喫煙との相互作用

KW:相互作用・喫煙・煙草・タバコ・ベザトールSR錠・プレマリン錠・bezafibrate・ベザフィブラート・エストロゲン配合剤

 

Q:ベザトールSR錠・プレマリン錠の添付文書中に、相互作用として喫煙に関する記載はされていない。にもかかわらずレセプト用の電脳に組み込まれた服薬指導文書では、喫煙に対する注意がでてくるが、その根拠は何か

 

A:両剤の添付文書を見る限り、両剤に対する相互作用として、喫煙に関する記載は何等されていない。

但し、喫煙と薬物相互作用に関する報告として、次の報告がされている。

煙草の主要成分はニコチンであるが、それ以外にも3000種以上の化学物質が含まれている。煙草のヤニに含まれる芳香族多環炭化水素もその一種である。この物質は、肝臓の薬物代謝酵素の一つであるCYP1A2の量を増やし、この酵素を経由する薬物の代謝・排泄速度を増大させる。その結果、喫煙者では、同量の薬物を与えても血漿中濃度が非喫煙者に比較して低値を示し、弱い薬効しか得られないことがある。

その他、動物実験ではCYP2E1、CYP2A1/2A2、CYP2B1/2B2の活性が変化することが報告されているとされるが、動物実験の結果を直ちにヒトに外挿することはできない。ヒトにおいては上記CYP1A2の他にCYP1A1も影響するとする報告がされている。

区分[分類番号]一般名

商品名(会社名)

文献報告の概要

[2183]bezafibrate

ベザトールSR錠(キッセイ薬品)

bezafibrate については、薬物代謝酵素の影響を受けないとされており、喫煙者に対する注意事項は、別の理由によるものと考えられる。また、本剤と喫煙による相互作用が臨床上報告されているとすれば、添付文書に反映しているはずであり、本剤と喫煙との相互作用があるとは考えられない。高脂血症に対する治療目標として、次の報告がされている。

1988年米国national cholesterol education program委員会の指針では、血清TCは200mg/dL未満が理想である。200?239mg/dLの場合は、

1)男性

2)若年者の虚血性疾患や家族歴(親や同胞に50歳以前の突然死や心筋梗塞があった場合)

3)喫煙(1日10本以上の煙草を現在も吸っている場合)

4)高血圧

5)HDLコレステロール値が低い(複数回の測定の平均値で35mg/dL以下)

6)糖尿病

7)脳血管障害、又は閉塞性末梢血管障害がある

8)高度肥満(30%以上)

以上8項目のうち2項目以上ある場合は薬物治療を行うとしている。従って、本剤と喫煙の関係というよりは原疾患と喫煙の関係というべきである。

[2479]conjugated estrogensestrone sodium sulfate

equillin sodium sulfate

dihydro equillin sodium sulfate

プレマリン錠(旭化成)

本剤の添付文書にも喫煙との相互作用の記載はされていない。estrogensと喫煙の関係については、経口避妊薬共通の注意事項として、35歳以上で1 日15本以上の喫煙者[心筋梗塞等の心血管系の障害が発生しやすくなるとの報告がある]。*外国の添付文書及び国内の黄体卵胞ホルモン配合剤(治療用)の使用上の注意をもとに記載した。

喫煙により経口避妊剤による重篤な心血管系副作用の危険性が増大することが知られている。外国の疫学調査において、心筋梗塞による死亡者の相対危険率を年齢別に喫煙、経口避妊薬服用の有無について比較した結果、経口避妊剤服用者の34歳以下の女性ではその危険率は非常に低いが、35歳以上の女性、特に喫煙者では急激に増加すると報告されている。また、脳血管障害(脳卒中)についても喫煙する35歳以上の女性で危険率は急激に増加するとの同様の報告があるとされている。

*単に喫煙による化学的物質と本剤による相互作用とすれば、年齢差あるいは性差があることは理解し難い点であり、他の要因が存在するのではないかと考えられる。

 

以上の報告から

  1. 両剤の添付文書に具体的な喫煙との相互作用が記載されていないこと。
  2. bezafibrateでは、原疾患である疾病に対する喫煙の影響としての報告がされていること。

等を考えた場合、両剤の相互作用として喫煙注意を記載することは原著文献の引用がなければ、EBM(Evidence-based medicine)の観点から見ても無理があると判断する。患者に対する服薬指導文書は、原則的には「添付文書記載の範囲」を優先すべきであり、あくまで科学的根拠に基づく情報提供であるべきである。

[015.2BEZ:2000.6.14.古泉秀夫]


  1. 千葉 寛:喫煙と薬物相互作用-知っておきたい薬物相互作用-石崎高志・監修;第一製薬株式会社,1998
  2. ベザトールSR添付文書,1999.6.改訂
  3. 今田聡雄:高コレステロール血症の薬物療法;薬局,42(12):1765-1770(1991)
  4. キッセイ薬品工業株式会社・学術課・私信,2000.6.14.
  5. アンジュ28インタビューフォーム,1999.8.作成
  6. プレマリン錠添付文書,1999.6.改訂
  7. ソフィア-A添付文書,1998.2.改訂
  8. 浦江明憲・他:薬物動態に及ぼす喫煙の影響;月刊薬事,42(4):973-977(2000)