インフルエンザウイルスは何で…
魍魎亭主人
新聞に面白い記事が載っていた。
インフルエンザが、ウマ、アヒル、アザラシなどの動物とヒトに共通する感染症(人獣共通感染症)と解明されたのは十数年前。米セントジュード小児病院研究所や北海道大学などの研究で、インフルエンザウイルスは北極圏附近のツンドラ地帯に常在し、ここで営巣する渡りカモ類によって世界各地に搬送され、様々な種に感染させていることが解った。 ABC3種類のうち、病原性の高いA型ウイルスには135種の同類(サブタイプ)があるとされる。カモは感染しても発病しないが、1968年に大流行した香港風邪ウイルス(H3N2)は、中国南部でアヒルのウイルスとヒトのウイルスがブタに感染、その体内で遺伝子の組み換えを起こし、ヒトからヒトに感染する能力を獲得、多くの死者を出した
[読売新聞,第46632号,2006.1.9.]
というものである。
インフルエンザウイルスは何が嬉しくて北極圏のツンドラ地帯などに棲み付いているのか。更に何だってそんなところからカモになど乗って空気のよくない世界に出張ってきているのか。
それも昨日今日のことではなく、B.C.412年にヒポクラテスによってインフルエンザと推定される急性上気道炎が記録されているという。
1918年-1919年に大流行し、世界で2千万人以上の生命が奪われたとされるスペイン風邪(H1N1)は、その後約40年間、この亜型が少しずつ抗原性を変えながら流行し続けたが、1957年にアジア風邪(H2N2)が大流行を起こしている。
1968年にはH3N2亜型のウイルスが出現し、世界的規模の大流行を起こし、香港風邪ウイルスと呼ばれている。1977年には、1950年当時の流行ウイルスと同じゲノムを持つH1N1亜型のウイルスが再登場(ソ連風邪)し、20歳以下の若年層を標的として比較的大きな流行が引き起こされたとしている。
1997年5月香港に居住する3歳の男児が肺炎で死亡し、気道分泌液からH5N1ウイルスが分離された。H1N1、H2N2、H3N2以外の亜型のウイルスがヒトから分離された最初の例であるとされている。
今話題になっている高病原性鳥インフルエンザ(H5N1)は、1997年に発見されたのと同じH5N1亜型を持つウイルスであり、爆発的な感染は見られていないが、鳥との濃密な接触がある地域では、鳥からヒトへの感染が報告されている。
北極圏のツンドラ地帯に巣くっているインフルエンザウイルスであるから、冬になると活動を開始するというのは解るが、わざわざカモに乗って全世界に向けて出てくるのはどういう訳なのか。
ツンドラから出てきたインフルエンザウイルスは、種本来の宿主であるカモには何等悪さをしていないとされる。とすると他の動物やヒトは、仮の住み家といおうか、攻撃すべき相手なのであろうか。
インフルエンザウイルスは、何年かに一度、大流行を起こす。インフルエンザウイルスは、共存関係にあるカモ以外の生物を殲滅し、世界を征服するという壮大な計画でも持っているのであろうか。
それにしてはスペイン風邪以降何度も野望は潰えており、そろそろあきらめたらどうかと思うが、まだ続ける気なんだろうか。大体インフルエンザウイルスは、ヒトに感染して何を手に入れようとしているのか。
ヒトの体内に入り増殖し、限りなく数を増やすことで、勢力の拡大を狙ってでもいるのだろうか。それにしても仲間を増やす目的で、ヒトに感染するのであれば、ヒトに対する悪影響を及ぼさない配慮ぐらいしたらどうなのといいたくなるが、いかがなものか。
今年、高病原性鳥インフルエンザが、万一ヒトに感染するように変貌すると面倒だということで、インフルエンザワクチンの接種を受けたが、先日背負い込んだ風邪は、多分インフルエンザだったのだろう。熱はさほど高くなかったが、喉が猛烈に痛み、引き続き気管支に痛みが移行し、咳が出まくり、腹周囲の筋肉が痛くなるほどの咳の酷さであった。インフルエンザウイルスの世界制覇の野望を潰すためにも、効果のあるワクチンの開発を期待したいところである。
ほんと毎年同じことをやってられん。
(2006.1.17.)
- 大里外誉郎・編集:医科ウイルス学 改訂第2版;南江堂,2002