はしか再見
魍魎亭主人
都立井草高校(練馬区上石神井)で、『はしか』が集団発生し、感染防止のため生徒の登校を禁止する措置をとっていることが、29 日分かった。これまでに発症した生徒は入院2人を含めて21人に上がる。登校は23日から禁止されており、来月6 日の始業式も延期する。28日現在の感染者は何れも同校の生徒で、男子12人、女子9人。2年生が18人と突出していた。過去に予防接種を受けたことのある生徒も11人いた
[読売新聞,第47076号,2007.3.30.]。
世田谷区立池尻小(池尻2)で『はしか』が集団発生し、同小は6日この日予定していた始業式を延期し、13日まで休校することを決めた。5日迄の発症者は23人(うち4人は卒業)。6日は入学式だけを予定通り行ったが、迎える側の在校生は代表の6年生1人を出席させるにとどめた[読売新聞,第47084号,2007.4.7.]。
都立東大和高校(東大和市)の生徒に『はしか』が集団発生し、都教委は25日感染拡大を防ぐために同校を来月6日迄臨時休校にした。東大和高では 24日迄に2年生2人と3年生9人が発症し、うち2人は症状が重く入院した[読売新聞,第47103号,2007.4.26.]。
都立足立養護学校(足立区)で『はしか』が集団発生していることがわかり、都教委は7日、感染拡大を防ぐため、同校を8- 13日の6日間、臨時休校とした。都教委によると、同校では先月26日、27日に高等部の生徒3人が『はしか』と診断され、1人が入院。感染源が同じかどうか分からなかったため、様子を見ていたところ、3-7日に更に7人が発症、うち1人が入院していることが分かった。この他、熱を出して欠席するなどの感染の疑いがある生徒が15人いるという。
『はしか』の集団発生で臨時休校になったのは、都立学校では井草高、東大和高、中野工業高に続き4校目[読売新聞,第47115号,2007.5.8.]。
町田市の都立野津田高校でも集団感染が確認され、都教委は9日、同校を同日から18日まで臨時休校とした。『はしか』による都立学校の臨時休校は5 校目。都教委によると、同校では先月25日、生徒1人(1年)が発熱、発疹も認められた。更に今月7-9日に13人が発症し、うち2人が入院した。同校では11、12日に、発症者以外の生徒を対象に予防接種を行うという[読売新聞,第 47117号,2007.5.10.]。
2004年頃から激減していた『はしか』が、関東で流行の兆しを見せている。国立感染症研究所が2日公表した定点調査で分かった。過去の流行に比べて10-20歳代の発病者が多い。全国約450の基幹病院を対象に行っている定点調査によると、報告があった15歳以上の患者数は先月16日から1 週間で39人に上がり、2001年の大流行時に記録した1週間当たり54人に迫りつつある。都立校3校が『はしか』の集団発生で臨時休校となった他、創価大(東京都八王子市)も今月6日迄全授業を休講にした。
『はしか』はくしゃみ・咳による飛沫、接触による感染の他、空気による感染もおき、感染力が極めて強い(予防接種の効果は10年程度で弱まる)。1 歳児に対するワクチン接種の普及などにより患者総数は減少していたが、その一方で、病原体に触れて免疫が高まる機会が少なくなったことなどが原因となり、感染が拡大したと見られる。『はしか』の流行は春から初夏にかけてが最盛期となる。
国立感染症研究所は「『はしか』にかかったことがなくワクチンも接種してない人は、早めにワクチンを接種して欲しい」と呼びかけている[読売新聞,第47110号,2007.5.3.]。
『はしか』というのは[かゆい意の雅語形容詞「はしかし」の語幹に基づく名詞形]。古くは『赤瘢・隠疹』等と書いたとされている。我が国では『はしか』という病名が人口に膾炙されているが、正規には『麻疹』であり麻疹ウイルス(measles virus)の感染によって起こる感染症である。麻疹ウイルスは感染力が強く、空港のロビーですれ違っただけでも感染するという話が紹介されている。
従来は1回予防接種を受ければ、終生免疫を獲得するといわれていたが、実際には免疫獲得者が永年の間に麻疹ウイルスに接触し、不顕性感染状態で免疫を強化していたのが、感染者の絶対数が減るに従って、接触する機会が減り、免疫を強化する機会を失い、徐々に予防注射による免疫機能は減衰する。予防注射による麻疹ウイルスの予防効果は、10年程度で弱まるとする報告がされているが、米国方式にならい麻疹ワクチンは2回接種するということが必要だということなのだろう。
しかし、おかしな話だとは思う。予防注射を受けて免疫を獲得しても、麻疹ウイルスに接触する機会がないと、ワクチンの免疫効果は、ただただ減るだけということである。麻疹ウイルスはヒトにのみ感染し、ヒトを宿主としている。巧くやれば限りなく0に出来るということで、米国では、国内の麻疹ウイルスは全滅させ、国外からの輸入感染症として、感染が起こっているとされている。一時米国は、日本も麻疹ウイルス輸出国だと文句を付けていたが、限りなく減少している米国との比較で、集団発生が続く日本は、未だに輸出国なのかもしれない。
何れにしろ麻疹ワクチンを接種していない年代層がいるようである。厚生労働省の提灯を持つ気はないが、麻疹ワクチン接種の記憶がない年代の方々は、喫緊の要件としてワクチンの接種をしてはどうか。国内から駆逐できるものであれば、駆逐すべきであると考えるが、近隣諸国が麻疹浸淫国の場合、今度はそちらから流れてくるということであり、近隣諸国も含めて地球規模での感染防止対策が必要になるのではないか。
[2007.5.11.]