医療費抑制の方策

医薬品情報 21

代表:古泉 秀夫

医療事故が報道関係で取り上げられる度に痛切に感じるのは、日本の医療の貧しさである。自由主義経済の中で、医療費だけが厚生労働省の掌の上に乗っているという現状では、厚生労働省が医療費の抑制に懸命になるのは、財務省の手前もあり予算を費消するばかりの官庁といわれたくないという思いもあるのかと斟酌する次第だが、果たして医療を受ける側の国民は納得しているのであろうか。

“医療費抑制の手段”の一つとして、導入した方式の一つが、“医薬品を医療機関から切り離すための医薬分業”である。

最近でこそ厚生労働省も、医薬分業の意味付けを経済問題から患者の安全性問題にすり替えているが、当初は、薬価差益を稼ぎ出すために、医療機関が野放図に薬を出したがるのを抑制しない限り、医療費の抑制は困難だと考えていたはずである。現在、薬価差益の極端な抑制が進捗する中、本来であれば、薬剤師以外が調剤している処方せんを診療所等から発行させるという医薬分業とは異なり、技術的な分業の完成していた病院等が、院外処方せんの発行を図り、厚生労働省が当初意図した方向へと分業は進んでいる。

その結果、現在進行中の医薬分業は、患者にのみ多くの負担を強いるという変則的な医薬分業になっており、それを糊塗するために“患者サービスの強化”ということで調剤薬局に対し、“薬歴管理と情報の提供”を求めている。提供する情報の中身は“副作用情報・相互作用情報(OTCを含めて)等”としているが、調剤薬局にとって、この副作用情報の提供は、厚生労働省が思うほどに簡単ではないようである。

第一に副作用情報の提供に医師が何処まで理解を示しているかの問題である。従来の医療の実状は、医師が全てを請け負うという体制で進行しており、他の職能が治療に口出しをすることを認めないばかりか患者に治療の内容を伝えるなどということは、あり得ないこととして進められてきた。そこに薬剤師が口出しをし、患者に副作用を伝えるなどということになれば、殆どの医師が抵抗感を持つのは当然である。にもかかわらず、厚生労働省は、医師の抵抗感を払拭する手だてを抜きにして“患者サービスの強化”を口実に、調剤薬局に対し、情報提供を求めているということである。

ただ、最近の医療事故の報告を見るまでもなく、薬剤師が患者に副作用情報を伝達することは、医師自身の『医療訴訟回避』にも連動する問題だということを理解すべきである。特に重篤な副作用の前駆症状の患者への伝達は、薬によっては添付文書にも記載されるようになっており、明らかに処方する側は、意識の変革が求められているということである。

更に“医師からもらった薬が分かる本”等の薬剤関係の本が数多く出版されており、添付文書に収載されている副作用は全て記載されている。これらの薬の名称は、錠剤・カプセル剤に印刷されている識別記号から全て判明するようになっており、医師が患者の服用薬の名称やその副作用を隠蔽することに、何の意味もないということを知るべきである。

さて、『OTC薬と医療用医薬品』の相互作用についていえば、薬と薬の問題であり、簡単に済みそうな課題であると受け取られかねないが、実際にはそう簡単ではない。何故なら多くの医療機関あるいは調剤専門薬局にとって、OTC薬の情報を蒐集することは、甚だ困難な部類に属するからである。

そこで厚生労働省は、厚生省と名乗っていた時代に、あるべき薬局の姿として、『医療用医薬品+OTC薬の情報管理』=『OTC薬販売+調剤+福祉関係』等の総合的な情報発信基地としての役割を期待するとい考え方を示していたようである。

薬価差益の解消は、副次的な作用として、調剤専門薬局の運営を圧迫するものになり、OTC薬の販売を導入しないと経営が苦しいという状況を招いていると聞いている。その意味では、旧厚生省が画く薬局像に近くなったということのようである。