火曜日, 12月 4th, 2007
対象物 |
ヤマトトリカブト[烏頭(ウズ)・烏喙(ウカイ)・天雄・附子・側子]。生薬名:附子。ウスバトリカブト、ナンタイブシ。カラトリカブト(Aconitumcarmichaeli)。 |
成分 |
アルカロイド多数が知られる。アコニチン、メサコニチンの他、強心成分としてヒゲナミンを含む。イサコニチン、アコニン、ヒバコニチン、アチシン、ソンゴリン。 |
一般的性状 |
*ヤマトトリカブト(Aconitum japonicum):キンポウゲ科トリカブト類に属する。北海道のカラフトブシ、北海道南部から東北地方にかけてのエゾトリカブト、本州中央部に分布するヤマトトリカブト、高山地帯にあり葉が細く切れ込んだホソバトリカブト、北海道大雪山ダイセツトリカブト、利尻島のリシリブシ、本州近畿以西のサンヨウブシとかなり細分されている。化学成分からみて妥当な分類としてトリカブト属が30種、変種が22種、計52種という多くの種類が存在する。
附子は充実した塊根を種々の操作で毒成分を少なくしたもので、塩附子(エンブシ)、炮附子(ホウブシ)があり、これは我が国にも輸入されている。烏頭は減毒加工がされていないので毒性が激しく、あまり用いられない。漢方では鎮痛、強心、興奮、利尿に応用する。
*ウスバトリカブト:キンポウゲ科。北海道の高山帯の草原に自生する多年草。有毒部分全草。地下の根は特に毒成分が多い。アルカロイドのアコニチン、メサコニチン、イサコニチンなどを含み、中毒症状は強い痙攣を起こして死亡する。漢方処方に用いられる附子、烏頭という生薬は、ウスバトリカブトと同類の中国産の根を原料にして調製したもので、強心、鎮痙、鎮痛の薬効がある。ただし、これは専門医が用いるもので、一般には毒性が強くて危険である。北海道にはエゾトリカブトの他にテリハブシ、セイヤブシ、カラフトブシ、ダイセツトリカブト、シレトコブシ、ヒダカトリカブトなどが自生する。
*ナンタイブシ:関東地方北部、中部地方東部に産する多年草。日光男体山に多く自生することからこの名称がついた。本品の塊根を生薬として使用するが極めて毒性の強い成分が含まれ、有毒植物の代表格である。アルカロイドのジテルペン系で、毒性の強いアコニチン、メサコニチン、アコニン、ヒバコニチンを含み、低毒性成分のアチシンの他ソンゴリンなどを含む。毒性を低くした加工附子が漢方処方に用いられ、鎮痛、鎮痙、強壮などに用いられる。素人療法には不向き。 |
毒性 |
代表的な成分のアコニチンは中枢神経の麻痺作用があり、ヒトの致死量は3-4mg(精製された純粋なアルカロイドとして)と毒性が強い。アコニチンは経皮吸収・経粘膜吸収される。トリカブトによる死因は、専ら心室細動ないし心停止である。
マウス(皮下)推定致死量
アコニチン:0.4-0.6mg/kg・メスアコニチン:0.3-0.5mg/kg・ジェスアコニチン:0.2-0.3mg/kg
人推定最小致死量
本植物:1g・チンキ5mL・アルカロイド2mg
人致死量
アコニチン:3-4mg 毒性部位 根>葉>茎 |
症状 |
摂食後15-30分、時には直後から舌、口唇、皮膚に痺れが発現し、次第に胸部、手足に拡がり、起立不能になる。皮膚の痺れ感や刺すような痛みが特徴的である。筋肉の硬直感を伴うことがある。煎薬として服用した時は、数分で症状が発現する。極く初期の症状としてはのぼせ、顔面の火照りなどを感じることもある。吐き気、嘔吐がやや遅れて現れる。唾液の分泌亢進、発汗あるいは冷汗、四肢冷感があり、体温が低下することもある。尿失禁あるいは排尿障害があることがあるが、下痢は普通見られない。この時期、例外なく意識は清明である。白血球増多とCK-MM値の上昇が見られるのが普通である。血圧は当初正常であるが、間もなく低下する。不整脈によるものと考えられる。
最も特徴的な症状は不整脈で、摂取後1時間位には出現する。多形性心室性期外収縮、上室頻拍、頻拍型心室性固有調律、変行伝導を伴う上室頻拍、房室ブロック、脚ブロック、多形性心室頻拍とあらゆる不整脈が出現する。 |
処置 |
■不整脈に対する第一選択薬はフェニトイン注(アレビアチン注)である。
成人25mg/回・小児0.5-1.0mg/kgを1-2時間おきに緩徐に静注する。
重症の不整脈はこの量では不十分で、15mg/kgを総量1g 0.5mg/kg・minを超えない範囲で静注する。
■リドカインも心室性不整脈には有効であるが、伝導障害に対しては効果がない。
初回量1mg/kg、必要なら20分後0.5-1.0mg/kg静注する。
■徐脈や伝導障害には、アトロピンが有効なことがある。成人0.5mg/回、小児10-30μg/kg(1回0.4mgまで)静注、必要に応じ繰り返す。■重症の不整脈は、経静脈的にペースメーカーを留置してペーシングを行う。1度以上の房室ブロックがある時は、予めペースメーカーを挿入しておいた法がよい。
□キニジン・プロカインアミド・プロプラノロールは無効のことが多い。
□電気的除細動は、しばしば重篤な伝導障害と心室性不整脈を招来することがあり、危険である。■毒物の除去
*催吐、
*胃洗浄(1000倍希釈過マンガン酸塩溶液)*活性炭、牛乳、タンニン酸液投与
*塩類下剤投与
■排泄促進
*血液透析-無効。血液吸着は有効との報告がある。
■対症療法
*カリウム値の補正
*不整脈の治療(上記参照)
*ステロイドの投与
*抗けいれん剤、鎮痛剤投与■全身管理
*輸液。
*酸素吸入と人工呼吸。
*循環動態の安定。 |
事例 |
アルカロイド系?例えばトリカブトの根に含まれる毒はかなりの毒性を示し、しかも、それによって起こる症状は心筋梗塞に極めてよく似ているといわれる。………まもなく解剖結果の詳細が伝えられた。毒物はやはりアルカロイド系のものと断定されたそうだ。ナイトテーブルにあったグラスから、ビールの残りとともに毒物が検出された。………[内田康夫:鳥取雛送り殺人事件;角川文庫,1999]。 |
備考 |
別名:継母の毒(古代ローマ)、悪魔の草(独逸)。致命的といわれるトリカブトの量は根で親指大かその半分とされているが、それだけの量を食べ物や飲み物に混合するのは困難であり、相当の苦味を有する。 |
文献 |
1) 伊澤一男:薬草カラー大事典;株式会社主婦の友社,1998
2)内藤裕史:中毒百科-事例・病態・治療;南江堂,2001
3)植松 黎:毒草の誘惑;講談社,1997
4)西 勝英・監修:薬・毒物中毒救急マニュアル 改訂6版;医薬ジャーナル,2001 |
調査者 |
古泉秀夫 |
調査年月日 |
2004.1.12. |
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火曜日, 12月 4th, 2007
対象物 |
タマゴテングタケ(学名:Amanita phalloides (Fr.) Secr.)。和名:卵天狗茸。別名:ブスキノコ・ブシキノコ。 |
成分 |
卵天狗茸の有毒成分は詳しく研究されており、ファロイジン(phalloidin)及びファロイン(phalloine)というアミノ酸7個からなるペプチド系(あるいはalkaloid系)やアミノ酸8個からなるペプチド系(あるいはalkaloid系)であるアマニチン(amanitin)類が知られている。 |
一般的性状 |
◆卵天狗茸は、テングタケ科、テングタケ属(ama-nita)に分類される毒茸で、アマニタトキシン群(ama-nitatoxin)に分類される。卵天狗茸は夏から秋 (8-10月)に、ブナや楢などの広葉樹林、ときに針葉樹林の地上に発生する。中型-大型の茸で、傘はオリーブ色-帯褐オリーブ色で、屡々絣模様を表す。縁に条線はなく、襞は白色で密。柄は白色でやや傘の色を帯びることがあり、屡々小鱗片-ささくれ状となる。柄の上部には白色で膜質の鍔があり、膨らんだ柄の基部には大きな袋状の壺がある。
◆毒茸として世界的に有名であるが、我が国においては、比較的稀な茸で、岩手、秋田、山形県、北海道等で見られたとする報告がされている。従って、卵天狗茸による中毒は、我が国ではほとんど見られないとされているが、ヨーロッパでは茸中毒の90%以上がこの茸によるものだとする報告が見られる。アマニタトキシン群に分類される茸による中毒は、まずコレラ様の激しい消化器症状、次いで肝細胞が侵され、更に腎臓が侵され、昏睡状態に陥り、死に至る。 |
毒性 |
phallotoxin は経口摂取では分解されやすいため、中毒の本体はama-nitatoxin類であるとされている。amanitinは加水分解されず、比較的安定で加熱しても分解しない。従って、加熱調理しても毒性はなくならない。amanitinは“腸肝循環”するという特性を有しており、長時間体外に排泄されない。
amanitatoxin群
α-amanitin:マウス(LD50)0.3mg/kg。β-amanitin
γ-amanitin
ε-amanitin
amanullin
amanullinic acid
proamanullin
amanin
amanitinの致死量:0.1mg/kg。成熟した卵天狗茸約1本で致死的。 |
症状 |
amanitin には粘膜刺激作用がないため、毒茸を摂取しても直後に症状が見られることはない。摂食後6-24時間経過後、嘔吐、腹痛、下痢が発現する。卵天狗茸による下痢は、大量の水性便で、コレラ様の水性便を呈する。その後、黄疸、腎機能障害、肝機能障害が発現する。amanitinはRNAポリメラーゼと結合し、 RNAの合成、更には蛋白合成を阻害して肝障害をもたらす。劇症肝炎に似た症状で死亡する者が多く、死亡率50%以上とされる。
*潜伏期を経て突然激しい嘔吐、下痢、腹痛で発症。粘液便、血便を排泄するコレ ラ様症状。 脱水・脱塩(低カリウム血症)。
*筋肉硬直、痙攣、頭痛、低血糖、嚥下困難、傾眠、精神錯乱、抑うつ状態。
*溶血、黄疸、肝機能障害、出血、尿閉、血尿、中毒性腎炎、内臓浮腫と疼痛。
*衰弱、血圧低下、チアノーゼ、中枢神経障害、心筋障害、血管運動中枢障害、肺 水腫、循環不全
*遅延性肝炎・腎不全(48-72時間後に起こる)
*意識不明・昏睡・死亡。 |
処置 |
[1] 胃洗浄:摂食後6時間以内であれば催吐し、胃洗浄を行う。
[2]活性炭・下剤投与(下痢がない場合): 摂食後6時間以上経過している場合、活性炭と下剤投与。肝及び腎機能の検査を数日間は行う。 活性炭投与は4時間毎に2日間にわたって投与する。 その他、十二指腸チューブによる胆汁の除去も有効。
*処方例
活性炭 50gを微温湯300-500mL(小児では1g/kgの活性炭を生理食塩水10-20mL)に溶解し、服用させる。
その後、半量を3時間毎に24時間まで繰り返し投与。
下剤としてD-ソルビトール液(75%)2mL/kgを投与し、6時間後に排便がなければ半量を繰り替えし使用(保険適用外)。
[3]強制利尿:amanitinは48時間以内に大部分が尿中に排泄される。従って強制利尿が有効。
[4]血液吸着:活性炭カラムによる血液吸着によるamanitin除去。肝障害予防のため実施。血液透析は、amanitinが膜を通過し難いので、無効とされているが、腎障害のある場合は適用となるの報告。
◆対症療法
[5]輸液:脱水・電解質異常・低血糖の改善。肝保護剤の同時投与を行う。
[6]呼吸管理:酸素吸入、人工呼吸等
[7]循環管理 |
事例 |
「親 分」と、声をひそめて、
「恐れいりました。桔梗屋のほうですが、たしかにおまえさんのにらんだとおりのようですね」
「それじゃ、やっぱり先代徳兵衛の死にかたに、怪しい節でもあるのかえ」
「それゃ、こうです。いまからちょうど13年まえのことですが、竜蓮寺で先々代徳兵衛、つまりいまのおかみのおやじですね、その徳兵衛の3回忌の法要があったそうです。ところがそれが秋のことで、そのときに精進料理のなかにキノコが使ってあったんですね。そのキノコにあたって大勢苦しみだしたなかに、先代徳兵衛だけがもがき死にに死んだそうです」「ほほう」と、金兵衛も眼をまるくして、
「それで、ほかの連中は助かったのか」
「へえ、死んだのは先代徳兵衛ひとりだそうです。だけどキノコの毒にあたった人間はほかにも大勢あり、おかみのお梶もいまの徳兵衛、当時の利助も大苦しみに苦しんだあげく助かったので、だれにも怪しまれなかったんですね」
「それで、先代徳兵衛の遺言というのはいつあったんだ」
「それがおかしいんです」と、文七はにんまり笑って
「先代徳兵衛はそのまま竜蓮寺の一室で、もがき死にに死んだんですが、なにしろ親戚一同みんなキノコにあたっておりましょう。だからその臨終に立ちあったのは和尚の日朝ただひとり、その日朝が遺言をきいたといいだしたんだそうです」
「野郎、それじゃもうそのじぶんからの腐れ縁なんだな」と、雁八が拳をにぎっていきまいた。 [横溝正史:お役者文七捕物暦-花の通り魔;徳間書店,2003] |
備考 |
◆単に毒茸ということで、具体的な名前は書かれていない。しかし、南町奉行が大岡越前守[1717年(享保2年)江戸町奉行]の時代に海外から毒茸を輸入する物好きもいないであろうということで、勝手に毒茸の御三家の一つに数えられる“タマゴテングタケ”を指定したが、我が国では希少種であるとする報告もされているため、あまり適当な選択ではなかったかもしれない。しかし、外国では卵天狗茸による中毒例が多く、含まれる毒成分についても検討されているとする報告があるため、毒茸(1)として、卵天狗茸を取り上げた。
◆ただし、この原稿の趣旨は、推理小説に出てくる毒物の解説とその毒物を誤用した際の救命を図ることが目的で、毒使いが巧いか下手かは関係ない。更に推理小説に使われる毒物が、具体的なものでなくとも人は殺せるので、毒薬Xでいい訳で、その辺についても、深く追求する気は全くないことを申し上げておきたい。 |
文献 |
1) 古泉秀夫:毒キノコ中毒時の中毒症状・処置;DID-0037,1998.10.19.
2)舟山信次:図解雑学 毒の科学;ナツメ社,2004
3)長沢英史・監修:日本の毒きのこ;株式会社学習研究社,2003
4)成田傳蔵・編集協力:Field Selection-きのこ;北隆館,1997
5) 海老原昭夫・編著:知っておきたい毒の知識;薬事日報社,2001
6) (財)日本中毒情報センター・編:改訂版 症例で学ぶ中毒事故とその対策;じほう,2000
7)吉村正一郎・他編著:急性中毒情報ファイル第3版;廣川書店,1996 |
[註]卵天狗茸の写真はW. Fische Fred Stevens 著 amanita phalloides を引用。
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