Archive for 12月 10th, 2007
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月曜日, 12月 10th, 2007
対象物 |
夾竹桃(Oleandere) |
成分 |
葉に強心配糖体のオレアンドリン(oleandrin)の他、ネリアチン、アジネリン(adynerin)、デアセチルオレアンドリン、ウルソール酸、オレアノール酸、樹皮にジギトキシゲニンあるいはウザリゲニンの配糖体であるオドロシドA、B、D、F、G、Hの他、パルミチン酸、ステアリン酸、オレイン酸、リノール酸などを含む。 |
一般的性状 |
キョウチクトウ[学名:Nerium indicim Mill.(=N.odorum Soland.ex Ait.)]。キョウチクトウ科キョウチクトウ属の常緑低木。夾竹桃(英名:Rose Bay、Oleandere)。 分布:インド原産。日本には享保9年(1724年)に渡来し、観賞用に庭園等に植栽される。 形態:樹高3mになる。若枝はやや太く、緑色の微毛がある。葉は通常三輪生し厚い皮質の線状披針形で長さ15-27cm、尖頭で全縁無毛。花期は8月。 薬用部分:葉、樹皮(夾竹桃<キョウチクトウ>)。必要 時に葉、樹皮を採集し、水洗い後日干しによる。 薬効・薬理:夾竹桃には古くから強心作用のあることが証明されており、葉に最も強い効果が見られた。 オレアンドリンはジキタリス配糖体類似の強心作用があり、ジギトキシンよりその作用が強く、また顕著な蓄積性を持ち、3日で56%が排出される。オレアンドリンは熱に対して比較的安定で、やや強い催吐作用があり、血管に対して低濃度で拡張し、高濃度で収縮させる。利尿作用はジギタリスより弱い。夾竹桃は打撲の腫れ、痛みに用いられる。強心成分を含むが、心臓病に素人療法を施すのは危険なため、使用すべきではない。使用法:打撲の腫れ、痛みに夾竹桃10-20gを400mLの水で煎じ、この煎液で患部を洗う。 |
毒性 |
■oleandrinは、植物全体に含まれ、毒性は青酸カリよりも強く、致死量は0.30mg/kgで あるとされる。フランスで発生した死亡事故について、警察の調査によると、7人が死亡した際、バーベキューの串に使っていたのが、夾竹桃の枝だったという。火に焼かれることでoleandrinが染み出し、肉や野菜にも染み込んだ。その食材を食べた為、7人もの人間が死亡してしまったという。また、oleandrinは熱によって分解されにくい性質があり、生木のまま燃やすと、その煙にも毒成分が含まれる為、吸い込むと危険であるという。その為、十分乾燥させ、燃やしているときは近づかないように注意する。 ■夾竹桃には種々の強心配糖体が含まれているが,量的にもっとも多いのは oleandrinである。アグリコンはオレアンドリゲニン(oleandrigenin)で,これとオレアンドロース(oleandrose)と呼ばれる糖がO-グリコシド結合したものがoleandrinである。キョウチクトウの生葉中ではoleandrinはさらゲンチオビオース(gentiobiose:グルコース2分子がβ1→6結合した二糖類)と結合したオレアンドリンゲンチオビオシドとして存在している。この物質は oleandrinよりも毒性はやや低いといわれている。植物内や動物の消化管内でこの2分子のグルコースが酵素により切断されるとoleand-rinになる。夾竹桃中の有毒物質の量は、植物の成熟時期によって異なり、開花時期がもっとも多いといわれている。また致死量については,乾燥葉として 50mg/kg(牛-経口)と報告されている。 |
症状 |
oleandrin は、体内に入ると神経細胞の興奮、筋肉の収縮が起こり、肝機能は低下する。その結果、下痢・嘔吐・目まい、更には心臓麻痺を惹起するという。通常であれば、ヒトの体内に入り得ないoleandrinであるが、夾竹桃には多く含まれるという。 |
処置 |
■夾竹桃摂取者に関する具体的な処置法は確認できなかった。以下にジギタリス以外の強心配糖体による中 毒発現時の処置として報告されている例を参照として紹介する。 [1]血清カリウム値を1時間おきに測定し、高いようであればケイキサレートの経口投与又はブドウ糖とインスリンの静注を行う。入院時の値が6.4mEq/L 上は極めて予後が悪いと考えておかなければならない。 [2]房室ブロックにはフェニトイン(アレビアチン注射液)を1回25mg(小児:1回0.5-1.0mg/kg)、1-2時間おきに静注する。心室性不整脈 対しては、初回量15mg/kg(総量1gまで)、1分間0.5mg/kgを超えない速度で静注する。維持量は2mg/kgを成人で12時間おき、小児で8時間おきに、必要に応じて静注する。できれば血清中フェニトイン濃度を測定し、10-20μg/mLを保つようにする。 [3]心室性頻脈、二段脈にはリドカインが有効。初回量1mg/kgを静注。必要なら0.5-1.0mg/kgを20分後に静注する。維持量として10- 0μg/kg・minを点滴静注する。 [4]血液透析や血液灌流ではalkaloid・強心配糖体を除去することはできない。 |
事例 |
検死解剖の結果、カプセルの中に薬の代わりに入っていた、粉末状の夾竹桃の樹皮を摂取したための毒死と判明。直接的に手を下した犯行ではないが、有効な殺人方法だ。夾竹桃はカリフォルニアではごくありふれた低木である。事実、ファイフ家の裏庭にも1本植えてあった。カプセルの入っていた薬瓶から、彼自身のものだけでなくニッキの指紋も検出された[スー・グラフトン(嵯峨静江・訳):アリバイのA;早川書房,1992]。 |
備考 |
夾竹桃の粉末をカプセルに入れてという話を読んだとき、夾竹桃が有毒植物であるということを知らなかったので、まさかという思いが先に立ったのと、カプセルに入るくらいの量で、即、致死的状況に陥るということについては、眉唾物であるというのが正直なところ。しかし、調べてみると意外と毒性が強というのと、燃えてでる煙も厄介者のようであり、高速道路で火災が起きて夾竹桃が燃えている場所には近寄るなとは、車を運転する友人へのお節介な忠告。 |
文献 |
1) 三橋 博・監修:原色牧野和漢薬草大図鑑;北隆館,1988 2)植松 黎:毒草を食べてみた;文藝新書,20003)植松 黎:毒草の誘惑;講談社,1997 4)http://www.ntv.co.jp/,2004.8.8. 5)http://ss.niah.affrc.go.jp/,2004.8.8. 6)Namera, A. et al. 1997. Rapid quantative analysis of oleandrin in human blood by high-performance liquid chromatography. Jpn. J. Legal Med. 51:315-318. |
調査者 |
古泉秀夫 |
調査年月日 |
2004.8.17. |
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月曜日, 12月 10th, 2007
対象物 |
芫 青(ゲンセイ) |
成分 |
■青斑猫はカンタリジン1%以内を含有する。 カンタリジン(cantharidin):白色結晶。カンタリスの有効成分で、約0.6%含まれている。
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一般的性状 |
■芫青(ゲンセイ)、英名:spanish fly、ヨーロッパ産カンタリスのことで、基原はアオハンミョウ(青斑猫)、学名:Litta vesicatoria(L.)De Geer(ツチハンミョウ科:Meloidae)である。 ■カンタリス(cantharis英名:cantharide)。日本産のマメ ハンミョウ(豆斑猫)Epicauta gorhami Marseul、中国産のMylabris phalerata Pallas又はM.cichorii Linné(Meloidae)である。本品を乾燥したものは定量するとき、カンタリジン(C10H12O4:196.21)0.6%以上をを含む。本品は不快な刺激性の臭いがあり、味は僅かに辛 い。本品の粉末は皮膚の柔らかい部分又は粘膜に付けば痒くなり、甚だしけば発疱する。皮膚刺激薬として外用され、毒性が強いため内用されることはない。 ヨーロッパ産のものは『芫青』という。
■甲虫目ツチハンミョウ科の昆虫。体長は細長く約20mm。頭部は赤色、前胸、 前翅は黒色で、黄色い縦線がある。大豆の葉などを食害する成虫は、体内に猛毒成分を含有する。昆虫の豆斑猫は、発疱剤として使用されている。カンタリジンは以前、一種の催淫剤として使われた。しかし、強い刺激作用があり、内服すると腎障害を起こす。豆斑猫は不快臭を持つ灰黒色の甲虫で、皮膚粘膜に付くと痒くなり、赤く腫れて水疱ができる。早朝虫の活動が鈍いときに集めて乾燥し、生薬として用いられる。 ■豆斑猫(Epicauta gorhami Marseul)。日本に分布する昆虫で、乾燥した虫体をカンタリスとして薬用に供されたが、豆斑猫が大豆などの葉を食害し、農薬の影響によって激減し、更に副作用が強いこともあって、現在はあまり使用されない。 ■カンタリジンには皮膚刺激作用があり、発毛、発泡の目的で外用され、また、利 尿剤として内服されることもある。 ■カンタリスチンキ(cantharidis tincture):カンタリス(粗末)100gをエタノールに溶かし、1000mLとしたチンキ剤で、黄褐色澄明の液。皮膚の刺激剤で、脱毛症、禿頭に本剤の1%-稀エタノール溶液を塗布する。 ■カンタリス軟膏(cantharidis ointment):発疱膏ともいう。皮膚刺激薬。カンタリスにラッカセイ油、蜜鑞、テレビンチナ、クロロホルム、塩酸を配して軟膏としたもの。類緑黄色 である。肋膜炎、リウマチ、神経痛に適用する。
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毒性 |
■胃腸管から吸収され、皮膚からの吸収はわずか。腎より排泄される。10-30mgは致命的なことがあ る。 ■カンタリジン(ヒト致死量:約30mg)。有毒成分は皮膚からも吸収される。
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症状 |
■経口摂取:口と喉の灼熱感、腹痛、悪心・嘔吐、下痢、吐血、無尿、血尿、遅く弱い脈拍と低血圧症、昏 睡、痙攣が見られる。また呼吸障害で死亡。排尿時の劇痛。腎障害。 ■誤飲時、嘔気、嘔吐、腹痛、下痢等の消化器系症状が発現する。血圧低下、尿毒 症、呼吸不全等を起こし、死亡することがある。
■内服時、尿路を刺激し、男性性器の勃起を促すが、有毒成分が排出される時に腎 臓炎や膀胱炎を誘発し、少量でも反復使用すると慢性中毒の危険がある。
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処置 |
[1] 多量の水で胃洗浄。塩類下剤(油又はアルコールは不可)。 [2]痛みにはモルヒネ15mgを皮下注射。 [3]興奮と痙攣にはジアゼパム5-10mgを緩徐に静注、あるいは筋肉深く注射。 [4]循環器ショックには補液点滴静注。出来れば血管収縮剤。 [5]電解質障害に対して適切な治療[6]食道が酷く侵されたときには、胃洗浄の前にチオペントン静注による麻酔を必要とするかもしれない。
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事例 |
「芫青は、いわばご禁制の薬です。身分も使い途も明らかでない客に、芫青を売ることはご法度なんですよ」 「それはどうしてなんです」 「芫青は、斑猫ともいう。このうえなく貴重な妙薬として用いられる一方、人の命を奪う恐ろしい毒にもなるのがこの斑猫だ」 「芫青とは、斑猫のこと………!」[笹沢佐保:八丁堀・お助け同心秘聞<御定法破り編>-毒薬と小町娘;祥伝社ノン・ポシェット,1997]
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備考 |
■豆斑猫について、薬科学大辞典ではハンミョウ科としているが、他の資料ではツチハンミョウ科とされている。しかし、有毒の豆斑猫はツチハンミョウ科に属するとするのが正解で、ハンミョウ科に属する斑猫は、有毒昆虫ではないとされている。なお、第七改正日本薬局方解説書に記載されている豆斑猫の形態については、豆斑猫の特徴である頭部の赤について何ら説明が無く「頭部はほぼ心臓形で艶のある灰褐色を呈し………」となっているが、このような外形を持つ豆斑猫がいるのかどうかは、昆虫の専門家ではないので不明である。本文中の豆斑猫の図は描いたものである。
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文献 |
1) 薬科学大辞典 第2版;広川書店,1990 2)大木幸介:毒物雑学事典-ヘビ毒から発ガン物質まで-講談社ブルーブック,1999 3)白川 充・共訳:薬物中毒必携第2版;医歯薬出版株式会社,1989 4)小川賢一・他監修:危険・有毒生物;学習研究社,20035)第七改正日本薬局方解説書;廣川書店,1961
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月曜日, 12月 10th, 2007
対 象物 |
キツネノテブクロ(狐の手袋)・ジギタリス。[英] Foxglove、Farycaps。 |
成 分 |
Digitalis purpurea Linneの葉は強心配糖体、サポニン、酵素などを含むが、有効成分の強心配糖体はdigitoxin、gitoxin、 gitaloxinで、これらは生薬調整中にpurpurea glucoside A、B、glucogitaloxinから生成したものである。gigoxinは含まれない。その他プレグナン配糖体(diginin、 purpuronin等)、ステロイドサポニン(F-gitonin、desgalactotigonin等)及びフラボノイド(luteolinとその配糖体)を含む。その他リピド、ステロイド、脂肪酸などを含む。 |
一般的性状 |
キ ツネノテブクロ属(ジギタリス属)、ごまのはぐさ科 (胡麻葉
草科)。 [学名]Digitalis purpurea Linne(Scrophulariaceae)。属名のままの名で手袋の指の意。西欧及び南欧原産。薬用として栽培する2年草又は多年性草本。有毒部:葉。 本品はジギタリスの葉を60℃以下で乾燥し、葉柄及び主脈を除いて細切したものである。本品は定量するとき、1gにつき8-15ジギタリス単位を含む。本 品は主としてジギタリス末製造原料とされる。本品は弱い臭いがあり、味は極めて苦い。
古くからヨーロッパの民間薬として知られていたが、1775年英国の医師William Witheringによって臨床実験が行われ、その重要性が認められ、以後『強心利尿薬』として各国薬局方に収載されるようになった。
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毒性 |
本品の最も主要な作用は心筋に直接働いてその収縮力を増強させることである。これはジギタリス配糖体の筋線維膜Na+、K+-
ATPase 阻害作用に基づくNa+ポンプ抑制効果、細胞内Na+濃度が上昇し、Ca2+の流入を促進することによると考えられている。ジギトキシンは消化管から容易に吸収され、血中の大部分はアルブミンと結合し、腎臓の尿細管における再吸収も大きいので、排泄されにくく、蓄積作用を起こしやすい。
ジギタリス投薬中しばしば悪心・嘔吐が見られるが、これは吸収後における嘔吐中枢の刺激によるものであるとともに、胃粘膜に対する局所刺激からの反射作用によるものである。ジギタリスによる最も大きな副作用は不整脈で、期外収縮がよく見られることである。量が多すぎると頻脈が起こるが、この場合には心室振戦を起こすおそれがあるので、投与を中止する。
*78歳の女性がコンフリーと間違えてジギタリスの葉3枚を油で炒めて食べた。4時間後から腹痛、嘔吐、下痢が発現し、翌日には著しい徐脈、低血圧となり、次の日心室細動で死亡した。
*44歳の男性はジギタリスをコンフリーと間違え、葉を10枚程度採取、1978年10月4日にホウレン草と一緒にジュースにして約180mLを飲んだ。2時間後から吐き気が見られ入院、徐脈、複視、房室ブロックが認められた。脈拍は40/分となり、不整脈が著しく、10月8日に死亡した。
*1986年5月11日、64歳の男性は、滋養強壮目的でコンフリーと間違えてジギタリス葉5枚をミキサーにかけジュースとして飲用した。2時間後嘔気、嘔吐、不整脈が発現、次第に周囲のものが黄色く二重に見える等の症状が見られた。幻覚、不穏、錯乱状態となり、心電図上房室ブロック、著しい洞性徐脈、頻発する心室性期外収縮が見られた。不整脈は12日間、不穏、錯乱は13日間、心電図異常は15日間、黄視症は18日間持続し、退院するまでに1ヵ月以上かかった。
*69歳の女性がコンフリー葉と間違え、ジギタリス葉約10枚を胡麻和えにして食べたところ、2時間半後位に嘔吐、腹痛が起き、2日目意識混濁状態になり、3日目不整脈が著しく、急性心不全で死亡した。
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症 状 |
* 嘔吐が80%に見られる。摂食後数時間で発現するが、中毒の重症度とは関係ないとされる。25%の症例で不安を伴う興奮が見られ、錯乱性の迷走、幻覚が現れ、てんかん様発作を見ることもある。頭痛、筋肉痛、脱力感も見られる。
心筋の種々の部位で障害が起こり、その部位が刺激伝導路上で、下方に位置するほど危険である。刺激伝導障害と自動能の障害が同時発生する場合が殆どである。死亡は65%が心室細動、25%が長時間の無収縮、10%が急性循環不全によるものである。高カリウム血症は重症度を示す重要な因子である。
*過量投与時-徴候・症状:精神状態の変化,悪心・ 嘔吐,徐脈,視力障害,心ブロック,不整脈,低カリウム血症(慢性の過量投与時),高カリウム血症(急性の過量投与時)等があらわれる。
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処置 |
*対症療法:血清カリウム値が5.5mEq/L以上の高カリウム血症の場合、炭酸水素ナトリウム(1mEq/kg) の静注、又はグルコース
(0.5g/kg)+インスリン(0.1unit/kg)療法を用いて細胞内へのカリウム取り込みを促進するか、ポリスチレンスルホン酸ナトリウム(0.5g/kg)を経口投与して排泄を促進する。これらの手段で改善しない場合は、血液透析法を施行する。洞性徐脈や高度房室ブロック及び洞進出ブロックの際は、硫酸アトロピン(0.5-2.0mg)の静注が第一選択なる。心室頻拍、期外収縮、又は二段脈の際は、フェニトイン(5分毎に100mg又は1gを50mg/分以下の速度)や塩酸リドカイン(1.0mg/kgを静注後1-4mg/分静注)を投与する。また硫酸マグネシウム(2gを20分以上かけて静注後1-2g/時を静注)は血中のマグネシウム濃度が正常であってもジギタリス中毒の際の不整脈には有効である。急性ジギタリス中毒の際に致死性不整脈が生じ、抗不整脈薬に反応せず循環動態が保てない場合や心停止の際には経皮的心肺補助法(PCPS)を導入する。
*吸収の阻害:摂食後1時間以内であれば胃洗浄を考 慮する。活性炭を投与する。
*排泄の促進:分布容積が小さいが蛋白結合率が高い digitoxinでは血液透析法は無効であるが、血液潅流法は有効である。分布容積が小さく腸肝循環を受けるdigitoxinでは活性炭の繰返し投与 が非常に有効である。
ジギトキシン錠の添付文書では、次の通り記載されている。
1.過量投与の管理では、併用薬剤による過量投与、相互作用の可能性、薬物動態等を考慮する。
2.連続心電図モニターを行う。digitoxinによる調律異常が疑われた場合には投与を中止する。
3.気道を確保し,換気と灌流を維持する。バイタルサイン、血液ガス、カリウムとdigitoxin濃度をモニターする。
4. 活性炭の投与で薬物の吸収を減らすことができる。
5. 徐脈や心ブロックにはアトロピンやペースメーカーを用いる。
6.過量投与時の強制利尿、腹膜透析、活性炭による血液吸着の有効性は確立されていない。
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事 例 |
「ま さか、毒薬ではなかったんだろうな」戻ってきた時の長助の表情から推量して、東吾はいったのだったが、
「いや、毒にもなります。それもかなり強い毒です」
「薬にもなるんだろう」
「わたしの口癖を盗みましたね」
しかし、宗太郎の表情は笑っていなかった。
「あの薬の出所についてすぐ調べてください。死んだ年寄りの他に、あの薬を服用している者はいないか」
「なんなのだ、あれは……」
「持ち込んだのは、まず異人でしょうが、清国経由で入って来ることも考えられなくはありません」
自分は長崎でイギリス人の医者から聞いたことで、その折、実物も見ているのだが、と前おきして宗太郎は紙包みを開いた。黒茶色の粉末が子供の手のひとにぎ りほど入っている。
「むこうでは狐の手袋と呼ばれている植物で丈は三尺程度にも伸び花は紅紫色、葉は上面が濃い緑で、裏が白っぽい灰色、柔らかい毛のようなものが生えている そうです」
宗太郎の説明を、源三郎までが気味悪そうに聞いている。
「もともとは花がきれいなので、むこうの人は庭などに植えていたようですが、その葉に薬効があるのを、イギリスの医者が紹介した。今から六、七十年ほど前 のことだといいます」
「なんに効くのだ」と東吾。
「利尿剤ですね。腎臓が悪くなって尿の出がよろしくないような場合に用いるのですが、或る種の心臓の病にも効果がある。但し、連用は危険で、葉柄や葉の主 脈のような部分は用いてはならないといわれています」
「要するに使い方によっては死人が出るってことだな」
源三郎が立ち上がった。
「八文屋のおきみに訊いてみましょう」[平岩弓枝:御宿かわせみ31-江戸の精霊流し-亥の子まつり;文春文庫,2006.4.10.]
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備考 |
今回は『狐の手袋』と呼称される『ジギタリス葉』を取り上げた。作者は日本の作家の中では、毒使いの上手い作家で、その作品毎に多種多様の毒物を見せてくれるが、各毒物の記述は正確である。なお、現在、国内ではジギタリス葉の主成分であるdigitoxinについては、合成されたdigitoxinの製剤が市販されており、それが専ら使用されているため、医療機関で係わるとすれば、市販製剤の過量投与あるいは誤用による事故ということになるが、巷ではコンフリー葉の誤用としてジギタリス葉が摂取されるという事例が報告されている。しかし、現在ではコンフリー葉の摂食は禁止されており、その意味では今後、誤用は減るのかも知れない。 |
文献 |
1)原色牧野日本植物図鑑 I;北隆館,2003
2)海老原昭夫:知っておきたい身近な薬草と毒草;薬事日報社,2003
3)第十四改正日本薬局方解説書;廣川書店,2001
4)内藤裕史:中毒百科-事例・病態・治療-;南江堂,2001
5)ジギトキシン錠(digitoxin)「シオノギ」0.025mg・0.1mg添付文書,2005.4.
6)相馬一核・監修:イラスト&チャートで見る急性中毒診療ハンドブック;医学書院,2005
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