医薬品の安全性評価のアルゴリズム
KW:語彙解釈・安全性評価・アルゴリズム・algorithm・算法・因 果関係判定基準・医薬品投与・副作用症状
Q:医薬品の安全性評価に関連して見られ るアルゴリズムとはどの様な意味か
A:アルゴリズム(algorithm)について、それぞれ次の解釈が記述 されている。
算法 |
問題を解決するための手順(手続き)。代表的なものに、二つの整数の最大公約数を求めるユークリッドのアルゴリズム(Euclideam algorithm)がある。 コンピュータのプログラムは、ある特定の問題に対するアルゴリズムをプログラミング言語(programming language)で記述したものといえる(1。 |
電算 | 一連の算法。与えられた、ある形に属する全ての問題を解く手段、手続き(2。 |
数理・ソフト |
ある問題を解くための一連の手順をいう。算法と訳す。 コンピュータを使ってある問題を解く場合、そのための明確な方法と手順を完全な形で記述する必要がある。 一般に、アルゴリズムとプログラムはほぼ同じ意味で使われるが、実際のプログラムは特定の言語で書かれた(コンピュータで実行できる)もので、アルゴリズムはそのプログラムのもとになった問題解決の手順や考え方をいう。 アルゴリズムの良否は、計算時間や必要なメモリ容量、簡潔さ、解の安定性や誤差などで判断される。 プログラムを設計する場合、アルゴリズムはデータ構造とともに重要なポイントである。 論理学や数学基礎論、計算理論などの学問分野においてアルゴリズムという言葉は、機械的に実行でき、かつ有限時間内に必ず答えを出して終了する計算規則を指すことが多い(3。 |
因果関係判定基準 | 副作用発現には多種の要因が交絡しているため、因果関係の判定基準を明確にした場合でも、その判定は評価担当者の知識・経験などにより一致しない場合もある。このためより信頼性のある因果関係判定方法を行うために、アルゴリズム(理論的思考様式に基づいて数学的に処理する手順書)が用いられている(4。 |
『因果関係判定基準』は、医薬品投与と副作用症状(異常所見)の関連性の推定に使用する。因果関係の推論上最も重要なのは、医薬品投与と副作用発現に至るまでの時間的関係である。投与直後や投与期間中に発現した場合には関連性が強い。また、投与中止後急速に副作用症状が消失している場合にも関連性の強さを示す証拠になる。
I.definite:明らかに関連有り | 時間的に明白な相関関係(投与中止後の経過も含む)があり、かつ下記のいずれかに該当する場合。『偶然の再投与により同様の所見を認め る場合、薬剤感受性試験(リンパ球培養法、皮膚テスト他)陽性の場合、又は体液・血液内濃度測定により中毒量であることが認められる場合』 |
II.probable:多分関連有り | 時間的に明白な相関関係(投与中止後の経過も含む)があり、かつ原疾患、合併症、併用薬、併用処置など当該医薬品以外の要因がほぼ除外されている場合。 |
III.possible:関連がないともいえない | 時間的に明白な相関関係(投与中止後の経過も含む)があり、原疾患、合併症、併用薬、併用処置など他の要因も推定されるが、当該医薬品による可能性*も除外できない場合。 |
IV.remote:関連はないらしい(なし) | 時間的に明白な相関関係が殆ど無い場合、原疾患、合併症、併用薬、併用措置など他の要因の可能性が大きいと考えられる場合。 |
V.unknown:関連不明 | 評価材料不足の場合(判定保留)。 |
*例えば、類似化合物を含めて過去に同様の報告がある、薬理作用から推定されるもの。
ただし、副作用の中には、最終投与後、数時間から数日後に発現する遅発性のものや中止になっても回復の遅い非可逆的なものもあり、判定するに際して注意が必要である。
また、偶然の再投与が行われた場合、生体内薬物濃度、免疫学的検査に関するデータも重要な証拠になる。
この他、併用薬、併用処置及び生体側の病態との交絡についても評価しなければならない。
algorithmで用いられる因果関係推定のための質問項目は、副作用の発現要因が複雑であるため、研究的には多くの項目を設定することが出来るが、日常臨床の場で発現する、市販後医薬品による副作用情報の評価に用いる algorithmの項目設定は、情報の質・量などを十分考慮し、実用的な範囲に限定して設定することが重要である。
現在、世界各国で用いられる algorithmの着眼点は
- 時間的関係
- 副作用の既知・未知
- 投与中止後の経過
- 再投与
- 他医薬品、併用処置の影響
- 原疾患、合併症、素因などの要因
にまとめられる。
設問 | yes(B1) | un-known(B2) | no(B3) |
薬剤投与と副作用発現との時間的関係はあるか(A1) |
+2 | 0 | ?2 |
薬剤中止後、副作用は軽減・消失したか(A2) |
+1 | 0 | ?1 |
説明できる病態要因があるか(A3) | +1 | 0 | ?1 |
説明できる併用薬・併用措置があるか(A4) |
+1 | 0 | ?1 |
既知所見か又は薬理作用などから推定可能か(A5) |
+1 | 0 | 0 |
再投与、薬剤感受性試験で陽性か又は過量投与か(A6) | +4 | 0* |
0 |
*未実施例を含む
設問中の6項目の着眼点について調査した結果は
- 肯定材料がある場合(B1=yes)
- 材料不足又は材料がない場合(B2= unknown)
- 否定材料がある場合(B3=no)
definite | 7-10点 |
probable | 5-6点 |
possible | 2-4点 |
remote | 1-?5点 |
A6を除く5項目のうち3項目以上の不明の場合は unknownとなる。
[615.8.ALG:2003.12.9. 古泉秀夫]
- 伊藤正男・他総編集:医学書院医学大辞典:医学書院,2003
- 三省堂編修所・編:コンサイス外来語辞典 第2版;三省堂,1978
- 赤堀侃司・監修:標準パソコン用語事典;株式会社秀和システム, 2001
- 堀岡正義・編著:医薬品情報-その考え方と実際;薬業時報社,1990