管理濃度0.3mg/m3。IARC 2A。経皮吸収有り。皮膚、呼吸器、消化管より吸収され、皮膚障害、言語障害、末梢神経炎、小脳性失調などを起こす。中毒症状は主に慢性障害で、神経症状と肝障害を起こす。
- 粉体、水溶液ともに皮膚から容易に吸収される。生体内に吸収されたacrylamideは分解されやすく、蓄積性が少ないことから中毒からの回復は比較的早いという報告も見られる。
- acrylamide は皮膚から吸収されやすいのが特徴で、工場での中毒の多くは経皮中毒である。足先からの麻痺で始まり、知覚麻痺から運動麻痺へと進む。
- 運動失調、四肢冷感、筋力低下、知覚異常、腱反射消失、末梢の関節の位置感覚の減弱、末梢の振動感覚の減弱などが見られるが、圧感は残る。
- 小脳失調のような症状も見られる。職業性の経皮慢性中毒が殆どであるが、自宅前の道路の下水管埋設のための薬液注入工法に使った地盤凝固剤acrylamideが井戸水に混入し、井戸水を使用していた一家5人に中毒事故が発生したという甚だ稀な事例も見られる。
刺激性 |
ウサギ(皮膚) | 50mg/3day mild | 500mg/24hr mild |
ウサギ(眼) | 10mg/30sec rinse mild | 100mg/24hr moderate |
急性毒性(LD50:mg/kg) |
経口 | 腹腔内 | 皮膚 | |
ラット | 124 | 90 | 400 |
マウス | 170 | 70 (RTECS) |
恐らくヒトに発癌性がある。
その他『アクリルアミド問題の経過』として以下の報告が見られる。
1)スウェーデン食品庁の報告
平成14(2002)年4月、スウェーデン食品庁が、炭水化物を多く含む食材(注1)を高温で加熱して製造した食品(例えばポテトチップス、フライドポテト、ビスケットなど)に、アクリルアミドという化学物質が高濃度に含まれていると世界ではじめて発表した。これはストックホルム大学との共同研究で明らかになったもので、加熱しない生の食材や蒸してつくる食品にはアクリルアミドが見つからないことから、高温加熱によりアクリルアミドが生成すると考えられる。アクリルアミドは発ガン性をもつのではないかと考えられている物質である。 (注1)当初の報告では「炭水化物を多く含む食品」との表現であったが、その後研究でアスパラギンとブドウ糖などが、加熱により反応して、アクリルアミドが生成するということが解明されてきた。
2)各国の対応
スウェーデンと同様の結果がイギリス、ノルウェー、スイス、アメリカなどからも報告されている。アクリルアミドの存在が報告されたのがポテトチップスやフライドポテトなど、日常的に口にする食品であることや、アクリルアミド濃度が飲料水の基準値に比べて高いことなどから、世界中で大きな関心を呼んでいる。しかし、揚げたり焼いたりして作られた食品に高濃度のアクリルアミドが含まれているという報告が出されたが、これらの政府機関では、消費者の食事内容の変更、調理方法の変更については何ら改善方法を示していない。
[63.099.ACR:2005.3.28.古泉秀夫]
- 薬科学大辞典 第2版;広川書店,1990
- 独立行政法人食品総合研究所:アクリルアミド問題の経過;http://aa.iacfc.affrc.go.jp/keika.html,2005.3.20.
- 内藤裕史:中毒百科-事例・病態・治療;南江堂,2001
- 化学物質と法規制;http://www.chemlaw.co.jp/index.htm,2005.3.20.
- 14303の化学商品;化学工業日報社,2003