肝炎ウイルス感染者の血液眼飛散による汚染時の処置
KW:滅菌・消毒・感染防御・肝炎ウイルス・血液眼飛散・血液汚染・眼飛沫・B型肝炎ウイルス・C型肝炎ウイルス・HCV
Q:HCV感染患者の開腹術の際、誤って患者の血液が医師の眼に入ってしまったが、0.025%-ヒビテングルコネートを更に稀釈して洗浄することで感染防御可能か
A:ヒビテングルコネートの成分であるclorhexidine gluconateのvirusに対する殺virus効果については効力未定あるいは無効とする報告がされている。
現在、手術等の観血的処置を行う患者の場合、殆どの施設で前もって肝炎ウイルス等の検査を実施し、患者の感染の有無を確認していると考えられる。
その意味では、肝炎ウイルス等感染患者の手術等を行う際、患者血液による感染防御の方法として、術者が手術時ゴーグル等の眼飛沫感染防御の方策を講じることが第一である。更にB型肝炎ウイルスについては、予防注射を実施することが前提となる。
質問の事例は既にC型肝炎ウイルス感染患者の血液による飛沫汚染があった後であるため、原則として次の処置を行う。
- 流水による十分な洗眼を行う。
消毒薬を使用するとすれば、evidenceはないが、povidone-iodineを使用する。 - povidone-iodineによる結膜嚢の洗浄・消毒に20-50倍稀釈イソジンを用いる。血液の付着・飛散による汚染に由来する発症率については、明確にされていないが、少なくとも注射針誤刺入による発症率よりも低いことが予測される。また、口腔・眼などの粘膜への付着・飛散による汚染の方が、創傷部位などの損傷皮膚の場合より発症率は低いと予測される。血液などが付着・飛散した場合、直ちに大量の水道水で洗浄することが重要である。創傷部位や粘膜に汚染血液が付着した場合、感染が成立するか否かは、virus量と接触時間が大きく関与すると考えられているからである。十分に流水で洗浄した後、念のために創傷部位はイソジン原液、眼や口腔は20 倍希釈液で消毒するの報告が見られる。
従って、消毒剤による洗浄を検討するとすれば、virusに有効であるとされているpovidone-iodine製剤を用いる。povidone-iodineによる結膜嚢の洗浄・消毒には20-50倍稀釈イソジンを用いるとされているため、その濃度を参照する。
virus名 | envelopeの有無 | 薬物感受性 |
B型肝炎ウイルス [ヘパドナウイルス科(Hepadnaviridae)] |
有 |
*脂質に対して作用するエーテルや胆汁酸成分はvirusを失活させる。従ってenvelopeを持つvirusはエーテル感受性である。*envelopeを有するvirusは消毒薬に対して感受性である。多くのvirusは56℃・30分でcapsid(殻蛋白)蛋白質が変性して不活化される。エーテル、クロロホルム、フロロカーボン等の脂質溶剤により、envelopeを持つvirusは不活化される。 |
C型肝炎ウイルス [フラビウイルス科(Flaviviridae)] |
有 | 同上 |
3.その他、B型肝炎ウイルスは比較的消毒剤抵抗性が強い。WHOはglutaralと次亜塩素酸ナトリウムを推奨しているが、アルコールやpovidone-iodineにも感染性不活化作用があり有効であるとする報告が見られる。
[615.28HCV.1994.2.21.古泉秀夫・1999.7.2.第1改訂・2005.9.28.第2改訂]
- 神谷 晃・他:消毒剤の選び方と使用上の留意点;薬業時報社,1992
- 尾家重治・他:B型肝炎・C型肝炎・エイズに関するQ&A;薬事35(6):1161(1993)
- 国立国際医療センター医薬品情報管理室・編:C型肝炎ウイルス汚染時の予防法;FAX.DI.News No.6(1991)
- 吉田眞一・他編:戸田新細菌学 改訂32版;南山堂,2002
- 小林寛伊・編:改訂消毒と滅菌のガイドライン;へるす出版,2004