対象物 |
夾竹桃(Oleandere) |
成分 |
葉に強心配糖体のオレアンドリン(oleandrin)の他、ネリアチン、アジネリン(adynerin)、デアセチルオレアンドリン、ウルソール酸、オレアノール酸、樹皮にジギトキシゲニンあるいはウザリゲニンの配糖体であるオドロシドA、B、D、F、G、Hの他、パルミチン酸、ステアリン酸、オレイン酸、リノール酸などを含む。 |
一般的性状 |
キョウチクトウ[学名:Nerium indicim Mill.(=N.odorum Soland.ex Ait.)]。キョウチクトウ科キョウチクトウ属の常緑低木。夾竹桃(英名:Rose Bay、Oleandere)。 分布:インド原産。日本には享保9年(1724年)に渡来し、観賞用に庭園等に植栽される。 形態:樹高3mになる。若枝はやや太く、緑色の微毛がある。葉は通常三輪生し厚い皮質の線状披針形で長さ15-27cm、尖頭で全縁無毛。花期は8月。 薬用部分:葉、樹皮(夾竹桃<キョウチクトウ>)。必要 時に葉、樹皮を採集し、水洗い後日干しによる。 薬効・薬理:夾竹桃には古くから強心作用のあることが証明されており、葉に最も強い効果が見られた。 オレアンドリンはジキタリス配糖体類似の強心作用があり、ジギトキシンよりその作用が強く、また顕著な蓄積性を持ち、3日で56%が排出される。オレアンドリンは熱に対して比較的安定で、やや強い催吐作用があり、血管に対して低濃度で拡張し、高濃度で収縮させる。利尿作用はジギタリスより弱い。夾竹桃は打撲の腫れ、痛みに用いられる。強心成分を含むが、心臓病に素人療法を施すのは危険なため、使用すべきではない。使用法:打撲の腫れ、痛みに夾竹桃10-20gを400mLの水で煎じ、この煎液で患部を洗う。 |
毒性 |
■oleandrinは、植物全体に含まれ、毒性は青酸カリよりも強く、致死量は0.30mg/kgで あるとされる。フランスで発生した死亡事故について、警察の調査によると、7人が死亡した際、バーベキューの串に使っていたのが、夾竹桃の枝だったという。火に焼かれることでoleandrinが染み出し、肉や野菜にも染み込んだ。その食材を食べた為、7人もの人間が死亡してしまったという。また、oleandrinは熱によって分解されにくい性質があり、生木のまま燃やすと、その煙にも毒成分が含まれる為、吸い込むと危険であるという。その為、十分乾燥させ、燃やしているときは近づかないように注意する。 ■夾竹桃には種々の強心配糖体が含まれているが,量的にもっとも多いのは oleandrinである。アグリコンはオレアンドリゲニン(oleandrigenin)で,これとオレアンドロース(oleandrose)と呼ばれる糖がO-グリコシド結合したものがoleandrinである。キョウチクトウの生葉中ではoleandrinはさらゲンチオビオース(gentiobiose:グルコース2分子がβ1→6結合した二糖類)と結合したオレアンドリンゲンチオビオシドとして存在している。この物質は oleandrinよりも毒性はやや低いといわれている。植物内や動物の消化管内でこの2分子のグルコースが酵素により切断されるとoleand-rinになる。夾竹桃中の有毒物質の量は、植物の成熟時期によって異なり、開花時期がもっとも多いといわれている。また致死量については,乾燥葉として 50mg/kg(牛-経口)と報告されている。 |
症状 |
oleandrin は、体内に入ると神経細胞の興奮、筋肉の収縮が起こり、肝機能は低下する。その結果、下痢・嘔吐・目まい、更には心臓麻痺を惹起するという。通常であれば、ヒトの体内に入り得ないoleandrinであるが、夾竹桃には多く含まれるという。 |
処置 |
■夾竹桃摂取者に関する具体的な処置法は確認できなかった。以下にジギタリス以外の強心配糖体による中 毒発現時の処置として報告されている例を参照として紹介する。 [1]血清カリウム値を1時間おきに測定し、高いようであればケイキサレートの経口投与又はブドウ糖とインスリンの静注を行う。入院時の値が6.4mEq/L 上は極めて予後が悪いと考えておかなければならない。 [2]房室ブロックにはフェニトイン(アレビアチン注射液)を1回25mg(小児:1回0.5-1.0mg/kg)、1-2時間おきに静注する。心室性不整脈 対しては、初回量15mg/kg(総量1gまで)、1分間0.5mg/kgを超えない速度で静注する。維持量は2mg/kgを成人で12時間おき、小児で8時間おきに、必要に応じて静注する。できれば血清中フェニトイン濃度を測定し、10-20μg/mLを保つようにする。 [3]心室性頻脈、二段脈にはリドカインが有効。初回量1mg/kgを静注。必要なら0.5-1.0mg/kgを20分後に静注する。維持量として10- 0μg/kg・minを点滴静注する。 [4]血液透析や血液灌流ではalkaloid・強心配糖体を除去することはできない。 |
事例 |
検死解剖の結果、カプセルの中に薬の代わりに入っていた、粉末状の夾竹桃の樹皮を摂取したための毒死と判明。直接的に手を下した犯行ではないが、有効な殺人方法だ。夾竹桃はカリフォルニアではごくありふれた低木である。事実、ファイフ家の裏庭にも1本植えてあった。カプセルの入っていた薬瓶から、彼自身のものだけでなくニッキの指紋も検出された[スー・グラフトン(嵯峨静江・訳):アリバイのA;早川書房,1992]。 |
備考 |
夾竹桃の粉末をカプセルに入れてという話を読んだとき、夾竹桃が有毒植物であるということを知らなかったので、まさかという思いが先に立ったのと、カプセルに入るくらいの量で、即、致死的状況に陥るということについては、眉唾物であるというのが正直なところ。しかし、調べてみると意外と毒性が強というのと、燃えてでる煙も厄介者のようであり、高速道路で火災が起きて夾竹桃が燃えている場所には近寄るなとは、車を運転する友人へのお節介な忠告。 |
文献 |
1) 三橋 博・監修:原色牧野和漢薬草大図鑑;北隆館,1988 2)植松 黎:毒草を食べてみた;文藝新書,20003)植松 黎:毒草の誘惑;講談社,1997 4)http://www.ntv.co.jp/,2004.8.8. 5)http://ss.niah.affrc.go.jp/,2004.8.8. 6)Namera, A. et al. 1997. Rapid quantative analysis of oleandrin in human blood by high-performance liquid chromatography. Jpn. J. Legal Med. 51:315-318. |