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過酸化水素の毒性

木曜日, 1月 3rd, 2008

KW:毒性・中毒・過酸化水素・オキシドール・oxydol・hydrogen peroxide・食品添加物

 

Q:過酸化水素の毒性について

 

A:過酸化水素の性状・毒性等について、次の報告がされている。

オキシドール(oxydol)

本品は定量するとき、過酸化水素(H2O2)2.5?3.5w/v%を含む。

本品は適当な安定剤を含む。

*保存中ガラス容器のアルカリ、光などのために徐々に分解するので含量の範囲が広く取ってある。安定剤にはリン酸、バルビツール酸、尿酸、アセトアニリド、オキシキノリン、ピロリン酸四ナトリウム、その他種々のものが用いられる。

本品を放置するか、又は強く振り混ぜるとき、徐々に分解する。

本品は還元剤と強く振り動かすとき、速やかに分解する。

本品はアルカリ性にするとき、激しく泡だって分解する。

本品は光によって変化する。

*純粋な過酸化水素は、無色澄明濃稠な液体で、水には任意の割合に溶ける。

oxydolはその3w/v%溶液に当たる。エタノール、エーテルにも溶ける。水溶液の味は収斂性で僅かに苦い。

本品は酸化及び還元の両作用を有し、アルカリに対しては甚だ不安定で、分解して酸素を発生する。波長の短い光線ほど分解を促す。

<動態・代謝>成人に50?70mgを経口投与したところ、吸収には個人差があるが、投与後4時間後にほぼ同じ血中濃度(200 ?300ng/mL)を示す。また150?210mgを1日3回分服で6週間に亘って継続投与すると、7日以内に定常血中濃度に達する。

過酸化水素(hydrogen peroxide)

 

本品は過酸化水素35.0?36.0%を含む。従来は30%程度の製品が主体であったが、現在は35、50及び60%の製品が主に市販されている。食品添加物として35%濃度(35?35.5%程度)を昭和23年7月26日に指定。過酸化水素は動植物生体内で、生成と分解が繰り返されており、生鮮食品中に天然由来として微量が含まれている。また、加工食品でも、相当量が天然由来として含まれている。

食品名 含有量
ピーナッツ 2.3?4.0ppm
ホタルイカ 2.9?4.1ppm
干し椎茸 1.0?16.9ppm
0.1?0.5ppm
雲丹 1.0?0.6ppm
乾燥ひじき 0.9?20.4ppm
桜エビ 0.3?0.9ppm
カニ 0.1?2.0ppm
干しわかめ 1.3?13.3ppm

 

牛乳、コーヒー等も室温に放置しておくと、過酸化水素含有量が、経時的に増加していく現象が認められる。なお、かっては殺菌剤又は漂白剤として食品に使用されたが、昭和55年微弱ではあるが発ガン性が認められたため、使用基準により最終食品の完成前に過酸化水素を分解又は除去することを条件に認めた。このため数の子を除き、事実上使用されなくなった。数の子の場合、血筋などの漂白及び寄生虫であるアニサキスの除去目的で用いられるが、漂白後はカタラーゼ処理を行い、過酸化水素を分解している。

<代謝>生体内には過酸化水素を分解する酵素として、カタラーゼ及びオキシダーゼが存在する。両者ともヘム酵素でカタラーゼは肝臓、赤血球などに多く分布し、オキシダーゼは白血球、乳汁、多くの植物組織等に分布している。

<毒性>人体に対する毒性は、それほど激しいものではないが、皮膚に触れると痛みを感じ、特に60%以上の高濃度品は皮膚を剥離することもある。25%以上の液が皮膚や粘膜に触れると激しい炎症を起こす。眼に入ると激しい痛みを感じる。許容濃度1ppm、1.5mg/m3。過酸化水素の少量を経口投与しても、急速に小腸細胞内のカタラーゼによって分解されるため、毒性が現れないことが知られているが、0.45%の割合で飲料水に混じてラットに与えると、水並びに飼料摂取量が減じ、体重減少を招くとされている。また舌下粘膜から吸収され、静脈内でガス化することもある。稀過酸化水素水を口腔洗浄剤として連用すると、舌乳頭の毛状肥大(毛状舌)をきたすが、これは使用を中止すると消退する。

-急性毒性(LD50)-
ラット皮内 700mg/kg

静脈内 21mg/kg

<発ガン性>昭和55年に終了した研究報告によれば、飲料水に0.1及び0.4%の濃度に溶解した過酸化水素を C57Blマウスに74日間投与したところ、十二指腸に癌の発生が認められた。なお、F-344ラットにおける実験では、0.6、0.3%で78週間投与したが、実験群と対照群との間に腫瘍発生率の有意の差はなく、F-344ラットにおいては発ガン性が認められないと判定されている。なお、マーロックス(山之内製薬)のpH実測値は8.18(22℃)と報告されており、本品中に過酸化水素が添加されたとしても、アルカリにより水と酸素分解し、人体に影響する程度の残存率を示すことはないと考えられる。

また万一、一定量の残存が見られたとしても小腸細胞内のカタラーゼによって分解され水と酸素になるとされているため、人体に対する影響は殆ど考えられない。なお、今回の回収措置は、『当該製品の承認処方成分にない物質の添加』が理由であり、既に服用していた患者等から相談された場合、特に問題はない等、回答することにより患者の不安を除くことが重要である。

 

[63.099HYD:2000.8.1.古泉秀夫]


  1. 第十三改正日本薬局方解説書;広川書店,1996
  2. 谷村顕雄・監修:食品添加物公定書解説書 第7版;廣川書店,1999
  3. 後藤 稠・他編:産業中毒便覧 増補版;医歯薬出版株式会社,1992
  4. 国立国際医療センター薬剤部医薬品情報管理室・編:医薬品情報Q&A[4];株式会社ミクス,1987
  5. マーロックス回収、処方中断連絡文書;山之内製薬株式会社,2000.8.1.