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毒キノコ(1)-卵天狗茸の毒性

火曜日, 12月 4th, 2007
対象物 タマゴテングタケ(学名:Amanita phalloides (Fr.) Secr.)。和名:卵天狗茸。別名:ブスキノコ・ブシキノコ。
成分 卵天狗茸の有毒成分は詳しく研究されており、ファロイジン(phalloidin)及びファロイン(phalloine)というアミノ酸7個からなるペプチド系(あるいはalkaloid系)やアミノ酸8個からなるペプチド系(あるいはalkaloid系)であるアマニチン(amanitin)類が知られている。
一般的性状 卵天狗茸は、テングタケ科、テングタケ属(ama-nita)に分類される毒茸で、アマニタトキシン群(ama-nitatoxin)に分類される。卵天狗茸は夏から秋 (8-10月)に、ブナや楢などの広葉樹林、ときに針葉樹林の地上に発生する。中型-大型の茸で、傘はオリーブ色-帯褐オリーブ色で、屡々絣模様を表す。縁に条線はなく、襞は白色で密。柄は白色でやや傘の色を帯びることがあり、屡々小鱗片-ささくれ状となる。柄の上部には白色で膜質の鍔があり、膨らんだ柄の基部には大きな袋状の壺がある。
卵天狗茸 毒茸として世界的に有名であるが、我が国においては、比較的稀な茸で、岩手、秋田、山形県、北海道等で見られたとする報告がされている。従って、卵天狗茸による中毒は、我が国ではほとんど見られないとされているが、ヨーロッパでは茸中毒の90%以上がこの茸によるものだとする報告が見られる。アマニタトキシン群に分類される茸による中毒は、まずコレラ様の激しい消化器症状、次いで肝細胞が侵され、更に腎臓が侵され、昏睡状態に陥り、死に至る。
毒性 phallotoxin は経口摂取では分解されやすいため、中毒の本体はama-nitatoxin類であるとされている。amanitinは加水分解されず、比較的安定で加熱しても分解しない。従って、加熱調理しても毒性はなくならない。amanitinは“腸肝循環”するという特性を有しており、長時間体外に排泄されない。
amanitatoxin群
α-amanitin:マウス(LD50)0.3mg/kg。β-amanitin
γ-amanitin
ε-amanitin
amanullin
amanullinic acid
proamanullin
amanin
amanitinの致死量:0.1mg/kg。成熟した卵天狗茸約1本で致死的。
症状 amanitin には粘膜刺激作用がないため、毒茸を摂取しても直後に症状が見られることはない。摂食後6-24時間経過後、嘔吐、腹痛、下痢が発現する。卵天狗茸による下痢は、大量の水性便で、コレラ様の水性便を呈する。その後、黄疸、腎機能障害、肝機能障害が発現する。amanitinはRNAポリメラーゼと結合し、 RNAの合成、更には蛋白合成を阻害して肝障害をもたらす。劇症肝炎に似た症状で死亡する者が多く、死亡率50%以上とされる。
潜伏期を経て突然激しい嘔吐、下痢、腹痛で発症。粘液便、血便を排泄するコレ ラ様症状。 脱水・脱塩(低カリウム血症)。
筋肉硬直、痙攣、頭痛、低血糖、嚥下困難、傾眠、精神錯乱、抑うつ状態。
溶血、黄疸、肝機能障害、出血、尿閉、血尿、中毒性腎炎、内臓浮腫と疼痛。

衰弱、血圧低下、チアノーゼ、中枢神経障害、心筋障害、血管運動中枢障害、肺 水腫、循環不全
遅延性肝炎・腎不全(48-72時間後に起こる)
意識不明・昏睡・死亡。

処置 [1] 胃洗浄:摂食後6時間以内であれば催吐し、胃洗浄を行う。

[2]活性炭・下剤投与(下痢がない場合): 摂食後6時間以上経過している場合、活性炭と下剤投与。肝及び腎機能の検査を数日間は行う。 活性炭投与は4時間毎に2日間にわたって投与する。 その他、十二指腸チューブによる胆汁の除去も有効。

処方例
活性炭 50gを微温湯300-500mL(小児では1g/kgの活性炭を生理食塩水10-20mL)に溶解し、服用させる。
その後、半量を3時間毎に24時間まで繰り返し投与。

下剤としてD-ソルビトール液(75%)2mL/kgを投与し、6時間後に排便がなければ半量を繰り替えし使用(保険適用外)。
[3]強制利尿:amanitinは48時間以内に大部分が尿中に排泄される。従って強制利尿が有効。
[4]血液吸着:活性炭カラムによる血液吸着によるamanitin除去。肝障害予防のため実施。血液透析は、amanitinが膜を通過し難いので、無効とされているが、腎障害のある場合は適用となるの報告。
対症療法
[5]輸液:脱水・電解質異常・低血糖の改善。肝保護剤の同時投与を行う。
[6]呼吸管理:酸素吸入、人工呼吸等

[7]循環管理

事例 「親 分」と、声をひそめて、
「恐れいりました。桔梗屋のほうですが、たしかにおまえさんのにらんだとおりのようですね」
「それじゃ、やっぱり先代徳兵衛の死にかたに、怪しい節でもあるのかえ」
「それゃ、こうです。いまからちょうど13年まえのことですが、竜蓮寺で先々代徳兵衛、つまりいまのおかみのおやじですね、その徳兵衛の3回忌の法要があったそうです。ところがそれが秋のことで、そのときに精進料理のなかにキノコが使ってあったんですね。そのキノコにあたって大勢苦しみだしたなかに、先代徳兵衛だけがもがき死にに死んだそうです」「ほほう」と、金兵衛も眼をまるくして、
「それで、ほかの連中は助かったのか」
「へえ、死んだのは先代徳兵衛ひとりだそうです。だけどキノコの毒にあたった人間はほかにも大勢あり、おかみのお梶もいまの徳兵衛、当時の利助も大苦しみに苦しんだあげく助かったので、だれにも怪しまれなかったんですね」
「それで、先代徳兵衛の遺言というのはいつあったんだ」
「それがおかしいんです」と、文七はにんまり笑って
「先代徳兵衛はそのまま竜蓮寺の一室で、もがき死にに死んだんですが、なにしろ親戚一同みんなキノコにあたっておりましょう。だからその臨終に立ちあったのは和尚の日朝ただひとり、その日朝が遺言をきいたといいだしたんだそうです」
「野郎、それじゃもうそのじぶんからの腐れ縁なんだな」と、雁八が拳をにぎっていきまいた。 [横溝正史:お役者文七捕物暦-花の通り魔;徳間書店,2003]
備考 単に毒茸ということで、具体的な名前は書かれていない。しかし、南町奉行が大岡越前守[1717年(享保2年)江戸町奉行]の時代に海外から毒茸を輸入する物好きもいないであろうということで、勝手に毒茸の御三家の一つに数えられる“タマゴテングタケ”を指定したが、我が国では希少種であるとする報告もされているため、あまり適当な選択ではなかったかもしれない。しかし、外国では卵天狗茸による中毒例が多く、含まれる毒成分についても検討されているとする報告があるため、毒茸(1)として、卵天狗茸を取り上げた。
ただし、この原稿の趣旨は、推理小説に出てくる毒物の解説とその毒物を誤用した際の救命を図ることが目的で、毒使いが巧いか下手かは関係ない。更に推理小説に使われる毒物が、具体的なものでなくとも人は殺せるので、毒薬Xでいい訳で、その辺についても、深く追求する気は全くないことを申し上げておきたい。
文献 1) 古泉秀夫:毒キノコ中毒時の中毒症状・処置;DID-0037,1998.10.19.
2)舟山信次:図解雑学 毒の科学;ナツメ社,2004
3)長沢英史・監修:日本の毒きのこ;株式会社学習研究社,2003
4)成田傳蔵・編集協力:Field Selection-きのこ;北隆館,1997
5) 海老原昭夫・編著:知っておきたい毒の知識;薬事日報社,2001
6) (財)日本中毒情報センター・編:改訂版 症例で学ぶ中毒事故とその対策;じほう,2000
7)吉村正一郎・他編著:急性中毒情報ファイル第3版;廣川書店,1996
調査者 古泉秀夫 記入日 2005. 7.30.

[註]卵天狗茸の写真はW. Fische Fred Stevens 著 amanita phalloides を引用。

『尿色調に影響する薬剤』

土曜日, 12月 1st, 2007

尿成分の90%以上は水で、残りの主たる成分は尿素及び塩化ナトリウムであり、他にカリウム、カルシウム、マグネシウム、アンモニア、リン酸、クレアチニン、尿酸、硫酸なども含む。黄色清澄透明な液体。黄色の色調は主としてウロクロムによる。健康成人の尿量は通常1日1-2Lで有り、pH5-8、浸透圧50-1500mOsm/kgH2O、比重1.005-1.030で、糖や蛋白を含まない。
尿色調の変化は、病気によっても起こり、次の報告がされている。

表1.疾病が原因とされる尿色調変化

青いおむつ症候群
[blue diaper synd-rome]

乳児期に尿でおむつが青染されるトリプトファン吸収障害症。大腸で吸収されなかったトリプトファンが細菌によって分解されインドール化合物になり、それらが吸収されインジカンとして排泄される。これらが酸化されインジゴブルーとしておむつを青くする。本症は家族性疾患で高カルシウム血症、腎石灰症、インジカン尿症を来たし、臨床的には発育障害、易感染性、便秘等が見られる。

乳糜尿
[chyluria]

乳糜尿はフィラリア症(filariasis)によるもので、糸状虫(Filaria bancrofti)若しくはWuc-hereria bancrofte(ブケレリアバンクロフト)の感染によってもたらされる。乳糜尿はリンパ液のため粘稠性のある白濁した外観を呈する。

ビリルビン尿
[bilirubinuria]

高直接ビリルビン血症においてアルブミンとの結合が緩やかな抱合型ビリルビンが増加するが、その中で蛋白非結合のものは水溶性であり尿中に排泄される状態をいう。尿は濃黄褐色や赤褐色を呈する。→黄疸尿。

ヘモグロビン尿
[hemoglobinuria]

血色素尿。ヘモグロビン尿の存在は、血管内溶血を意味する。透明で鮮紅色を呈し、時間の経過したものは、暗褐色を示す。ヘモグロビン尿は、発作性血色素尿、連鎖球菌性敗血症、溶血性尿毒症症候群、熱帯性マラリア、輸血、熱傷などで見られる。

ポルフィリン尿
[porphyrin urea]

δ-アミノレブリン酸からヘモグロブリンやミオグロビンなどヘム蛋白が合成される代謝経路に障害が生じ、これらの中間代謝物であるポルフィリン体の血中濃度が上昇し、尿中へも排泄されるもの。肝性ポルフィリン症、鉄芽球性貧血や鉛中毒などによって尿中排泄が増加する。ポルフィリンは一般に赤色を呈する。尿中へのポルフィリン排泄のためブドウ酒色(ポートワイン様尿)に変色。

ミオグロビン尿
[myoglobinuria]

ミオグロビンが尿中に高濃度に出現した病態。ミオグロビン濃度が高くなるに従い、赤、赤褐色、黒赤色(コカコーラ様尿)となる。ミオグロビンは心筋、骨格筋に存在する小分子量のヘム蛋白質である。ミオグロビン尿はこれらの組織の障害を意味し、横紋筋融解、筋肉の挫滅、痙攣、激しい運動、筋炎などで見られる。

 

表2.として集合化した資料は、病気に起因する尿色調の変化、服用した薬の副作用に起因する尿色調の変化等によるものではなく、薬の原体又は代謝産物の排泄に伴う尿色調の変化を集約したものである。なお、1例報告についても類似の調査依頼がされた場合の便宜性を考慮し収載した。

表2.物理・化学的影響による尿色調変化(副作用に起因すると考えられる着色は除外)

分類・一般名・商品名(会社名) 原体の色調 尿色調 発現機序
[251] acriflavinium chloride 紫褐色?類赤色結晶又は結晶性粉末 黄緑色蛍光 acrinol水溶液(1→40,000)は、緑色蛍光を発するとされている。本剤の場合も同様と考えられる。

[235] alosenn<配合剤>
アローゼン(科薬)

? 黄褐色又は赤色 センナ葉・実等の配合剤の主成分であるanthra-qunoneは、アルカリ性尿を赤変させることがある[D.J.1982]

[629] ambazone
-製造中止-

暗褐色結晶性粉末 黄色[D.J.19
82]
尿中に排泄された未変化のambazoneの色調に由来。

[114] aminopyrine
-製造中止-

無色?白色結晶性の粉末

赤色
紫赤?赤(褐色)

内服により酸性尿の場会に赤変することがある[医要,1978]。

[622] aminosalicylic acid(PAS)
ニッパスカルシウム顆粒

(田辺三菱)

? 脱色(一定の色ではない) 立証する情報は得られていない[関口ら,1981]
[117] amitriptyline HCl
トリプタノール錠・注(万有)
無色結晶又は白色-微黄色結晶性粉末 青緑色 FDAに1例が報告されたといわれるが、立証されていない[関口ら19
81]。

[114] antipyrine
-製造中止-

無色?白色結晶・白色結晶性粉末 赤色?黄色紫赤?赤(褐色) 酸性尿で変化の報告。発現機序不明。

[124] avapyrazone
-製造中止-

白色?微黄色結晶 一時的赤色尿 acamylophenineとsulpyrineの分子化合物であり、sulpyrineの酸化成績体による[医要,1978]。

[235]casanthranol dioctylsodiumsulfosuccinate
-製造中止-

anthranol:黄色針状晶・casanthra-nol:黄褐色-褐色粉末。ioctylsodiumsulfo-succinate:白色蝋状又は樹脂状物質 アルカリ性尿:赤色、酸性尿:橙色、黄褐色又は赤色尿 配合剤中のcasa-nthranolに起因する。casanthranolは、cascara sag-radaから得られるanthranol配糖体の混合物である。

[235] cascara sagrada
カスカラサグラダ流エキス
              (司生堂)

暗赤色澄明

黄褐色又は赤色。
酸性尿:黄褐色・アルカリ尿:桃黄色

anthraquinone誘導体。一般にこの系に特有の色調として尿を赤色-赤褐色に変化。
anthraquinoneは、尿色調を紫赤?赤(褐色)に変化。

[613] cefacetoril sodium
-製造中止-

白色?微帯褐色結晶性粒又は粉末 赤色 尿を放置した場合、易着色。本剤の代謝産物であるCGP-695による[新井ら,1976]

[613] cefdinir
セフゾン(アステラス)

白色?淡黄色の結晶性粉末 赤色

?細粒小児用で15例、Cap.で2例報告。赤色調を呈する原因として細粒に着色剤として添加されている赤色102号、又はセフジニール鉄錯体の存在が考えられる。但し採集尿から検出されておらず、現在発症機序は不明[DSU解説,47(11):151-152(1995)]。
?鉄の存在で本剤と腸管内において錯体を形成し、赤色便の報告。尿の赤色化も同様の機序によると考えられる。

[613] cefozopran hydrochloride
ファーストシン静注(武田)

白色?微黄色結晶又は結晶性粉末 赤色 臨床試験で2例に赤色尿が見られたが、いずれも投与中あるいは投与終了後に消失した。原因物質は同定されていない。
[114] chinophen 白色?類黄色結晶又は粉末 赤色?褐色 生体内で酸化され8-oxiphenyl-quinoline-4-carboxylic acidとなる[化学大辞典7,1964]

[641] chloroquine diorotate
-製造中止-

? 黄赤色?褐色。錆黄?褐色 立証する情報は得られていない[関口ら,1981]

[122] chlorzoxazone
フラメンコ錠(扶桑)

白色?淡黄色結晶又は結晶性粉末 橙色(橙色?赤紫色) 代謝産物による[D.J.,1982]。phenol性の代謝産物が関与[関口ら,1981]。代謝産物により尿が橙色に変化。

[623]clofazimine
ランプレンカプセル
            (ノバルティス)
-治癩薬-

赤褐色結晶性粉末 赤褐色

本剤はイミノフェナジン系の染料で、当初抗結核剤として開発。皮膚着色(暗赤色から黒褐色;赤色化→投与1-4週間後、皮膚病変部の黒褐色→投与2-3カ月後変化)→投与中止により消失するが数ヶ月-数年必要。
毛髪の着色。涙液の着色。角膜上皮の色素沈着。汗・痰・尿、便等の着色。

[237] creosote 無色?微黄色澄明液 暗緑褐色、放置しアルカリ性尿で黒色 phenol類の混合物であり、主成分の一つguaiacolは塩化第二鉄の存在で暗緑色。phenol類は紫色?灰緑色?汚緑色に変化[JP-VI]

[112]crocus
サフラン

暗褐色?赤褐色 黄色

色素成分crocinは水に溶け易く、唾液を黄色に染める。尿の着色はcrocinに起因

[235] danthron
-製造中止-

橙褐色粉末

赤色
アルカリ性尿:桃色?橙色

danthronは化学名を1,8-dihydro-xyanthraquinoneといい一般にant-hraquinone配糖体では、この系に特有な色調として、尿を赤色?赤褐色に着
[618] daunorubicin HCl
ダウノマイシン(明治製菓)
赤色結晶性粉末 赤色 尿中に排泄される本剤は殆ど未変化体であり、そのため赤色尿となる。本剤はant-hracycline系の抗悪性腫瘍剤。

[392] deferoxamine mesilate
デスフェラール(ノバルティス)

白色?微黄色結晶性粉末 赤褐色 deferoxamine mesilateは、生体内において酸化の鉄イオンに特異的に結合し、安定な化合物feri-oxamine B(赤褐色)を形成し、殆ど代謝されず尿中に排泄[D.J.19
82]

[113] diphenylhydantoin
アレビアチン(大日本住友)

白色結晶性粉末又は粒 桃色?赤?赤褐色 立証する情報は得られていない[関口ら,1981]
[618] doxorubicin HCl
アドリアシン注(協和醗酵)
赤橙色結晶性粉末又は粉末 赤色 尿中排泄物から未だ代謝産物は確認されておらず、本剤の未変化体の尿中排泄による尿色調変化と考えられている[アドリアシン文献,1975]。本剤はanthra-cycline系の抗悪性腫瘍剤 。

[3999] epalrestat
キネダック錠(小野薬品)

黄色?橙色結晶又は結晶性粉末 黄褐色?赤色 本品の原末は「黄色?橙色」であるが、これは本剤の有する五員環がロダニン色素と同一の構造であるため。本品は体内で代謝されても、五員環を開環しないため(=SSM結合に影響が無いため)、原末の色調がそのまま尿中に排泄される[企業報告,1997]。

[423] epirubicin HCl
ファルモルビシン(ファイザー)

微帯黄赤色?帯褐赤色の粉末 赤色尿 本剤の尿中排泄により尿が着色する。塩酸ドキソルビシン同様anthracycline系の抗悪性腫瘍剤。

[313] flavin adenine dinucleotide sodium
アデラビン9号(三和化学)・   フラビタン錠・注(アステラス)

橙黄色?淡黄褐色の粉末 黄色 本剤は補酵素型ビタミンB2であり、riboflavinの尿中排泄の増加に起因する。

[114] floctafenine
-製造中止-

淡黄白色結晶性粉末 黄色 本剤の主成分は4-phenylamino-quinolin誘導体の一つであり、尿中の代謝産物に起因するものと思われる。添付文書では副作用欄に記載。

[722] fluorescein sodium
フルオレサイト注射液1号
       (日本アルコン)

橙色粉末 黄褐色。草緑色→酸によってこの色は無くなる。 本品はpyronine核を有するfluor-escein色素であり、本品の未変化体の尿中排泄により着色するものと思われる。eth-anol又は水に溶けて緑色の蛍光を発する[D.J.,1982]。添付文書では皮膚の一過性の黄変とともに副作用欄に記載。

[429] flutamide
オダイン錠(日本化薬)

淡黄色の結晶性の粉末 琥珀色又は黄緑色を呈する

国内において尿の変色が2例報告されたため記載。尿の変色はフルタミドの代謝物によって起こる[IF,1996.7.]

[237] furazolidon ? 褐色 本剤の代謝産物による [関口ら,1981]
[617]griseofulvin

ポンシルFP(武田)

白色の結晶又は結晶性の粉末 赤色 立証する情報は得られていない[関口ら,1981]
[237] guaiacol carbonate 白色結晶性粉末 黄色 guiacolは塩化第二鉄の存在で、暗緑色に変化[JP-VI]
[423]idarubicin HCl

イダマイシン注(ファイザー)

黄赤色の粉末 赤色 本剤の尿中排泄(2.04%)により尿赤色化。本剤はanthracycline系の抗悪性腫瘍剤。投与後1-2日間尿が赤色を呈することがある。
[119]idebenone

-製造中止-

帯黄橙色?橙色結晶又は結晶性粉末 褐色?赤褐色 現在迄にヒトでの報告はないとされるが、動物における高用量群試験において尿色調の変化が報告されている。
[613]imipenem・cilastatin-sodium

チエナム点滴用・筋注(万有)

imipenam:白色-

淡黄色結晶性粉末
cilastatin:白色?微帯黄白色粉末

赤褐色 imipenemが分解されることに起因して発現する。
[322] iron solbitol ? 帯黒色 一部が尿中に排泄され、尿が黒変する[医要,1978]。硫酸化鉄の生成で尿が黒っぽくなることがある[関口ら,1981]
[114] isopropylantipyrin 白色結晶又は結晶性粉末 白色結晶又は結晶性粉末 立証する情報は得られていない[関口ら,1981]

[119] levodopa
ドパストン(第一三共)

白色?微帯灰白色結晶又は結晶性粉末 黒色(放置すると帯黒色)

本剤の代謝産物による。汗・唾液も黒変することがある。
尿、汗又は唾液の黒色化とともに副作用欄に記載。

[119]levodopa・benserazide
hydrochloride
ネオドパゾール(第一三共)

白色?微帯灰白色結晶又は結晶性粉末 黒色(放置すると帯黒色) 同上

[119]levodopa・carbidopa
ネオドパストン錠(第一三共)

白色?微帯灰白色結晶又は結晶性粉末 黒色(放置すると帯黒色) 同上
[122]methocarbamol

ロバキシン(武田)

白色結晶性粉末 放置すると暗色化して褐色・黒色又は緑色 立証する情報は得られていない[関口ら,1981]

[214] methyldopa
アルドメット錠(万有)

白色?僅かに帯灰白色結晶性粉末

黒色
放置尿で黒色、帯赤色?黒色

methyldopa又はその代謝産物が分解されることに起因する[D.J.,1982]。本剤投与中の患者尿が、次亜塩素酸漂白剤と混ざると赤味を帯び、更に褐色に変化し、やがて黒変することがある[関口ら,1981]
[251] methylene blue ? 青色 可能性がある[関口ら,1981]

[114] metiazinic acid
-製造中止-

微黄色粉末 赤色?暗赤色 尿が水道水に接触し着色することがある[D.J.,1982]。
この赤色尿は本剤又はその代謝産物によるのではないかと推定。一般にpheno-thiazine系薬剤は、微量金属又は塩素の存在で着色することがある。

[641] metronidazole
フラジール内服錠(塩野義)

白色?微黄白色結晶又は結晶性粉末 希に帯黒色?暗赤色 恐らく本剤の代謝産物によると推定される[関口ら,1981]。添付文書は副作用欄に記載。

[421] mitoxantrone hydrochloride
ノバントロン注(ワイス)

暗青色結晶 青?緑色 本剤はanthra-quinone系の抗がん剤。本剤の未変化体の尿中排泄に起因すると考えられている[企業報告,1990]

[255] nephless
-製造中止-

? 赤色 配合剤中の西洋アカネの色に起因する。

[625] nitrofurantoin
-製造中止-

黄色?黄褐色結晶又は結晶性粉末

黄褐色
褐色又は錆黄色

nitrofurantoinの代謝産物の尿中排泄に起因する[D.J.,1982]。

[613] panipenem・betamipron
カルベニン(第一三共)

P:白色?淡黄色の粉末又は塊
B:白色の結晶又は結晶性の粉末

P:白色-淡黄色の粉末又は塊
B:白色の結晶又は結晶性の粉末

panipenemが分解され、尿が茶色を呈することがある。また、本剤が採尿後時間の経過とともに茶色に着色し、ウロビリノーゲンの測定に影響を及ぼす可能性があるので3時間以内に測定する。

[622] para-aminosalicylate
calcium
ニッパスカルシウム顆粒(田辺三菱辺)

白色?僅かに着色した粉末 赤色 PASを含む尿は、次亜塩素酸系漂白剤で清拭した便器に触れて変化[関口ら,1981]。
40℃以上になると脱CO2を起こしてm-aminoph-enolから一種のquinone体となって褐色に変化する。酸性条件で特に変化し易い[医要,1978]。
[114]phenacetin

-製造中止-

白色結晶又は結晶性粉末  

赤色?褐色、放置で黒色
黄色(暗褐色?ぶどう酒色)

代謝産物としてn-acetyl-amino-phenol。phenol性代謝産物は、尿を橙色又は赤紫色に変化させることがある[関口ら,1981]。アセトアニリド系の代謝産物であるacetophenetidinは尿色調を黄色(暗褐色?ぶどう酒色)に変色。
[259]phenazopiridine HCl

? 橙赤色・橙褐色・赤色 立証する情報は得られていない[関口ら,1981]
[333] phenindione ? アルカリ性尿:橙色、酸性尿:消失 立証する情報は得られていない[関口ら,1981]
[235] phenolphthalein ? アルカリ性尿:赤色?赤紫色又は桃色?赤?深紅色・酸性尿:黄褐色 アルカリによりquinoido型Na塩が生じる[医要,19
78]

[728] phenolsulfonphthalein
フェノールスルホンフタレイン注(第一三共)

鮮赤色 アルカリ性尿:桃色?赤色 立証する情報は得られていない[関口ら,1981]

[141] phenothiazine
ウインタミン(塩野義)

  桃色?赤色又は赤褐色 立証する情報は得られていない[関口ら,1981]

[235] phenovalin
-製造中止-

白色結晶性粉末 アルカリ性尿:赤色 便の赤色化も報告。加水分解によりphenolphtaleinのquinoide型Na塩が生じる[医要,1984]
[113] phensuximide   桃色?赤色又は赤褐色 立証する情報は得られていない[関口ら,1981]

[113] phenytoin
アレビアチン(大日本住友)

白色結晶性粉末又は粒 桃色又は赤?赤褐色 立証する情報は得られていない[関口ら,1981]
[641] primaquine ? 赤黄色?褐色(錆黄?褐色) 立証する情報は得られていない[関口ら,1981]

[114] protizonic acid
-製造中止-

微黄色?淡黄白色結晶性粉末 青色 尿が水道水に触れると着色することがある[D.J.,19
82]。この赤色尿は、本剤又はその代謝産物によるのではないかと推定。一般にphen-othiazine系薬剤では、微量金属又は塩素の存在で着色することがあるとされる。

[642] quinacrine hydrochloride
Atabrine(米・Winthrop社)

白色結晶又は結晶性粉末

酸性尿で黄色
褐色?黒色

代謝産物に起因する。
代謝産物に起因すると思われる。quinoline環の水酸化等報告[JP-X]

[641] quinine sulfate
           及びその誘導体

白色結晶又は結晶性粉末

酸性尿で黄色
褐色?黒色

代謝産物に起因する。
代謝産物に起因すると思われる。quinoline環の水酸化等報告[JP-X]

[322] reduced iron(還元鉄) ? 帯黒色 一部が尿中に排泄され、尿が黒変する。硫酸化鉄の生成で尿が黒変することがある等の報告が鉄剤でされている。

[235] rhubarb
大黄末

褐色 褐色・帯赤黄色。酸性尿:黄褐色・アルカリ性尿:桃黄色、放置で褐色?黒色 有効成分のsen-noside Aに関連し、anthraqui-none配糖体に起因する。

[318] riboflavin
シーパラ(高田)
ノイロビタン(アステラス)
ビタノイリン(武田)

黄色?橙黄色結晶 黄色 配合剤中に含まれるriboflavinに起因する[D.J.,19
82]。大量のribo-flavinは尿の黄変を起こすといわれる。

[313] riboflavin tetrabutyrate
ハイボン(田辺三菱)

橙黄色結晶又は結晶性粉末 黄色 riboflavinの大量は、尿を黄変させる。

[616] rifampicin
リマクタン(ノバルティス)

橙赤色結晶性粉末
橙赤色?赤褐色結晶又は結晶性粉末

橙赤色 汗・痰・唾液・涙液も着色。本剤及びその代謝産物による[D.J.,1982]。尿、糞、唾液、痰、涙液がrifampicin及びその代謝産物により橙赤色に着色。血清も同様の着色を示す。又、ソフトコンタクトレンズが着色することもある

[621] salazosulfapyridine
サラゾピリン錠・坐薬
       (田辺三菱)

帯黄褐色微細結晶
黄色?黄褐色微細粉末

アルカリ性尿:黄赤色 尿中に排泄されたsalicylazo-sulpha-pyridineによる。酸性尿では着色しない。尿がアルカリ性の場合、黄赤色に着色することがある。又、ソフトコンタクトレンズが着色することがある。

[237] salicylate phenyl
サリチル酸フェニル

白色結晶又は結晶性粉末 暗緑色 小腸内でsalicyl-ateとphenolに分解する[医要,1978]

[642] santonin
サントニン(日本新薬)

無色又は白色結晶性粉末 酸性尿:淡黄色?橙色・アルカリ性尿:紫赤色 santoninの酸化生成物に由来する[JP-X]

[235] senna ext.leaf.pod
アローゼン(科薬)

?

アルカリ性尿:黄褐色・酸性尿:赤色。
黄褐色又は赤色

主成分であるanthraquinoneに特有の色である。主成分のanthra-quinoneとアルカリ尿の反応によるもの。

[235] sennoside
プルゼニド(ノバルティス)

淡褐色粉末
(Ca塩)
黄褐色又は赤色 anthraquinone配糖体に特有の色。
[114] sulpyrine 白色?淡黄色結晶又は結晶性粉末 赤色 aminopyrine同様ピラゾロン誘導体

[237] tannic acid
タンニン酸

黄白色-淡褐色無晶形粉末又は光沢ある小葉片又は海綿状の塊 赤色?褐色 尿中代謝産物としてピロガロール。アルカリ性尿で赤?赤褐色に変色するとされている[JP-X]

[623] thiazosulfone
-製造中止-

白色?微黄色結晶又は結晶性粉末 桃色又は赤色 尿中に排泄されたthiazosulfoneによる[関口ら,1981]

[642] thymol
チモール(メルクホエイ)

無色結晶又は白色結晶性粉末 緑色、放置で黒色 thimol hydroxy-quinoneとなり尿中に排泄。放置すると酸化により変化する[医要,1978]

[124] timepidium bromide
セスデンカプセル・細粒・注射液 (田辺三菱)

白色結晶又は結晶性粉末 赤味がかった着色尿 本剤の代謝産物の尿中排泄による[D.J.,1982]。本剤の代謝産物により、赤味がかった着色尿が現れることがあるので、ウロビリノーゲン等の尿検査は注意。

[641] tinidazole
?製造中止?

白色?淡黄色結晶性粉末 濃縮した濃い黄色?褐色の着色尿 metronidazoleと類似した化学構造であり、恐らく代謝産物によると推定される。

[114] tinoridine hydrochloride
?製造中止?

帯黄白色?黄色粉末 黄緑色蛍光 本剤の尿中排泄に起因する[D.J.,
1982]。服用後尿が黄緑色の蛍光を呈することがある。これは本剤の成分の一部によるもの。

[222] tipepidine hibenzate
アスベリン(田辺三菱)

白色?淡黄色結晶性粉末 赤味がかった着色尿 本剤の代謝産物の尿中排泄に起因する[D.J.,19
82]

[449]tranilast
リザベンカプセル・細粒・ドライシロップ(キッセイ)

? 緑色尿 緑色尿については、3例の報告があるが、機序は不明。いずれも10歳未満の小児、幼児で報告、オムツの着色から判明。

[213] triamterene
トリテレンカプセル(大日本住友)

黄色結晶性粉末 青白色蛍光 立証する情報は得られていない[関口ら,1981]

[251] uva ursi leaves
ウワウルシ(紀伊国屋)

? 赤色?褐色 主成分中のarbutin配糖体が尿中で分解、hydroquinoneとなることに起因[D.J.,1982]

[219] vinpocetine
-製造中止-
脳循環改善剤

白色?微黄色結晶又は結晶性粉末 黒色 現在までにヒトでの報告はされていないが、動物実験の高用量投与群においてvinpocetineの微量代謝産物によると推定される尿及び便の黒色化が報告されている。

[333] warfarin potassium
ワーファリン錠(エーザイ)

白色結晶性粉末 橙色 立証する情報は得られていない[関口ら,1981]
分類・一般名・商品名(会社名) 原体の色調 尿色調 発現機序

 

1)伊藤正男・他総編集:医学書院医学大辞典:医学書院,2003
2)キネダック錠添付文書,1996.10.改訂
3)小野薬品工業株式会社・学術課私信,1997.6.16.
4)国立国際医療センター医薬品情報管理室・私信,1997.6.16.
5)オダイン錠インタビューフォーム,1994.10.
6)国立国際医療センター薬剤部医薬品情報管理室・編:尿色調に影響する薬剤;医薬品情報,21(5):423-430(1994)
7)関口 慶二・他監訳:薬物相互作用 第IV版;薬業時報社,1981
8)大阪府病院薬剤師会・編:医薬品要覧<総合新版>;薬業時報社,1978
9)第八改正日本薬局方解説書;広川書店,1971
10)第十改正日本薬局方解説書;広川書店,1981
11)新井 武利・他:Cephacetrileの基礎的研究;Chemotherapy,24(1):45(1976)
12)日本医薬品情報センター・編:日本医薬品集 第6版;薬業時報社,1982
13)ファルモビシン注添付文書,1991.3.作成
14)グリソビン-FP錠添付文書,1996.11,改訂
15)カルベニン点滴用インタビューフォーム,1993.10.作成
16)ファーストシン静注用インタビューフォーム,1996.9.改訂
17)イダマイシン注インタビューフォーム,1995.6.作成
18)吉利 和・他監訳:薬の副作用と臨床(広川書店)
19)岩本多喜男:薬物投与が臨床検査成績に及ぼす影響 その3;薬局,21(9):1131(1970)
20)日本医薬品情報センター・編:日本医薬品集 第9版;薬業時報社,1985
21)ランプレンカプセル添付文書,1997.4.改訂
22)ランプレンカプセルインタビューフォーム,1996.12.作成
23)社団法人東京都薬剤師会医薬品情報室:DI掲示板;都薬雑誌,23(6):12-16(2001)

[第一改訂.1997. 6.23.古泉秀夫・第二改訂.1997.12.19.・第三改訂.2002. 1.21.・第四改訂.2003. 9.10.・第五改訂.2005.10.3.・第六改訂,2007.12.1.]

「毒茸(3)-毒鶴茸の毒性」

土曜日, 12月 1st, 2007
対象物 ドクツルタケ(学名:Amanita virosa (Fr.) Bertillon)、和名:毒鶴茸。別名:シロのブスキノコ・シロコドク・テッポウタケ。
成分

毒鶴茸の有毒成分は、ピロトキシン類(pilotoxin)、ファロトキシン類(phallotoxin)、アマトキシン類(amatoxin)及びその他の化合物としてジヒドロキシグルタミン酸を含有する。
ファロイジン(phalloidin)及びファロイン(phalloine)というアミノ酸7個からなるペプチド系(あるいはalkaloid系)やアミノ酸8個からなるペプチド系(あるいはalkaloid系)であるアマニチン(amanitin)類である。

一般的性状

毒鶴茸は、ハラタケ目、テングタケ科、テングタケ属(amanita)に分類される毒茸で、アマニタトキシン群(amanitatoxin)に分類される。

毒鶴茸は夏から秋(8-10月)に、雑木林、ブナ、水ナラなどの林内地上毒鶴茸 に発生する。中型-大型茸で、傘は白色、湿っていると きはやや粘性がある。傘の縁に条線はない。襞は白色で、密。柄は白色で、上部には膜質の鍔、基部には大きな袋状の壺がある。柄の表面は小鱗片-ささくれ状となる。白くて美しい姿をしているが、致死性の高い猛毒性分を含んでいる。

食用となる茸にも白色のものがあるので、間違えないようにする注意が必要である。この種の様に「傘に条線がない」、「柄に鍔がある」、「柄の基部に袋状の壺がある」という特徴を兼ね備えたテングタケ属菌には、猛毒を持つものが多く知られている。

毒鶴茸は日本全国に分布する。毒鶴茸の傘は直径10cmほどで、初め丸山型をしているが、後に殆ど平らに開く。表面は滑らかでやや粘る。柄は長さ8-25cm程度の円柱状。

毒性

phallotoxinは経口摂取では分解されやすいため、中毒の本体はamanitatoxin類であるとされている。amanitinは加水分解されず、比較的安定で加熱しても分解しない。従って、加熱調理しても毒性はなくならない。amanitinは“腸肝循環”するという特性を有しており、長時間体外に排泄されない。
amanitatoxin群
α-amanitin:マウス腹腔内(LD50):0.3mg/kg。
β-amanitin:マウス腹腔内(LD50):0.5mg/kg
γ-amanitin:マウス腹腔内(LD50):0.2mg/kg
ε-amanitin:マウス腹腔内(LD50):0.3mg/kg
amanullin・amanullinic acid・proamanullin・amanin
amanitinの致死量:0.1mg/kg。
毒成分には硫黄を含み、成熟した白卵天狗茸を1本以上の摂食で致死的。

症状

amanitinには粘膜刺激作用がないため、毒茸を摂取しても直後に症状が見られることはない。摂食後6-24時間経過後、嘔吐、腹痛、下痢が発現する。卵天狗茸による下痢は、大量の水性便で、コレラ様の水性便を呈する。その後、黄疸、腎機能障害、肝機能障害が発現する。amanitinはRNAポリメラーゼと結合し、RNAの合成、更には蛋白合成を阻害して肝障害をもたらす。劇症肝炎に似た症状で死亡する者が多く、死亡率50%以上とされる。

潜伏期を経て突然激しい嘔吐、下痢、腹痛で発症。粘液便、血便を排泄するコレラ様症状。 脱水・脱塩(低カリウム血症)

筋肉硬直、痙攣、頭痛、低血糖、嚥下困難、傾眠、精神錯乱、抑うつ状態。

溶血、黄疸、肝機能障害、出血、尿閉、血尿、中毒性腎炎、内臓浮腫と疼痛。

衰弱、血圧低下、チアノーゼ、中枢神経障害、心筋障害、血管運動中枢障害、肺水腫、循環不全

遅延性肝炎・腎不全(48-72時間後に起こる)

意識不明・昏睡・死亡。

処置

?胃洗浄:摂食後6時間以内であれば催吐し、胃洗浄を行う。

?活性炭・下剤投与(下痢がない場合):摂食後6時間以上経過している場合、活性炭と下剤投与。肝及び腎機能の検査を数日間は行う。活性炭投与は4時間毎に2日間にわたって投与する。その他、十二指腸チューブによる胆汁の除去も有効。

処方例

活性炭 50gを微温湯300-500mL(小児では1g/kgの活性炭を生理食塩水10-20mL)に溶解し、服用させる。その後、半量を3時間毎に24時間まで繰り返し投与。下剤としてD-ソルビトール液(75%)2mL/kgを投与し、6時間後に排便がなければ半量を繰り替えし使用(保険適用外)。

?強制利尿:amanitinは48時間以内に大部分が尿中に排泄される。従って強制利尿が有効。

?血液吸着:活性炭カラムによる血液吸着によるamanitin除去。肝障害予防のため実施。血液透析は、amanitinが膜を通過し難いので、無効とされているが、腎障害のある場合は適用となるの報告。

対症療法

?輸液:脱水・電解質異常・低血糖の改善。肝保護剤の同時投与を行う。

?呼吸管理:酸素吸入、人工呼吸等▼?循環管理

事例

「もちろんです。諏訪でとれる三種の山草とあるきのこから煮だして取りだされた毒です。本当なら死んでもおかしくないですが、さすがですね、体が頑健なのと飲んだ量が少なかったおかげでこうして一命を取りとめました。でも………」▼「でも、なんだ」▼「これを飲まないと、あと二日ともたないでしょう」▼「あと二日………」▼その言葉を裏づけるように、体の重みはさらに増してきた。指一本動かすのも大儀だ。▼「本当に毒消しです。もし興津様を殺すつもりでいるんだったら、こんなわずらわしい手をつかわずとも、あの大木の根元で殺していました。重い体を引きずって、わざわざここまで連れてくる必要なんかありません」▼女のいい分は正しいように思えた。 [鈴木英治:手習重兵衛 道中霧;中公文庫,2005]

備考

単に毒茸ということで、具体的な名前は書かれていない。しかし、摂食することで、死亡者が出るほど毒性の強い茸としては、毒茸の御三家に数えられる“卵天狗茸・白卵天狗茸・ドクツルタケ”があるが、今回は“ドクツルタケ”を取り上げる。
最初、“ドクツルタケ”という言葉を眼にしたとき、『ツル』は草冠の『蔓』であろうと勝手に決めていたが、実際に和名の漢字を見たとき、鳥類の『鶴』の字が当てられているのを見て、この字を当てた人は、相当皮肉の強い人であろうと想像した。毒茸に『毒鶴茸』は、あまりにも美しすぎはしないか。しかし、現物を見たとき、印象として鶴を思い浮かべたのかもしれないが、国内毒茸御三家の一つに位置づけられる茸の中で、他の即物的な命名の二種に比べて、飛び抜けて美名である。

文献

1)古泉秀夫:毒キノコ中毒時の中毒症状・処置;DID-0037,1998.10.19.

2)舟山信次:図解雑学 毒の科学;ナツメ社,2004

3)長沢英史・監修:日本の毒きのこ;株式会社学習研究社,2003

4)成田傳蔵・編集協力:Field Selection-きのこ;北隆館,1997

5)海老原昭夫・編著:知っておきたい毒の知識;薬事日報社,2001

6)(財)日本中毒情報センター・編:改訂版 症例で学ぶ中毒事故とその対策;じほう,2000

7)吉村正一郎・他編著:急性中毒情報ファイル第3版;廣川書店,1996

8)鵜飼 卓・監修:第三版 急性中毒処置の手引き;薬業時報社,1999

調査者 古泉秀夫 記入日 2005.8.5.

ニセクロハツ(偽黒初)の毒性

土曜日, 12月 1st, 2007
対象物 ニセクロハツ(偽黒初)
成分 ルスフェリン、ルスフェロール類(細胞毒)。カナバニン(canavanine:全身紅斑狼瘡に特徴的な血液異常をサルに対して惹起する)。GABA。3-ヒドロキシバイキアン。
一般的性状

ハラタケ目、ベニタケ科、ベニタケ属、ニセクロハツ(偽黒初)。学名:Russula subnigricans Hongo。夏-秋、特にシイ・カシなどの広葉樹林の地上に発生する。傘は中型-大型、成熟すると浅いジョウゴ型になる。表面は灰褐色-黒褐色でややスエード状。
クロハツタケ

肉は汚 白色傷つけると次第に赤みを帯び、その後も汚れた淡赤褐色にとどまり、黒くはならない。襞は幅広く疎、クリーム色で肉と同様に緩徐に淡赤褐色に変色する。茎は灰褐色で硬い。
この種のように傷つけると赤く変色するが、黒くならない類似種がいくつかあ り、現在それらの比較研究が進められている。関西では過去に複数の中毒死亡例があるとされる。

毒性

致死性中毒-細胞壊死型
毒成分:未知物質。
毒成分は痙攣毒で、血尿は痙攣毒によるものと考えられている。
中枢神経系に作用する特殊なアミノ酸(カナバニン・アイカイン酸)が検出され ている。

症状

第I期:消化管症状 [コレラ様症状、激しい腹痛、疝痛、嘔吐、水溶性血便、下痢、口渇、筋の痙攣、脈拍:速・弱]。
第II期:第2潜伏期(偽回復期) [チアノーゼ、不安状態、筋肉の痙攣、幻覚、催眠と虚脱、血液凝固障害]。
第III期:肝・腎障害、昏睡 [黄疸、無尿、乏尿、肺水腫]。
潜伏期:6-24時間。
予 後:多量摂取時50-90%の死亡率。重症(死亡例有)。低血糖は予後不良。プロトロンビン時間(PT)延長に注意。大量の消化管出血を起こした場合、凍結血漿とビタミンK投与。
摂食後30分以内に吐き気、嘔吐、続いて下痢が始まる。頭の後方から背中にかけて強直状態となり、破傷風や骨髄炎に似る。顔面から四肢に及ぶ痙攣が現れる。血尿を見る。意識は初め正常であるが、末期には混濁してくる。顔面や手足の蒼白、発熱、発汗を見ることもある。死亡は2日目位である。
摂食後10分程度で嘔吐、下痢など胃腸系の中毒が起こり、その後、縮瞳、言語 障害、背中の痛み、血尿などの症状が現れ、心臓衰弱の後に死亡する。

処置

治療要点:一般に胃腸刺激症状が遅れて発現した場合は、全身管理が十分できる高度医療機関に転送。
[1]全身管理:必須(肝・腎機能検査の継続的実施)。
[2]催 吐:摂取後6時間以内なら実施。
[3]胃洗浄:必要。
[4]吸着剤:活性炭(100gを水200mLに溶解)使用。[5]下 剤:活性炭+下剤(硫酸マグネシウム[30mg/200mL]、マグコロール4時間毎2日間)。
[6]強制利尿:通常48時間以内に大部分が尿中に排泄される。3-6mL/kg/hr.程度の尿量確保。
[7]血液浄化法:必須。
*痙攣や強直には、ジアゼパムを静注する。強直や痙攣が治まるのを目安に、 2mg程度を繰返し投与する。尿量を保つべく、尿量を測定しながら乳酸リンゲル液の輸液を行い、尿量が十分でなければフルセミドを使用する。

事例

毒キノコ食べ男女2人死亡 愛知・豊橋愛知県豊橋市保健所に27日入った連絡によると、毒キノコ「ニセクロハツ」を誤って食べた市内の60歳代の男女2人が26日深夜から27日未明にかけて市内の病院で多臓器不全のため相次いで死亡した。同保健所によると、2人は友人同士で、24日、市内の山林で食用の「クロハツ」と間違えてニセクロハツを採取し、その日の夜、女性が自宅でみそ汁に入れて2人で食べたところ、約30分後に嘔吐、下痢、血尿、呼吸困難等の症状が現れた。
ニセクロハツは、色や形がクロハツそっくりだが、クロハツは肉を傷つけると傷口が黒く変色するのに対し、ニセクロハツは黒くならないのが特徴。毒性が強く、2人は2、3本食べたらしい。同保健所によると、全国でニセクロハツによる死者は過去10年間、出ていないという。[読売新聞,第46498号, 2005.8.27.]

備考

偽黒初を殺人の道具として使用した物語にはまだ行き会っていない。偽黒初の毒性は比較的強く、摂取量によっては死亡するというが、如何に物語とはいえ、やはり確実性のない毒物を使用することは、避けるというのが殺人者の心理だろう。従って、今回も新聞報道された実話に基づいて偽黒初の毒性について記したが、偽黒初の毒物そのものの詳細は不明とされており、治療法は偽黒初が属する群としての治療法である。
ただし、幾つかの実例では、摂食した御当人達は、毒茸を摂取したという意識がないために、治療が後手に回って死亡している。例え市販されている茸であっても、摂食後吐き気・嘔吐が見られた場合、疑って医師に伝えることが必要かもしれない。更に毒茸を摂食したと思われたときは、速めに吐き出してしまうことが肝心で、その初期処理が速ければ速いほど救命される機会は増えるようである。

文献

1) 長沢栄史・監修:フィールドベスト図鑑 日本の毒きのこ;(株)学習研究社,2004
2)内藤裕史:中毒百科-事例・病態・治療;南江堂,2001
3)奥沢康正他編著:毒きのこ今昔-中毒症例を中心にして-;思文閣出版,2004

調査者 古泉秀夫 記入日 2006.1.2.